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ほほえみの先に (1)


たいっへんにご無沙汰しております、ぞうはなです。

更新やめたのか?と思われた方もいらっしゃったかもしれませんが…ようやく戻ってまいりました。
ぞうはな、普段は昼休みなぞをストーリー作りに使ってるんですけど…そんな暇など取れない状況でした。

さて言い訳は置いておいて、やっとこ新しい話のスタートです。
3周年にいただきましたリクエスト、お話を考えていたら2つのリクエストが1つの話にはまったため、今回のお話はゆうこ様、くーま様のリクエスト合体版でお送りしたいと思います。

ゆうこ様のリクエスト概要は「大学生の蓮とキョーコ」
くーま様のリクエスト概要は「尚とキョーコが付き合っていて蓮が横恋慕」

さて、無事にリクエストを満たす話となるのか…それは誰も知らない……

ではでは、前振り長くなりましたが、はじめまーす。




にぎやかな街中にある大学のキャンパスは門を一歩入ると意外なほど緑が深く、広い道の両側に建つ建物には歴史を感じさせる重厚なものと未来を先取りするような進歩的なものが入り混じり、独特な空気を作り出していた。
一斉に登校し下校するような小学校や中学校とは違い、朝から夕方まで構内は常に賑やかで、多くの学生達がバラバラの方向へと行き交っていく。

その中に、長い黒髪をひとつに束ね、トートバッグを肩にかけた女性が一人、門に向かって歩いていた。
女性はまだ若く、顔はやや幼く化粧っ気もないため高校生でも十分通用しそうな外見である。取り立てた特徴もなく服装も地味で人目を引く訳ではないが、手帳を広げてぶつぶつと呟きながら歩いていたため、すぐ横をすれ違う何人かはギョッとしたように振り返っていく。

「やっぱり早朝しかないわよね…講義を減らしても本末転倒だし、必修科目は今年のうちに単位を取っちゃいたいし…」

悩んでいるのは最上キョーコという女性だった。商学部に通う1年生で、大学に通うために関西から東京に出てきている。
周りの学生に見事に埋没してしまう地味ななりは地方から進学で東京にやってくるその他の学生と同じだが、入学して半年が経っても一向に変化がないのは逆に珍しいくらいだ。
本人は周りを気にすることもなく、ぱたんと手帳を閉じてトートバッグにしまうと腕時計をちらりと見て歩調を上げた。

キョーコが駅に着いた頃、トートバッグの中で携帯電話がぶるぶると震えてメール着信を告げた。
「あ、ショーちゃんかな?」
キョーコの表情が明るくなり、いそいそと携帯を取り出して開くが、すぐにその表情は落胆へと変わった。

『飯くってくる。』

たった一行のメールが、キョーコの気分を簡単に上下左右に揺さぶる。
ここのところ揺さぶられる方向が下方向に集中していることにキョーコは思い当たったが、ぶるぶると首を思い切り振ってその考えを頭から振り払った。

「しょうがないのよ、だってほら、ショーちゃん大学に入って忙しいんだし!人気があるからサークルの後いっぱい誘われるんだろうし、そうよ、どこに行っても人気だなんてさすがショーちゃんじゃない」

キョーコの思考は非常にポジティブにできているようだ。
すぐに ふふふ、と嬉しそうに恥ずかしそうに微笑むと、キョーコは軽い足取りで改札を抜けて人ごみの中へとまぎれていった。


その日キョーコが自分の住む部屋へとたどり着いたのは、とっぷりと夜が更けてからのことだった。
「日が暮れるの、早くなってきたかな」
キョーコはそんな風に考えるが、さすがに22時を過ぎればどんなに日が長い時期でも空は真っ暗だ。

キョーコの体にはかなり疲労が蓄積されていた。
帰ったらとりあえず風呂に入って寝てしまおうか、そんな風に思うが、いやいや、とすぐに思い直す。

明日の朝食の下ごしらえだってまだだし、弁当のおかずもある程度作っておきたい。
アイロンをかける服が2,3枚たまっていたような気もする。


「ふーー」
大きく息をついたキョーコだったが、玄関に入ってすぐに表情が明るくなった。
玄関に無造作に脱ぎ捨てられた黒いブーツが、同居人の帰宅を物語っている。

「おかえりショーちゃん!早かったね」
リビングに入るなり大きな声を出したキョーコに、ソファに座ってテレビを眺めていた同居人がうんざりした表情で振り向いた。
「あーー…なんかつまんねーから帰ったんだよ。なんか食うもんねえの?」
「えっと…」
「冷蔵庫開けたってろくなもん入ってねえしさ」
「あ、ごめん、何か作ろうか」
「柿ピーでいい。どこにあんの?」
「すぐ持ってくるね」

笑顔のキョーコに構わず、男は無言でまたテレビの方に顔を向ける。
けれどキョーコはにこにこと嬉しそうな表情でキッチンへと向かった。

キッチンに入る際にちらりと後ろを振り返り、テレビを眺めている男の横顔を見る。うっとりと見とれてから、キョーコは男の要求を満たすべく慌ててキッチンに入った。


キョーコは子供のころから一緒に育ってきた幼馴染とともに上京していた。
幼馴染は 不破松太郎 という親のつけた名前を極度に嫌い、今は勝手に不破尚と名乗っている。
キョーコと尚の通う大学は別のところだが、生活能力のない尚を心配した尚の両親が、「私が一緒に暮らします!」と宣言したキョーコに託す形で、2人は同じ部屋に同居している。


ショーちゃんの大学の人たちもびっくりするんだろうな…私が一緒に住んでるだなんて。

尚は整った見た目と俺様な性格で小さいころから目立っていて、地元では女子に非常に人気のある男子だった。
キョーコも例外ではなく、キョーコの成長は尚への恋心と常に一緒だったのだ。幼馴染というその特殊な立場が今の"特別"な関係へと続いていることをキョーコは常に感謝していた。たとえそれが、育児をほぼ放棄して仕事に打ち込んできたキョーコの母親が尚の親にキョーコをあずけたことが原因なのだとしても、その境遇を笑顔で受け入れられるほどの気力をキョーコに与えていた。

2人の関係は「同棲」ではなく「同居」なのだと、尚もキョーコもそこについては合意していた。
だが上京に当たり2人は付き合いを始めていて、つまりキョーコは尚の「彼女」の立場にいる。
とはいえ最近、キョーコにとっての「付き合う」と、尚にとってのそれはだいぶ定義に違いがあるのではないかと、そんなことをキョーコは考えなくもない。

「ショーちゃんは後期の授業もう決めたの?」
小さいトレイに缶ビールとグラス、柿ピーの入った小皿を乗せたキョーコがリビングに入りながら尚に尋ねた。
「…あー、まーな」
「私ちょっとゼミを悩んでて」
「ふーん」
「ショーちゃんはゼミある?」
「いや」
尚はテレビに視線を向けたまま短く答えるとビールに口をつけ、そこで会話は終わる。

テレビの邪魔しちゃ悪いか…

キョーコはそっとその場を離れて翌日の準備に取り掛かった。


数日後の午後、キョーコは大学そばの本屋にいた。
普段あまり読まない女性誌のコーナーで平積みされた雑誌に視線を飛ばし、お目当てのタイトルを見つけると一番上の一冊を手に取る。

「これだわ」

"街で見かけたアカヌケ男子"
そんな見出しが表紙の人気モデルの右下あたりにおどっている。

キョーコはぺらぺらと雑誌をめくると目的のページにたどり着いた。
それはほんの数ページの紙面を割いたコーナーだったが、女性誌の中では珍しく男性の写真で占められている。街で編集者が見つけたオシャレな男子の写真を撮り、ごく簡単なインタビューとともに掲載しているものだ。

「いた!」
左側のページの一番大きな写真に、いつもの幼馴染の少し怒ったような顔が見える。さすがに本名は載っておらずイニシャルだけだが、顔がばっちりと写っているため知り合いが見たら一目瞭然だ。
尚にしか着こなせないといつもキョーコが絶賛するアンシンメトリーなジャケットを少し着崩したそのスタイルには、センスを絶賛する短いコメントが添えられていた。

「やっぱりショーちゃん、圧倒的な存在感と格好良さよね」
キョーコは尚の写真の周りにある一回り小さな他の男性たちの写真を見ながら「ふふん」と鼻を高くする。

しかし、右側のページに目をやったキョーコは1人の男性の写真に目を止めた。

尚よりも少し大きい写真。
そこに写った男性はサングラスをかけていてその顔ははっきりと見えないはずだが、すっと伸びた鼻筋と形の良い唇でそれだけでもかなりの美形であることが見て取れる。
それにさりげなく壁に寄り掛かり斜めに伸びる脚は、写真で見ても尋常ではないほど長いのが分かる。完璧なプロポーションで、むしろファッションの方に目が行きにくい。それほどのインパクトを与える写真だった。

「身長190㎝!」と書かれたコメントから、キョーコは「俺は180.2㎝だ!」と鼻息の荒い尚のことを思い出した。

んん、でも、ショーちゃんの方がオシャレよね。

シンプルなものをさりげなく着こなす方が格好いいかもしれない、などとちらりと思ってしまったキョーコはぱたんと雑誌を閉じると、「こっちは見る用で、こっちは保存用よね」と同じ雑誌を2冊取り、レジへと向かったのだった。


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