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ほろ酔いの・・(後編)

「最上さん・・?」

キョーコは一瞬固まったが、慌てて立ち上がってお辞儀をした。
「おっ、お疲れ様です、敦賀さん!!」
「お疲れ様。こんなところに一人で、どうしたの?」
座って、と促されて、キョーコは再び腰をおろしながら苦笑いした。
「みんなでお風呂に入りに来たんですけど、ちょっと浸かりすぎてのぼせちゃったみたいで、涼んでたんです・・」
蓮は少し間を空けて、キョーコの隣に腰を下ろした。
「そんなに長湯したの?」
「なかなか温泉に来る機会なんてないですし・・。せっかくだったし、今日で終わりだと思ったら、欲張りすぎちゃって」
てへへ、と恥ずかしそうに笑うキョーコに、蓮は目を細めた。

「涼むのはいいんだけど、湯冷めして風邪引かないように気をつけないと」
「はい、ちゃんと丹前も着てますし、平気です!」
確かにキョーコは浴衣の上に宿の紺色の丹前を着こんではいたけれど。
濡れた髪はクリップでまとめられ、くびすじが顕わになってる。
湯上りだからだろうか、化粧っ気のない肌は艶々として、頬はほんのりピンク色。
ぴしっと着つけられた浴衣は、露出こそ少ないものの、かえって白い手首がまぶしいくらいだ。

蓮の高さからキョーコを見ると、見下ろす角度になるので、襟を抜いている項の辺りは目の毒だ。ふらり、と手が伸びそうになるのを、蓮は慌てて引っ込める。
(思ったより、酒が回ってるのか?さほどの量ではなかったはずだけど・・)
でも、この場は二人っきりだし、酒のせいにしてみようか、とうっかり思い直してしまったのだから、やっぱり酔っていたのだろう。

「温泉の効果、出てるみたいだね・・」
つぶやくような声とともに、キョーコの頬に触れた。
「肌が、つやつやだ。美肌効果、あるのかな」
右手を顔の輪郭に添え、親指でふっくらとした頬をなぞる。
本当につやつやだ、とぼんやり思いながら感触を楽しんでいると、声も出さず、目を見開いて固まっていたキョーコが、やがてかたかたと細かく振動し始めた。そして、数秒の間をおいて、ぼんっと赤くなる。
「なななあ、なにを・・・!!」
ん?と首を傾げてみせる蓮は、特に悪びれた様子もなく。
「せっかくのぼせるくらい浸かったんだったら、効果が出たほうが嬉しいだろう?」
頬にあてた手をするりと首筋まで下げてから、そっと離す。
「そそそ、そんなの確認していただかなくても、ま、間に合ってますぅ~~」
思いっきり身を引いて縮こまりながら真っ赤な顔をしてこちらを見る姿に、蓮はうっかり墓穴を掘ったことを自覚した。

ああしまった・・こんなに真っ赤になって意識されると・・・理性が・・・・

「ど、どうしたんですか、敦賀さん・・あ、もしかして!酔われてるんですか?」
「あー、…そうだね、結構飲まされたからね」
苦笑しながら髪をかきあげる。

「監督さん、ずっと敦賀さんの横で徳利持ってましたもんね・・。大体敦賀さん、ほとんどお料理に手をつけてなかったじゃないですか。食べないで飲んだから回りが早かったんじゃないですか?」
先ほどの怯えをすっかり忘れたように、心配そうに蓮の顔を覗き込む。

「なんだ、見てたんだ・・。俺のこと、気にしてくれてたの?」
とろんとした、でも奥底の光を失ってはいない瞳がキョーコをとらえた。

「気にしていたというか…あの!敦賀さんたちのいたところはにぎやかだったので、こ、こっちでも話題になってたし・・!」
気まずくて目を合わせられず、へどもどと言い訳をしてみるキョーコの肩に、柔らかい感触がしたと思ったら重みがかかった。再度、キョーコはぴきんと固まる。
目の端で一応確認してみたら、やっぱり、そこにあるのは蓮の頭だ。更に目線をやると、はだけた浴衣からたくましい胸板が見える。
(お、男の人の胸元でドキドキするってどーゆーことなの!!)と、キョーコはパニック一歩手前、沸騰直前だ。

「あー、ごめん。やっぱり酔ってるみたいでふわふわするよ・・。ちょっとだけ、肩を借りてもいいかな?」
「どどど、どうぞ、私めの肩でよろしければお気のすむまで!」
「・・ありがとう」

肩にもたれてしまってから許可を得るのも変な話だが、拒否はされなかった。
しばらく二人無言で時が過ぎる。川の音だけが、ざあざあと絶え間なく聞こえてくる。

もう一度手で触れてしまったら、目を合わせてしまったら、何かが吹き飛んでしまいそうだった。蓮は必死に理性を手繰り寄せた。
でも、このまま分かれてしまうのも、折角偶然会えたのに、もったいない!!
苦肉の策として、目を合わせず触れられて、手も出ないように頭を肩にあずけたのだった。

それでも体温を直に感じられて、言いようのない喜びがじわじわと湧き上がってくる。
ついでに、ちょっといたずら心も。
「ん、風呂上がりのいい匂いだね」
もたれていた肩にさらに緊張が走った気がしたが、無視して頭を擦り付けた。

(こ、これは一体なんのいじめなの~~~~!)
あまりの恥ずかしさに身もだえしそうなキョーコだったが、酔ってる人のやることなんだから、なんだから、深く考えちゃだめなんだから、などと懸命に自己暗示をかけて踏ん張っていた。

しばしの時間の後、蓮はなんとか自分を立て直して、何事もなかったかのように起き上がり、「おやすみ」を告げて部屋に戻るキョーコを見送ったのだが。

それぞれ宴会場と部屋に戻った二人が、
「敦賀君、歩いたから酔い回ったのかい?」
「京子ちゃん、涼みに行ったのにまだのぼせてるみたいだよ?大丈夫?」
と不思議がられたのは、仕方のないことだろう。

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コメントコメント


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Re: こんばんは

>瑞穂さん
こんばんは。
コメントありがとうございます!!
返信&お礼が遅くなりまして申し訳ありません。
ちょうど4日間ほど海外逃亡しておりまして、ネット環境が不安定だったため遅くなってしまいました。

私のつたないブログをしっかり読んでいただいて、細かく感想までいただいて、嬉しいことこの上ないです。感激してます!!


> 万一スクープされても、「あれはそんなんじゃないんですよ。全然違います」とかキョーコは思いっきり否定しちゃいそうです。

するんでしょうね、素で。

> 社さんが隠し撮りとかしてたら、楽しいことになりそうです。

そのあと散々おもちゃにされそうですよね。二人のやり取り、結構好きなんです。

> 面白かったです。ありがとうございました。

こちらこそ、訪問してくださってありがとうございました。
細々とお話を載せていかれたらいいなと思っておりますので、よろしければまた覗いてくださいね!!

ぞうはな | URL | 2012/08/28 (Tue) 21:23 [編集]