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ほほえみの先に (15)


ここのところ更新のたびに言っている気がしますが…

ご無沙汰しております、ぞうはなですー!
年度初めですね、入学式ですね、新生活ですね!

てことで続きですー。




「お、お疲れ」
「お疲れ様です」
宝田教授の研究室を出ようとしていた蓮は、入れ替わるように入ってきた社とドアのところで顔を合わせることとなった。
社は目線をちらりと下までおろし、また蓮の顔に上げる。

「前も思ったけど、お前そういう格好しても新入社員っぽくないなあ」
「そうですか?」
「ああ、落ち着いちゃってて初々しさがない」
「…俺まだ社会人ですらないんですけど」
「わかってるけどさ。面接のときに指摘されなかったか、落ち着いてるって」
「特には…」

社はもう一度蓮の全身を見た。
きちんとプレスされたズボンと体にフィットした細身の上着。黒のスーツの胸元は白シャツに結ばれた青系のネクタイ。左手にはベージュのコートがかけられ、その下からは黒い革のカバンが見えている。

ごくごく一般的な就活生の服装のはずなのだが、蓮が着ると気品すら感じられる。
さすがに言いすぎだが、重役ようなの風格が漂っていると言う方が近いのだ。
「同期の女子から騒がれなかったか?」
この日の午前中に、蓮が内定を取得している会社の内定者を集めた説明会があることを社は知っていたため、そう聞いてみた。
「別に何も…むしろ、話しかけられませんでしたよ」

そりゃそうか。

社は苦笑いしながら頷いた。
蓮のような男が同期にいたとしたら、まずは驚き遠巻きにその生態(!)を確認し、しばらくして安全(!!)が確認できてから寄ってくるはずだ。複数の女性がいれば互いに無意識の牽制が入るかもしれない。普段なら初対面から押し寄せてくるツワモノがいるだろうが、さすがに内定者としての立場ではそのような無謀な行動をする女性はいなかったか。特に蓮が就職するのは常に就職ランキングで上位に名前が出る有名企業だ。狭き門をくぐった若者たちはそのあたりの判断力だって優れているのだろう。


「だけど帰って来ちゃったのか。飲みとかさ、あったんじゃないのか?」
「一部の人は行ったようでしたけど…終わった時間も結構早かったですし、宝田先生との約束もありましたし」
「付き合い悪いな」
「そう言われましても。入社したら嫌でも機会はありますから」
「まあな」

蓮は社とわかれると、コートを着て日が落ちかけたキャンパスへと足を踏み出した。


「尚、今日は飲み会出ないの?」
「あーわりぃ、今日はちょっとパス」
「えー、つまんなーい」
「また今度な」
こちらも場所は違うもののキャンパスの中、尚は声をかけてきた女子学生に軽く手を上げると門へと向かった。


ようやくしつこいポチリを巻いたんだ。
次から次へとつかまってたらキリがねえよ。

ぶつぶつと呟きながら尚は吹きぬける風に少し肩をすくめた。
年末が近づくにつれどんどんと空気の冷たさが増してきている。
大またで歩く尚とすれ違う2人組の女子学生がすれ違いざまこちらを振り返るように見ているのが分かり、尚は無意識に髪をかきあげた。

ふ…まったく、外を歩くのも面倒ってのはな…


1人悦に入りながら門の外へ出たあたりで、上着に入れているスマホが鳴り始めた。
取り出してみれば画面は「祥子さん」から電話が着信していることを告げていて、尚はすぐにスマホを耳に当てた。

「ああ、どしたの」
『ごめんね電話して。今話してて大丈夫かしら』
「大丈夫。がっこー出たところ」
『よかったわ。あのね、この間尚が提案してくれたホテルイベントプラン、あったじゃない?あれをね、提案してみたの。名古屋のホテルの女性経営者だったんだけど…』

尚は祥子の話を聞きながら歩道のガードレールにもたれかかった。
風は寒いが、祥子の話は自分のアイデアが経営者に受け入れられ賞賛されたと言う話で、尚には気にならない。

『…近いうちに会わせてほしいって言われてるの。どうかしら?』
「そりゃあ、祥子さんがその方がいいって言うなら俺は構わないけど」
『分かったわ。じゃあ調整させてもらうわね』
「ああ。今日は遅いのか?」
『ごめんね、今日はちょっと遅くなりそう。気にしないで休んでて』
「わかった」

尚は通話を切った。
電話の相手は経営コンサルタント会社に勤める安芸祥子だ。業界セミナーで祥子に出会った尚はそれ以来企画やイベントのネタを作っては祥子経由で売り込んでいる。
個人的にも祥子と親しくなった尚は自分の部屋と祥子の部屋を行ったり来たりする生活を送っていたのだが、キョーコが部屋を出て行ってからはほぼ祥子の部屋に住んでいるも同然だった。


飯どうしよっかなー

ごそりとポケットにスマホを戻しながら尚はぼんやりと考えた。
祥子は連日忙しいらしく、キョーコと違ってほとんど自宅で料理をしない。今思えば何時に帰っても夕飯やつまみが出てくるのはかなり特殊なことだったのかもしれない。

「ちょっと嘘、ちょーかっこいいんですけど」
「芸能人…?かなあ。いや、モデルかも」

ぼそぼそと、しかし興奮気味に交わされる女性の会話に、尚ははっと我に返った。
こそこそと噂されるのには慣れている。自分の表情に対して意識をしていなかった尚は、女性達の声に少しだけ顔を引き締めると、尚はさりげなく声のする方向を見た。

しかし、尚の予想に反して、女性二人はまったく明後日の方向を見て何やら頭を寄せ合っている。尚はゆっくりと女性二人の視線をたどるように頭を向けた。

尚から見えるのはサラリーマンらしき男の後姿だ。
ベージュのコートに黒いスーツというありきたりの格好でその顔は見えなかったが、尚は喉の奥からうめき声を漏らした。

軽快に足を運ぶその男は、尚よりもかなり背が高く、足も長そうなのだ。

は。でかけりゃいいってもんじゃ…

男の後姿を見ていた尚はふと気がついた。
割と最近、自分はこの大きい男の後姿を見たことがなかったか。いや、後姿だけではなくその顔も正面から見た。彫刻のように彫りが深く整った顔を持ち、驚くような長身の男。

尚の脳裏に少し前の風景が鮮やかによみがえった。
そして同時に思い出す。その風景の中にはキョーコがいた。

あの男…!
キョーコが先輩って呼んでたやつか。
あの時は大学だったから学生だと思ったけどもしかして、OBなのか?

男が歩いていく方向は駅から遠ざかる方向だ。
尚の前を通り過ぎたはずだが、尚は車道を眺めながら電話していたので気がつかなかったようだ。

睨むように男の後姿を見ていた尚は別のことに気がついた。
この道を進んだ少し先にはキョーコがバイトするファーストフード店がある。

いや、まさかな…

尚は「そんなわけねーよ」とため息をつきながら肩をすくめた。
しかしあの店を越えた先は段々と店が減って住宅地へと入る。
しばらく眉間にしわを寄せたまま固まっていた尚は、やがてゆっくりとガードレールから身を起こした。



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コメントコメント


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あまあまになるのは…?

こんにちは。

蓮さん、アプローチ開始したようですが、まだまだ、蓮とキョーコのあまあまシーンがありません!!!!首を長くしてまってますね~。

harunatsu7711 | URL | 2017/04/08 (Sat) 09:39 [編集]


Re: あまあまになるのは…?

> harunatsu7711様

はなはだしくお返事遅れまして申し訳ありませんー!
はっ。確かにこれっぽっちも甘くない…!蓮さんは甘さを求めてるけどキョコさんが一向に……。

ぞうはな | URL | 2017/04/25 (Tue) 21:23 [編集]