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ほほえみの先に (17)


あうあうあうあう。
ぞうはなです。
もう、何も言うまい。続きです…。





「お前はなんだ、いいご身分だな。何しに学校来てんのか忘れてるんだろ」
口火を切ったのは尚だった。斜め上からキョーコの顔を見下ろすその表情には軽蔑の色が現れている。

「あんたに言われたくないわよ!私はちゃんときっちり、全力で学んでるわ」
「何を?」
「へあ?」
力いっぱい言い切った言葉をあっさり短く切り返され、キョーコは間抜けな声を出してしまった。
「お前もう、諦めたんだろ?うちの親がやいやい言ってることは」
「何を……?」
「俺には知ったこっちゃねーけどさ。今更大学行で何してんだ?」
キョーコは目をめい一杯見開いて尚を見た。信じられないものを見た、という表情だ。
「…んだよ、その面は」
「おっどろいたわ…」
「ああ?」

キョーコははふ、と息を吐いて首をゆるゆると左右に振る。
「何様のつもりかしらね、人の学びにケチつけるなんて」
「はあ?お前がフラフラしてやがるから忠告してやってるんだろうが!」
「不要よ。あんたに忠告なんてしてもらわなくても私はちゃんと考えてやってるわ」
「だから、何をだ」
キョーコの両方の眉がきゅっと吊り上がる。ついでに眉間には皺が寄って極上の『嫌そうな顔』が出来上がった。
「あんたには、関係ないわ」

「やっぱりな」
対する尚はふふん、と勝ち誇った顔でキョーコを見下ろす。
「やることないからって浮かれてるんじゃな」
「さっきから一体、何を言ってるの?」
キョーコは腰に両手を当てて眉を吊り上げたまま呆れたように大きく息を吐き出した。
「人のことを馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ。大体勉強する以外、学校に何しに来るって言うの?」
「だから!何を勉強するってんだよ。人の後ついてくるしか能のないお前が」

あーー。なるほどね。
この馬鹿、まだそんなこと思ってるんだ。
…ほんと、馬鹿にされてるわよね…あほらしい。

「何回も言うけど、あんたにイチイチ報告することじゃないのよ。放っといてくれる」
さらに言葉を継ごうと口を開いたところで、斜め後ろから声がかかった。

「最上さん?今日は4限の授業があるんじゃなかったっけ」

え?と振り向くと、そこには無表情の蓮の姿がある。

え?

キョーコは我に返って腕時計を見た。
あと1分もしない内にチャイムが鳴る、そんな時刻を長針が指している。

「あああっ!すみません、ありがとうございます!」
キョーコは蓮に深く頭を下げると振り返ってぎろりと尚を睨んだ。
「ったく!邪魔しないでよね!くだらない用事でいちいち来ないでよ、あんたこそ授業さぼってんでしょ」
「…うるせえよ」

ふん、とキョーコは顔を背けると教室に向かって小走りに駆け出した。
それを見送った尚は少し離れたところに長身の学生がまだこちらを見たまま立っていることに気がつく。

やっぱり…こいつ昨日キョーコのバイト先にいた奴だな…

「俺になんか用?」
吐き出された言葉には棘が生えているような口調だが、受け取る方はその勢いをやんわりと殺すようににこやかな笑みを作る。
「いや…君はうちの大学の学生?」
「……ちげぇよ」
「そう」

ふ、と笑って蓮は踵を返した。
コートの裾が軽やかに翻ると、その長い脚は路上に積もる落ち葉を踏みしめながら遠ざかっていく。


あいつ……去り際に喧嘩売りやがったな!

どう見てもこちらを見下すような笑顔だった。
馬鹿にされる謂れはない。明らかに尚に向かって何らかの敵意を見せたのだ、あの男は。
どういうことだ、あの男は一体キョーコの何なのだ。
おそらくキョーコに家庭教師のバイトを斡旋したというのはあの男なのだろう。

まさか…あの男の影響で部屋を出たとか言わねえだろうなあ?

キョーコは今どこに住んでいるのか。
バイト先の居酒屋に居候すると言っていた気がするがまさかあの男の部屋に転がり込んではいないか。

『今日は先輩の好きなハンバーグを作りました!』
『ああ、すごくおいしそうだね』
『今日のは自信作なんですよ』
『じゃあ、それを食べさせてくれる?』
『んもう、先輩ったら』

あーーん…

妙なピンク色の背景が付いたイチャイチャぶりが脳裏に浮かび、尚は憤怒の表情を浮かべてそれを打ち払った。

冗談じゃねーぞ!
男と同棲なんざ、許されねえからな!!

自分のことはすっかりと棚に上げて、尚は不思議そうに自分を見る周囲の人間には目もくれず、どすどすと足音高くその場を去った。


「天宮さん、ごめん!」
キョーコは息を切らせて教室に駆け込み、通路側の席にカバンを置いていた千織に話しかけた。
「大丈夫よ、まだ先生来てないから」
「よかった、間に合って」
千織の隣に腰を下ろしたキョーコは息をつき、カバンからノートや教科書を取り出し始める。
「でも彼氏さんすごいわね、一緒に住んでるのにわざわざ学校にまで来るんだ」
尚が別の大学に通う幼馴染だということは以前の夕加による尋問で千織も聞いていた。素直に感想を述べただけなのだが、急にキョーコは慌てたように目を丸くして首を横に振った。

「あ、いえあの、違うの…その……もう一緒には住んでないのよ」
キョーコの声のトーンがやや下がり、千織は触れてはいけないことに触れたかと、少し声をひそめた。
「あ、そうだったの?ごめんなさい、変なこと言って」
「ううん全然。別に大したことじゃないし」
申し訳なさそうな千織に、キョーコは慌てて片手をぶんぶんと振った。そう、大したことではない。大した男でもない。

「でもじゃあ彼氏さん、急にキョーコちゃんに会えなくなって寂しくなったのかしら。毎日一緒だったのに急に離れたらそんなもんかもね」
「は…はい?」
思わずキョーコは大きな声で聞きかえす。
周りの学生が一斉に2人の方を振り返り、キョーコは手で口をつぐむと肩をすくめた。

「なんで…?」
同時に教室のドアから教官が小走りで入ってきて、キョーコは声をひそめつつ千織の顔を見る。
「なんでって…なにが?」
「いやだって、部屋出てった相手に会いたいなんて」
困惑するキョーコに、千織は不思議そうに首をかしげた。
「同棲解消したって別れたわけじゃないんでしょ?もし喧嘩したんだとしてもやっぱり、いつもいた人がいなくなると寂しいって…そういうことじゃないの?」

私は同棲したことないからよくわからないけど、という千織の言葉はキョーコの耳には入らない。

え?え??
あの部屋から出たってことは、私、バカショーとはもうすっぱり縁を切ったのよね?
違う…の……?
確かに別れるとかそういう話はしてはいないけどだけど…いやまさかね、だってあいつがいつでも出て行けって言ったのよ?
あいつ私に喧嘩売ったわよね?


授業はすでに始まっていたが、キョーコは心ここにあらずでずっとぐるぐると同じことを考え続けていた。



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コメントコメント


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キョーコさんしっかり!

こんばんわ。

動き出した蓮さんとは対照的に、キョーコさんはまだまだ鈍感!
ん〰もうって感じです。

更新があると嬉しいです〰。

harunatsu7711 | URL | 2017/05/19 (Fri) 19:05 [編集]


Re: キョーコさんしっかり!

> harunatsu7711様

コメントありがとうございます!
キョコさん、鈍感だし悩みすぎだし…
蓮さんはヘタレている場合じゃなさそうです。

亀更新で申し訳ないですーー!

ぞうはな | URL | 2017/05/23 (Tue) 22:47 [編集]