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ほほえみの先に (7)


こんにちはー。ぞうはなです。

週末ですが、なんとなく時間が取れたので更新です。
なかなか、というか一向に甘くならない…





冬に近づいたある日の昼休み、大きく窓が取られた明るい学食はたくさんの学生で賑わっていた。
テーブルはほぼ満員で、長テーブルの一角には女性グループが陣取って昼食を取っている。グループの中にいたキョーコは、歩いてくる人物に気がつくと箸を置いて勢いよく立ち上がり、頭を下げた。
「こんにちは!」

「こんにちは」
「こんにちは~~最上さん」
立ち上がったキョーコに気づいた2人の学生は笑顔で挨拶を返す。片方は蓮、そして隣に並ぶのは同じ4年生の百瀬逸美だ。逸美はキョーコに笑顔を向けた。
「あー、立たなくていいよーー」
「す、すみません…」

何事もなく挨拶のみで通りがかった2人は去っていき、キョーコはその後姿を見送ると静かに腰を下ろす。
途端にキョーコの周辺は熱気を帯びて盛り上がった。
「今のっ!今のって、敦賀さんだよね!?」
「キョーコちゃん知り合いなの?なんで??」
「なんだかやたらと目立つ大きい人ね…」

キョーコと一緒に昼食を取っていた同じ学科の友加、穂奈美、千織が一斉にキョーコに向かって口を開く。声をひそめてはいるもののその圧力は強い。キョーコは気圧されるように返事をした。
「そ、そう、敦賀さんだけど…同じゼミの先輩で……」
「ゼミの4年と交流あるの?」
「え?うん、輪講の世話役を4年生がやってくれてるの」
「そうか…キョーコちゃん、宝田ゼミだったのね…」
Oh…と額に手を当てて天を仰ぐ友加のオーバーリアクションに、キョーコは戸惑って言葉を返せない。

「この子も第一志望宝田ゼミだったのよ」
隣に座った穂奈美が呆れたようにキョーコに説明する。
「あれ?そうだったっけ?でも確か…」
「敦賀さんが所属してるって噂を聞いて直前で変えたんだって。まあそんな人が多くて倍率膨れ上がったみたいだけどね」
「……知らなかった…」
自分が届けを出しに行った時点で倍率は2倍程度だったはずだ。一体どれだけの人数が志望したのだろうか。そして自分はその競争を勝ち抜いてゼミに所属したのだと思うと驚きの気持ちが湧き上がる。

なんで私が入れたんだろう?

宝田教授との面接ではそれほど大したことは言えなかった気がするのだが。
キョーコの疑問を断ち切るように、友加が再び前に身を乗り出してきた。
「今隣にいた人って誰?」
「え…同じゼミの4年生の百瀬さん」
「敦賀さんと付き合ってるとか、そんなことないよね?」
えええ、とキョーコは目を丸くしたが、友加は真剣だ。キョーコは困った顔でうーんと腕を組んだ。
「ごめんなさい、知らないんだけど…でもいつも一緒にいるとか、そんなことはないかな」
「じゃあ、大丈夫か」

少しほっとした様子の友加に、穂奈美が呆れたような声を出す。
「何が"大丈夫"なのよ。今の人と付き合ってなくたって、あんまり関係なくない?」
「分かってるけど、自分が付き合えるかどうかとは別問題なの!誰かのものになるのが嫌なのよ!!」
どこかのアイドルのファンみたいね、と千織はつぶやくが、その言葉は幸いエキサイトしている友加には届かなかったようだ。
友加は穂奈美に食って掛かったそのままの勢いで、くるりとキョーコの方に顔を向けた。
「どう?敦賀さんって。間近で見たらうっとりしちゃわない?」

あーーー、とキョーコは視線を上に上げる。
「確かに最初見たときはビックリしたけど……その後指導してもらってる間はそれどころじゃなかったかも」
「指導?指導って何まさか一対一とか…!?」と騒ぐ友加は穂奈美に冷たく制され、それに変わって千織が冷静に尋ねる。
「それどころじゃないってどういうこと?」
「うん」
キョーコは箸を置いてため息をついた。
「びしびしと指摘されるから、内容の方に必死で、そんな風に考えてる暇がないって言うか…」

へええ、と一同は声をそろえた。
「いつも微笑んでる印象があるから、優しいのかと思ってた」
穂奈美が意外そうに言うと、友加は少しだけ眉間にしわを寄せる。
「サークルでは試合のときは厳しいって聞いたけど…考えてみたら私も、どういう人なのかあまり知らないわ」

友加はがしり、とキョーコの手を握る。
「ど、どうした…」
「ねえキョーコちゃん!敦賀さんってどんな感じ?びしびしってどういう感じ?教えて!!!」
「は…はひ!」

キョーコが友加から解放されたときには、呆れた千織と穂奈美の姿はすでに見えなくなっていた。
午後の講義が始まる時間が迫り、キョーコは違う講義を受講している友加と別れて教室へと急ぐ。

確かに私も…どういう人なのかなんて考えてもみなかったな。

ゼミの説明会で見かけたとき、自分は純粋に"外から見て蓮と釣り合うには"と、見た目のことばかり考えていた。


考えてみれば間抜けよね。
見た目だけ整えたって釣り合う訳ないのよ。

キョーコはゼミでの関わりで知ってしまった。蓮は見た目だけの男ではない。
あれだけちやほやされて周りに女性が多い男なのだ、尚の何倍も自信を持っていておかしくない。そう思っていたのに、それはいい意味で打ち砕かれてしまってキョーコは自分の浅はかさを反省していた。

驕ったところは見えないし、学問に対しては非常に真摯だ。
そして指導についても指摘は頷けることばかりだし、教え方も上手くてするりと飲み込める。

その上いつも紳士の微笑みだし、面倒見はいいし、ルックスはあの通りだし…やだな、悪いところ見つからないじゃない。

蓮のことを知れば知っただけ、隣に並ぶなんて恐れ多すぎる事が分かってしまう。
だけど蓮はこんなにぺらぺらの自分を決してバカにしないのだ。
頑張りはきちんと認めてくれるし、更にステップアップするためのヒントもくれる。けれど決して甘やかさず、不備があればずばりと指摘されてしまう。

頑張ろうって気になるのよね。
それに…

蓮に「呆れられたくない」、「見捨てられたくない」と思った。
輪講の発表がうまくいかなかったと肩を落としたあの時。
そんな気持ちを抱いたのは、古くは母親、そして尚と、尚の両親に対してのみだ。なぜ発表の後あれほど恐怖心に襲われたのか分からなかったのだが、日にちが経ってあれこれ考え抜いた今なら分かる。

最初は見た目だけで…判断してたのよね、私。
けど敦賀さんって実は一番すごいのはその見た目じゃなくて、学びに対する姿勢とか、考えの深さとか広さなのよ。
だから私、敦賀さんに「ダメな奴だ」って失望されたくないのよね、きっと…

蓮の並ぶことは無理でも、尊敬できるその人についていける後輩でありたい。
いつかはもう少し対等な立場で学問的な話をすることができるかもしれないから。


なんて。考えてみたらあと半年もしないで敦賀さん、卒業じゃない。

そう気がついてみれば、いつも世話役をしてくれる蓮も光も、そして逸美も、今は自分の卒論を書くのが忙しいはずだ。それなのに宝田ゼミに所属する4年生は3人とも、忙しさを表に出さず、嫌がりもせず、親切に1年生の面倒を見てくれている。
迷惑をかけるわけにはいかない。幸い全員が1回ずつは輪講での発表を経験し、要領はなんとなくわかってきたのだ。教わったことをフル活用してなるべく自分の力で頑張ろう。

うん、忙しいけど充実してるって感じよね!
よし、頑張らなくちゃ。
そうよ、私は敦賀さんに認められるようになるんだから。卒業するまでに、それを目指すのよ!

キョーコの目標はだいぶそのベクトルを変えてはいたがより具体的になっている。
めらめらと燃えたキョーコはとりあえず、その日の午後の講義を普段より集中して聞いたのだった。



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