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ほほえみの先に (16)


こん…こんばんは……ぞうはなでございます。

かつてないほどの更新間隔ですが、こっそりこっそり、載せます……





ファーストフード店の横手、質素な裏口のステンレスのドアが開き、1人の女性が静かに出てくる。
女性は左手の腕時計にちらりと目をやり、肩にかけたトートバッグをごそごそと探ると小さな鍵を取り出した。店の横に数台置かれた内の一台の自転車に歩み寄るとカゴにトートバッグを収め、かしゃり、と鍵を解除する。
ハンドルに両手をかけたところで「最上さん」と声をかけられ、女性ははっと振り返った。

すでにあたりは暗く、全く周囲に注意を払っていなかったため気がつかなかった。
いつからそこにいたのだろうか?今たまたま通りかかったのか?分からないが、キョーコは驚きに目をまん丸にしてしまった。

「つ、敦賀さん…?」
「バイトお疲れ様。これからカテキョウ?」
「はい!そうですけど…」

どうしてこんなところに?とキョーコの顔全面に書いてある気がして、蓮は思わずくすりと笑みをこぼしてしまった。
「ちょうどこの時間だったから、君がここから出てくるかなと思って」

思って、どうしたんですか?

聞きたいけど聞けない。
いやでもまさか、蓮がこんなところで自分が出てくるのを待っていたなんて、そんなことはないはずだ。

「偶然ですね、ちょうど通りかかられるなんて」
瞬時に思いをめぐらせた結果、キョーコは蓮が今ここをたまたま通りかかったのだと思うことにした。
いや、それ以外ありえない。

「…そうだね」
蓮は表情を動かさずにかすかに頷いた。
キョーコは驚いているようだし少し慌てているようだがそれ以上の感情は見えない。蓮はやや落胆したが、キョーコが自分に対して「ゼミの先輩」以上の存在であると表明したことなどないのだ、当たり前の反応だと気を取り直す。
「相変わらず頑張って働いてるけど、寒くなってきているし体壊さないように気をつけて」
「はい、ありがとうございます。あ、そういえば!」
キョーコはぱっと笑顔を作った。すごく嬉しそうなその笑みに、蓮は引き込まれそうになる。

「家庭教師にお邪魔してる小林さんに、他の生徒さんをご紹介いただいたんです」
「あ、もしかして中学生の女の子かな」
「はい!敦賀さんもお願いされてたんですね」
「いや、そこのお宅は女性を希望しててね。俺は問題外だった」
「そうなんですか。けど、こんなお話をいただけるのも敦賀さんのおかげです。本当にご紹介ありがとうございます!」
キョーコはいつものように深々と頭を下げた。

「いや、俺のおかげなんかじゃないよ」
蓮はふわりと笑った。
いつも通りの表情だが、暗い街灯にほんのりと照らされただけの暗い中で見ているせいか、なぜかいつもと少し違うように見えてキョーコは一瞬どきりとする。
「なかなかいい人が見つからなかったみたいだけど、小林さんが紹介したってことは君の授業がよかったんだ」
「いえそんな…」
「謙遜する必要はないよ」
否定しかけたキョーコの言葉を蓮はさえぎった。
「君はもっと自信をもっていい。もっと堂々としていていい。それだけのことをしているよ」

「ありがとう……ございます…」
キョーコは思わず蓮の顔を見つめてしまった。
蓮に言われると、本当にそうだと思ってしまいそうだ。その言葉は素直にしみるように胸に響いてくる。

「おっと、ごめん、時間は大丈夫かな。君に遅刻させるわけにはいかないね」
蓮は腕時計に目を落とすと言った。
キョーコも慌てて時計を見るが、時間にはまだ少し余裕があるようでホッとする。
「いえ、大丈夫そうです」
「よかった。じゃあ、気を付けてね」
蓮の長い腕がすいと伸びると、キョーコの頭をふわふわとなでるように大きな手がやさしく叩いた。
「は、はい!ありがとうございます、行ってきます」
「いってらっしゃい」
キョーコはぺこりと頭を下げると慌てたように自転車にまたがり、力強く漕ぎ出した。


小さいヘッドライトが遠ざかるのを見送ると蓮は自分の右手をじっと見つめる。

変には…思われなかったよな?

本当はその華奢な体を抱きしめたい衝動にかられたのだ。
さすがにそれを実行に移すほどには蓮の理性は弱くなかったが、どうしても触れたくて、少女漫画の登場人物のような行動に出てしまった。

普段、自分の周りにいる女性からの好意的な視線に慣れている蓮にはキョーコとの関わりは意外なことだらけだ。
目を合わせて微笑んでも戸惑いの色しか見えないとか、自分が近づきたい衝動に駆られるとか、今までに経験のない相手の反応、自分の行動に戸惑いすら感じる。

あまり焦ると怖がられて逃げられそうだし…
初めてだな、こんなに相手の気持ちが分からないなんて。

それはそれで悪くない、と蓮は思った。
徐々にでもいい、もしキョーコの気持ちを自分の方に向けることができたならば。
あの、先輩を見るやや恐れを含んだような顔を満面の笑みに変えられたら。

蓮はじっと見つめていた右手を強く握りこんだ。



い……いいいいいい?
なんでまたいるのよっ!?

ぽかりと晴れた空は明るく、暖かく見えるのにそよぐ風は刺すように冷たい。
しかし寒さとは別の意味でキョーコは目を見開いたままぶるりと身震いした。

キョーコはどうにかして方向転換しようと試みたが、隣にいた千織が目ざとく行く手にたたずむ人物に気がついた。
「あら…あれ、キョーコさんの彼氏じゃないの?」
「う…いや彼氏じゃ」
「私遠慮しようか」
「いや!いい!いいの!だって次の授業一緒じゃない!!」
2人きりでなど顔を合わせたくない。遠目に見える不機嫌そうな元同居人の顔を見てキョーコはぶるぶると激しく首を横に振る。

「でも…用事があるんじゃ」
「だってあと10分で授業始まっちゃうから、聞いてなんていられないわよ」
ぼそぼそとやり取りしている間にキョーコを待っていたらしい尚はすたすたとこちらに向かって歩いてきた。
「おいキョーコ。話があるからちょっとツラ貸せ」

こちらの事情などまったく考慮せず上からの物言い。
相変わらずの態度だが、受ける側のキョーコの心境は以前とはだいぶ変わっている。
ぎろりと相手を睨みつけると腰に手を当てて芝居がかったしぐさでため息をついてみせた。
「嫌よ。これから授業なの。あんたと違って暇じゃないの」
「俺だって忙しいところをわざわざ来てやってんだろうが」
「たのんでないわ」

きっぱりと言い切り歩き出したキョーコの髪を、尚は一束引っ張った。
「いったいわね!!なにすんのよ!!!」
「無視するテメエが悪い」

無言で自分を見守っている千織に、キョーコは声をかける。
「ごめん、天宮さん!先に行っててくれる?遅刻しないように行くので…!」
「わかった。席取っとくわね」
「ありがとう」
くるりと背を向けた千織を見送ると、キョーコはがらりと表情を変えて尚に向き直った。
「で、何なのよ用って。5分で終わらせて、5分で」
「はあ?お前キョーコのくせに何偉そうにしてやがんだ」
2人の間にはバチバチと火花が飛んでいるようで、近くを歩く学生が思わず振り返った。


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コメントコメント


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頭なでなで

こんばんは。

ちょっとずつ蓮とキョーコが近づいてますね。
しかし、ショーの存在がまだ!!

更新楽しみに待ってますね。

harunatsu7711 | URL | 2017/05/02 (Tue) 21:10 [編集]


Re: 頭なでなで

> harunatsu7711様

コメントありがとうございますー!
そうなのです、少しずつ蓮さんはじりじりと距離を縮めているのですが、まだ相手の気持ちが…。
さてキョコさん、いつ大事なことに気づくのやら?

ぞうはな | URL | 2017/05/10 (Wed) 23:27 [編集]