SkipSkip Box

ほほえみの先に (18)


こんばんは!ぞうはなです。
とにもかくにも更新です。





輪講が終わったゼミ室で、奏江はぼうっと窓の外を見ているキョーコに気がついた。
「どうしたのよ、終わってるわよ?」

はっ、と気がついたキョーコは奏江の顔をまじまじと見つめる。
奏江はたじろいで思わず半歩下がった。キョーコの視線があまりに強くて、顔に穴が開きそうだ。
「な、何よ?私の顔になんかついてる?」
「や…いやっ、全然そんな!なんでもない!!」
キョーコは慌てたように目をそらし、机の上のバインダーやペンケースをまとめてカバンに突っ込むと「ま、また来週!」と大きな音を立てて席を立った。

「…大丈夫?何か悩みでもあるの?」
足を踏み出そうとしたところで訝しげな表情の奏江に話しかけられて思わず動きが止まる。
「うん、本当に何もないの。昨日バイトが忙しくてちょっと疲れてるだけ。ごめんね心配かけて」
「…心配なんてしてないけどね」
「ありがとう」
キョーコはそっぽを向いた奏江の顔を見ると、ふにゃりと笑って頭を下げ、今度こそゼミ室を後にした。


ばーかーねーー。
聞けるわけないのに。

外に足を踏み出したキョーコは、冷たい風に少し首をすくめると足元に転がる枯葉を見ながらゆっくりと歩き出した。

何かを考え始めると結論が出るまでそこに集中してしまうのはキョーコの長所であり、短所でもある。
突き詰めて突き詰めて、しっかりと答えが出せるときはいいのだが、自分の中をどう掘り返しても解が得られない場合、堂々巡りに陥ってしまう。

「彼氏と一緒に住んでいた部屋を出た場合、関係は解消されるのか否か」

相手に聞くのが一番早くて確実だが、それだけは絶対にしたくない。
けれどそんなことを奏江に聞くわけにもいかないのだ。なのにどう考えても答えが出ず、ついうっかり縋りそうになってしまった。

ふーーーー、とキョーコは息を吐き出し、とぼとぼと歩いていく。

相手がどうであれ、そもそも自分で決めてもいいのではないか。
キョーコ自身は尚との関係を断ち切るつもりであの部屋を出た。
自分は幻滅したのだ。尚の自分に対する態度に。まるで小間使いか財布か、そんな使われ方しかしていなかったことにようやく気がついた。
気がついてみれば客観的に二人の関係を見ることもでき、そしてそうなってみればそれが対等でないことは疑いようもなかった。

だから嫌ならば自分から別れればいい。それだけ。
だけど……

自分があの部屋を出てから、尚からの接触が急に増えた。
今までキョーコの大学になど来ようとした事はなかったはずなのにもう2回もここを訪れているし、数日に1回はどうでもいいような用事で電話をかけてくる。
もっとも接触してくるとき尚はいつも不機嫌で、決してキョーコも嬉しく対応している訳ではないのだが。

私…もうあいつなんてって言ってるくせに、なにやってんのかしら…


自分のふがいなさに涙が出そうになる。
ここまで18年間尚第一で生きてきて、あっさりその気持ちをふみにじられて、新しく一歩を踏み出そうとしているのにまだ振り回されるのか。

すっぱり切ればいい。
切ればいいのだけれど。

立ち止まって大きなため息をつくと、驚いたような声がかけられた。
「あれ、最上さん。どうしたの?」
驚いて顔を上げるとこちらに近づいてくるのは蓮だ。
濃いグレーのコートを羽織ってオフホワイトのマフラーを巻いて…ああなんて様になっているのか。

「は、敦賀先輩、こ、こんにちは!」
頭を下げるキョーコの目の前まで蓮は近づいて笑った。
「こんにちは。輪講は…終わったのかな」
ちらりと時計に目をやって、それからもう一度、蓮はキョーコに視線を戻した。
「はい、さっき終わりました」
「何か困ったことでもあった?」

聞かれてキョーコは困惑した。
さっき、奏江にも悩みがあるのかと聞かれてしまった。そんなに困った顔をしているだろうか。
実際、はたから見るとキョーコはどん底にいるような悲壮な表情なのだが本人は気がついていない。

「いえ…」
キョーコは慌てて手を振って否定した。
蓮が気にしているのは輪講のことに違いない。けれど今日の輪講はそれほど分からないこともなかった。
しかし蓮は少し躊躇したように一度開いた口を開き、苦笑気味に微妙な笑顔を見せる。

「あー…いや、輪講のことじゃなくて」
「??」
キョーコは驚いて蓮を見た。蓮は柔らかい微笑みを浮かべてキョーコを見ている。
「勉強のことじゃなくても何か悩んでるなら話を聞くよ」
「や、そんな何も…!」

何か見透かされているのか。
内心では心臓がどきりと飛び跳ねるが、キョーコは動揺が表に出ないように必死に取り繕う。
「話をするだけでも気が楽になるかもしれない」

そうかもしれないけどこんな話…!

しかしふとキョーコは考えた。
この見た目だ。蓮の恋愛経験はおそらくキョーコが想像できないほど豊かだろう。
それにキョーコにはこんなことを相談できる異性の友達はいない。そりゃそうだ、自分で排除してきたのだ、尚以外の異性の存在を。
だけど男性の気持ちについて知っているのはやはり、男性だろう。


だけどやっぱりこんな話…!!

ああでも蓮はうっすらと尚の存在を知っている。
やはり一番話を切り出しやすいのは蓮で、でもまさかこんなにお世話になっているほかの学生にも大人気の先輩をこんなくだらない自分のプライベートな悩みにつき合わせる訳には………

「とりあえず立ち話では寒いし、コーヒーでも飲まない?」
にこりと笑った蓮が柔らかく提案したことに、キョーコはなんとなく逆らえなかった。


「ココアがメニューにあるとは気がつかなかったな」
「敦賀先輩、こういう甘いもの飲まれる印象ありませんし」
「確かに、滅多に飲まないかな」
キョーコの前にはホイップクリームが浮かぶ温かいココア、そして蓮はブラックコーヒー。
キョーコの目から見ても蓮はブラックコーヒーが似合う。
甘いものを食べていたらそれはそれで見た目とのギャップが新鮮だったりするのかもしれないが、目の前の先輩は期待を裏切らない振る舞いでキョーコにはその笑顔がまぶしすぎる。

「でも大丈夫?なんだかずいぶんと思い悩んでいるみたいだけど」
「そう見えますか?」
「うん。"悲壮な"って修飾語がぴったりくる感じだ」
「…そこまでではないんですけど」
キョーコは語尾を飲み込んでうろうろと視線をさまよわせる。
その様子を見ていた蓮はゆっくりとカップを下ろすと少しだけキョーコの方に身をかがめてきた。

「お金のこと…ではなさそうだね。勉強でもない。となると…彼氏と何かあったのかな」
「…う」
「ごめんね、聞き出そうと思ってるわけじゃないよ。けどもし話して少しでも楽になるなら、聞くよ。忘れろと言われれば忘れる」
「ありがとうございます。けどその…だいぶくだらないことで」
「そんなの気にしなくてもいい。俺の悩みも相当くだらないから」
蓮は軽く笑い、キョーコは驚いたように蓮を見る。
「そうですか?そんなの…想像もつかないです」
「俺の頭の中を覗けたら、君は呆れると思うよ」
「まさか…」
蓮はいつもと違い少し恥ずかしそうに笑った。その表情が妙に幼く見えてキョーコはどきりとしてしまう。

「本当にくだらないことなんですけど…聞いてもらってもいいですか?」
少し迷うように考え込んでからようやくキョーコは口を開き、蓮は笑顔で黙ってうなずいた。

関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

蓮さんの頭の中、覗けたら!

こんばんは。

気になるこの相談に乗るって、、、すごく下心ありですね。蓮さんの頭の中を覗いてみたいですね(笑)

キョーコさんの悩み相談はどんな感じになるのでしょうか?

更新楽しみにしてます‼

harunatsu7711 | URL | 2017/05/25 (Thu) 20:46 [編集]


Re: 蓮さんの頭の中、覗けたら!

> harunatsu7711様

コメント返信が大変遅くなりまして~~~!!
申し訳ありません。

そりゃもう、下心しかないというか、何かキョコさんの身の回りに変化があるなら全部把握しておきたい!という男心ですよね。
ある意味それは独占欲ではないのかという…
先輩風吹かせてもっともらしいこと言って誘導する蓮さんは、水の下で必死に水をかく白鳥のようだと思うのであります。

ぞうはな | URL | 2017/06/11 (Sun) 21:23 [編集]