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おしえてくれたこと (1)


こんばんは!寒い~!
うちの方は日中ずっと雨が降って、最高気温18度の予報ってなに?どこが?な冷え込みでした。

さて、だいぶ遅くなってしまいましたが、ぼの様のリクエストによるお話スタートです!
ぼの様リクエストはこんな感じでした~~。

『希望したいのは学園モノなんですが。 生徒と先生はベタすぎますよね?? けど青臭い青春も見てみたいです!!! 先生が生徒に惚れる!!!やっぱり惚れるより惚れられたい・・・。』

やっぱり惚れられるのはキョコたんですよね!
どうがんばっても短編になりませんでしたので、中編程度(どこまでが中編でどっからが長編かは微妙です)でお送りします。
さて、リクエストのご要望にお応えできるかどうかドキドキですが、どうぞ~。




中間テストが終わり、衣替えも済んだ時期。
LME高等学校の休み時間中の廊下は、次の授業へと移動していく生徒でにぎわっている。
まだ梅雨入りも先のこの時期は日によっては真夏並みの気温になることも多く、生徒たちの多くは半袖の夏服に身を包み、それでも暑いとこぼしながら学校生活を送っていた。

1学期も2ヶ月が過ぎて落ち着く時期ではあるが、毎年この時期は学校内にささやかな変化が訪れる。今年も、クラスによってはその変化が起こっていて、生徒たちの小さな話の種となっていた。

「うちのクラス、来た!」
「え、どんな先生?」
「元気そうだけど、なんかちっちゃくて可愛くてさ、最初生徒かと思った」

この高校では例年6月に教員を目指す大学生の実習を受け入れている。今年は6名ほどの教育実習生が一斉に実習をスタートさせた。
1日目は自分の担当教員が受け持つクラスのHRに出席し、自己紹介と挨拶をするのが恒例となっている。全校18クラスで6名の実習生のため、自分のクラスに実習生が来ない場合の方が多いが、部活や委員の活動を通して実習生の情報は他のクラスにも伝達していくのだ。

3年C組でも1人の実習生が紹介された。担任の松島に続いて実習生が教室に入ってくるなり、「でか」「おっきい」と呟きのような声が生徒たちから上がる。
実習生は『敦賀蓮』と言った。190cmを越える長身に、小さな頭が乗っている。しかし残念なことにその黒髪は少し伸びすぎていて、前髪がその目を半分ほど覆っていた。黒縁のメガネはさらにその顔立ちを隠し、長身に合わせて出来合いのものを買ったのであろうか、スーツは明らかに幅が余ってダボダボとしていて、全体として野暮ったい印象を与えていた。

「今日から2週間、皆さんと一緒に勉強させていただきます。よろしくお願いします」
数学を担当するというその実習生はお決まりの挨拶をし、松島やその他の数学教師の授業を教室の後ろから見学して実習1日目を終了した。

実習2日目。
早い実習生はもう午前中のうちに1回目の授業を担当していた。事前の準備を念入りにしているとはいえ、教壇に立つのは初めての経験。しかも、相手はかなり自分に近い年の高校生だ。真っ白になって授業が止まってしまったり、逆に早口でどんどんとスピードが上がってしまうのも、ある程度仕方がない。

しかし、3年C組で初の授業を担当した敦賀蓮は、もう何年目かの教員ではないのか、と首を傾げたくなるほど、悠然と授業を進め、生徒をくすりと笑わせる余裕すらあった。その講義は分かりやすく、黒板に書かれていく字は美しく、生徒を飽きさせずに引き込むこともできる。そして何より、初日は自己紹介以外ほとんどしゃべらなかったのであまり認識されなかったのだが、その声は低く、落ち着いていて聞き心地が良かった。

後ろで授業を見ていた担当教官である松島も、これは大丈夫、と思ったのであろうか。急きょ、本来であれば見学するはずだった3年B組での授業についても蓮が実施することとなった。同じ3年生でもあり、授業の範囲も一緒だから、というのがその表向きの理由だったが、実際は3年のA、B組は学年の中でも成績上位者が集まる選抜クラスだ。松島には、違うタイプの生徒が相手でも臨機応変に授業が組み立てられるのか、蓮の地力を見たいという期待と好奇心があったのだった。

蓮はその松島の期待にこたえ、生徒の反応を見ながら授業の進度を調整し、余裕のできた時間を応用問題に充てていた。問題を解いている生徒たちの机の間をゆっくりと回りながら、蓮はこっそりと息を吐き出す。

なんとか、なったかな・・・

いくら傍から見て落ち着いているように見えるとはいえ、蓮だって普通の大学生だ。数十人の高校生の前で授業を行うことだって初めての経験で、準備はしていたものの緊張感はあった。幸いというか、不幸にというか、心の動揺や緊張を綺麗に隠すことができるせいで、それが表に伝わらないだけで。

確かに隣のクラスに比べて、このクラスの生徒は勉強の得意な子が多いな、と思いながら、蓮はゆっくりゆっくりと歩を進めた。教科書の範囲から少しだけはみだすような応用問題を解かせているのだが、大半の生徒が正解へと近づきつつある。たまに質問をする生徒もいるが、ヒントを与えれば納得して自力で解いているようだ。

蓮は机の間をぬうように進み、窓側の列の一番前までやってきた。ふと目を上げると、列の真ん中辺りに座っている女生徒が目に入って来る。女生徒は頬杖をついて、顔をほぼ横に向けてぼんやりと窓の外を見ていた。教育実習生が来ると、好奇の目で眺める者やあらを探そうとする者など、特に1回目の授業は生徒は皆こちらに注目していることが多いのだが。

何を見ているのかな?と思いながら、蓮はゆっくりとその女生徒の方へと進んでいった。女生徒の斜め前に座る生徒の質問に答え、体を起こして視線をやった瞬間、蓮ははっと息を呑んだ。

授業の最初に出欠を取った際、蓮は全ての生徒の顔を頭に入れていた。窓際に座る女生徒は、今時の女子高生らしい茶髪でありながら、化粧っ気のないまだ少しあどけない印象だったはずだ。
しかし、今蓮が見下ろしている女生徒は、長いまつげに縁取られた大きい目を物憂げに伏せ、寂しげな表情で窓の外、遠くのほうを見ている。その表情がやけに大人びて見えて、蓮は先ほど見た顔とのギャップに目を取られてしまったのだ。

時間にしてほんの3秒ほど、しかし蓮自身にとっては不自然な長い間少女をじっくりと見つめてしまったため、我に返ると同時に軽く動揺した。そして、冷静に女生徒の注意を授業に戻そうとしたのだが、まだ動揺が残っていたのかもしれない。

『外に、何かいいものが見えるの?』

口をついて出たのは、なぜか英語だった。

俺は数学の教師だろうに、なぜここで脈絡無く英語なんだ?と蓮は自分に突っ込む。しかし、戻ってきた女生徒の反応は、さらに蓮の予想を上回った。女生徒は、すぐ隣に立っていた蓮にも気がつかないほどボーっとしていたはずだ。その証拠に、声をかけられた瞬間、はじかれたように頬杖を外して蓮の方を振り返った。そして、なんと、英語で答えを返してきたのだ。

『講義中にすみません!何も見えてません!!』

それから女生徒は両手でぱちんと口を押さえると、顔を真っ赤に染めた。その様子を呆然と蓮は見守ったが、ようやっと本当に自分を立て直し、にっこり微笑むと今度はしっかりと日本語で聞く。

「問題は、解けたかな?」

蓮が驚いたことに、女生徒のノートにはしっかりと正解が書き込まれていた。


実習2日目の授業時間が終わり、学校の正門からは生徒たちが吐き出されていく。
部活動を行っている生徒が大勢いるために学校内はまだ賑やかで、実習生たちは担当教官に指導を受けたり、日誌を書いたり翌日の準備をしたりしていた。

蓮も数学教官室で松島の指導を受けていた。蓮の授業は概ね合格点がつけられたが、細かい部分について改善点が指摘されていく。翌日の授業についての打ち合わせが終わったところで、蓮がところで、と松島に話しかけた。

「今日私が授業をした3年B組には、帰国子女の生徒がいますか?」
「ん?いや・・・B組には特にそういう生徒はいないが?馴染めてない風の生徒がいたか?」
松島は考えながら返答したが、なぜそう思ったのかを不思議に感じたようだ。

「そういう訳ではないんですが、ちょっと注意が逸れていた生徒に英語で話しかけたら、突然だったにも関わらず英語で返してきたもので」
「へぇ・・・それは、誰だったかな?」
「窓際に座っていた、最上キョーコという生徒ですね」

ああ、と松島は納得したように頷いた。
「最上さんか。去年俺が担任を持ってたけど、あの子は全教科成績優秀でね、英語も確かに会話までできるみたいだね」
「そうなんですか。しかし・・・」
「突然話し掛けられたらまあ、英語で返すのは普通の高校生じゃなかなか、てところか?」
はい、と頷く蓮に、松島は少し声を潜めた。

「生徒個人の情報をあんまり詳細に伝えるわけにもいかないんだけど…彼女はずっと国内にいるはずだ。ただ、ちょっと生活環境が特殊でね。旅館やホテルを経営している家で育ってるんだよ」
「実家が、ということですか?」
「んんと、そうではなくて、まあ、家庭の事情で預けられた先が、だな。中学くらいからそこの手伝いをするようになって、外国からの客に対応するために英会話をやってるんだそうだ」
「習ってるだけじゃなくて実地で使っているってことですか」
「まあ、言ってしまえばそうなるな」

預けられた先が同級生の家ってことで一時色々と噂になったりもして、大変だったんだよ、とこぼす松島に、(個人情報では?)と蓮は心の中でそっと呟くが、なんとなくあの生徒の情報が知りたくて、頷きながら話を聞く。
「その同級生は男子生徒ってことですか」
「ああ、しかも女生徒に人気のあるタイプでね。彼女に対して一部の女子から風当たりが強いんだよ」
「それも大変ですね。・・・その男子生徒と交際してるわけではないんですか?」
「女子ってかなりえげつないからなあ・・・交際は、両方が否定してるし、一緒に住んでるって言っても親がいる実家だしな。学校でも把握して認めてるんだ。最上さんは今も部活もしないで旅館を手伝い続けているようだな」
「それで成績優秀なんてすごいですね」
「敦賀君だってすごいんだろ」
松島が笑いながら返した。
「椹先生が言ってたよ。君の在学中にはたくさん伝説ができたって」
「また、オーバーですよ」
蓮は苦笑しながら否定する。
「でも、理学部なのに英語話せるんだな」
「父の仕事の都合でアメリカにいた時期があるので」

蓮は無難に答えながら、あの時見た最上キョーコの顔を思い出していた。


あの時外では他のクラスの男子が体育の授業中だったな…あの表情の理由はそれか?


今日1日でたくさんの生徒の顔を見たはずだが、なぜか蓮の頭を占めているのはあの少女の物憂げな顔だった。

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