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ほほえみの先に (14)


こんばんはー。ぞうはなです。
さてさて、蓮さんが動き出す…?





「いらっしゃいませ、こちらのメニューをご覧ください!」
キョーコは1秒もかからず立て直すといつもの営業スマイルでカウンターから蓮に呼びかけた。

「ありがとう。えっと…チキンバーガーと…」
蓮も特にアクションを起こすでもなく注文を済ませる。キョーコは普段どおりに会計までを終わらせると小さなスタンドに挟まれた札とコーヒーのカップを蓮のトレイに乗せた。
「お食事はお持ちいたしますので番号札をお持ちになってお席で少々お待ちください」
「ありがとう。…君が持ってきてくれる?」
ぽそりと小声で言われ、へ?と蓮の顔を見たキョーコは目を丸くした。蓮は何かを含んだような、いたずらっ子のような目をしてキョーコを見ている。
「は、はい、承りました」
素直に受けてしまい呆然としているうちに蓮はカウンターを離れ、2階の客席への階段を上がっていった。


どどど、どーゆーこと?
敦賀さんってああいうこと言う人だったっけ?
なんかいつもと表情が違ってドキッと…じゃなくてビックリしちゃったじゃないー!

営業スマイルを貼り付けて次の客への対応をしながらもキョーコの内心は嵐が吹き荒れていた。
キョーコの中の蓮の評価は高いが、いつもキチリとしていて理性的で紳士的で、怒ったり不機嫌だったりするところなんて見た事がない。その反面、ふざけたりする顔も見たことがない。

あーー…いや?

トレイからお金を取る手が一瞬ピクリと止まる。

「1025円お預かりします」
客に気づかれないくらいの短い時間で復帰したキョーコは笑顔でレジに金額を打ち込むとお釣りとレシートを客に返した。


違うわ、一度だけ怒ってるのかと思うようなオーラを発してた事が…!

家庭教師の帰り、同居人がいると伝えたその直後の蓮の空気はどこか変だった。
けれど別に表情が変わったわけでも何か言われた訳でもなかったのだから気のせいだったかもしれない。

「12番オーダー上がりましたー」
キッチンから声がかかり、キョーコは飛び上がって振り返った。
「は、はい!」
ちょうど人が切れたレジを離れるとトレイを持って階段を上がる。

賑わう客席の中でも、蓮を探すのは簡単だった。
カウンター席のはじでコーヒーのカップを片手に持って何か考えているその姿は、背中から輝かしいオーラが出ているのかと思うくらい目立っている。
それに大学でしか会わない蓮がこの場所にいるのはなにやら微妙に違和感があり、そして新鮮でもあった。

「チキンバーガーとオニオンフライ、お待たせいたしました!」
頭を下げるキョーコに笑いかけた蓮はいつもの表情だった。
「ありがとう」
トレイにバスケットを置き番号札を受け取ったキョーコを眺めた蓮は、もう一度キョーコが頭を下げたタイミングで口を開いた。
「制服姿は新鮮だね。いつも学校で見ている最上さんとは少し違う気がする」
「そ…そうですかっ?」
「うん。テキパキ働いててすごいなって、眺めちゃった。ごめんね?」
「えっ、いえそんな。あ、謝っていただくことでは…!」
「たまに通りかかったときに外からは見える事があったんだけどね。今日は近くで見てみたくて」
「………へ?」

キョーコがぴしりと固まったところで蓮の向こう側に座っていたカップルが席を立った。
「あ、ありがとうございました!トレイこちらでお預かりします」
客からトレイを受け取ったキョーコは「ごゆっくりどうぞ」と蓮に頭を下げると逃げるように1階に降りる。

やっぱりなんか変よ、敦賀さん??
"近くで見たくて"って何?ナンナノ?

パニックで階段を駆け下り、レジから不思議そうにこちらを見ているバイト仲間の顔を見て、キョーコはようやく落ち着きを取り戻して息を吐き出した。

えーっと、あ、そうか。
敦賀さんきっとお腹が空いてたのよね。で、家に帰る間に何か食べようと思って、それで私がいるからこの店に…

納得のいく答えが見つかってキョーコは安心した。

そうよね、慌てることじゃないわよ。
そんな驚くようなことじゃなくて、たまたま寄ってくれたってだけで。
でも……


単にゼミの後輩というだけの自分のことを、少しでも気にかけてくれるのはやはり嬉しい事だ。
ふにゃ、と表情が緩みかけたところで、カウンター内に入ったキョーコにバイト仲間がぐいと顔を近づけてくる。
「最上さん、さっきの人と知り合い?」
「え?さっきって…」
「すごい格好いい人が来たじゃない!なんか話してなかった?」
「あ、ああ…」
気圧されながらもキョーコは頷いた。
「同じ大学の先輩で…」
「最上さんって確かL大だよね」
「う、うん」

くあ~~~~!と、眉間にしわを寄せながらバイト仲間は頭を振った。
「超イケメンなのに頭までいいなんて…すごい人もいるもんだね~」
「は…ははは…そうだね……」

キョーコはそそくさとその場を離れると仕事に戻る。
バイト仲間が通うのは、ここから近いアカトキ大だ。尚も通うその大学に比べると、キョーコや蓮が在学するL大はかなり偏差値が高い。

敦賀さんの隣にいて釣り合うにはーなんて、おかしなことを考えたりもしたけど…
そうよね、やっぱり身の程知らずにも限界があるというか。
大体、敦賀さんは先輩としてすごく親身になってくれてるんだもん、それだけでもすごいことよね。

キョーコの頭の中に、ふと幼馴染の男の顔がよぎった。

そう…考えなくちゃいけない大切なことがたくさんあるのよ、キョーコ。


けれどもそれ以前に今は仕事中だと、キョーコは「いらっしゃいませ!」と一際元気な声を出しながらモヤモヤとしたものを頭から振り払ったのだった。


そして数日後、土曜日の午前中。
再びバイト中のキョーコはレジカウンターでほんの少しこわばった笑みを浮かべることとなった。
「いらっしゃいませ!」

お辞儀をしながらキョーコは平静を保つために大きく息を吸って吐く。
カウンターのメニューに目を落とすのは長身の超イケメン大学生で、つい数日前にここに立ち寄ったばかりだ。
「コーヒーMサイズを」
「はい、コーヒーMサイズですね」

レジを打ち、キョーコは蓮の顔を見上げた。
「今日はコーヒーだけでよろしいんですか?」
「うん。お腹は空いてないんだけど、コーヒーが思ったより美味しかったから」
蓮はにこりとキョーコに微笑みかけた。その微笑みはなぜかいつもより眩しくなぜか落ち着かない気分にさせられ、キョーコは目を逸らしそうになった。

ダメダメ、お客様なんだから…!

ぐっと腹に力を入れて持ちこたえると、キョーコは必死に仕事モードを保つ。
「ありがとうございます!そうなんです、今年の春からコーヒーには力を入れてるんです」
営業スマイルを保ってみたが、蓮から感じるプレッシャーはゆるむ事がない。

なんとか会計を済ませてコーヒーを渡し、その後姿を見送ったキョーコは虚脱感に襲われて思わずカウンターに片肘をついた。
「何々っ?今の人、ちょーーーイケメンじゃない?モデルかな、足なっがーー!」
小声ではしゃぐ他のバイトの興奮もどこか別世界のもののように感じる。

た、たまたまよ、たまたま。だってほら、家近くだって言ってたし。

当たり前だと思いつつも、なぜかドキドキする自分の心臓に、キョーコはかなり動揺していた。


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