SkipSkip Box

ほほえみの先に (19)


お久しぶりです!ぞうはなです。

ちょいと仕事上の都合でなかなか更新できない状況が続いておりますーー。
ですが忘れていませんしやめるつもりもありませんので、当面のんびりと覗いていただければと思います!




「…なるほどね……」
「すみません、こんなくだらない話をお聞かせしてしまって」
「いや、くだらなくなんてないよ」

ゆっくりと首を振った蓮の微笑みに、キョーコはほっと肩の力を抜いてぬるくなってしまったココアを飲んだ。
2人の周りにいた他の学生たちはだいぶ席を立ち、いまや空席の方が多くなっている。


なるほど…。
驚いたな。社さんの推理が大枠では当たってたってことか。

キョーコの話を一通り聞いて、蓮は冷静な表情の下で少し驚いていた。

物心つく前から一緒に育ったも同然な幼馴染。
進学と同時の同棲、恋心と献身、そして男の裏切り。
部屋を飛び出したことがイコール別れたことになるのか、キョーコはしきりにそれを気にしているようだ。


ある程度の予備知識があってよかったのかもしれない。
キョーコから直接事情を聞いていたわけではないが、断片的な言葉や状況、そして直に相手の男らしき人物を見かけたことで、ある程度心の準備はできていた状態だった。
それでもやはり、キョーコの口から事情を聞いて心穏やかではいられないのだ。まったく何も知らなかったらこうして動揺をうまく隠すことだってできなかったかもしれない。


「どう判断していいか分からなくてどうしても考えちゃうんです。でもあいつに直接聞くなんてこと、したくもなくて」
キョーコは事情をすべてオープンにした安堵感からか、だいぶ本音を話すようになっていた。
「その気持ちもわかるけどね…うーん、ケースによるのかな」
「ケース?」
「うん。君は彼氏の部屋を出るとき、何も言わずに出てきちゃったんだよね」
「はい…ちょっと頭に血が上っちゃって」
「手紙とかメールとか、そういうのは?」
「それも無しです。…鍵だけ置いていきました」

蓮は軽く頷いて右手の人差し指で軽くテーブルの模様をなぞる。
「そういう場合、少なくとも出ていった方…君の方には別れる意思がある、と捉えることはできるかな」
「はい…!私もそのつもりで」
「でも」
身を乗り出したキョーコは蓮の言葉にさえぎられて口の動きを止めた。
「彼の方は…その後も君に会いに来てるよね」
「そうなんです」
キョーコは眉をひそめて少し身を引いた。

「今まで学校になんて来たことなかったのに、何考えてるのかしら」
ブツブツと呟くキョーコの言葉を捉えて、蓮は腕を組んだ。
「彼が初めてここに来たのは君が部屋を出てから?」
「え…?あー……いや」
考え込んでからキョーコは蓮を見た。
「言われてみればそれより前です。えーと確か」

キョーコは思い出していた。初めて尚がこの大学に来たとき。

あれはいつ、何をしに来たんだっけ?
何をって、文句しか言わないから何の用なのかホントにわからないのよね。
あのときは……

「そうだ。ちょうど敦賀先輩に、家庭教師のご紹介いただいた辺りでした」
「俺が紹介したこと、話したの?」
「敦賀先輩の名前は出しませんでしたけど、先輩に紹介してもらったと言うことだけは」
「なるほどね」
蓮は腕をほどいて少し笑った。

なぜ蓮が急に笑ったのかキョーコにはわからず、キョトンとその顔を見てしまう。
「なにが…なるほどなんですか?」
「いや」

蓮は表情を戻す。
蓮にはなんとなく尚の心理が分かった。キョーコの口から聞くキョーコへの態度とはだいぶ違う気がするが、直接顔を合わせたときも自分に対する敵意のようなものをむき出しにしていたのだ、ある意味分かりやすい。

しかし、それをキョーコに伝えていいのだろうか。
そこが少し不安な点でもある。
キョーコは尚の態度に失望し同棲していた部屋を出たとは言うが、もし尚の気持ちを知ったら、元の関係に戻りたくなるのかもしれない。

蓮は、不思議そうに眼を見開いているキョーコの顔をじっと見つめた。
今後のことを考えたら黙っておいた方が自分のためにはいいのかもしれない。


「彼がどうしてそうしたか、君にはわからない?」
じっと見つめられて少しキョーコが居心地の悪さを感じた頃、蓮は静かに口を開いた。
「あいつがどうして…ですか」
うううん、と腕組みをして考え込んだキョーコはしばらくして顔を上げると恐る恐るといった感じに蓮を見上げる。
「いやがらせ…?でしょうか……」
ふ、と思わず蓮が表情を緩めるとキョーコは恥ずかし気に目をそらす。
「すみません、それ以外に思いつかなくて」
「本当に思いつかない?」
「……はい」

蓮は頬杖をつくとじっとキョーコを見つめた。
再びキョーコはどぎまぎとして視線をさまよわせるが、あからさまに目をそらすのも失礼かと思い直して蓮の顔を見る。しかしその表情をなぜか直視できずにあいまいに蓮の喉仏のあたりに視線を固定させた。
「簡単だよ。彼は君が口にした『先輩』というのが誰だか気になったんだ」
「……え?」
「君は自分だけを見て自分のためだけに生活しているはずなのに耳障りな単語が出てきたんだ。それは気になるよね。もしかしたら異性の先輩なんじゃないのか、バイトを紹介するなんて何を考えているのか、どういう関係なのか?って」
「まさか、だってあいつ私のことなんか」
「その上、今まで何をしても言いなりだった君が、部屋を出ていってしまった。もしかしたら前に聞いた『先輩』とやらが変な入れ知恵をしたんじゃないか、と疑いたくもなるだろう」
「…あり得ないです、だって本当にあいつ私のこと財布か小間使いかなんかとしか思ってなかったんですよ」
「けれど君たちの関係は恋人同士だったんだろう?だから一緒に住んでいた」

自分の放つ言葉は自分自身に事実として突き刺さる。
けれど蓮はわかっていた。この事実を認識した上でなければ状況は変えられない。キョーコの気持ちを今の位置から動かすこともできないのだと。

「それは…!建前上はそうかもしれませんけど、実際そういう関係じゃなかったんです…私はそれに気がつかないふりしてただけなんです」
「もしかしたら彼の方は本当に気がついていなかったのかもしれない」
「???」
けげんな顔をするキョーコに、いや自分にも言い聞かせるように蓮はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「彼と君の位置はずっと変わらなかったんだろう。だから彼も分かってなかったんだよ、君がどういう存在なのか」


言葉を発することができず考え込むキョーコに、蓮はさらに語りかける。
「彼にとって君は空気のような存在になっていたかもしれない。…けれど知っている通り、人は空気がなければ生きていかれないんだ」
キョーコは蓮の言う意味を理解するために、3回ほどその言葉を頭の中で繰り返さなければならなかった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

蓮さん、がんばれ

こんばんは。更新待ってました‼

相談に乗る、相談をする、って、親密になるいい機会ですね。
蓮さん、がんばれ👊😆🎵

harunatsu7711 | URL | 2017/06/15 (Thu) 21:15 [編集]


Re: 蓮さん、がんばれ

> harunatsu7711様

お返事が大変遅くなりまして申し訳ありませんー!

> 相談に乗る、相談をする、って、親密になるいい機会ですね。

うふ、そうなんですよね。
さりげなくプライバシーに踏み込めてしまったり、信頼を獲得できてしまったり。
うまくそこに持ち込んで蓮さんのターン!というわけにはまだ行かなさそうですが…

ぞうはな | URL | 2017/08/04 (Fri) 22:04 [編集]