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ほほえみの先に (13)


た、たいへんに…ごぶさたを…
とりあえず続きでございます。





優雅に歩いていた蓮はふと足を止めた。
かさかさと落ち葉が足元にまとわりつき、しばらくそれを眺めた蓮は大きくため息をつく。

俺…図書館に向かってたよな?

図書館への曲がり角はとうに通り過ぎている。冷静でいるつもりでいて、実はどこか動揺していたのだろうか、認めたくはないが。
蓮は180度方向を変えるとゆっくりと歩き出した。


そうだ、俺が気にすることじゃない。
首を突っ込むべきことでもない。

そう思いながらも、今の男はうちの大学の学生だろうかなどと余計な考えが頭の片隅に残り、いらいらとそれを追い払いにかかる。
ふと顔を上げると、こちらに向かっている女子学生とばちりと目が合い、蓮は思わず足を止めてしまった。向こうも同じような心境だったのだろうかびくりと肩を震わせて足を止め、そうして図らずも2人は真正面から向かい合うことになった。


「す、すみませんっ!あの…お、お見苦しいところを」
「いや、何も謝ることなんてないよ」
口を開いたのはキョーコが先で、おどおどと謝る姿が蓮のイラつきを加速させる。

視線をさまよわせるキョーコに、蓮の嗜虐心が刺激された。
「今のが一緒に住んでるって相手?」
「そ、そうです…いやっ、"住んでた"、です」
「どういうこと?」

キョーコは両手でぎゅうと肩からかけたトートバッグの持ち手を握り、ごくりとつばを飲み込んだ。
「私部屋を…出たんです」
蓮は驚きつつも、キョーコのプライベートに首を突っ込んでしまったことにはっと気がついた。
これ以上のことを聞くのは先輩としてはマナー違反だ。そうは思うものの心配なことだけはクリアにしておきたい。
「そうなのか……住む場所の確保は大丈夫?…家賃も…」
キョーコはぱっと明るい表情を作って顔を上げるとこくこくと頷いた。
「はい!バイト先のお店に居候させていただいています!女将さんに甘えさせていただいて申し訳なかったんですけど、すごく助かっちゃって」
蓮は表情を緩めてふっと息を吐く。
「そうか、それならよかった。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「…いえっ。とんでもないです、あの…」
キョーコはカバンを肩にかけなおして蓮の顔を正面から見つめた。

「気にかけていただいて、ありがとうございます」
深々と下げた頭をしばらく経ってから上げたキョーコが見せた笑顔は、ぱっと花が咲いたようだった。


早足で歩いていた蓮はぴたりと立ち止まった。
先ほどは図書館への角を通り過ぎてしまったが、引き返してキョーコと会い、その後はちゃんと角を曲がった。ところが考え事をしていたせいか、既に図書館の入り口を10mばかり行き過ぎてしまっている。


実際、気をとられすぎてるんだ。

認めざるを得ない。
社が煽るから意識の上に上ってしまうのかと思ったが、それだけが理由ではなかった。
中途半端に状況を知ってしまっているだけに尚更、キョーコの現状が気になってしまう。だがキョーコとの関係性ではプライベート、特に他の男性とのあれこれを聞き出すなど、できはしない。

部屋を出たと言っていたけど…

同棲はどうやら解消されたらしい。
だがそれだけの情報からは交際がどうなっているのか分からないし、"部屋を出た"という表現からは、相手の合意があったのかどうかも定かではない。
大体、相手の男は今日ここを訪れていたのだ。おそらくキョーコが部屋から出たことに対してなんらかのアクションをとったということだろう。それはつまり相手は納得してないと言うことで…

芋づる式に思考が勝手に辿られてしまい、蓮は心の中でため息を吐き出した。
表から見れば蓮はしれっとした無表情で既に図書館のいつもの書棚へと足を進めている。悩んでいるとか考え込んでいるとか、そんな素振りは微塵も感じられない。
蓮は階段を踏みしめるように上がる。そして2階にたどり着くと同時に気持ちの整理を終えていた。

ひとつ、分かった事がある。
自分は確実に、キョーコの顔を見ると普段は感じることのない特別な感情、心の底から突き動かされるような衝動を覚える。
そして今日、屈託のないキョーコの笑顔を見て反射的に感じてしまったのだ。

この子はこの笑顔を、いつもあの男に向けているんだろうか。
できるならこの明るい笑顔の向けられる先には自分が居たい。

経済学の書棚にたどり着くと、蓮の視線は目的の論文集を求めて棚を追っていく。

こういう感情を、「恋」と言うのだろうか。
残念なことにその答えはこの図書館内のどんな研究や論文からも導くことはできない。
もし同じような状況に置かれた人物がいたとしても、同じ感情を抱くとも限らない。いや、同じ感情を抱いたとしてもそれが何であるかという認識は、きっと個人によって違うはずだ。

…そんなに理論的に考えることでもない…んだな。多分。

ふ、と蓮の表情が緩んだ。
通りかかった女子学生がその横顔を目にして頬を赤らめ通り過ぎていく。
しかしすぐに蓮の表情は無に戻る。

問題は、自分の気持ちを確認したあと、どう行動するのかだった。


「いらっしゃいませ」
「ありがとうございましたー!」
「お待たせいたしました」
店の中は常に元気な声が飛び交っている。
店員の声は大きいが、それ以上にわいわいと話し込む客の声が騒がしい。
学生が主な客となっているこの店では、その賑やかさを気にするものはほとんどいないようだ。少数派のネクタイを締めた人々も特に周りを気にすることもなくスマホを眺めたりPCを開いたりしている。

キョーコはこの日、昼過ぎからバイトのシフトに入っていた。
1年生のキョーコは履修する授業が多いためあまりシフトに入れないのだが、なるべくまとまった時間が取れるように工夫しているのだ。
「内田さん、交代入ります」
「あーもうそんな時間?はーい、じゃあお願いします」
「お疲れ様でした」
ずっとレジに立っていた店員は時計を見上げ、キョーコと交代した。キョーコはレジに自分のコードを打ち込むとかぶったサンバイザーを少し直して息を吸い、レジへと近づいてくる客に頭を下げた。
「いらっしゃいませ!」

頭を上げたキョーコは息をのんだ。
目の前に立っているのは、穏やかな笑みを浮かべた長身の先輩だった。


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コメントコメント


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蓮さん、アプローチ開始かな?

こんばんは。
更新待ってました。

キョーコへの想いを自覚した蓮さんは、これからどのようにアプローチしていくのでしょうか?

二人が甘い雰囲気になるのを待ってます。

harunatsu7711 | URL | 2017/03/16 (Thu) 19:28 [編集]


Re: 蓮さん、アプローチ開始かな?

> harunatsu7711様

毎度毎度お待たせしております。
自覚した蓮さん、けどなかなかやっぱり直接的な行動には出ないですよね。
大胆だけど基本的には慎重な蓮さん、じっくりいくんでしょうか…

ぞうはな | URL | 2017/03/24 (Fri) 21:13 [編集]