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おしえてくれたこと (2)

こんばんは!
早速、ぼの様リクエスト 2話目です~~。




対する最上キョーコの方では。
数学の授業のすぐ後に、同じクラスの友達である琴南奏江にとっ捕まっていた。
「あんた、あの実習生に何言われてたの?」
蓮とキョーコのやり取りは至近距離で小声で行われていたので、前後の席の生徒くらいしか聞き取れなかったのだ。

「外に何か見える?って、英語で聞かれた・・・」
「英語?なんで?で、なんて答えたの?」
「何も見えてませんって」
「英語で?」
「英語で」
「数学の授業中に英語で聞くのも意味がわかんないけど、あんたも、咄嗟によく英語が出てきたわね・・・」
奏江は感心してため息を吐き出した。キョーコが頭がいいのは知っているが、そこまでいくと勉強がどうこうというレベルではない。キョーコの事情を知る奏江は、(今までどんだけ英語使うような状況に追い込まれてたのよ)と心の中で悪態をついた。

「ううう、びっくりしたよぉ~~~~」
「まあそりゃびっくりするでしょうね・・・で、よそ見してたから言われたんでしょ?何見てたのよ」
「え?」
キョーコは途端に目を泳がせた。
「また、あいつなの?・・・あ。体育の授業だったのね」
奏江の声は地を這うようにドスが効いている。

「もーーーー!すっぱり思い切ったんじゃなかったの?」
「モー子さん!声が大きいってば!!」
キョーコは慌てて奏江の口をふさごうとするか、ペチンと軽く払われてしまった。

「思い切ってあのバカの家も出たんだから、いい加減気持ちも切り替えなさい!」
「そうは言うけど・・・」
キョーコはぶちぶちと言うが、奏江は聞いていない。
「とっとと次見つけるのよ!もっといい人見つけて、あいつを見返すくらいの気持ちでいなさい!」
「うう・・・分かったよぉ」
キョーコは答えたが、17年間思い続けてきた幼馴染より好きになれる人を見つける自信など、ないに等しかった。


教育実習3日目。

早くも学校内での教育実習生の評判は確定しつつあった。
6人中、話題に上ることが多いのは3人。
体育を担当している石橋光は「ちっちゃいけど可愛い」と、「ひかるちゃん」呼ばわりされて生徒たちに可愛がられている。
国語の安芸祥子はスタイル抜群の美人で男子生徒からの人気が高い。
そして数学担当の蓮は「やたらでかくて見た目イマイチだけどデキる」と、勉強の得意な生徒たちから尊敬されていた。

蓮はこの日は授業の受け持ちがなく、学校での時間を授業の見学と日誌の作成、翌日以降の授業準備に費やしていた。実習生には普段使われていない教科の準備室が控え室として与えられていて、6人の実習生は忙しく出入りしながら作業をその部屋で行っている。
昼休みである今の時間は、実習生の元に遊びに来ている生徒もいて、準備室の中は賑やかだった。

蓮は作業に区切りをつけると、少し気分を変えようと席を立って廊下を教室に向かって歩き始めた。特に行く先がある訳ではなかったが、なんとなく足が3年生の教室の方へと向く。

開け放たれた教室の戸口から中を覗きながらのんびりと歩いて行き、B組の前へと差し掛かった。蓮はなぜだか少し緊張しながら教室の中をさりげなく伺う。すると、窓側の席に昨日の最上キョーコが見えた。キョーコの後ろの席にはクラスメイトの長い黒髪の女性が座り、二人はおしゃべりに興じているようだ。
キョーコの顔には笑みが浮かび、昨日の物憂げな様子は微塵も感じられなかった。

そうか、ちゃんと友達いるんだな…

ほっと安堵してから、蓮は自分が気にすることではないだろう、と自嘲して、再び来た道を戻って行ったのだった。


放課後、実習生たちは誰も帰らず、ただひたすらにペンを走らせていた。その日の自分の授業の報告が終わると、ただちに次の授業の準備へと取りかかる。担当教官にダメ出しを食らって直すことも多いため、学校が閉まるギリギリまで粘っている実習生が多かった。
蓮はこの日自分の授業がなかったため、余裕を持って授業準備を進めていた。松島のチェックもパスしたし、今日はそろそろ終わりにしてもよさそうだ。と、カバンの中で携帯のバイブ音が響きだす。蓮は携帯を手に廊下に出ると、画面を確認して通話ボタンを押した。

「はい、敦賀です」
『よお蓮、久しぶり!突然なんだけどさ、今日、時間空いたんだけど軽く飲まないか?』
電話の向こうからは明るい声が聞こえてきた。
「俺も大丈夫ですよ」
『今どこ?大学か?』
「いや、今ちょうど教育実習中なので、実習先の高校です」
『え、教職取るのか?そりゃ意外…って、いいや、その話も聞かせてくれよ。どこの高校?』
蓮がLME高校の最寄り駅を伝えると、電話の相手は沿線の駅を待ち合わせ場所として指定してきた。

そして30分後。待ち合わせの駅前で蓮が佇んでいると、改札口から見知った顔がやってきた。が、近づくにつれ訝しげな顔になって、首をかしげて蓮の前に立つ。
「蓮・・・だよな?」
「そうですよ。お久しぶりです、社さん」
「こんなにでかい奴はそうそういないから間違わないけど、ほんと、誰かと思ったよ。なんだその、サイズが合ってないスーツは。ださいメガネは。モデルにあるまじき私服だぞ」
社と呼ばれたメガネをかけた若い男性は、暑さを感じさせずにぴしっとスーツを着こなした美男子である。蓮の姿を上から下までじろりと見て、不満げに口を尖らせた。
「モデルったってバイトじゃないですか。まあこれも色々ありまして」
「ふん、どうせ実習先の学校で女子生徒に囲まれないように、だろ?」
「・・・分かってるんじゃないですか」
蓮はメガネを外して、両手で髪をかきあげた。顕わになった顔は彫刻のように整って、男前であるのに美しい。
「・・・そうすると顔だけ目立って服のダサさが際立つぞ」
「いいんですよ、毎日このスーツで通ってるんですから・・・行きましょうよ」
二人は駅前から歩き出した。

道中、社に文句を言われ、蓮は上着を脱いでネクタイを外し、シャツの腕を捲り上げてようやく納得してもらった。
「お前の実習先がこの辺でちょうどよかったよ。お勧めの店があるんだ」
言いながら、社は1軒の居酒屋の前で立ち止まった。入り口の上の看板には、大きく「だるまや」と書かれている。社は引き戸を開けて顔だけ突っ込み、空席を確認すると振り向いて蓮を促した。

蓮が店に入ると、そこはこじんまりとしているが活気のある店だった。平日の割と早めの時間であるが、すでに9割がた席が埋まっている。
「ここの大将の料理がうまいんだ。どうせお前、1人暮らしでろくなもん食ってないんだろう?」
「はは。お見通しですね。社さんのお勧めなら期待できますね」
二人が席に着くと、店員の女性がおしぼりとメニューを持ってやってきた。蓮は何気なく店員の顔を見て、あっと声を上げた。

声を上げた蓮に対して不思議そうな顔で首をかしげている女性は、髪を束ねて着物を着ていたが、実習先の高校の教室で蓮の目を奪った少女、最上キョーコだった。


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