SkipSkip Box

ねじれの位置【リクエスト】(後編)


こんばんはー。亀なぞうはなです。

なお様のリクエストのお話後編でございますーー。
なお様、リクエストありがとうございました!





「これはまた、美味しそうですね」
「坊のお料理コーナーは視聴者の皆さんよりゲストの方に人気があります!」
「そうなんですか?」
「視聴者からは自分は食べられないから残念、という恨み節の方が多いですね」
どっと観客が沸き、その後「食べた~~い」「いいな~~」という大きな声があちこちから聞こえる。

白いテーブルクロスがかけられた小さい丸テーブルの前には蓮が1人で座り、白い大きな皿の上に置かれた同じく白いボウルの中は様々な色の食材で彩られている。
「えーっと、今日のメニューは『1日に必要な野菜の半分が取れるロコモコ丼』です!長いな、坊」
給仕の格好で立つ光がメニューを読み上げて後ろに控える坊に尋ね、坊はコック帽を揺らしながら大きく頷いた。

「毎日忙しい敦賀さんが手軽に栄養をとれるようにってことらしいですわ。ほんでも坊、これ量少なくないか?敦賀さんでかいしガッツリいきそうやけど」
雄生の問いに坊が答える前に蓮が笑う。
「いや、これくらいでちょうどいいですよ。いただいてよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」

ぴかぴかのスプーンを手に取った蓮は実際に坊が作ったと言う料理を口に運んだ。
「…あ、ほんとだ」
「なにがですか?」
「これはゲストに人気になりますね。すごく美味しいです」
「お、やったな坊」
坊は力強くガッツポーズをする。
「敦賀さんは普段の食生活ってどんな感じですか?」
蓮が食べ始めるのを待って、雄生と慎一も自分達の前に用意された料理に手をつける。うんうんと頷いてがっつく2人を横目で見ながら、蓮は少し考え込んだ。
「ロケ弁が多いですね、やっぱり。移動中にコンビニおにぎりだったり、さほど充実してません」
「自炊は?」
「あまりしませんね。食事の時間に自宅にいる事が少ないですし」
「やっぱりそうなっちゃいますねえ」

ぷきゅぷきゅと音を立てて、スプーンが止まっている蓮の横に坊が立った。
「すごく美味しいよ、ありがとう」
坊を見上げて蓮は笑顔を作るが、坊はくいくいと皿を指し示す。
「なに?」
首をかしげた蓮に、坊は今度は右手を何回も口に運んでみせた。
「ああ、食べろって言ってますよ、坊は。スプーン止まってるからじゃないですか」
「ああ」
「坊は完食してもらえるのがうれしいんです。な、坊」
こくこくと鶏が頷くと頭の上に乗っかったコック帽がふわふわと揺れる。
ジェスチャーしかしない鶏とは、自分よりブリッジロックの3人の方がしっかり意思の疎通ができていて、蓮はまたもや心の奥底で裏切られたような気持ちを感じた。


さっきから…何を考えてるんだ?俺は…
『裏切られた』だなんて、この鶏とそんなに親しいわけでもないし、彼らはずっとこの番組を一緒にやってるんだ、以心伝心で当り前じゃないか。


「ほら、またスプーンが止まって坊がそわそわしてますよ」
「はは、味わってるんだよ、おいしいから心配しないで」
蓮は笑ってスプーンを口に運んだ。
目の前の料理はハンバーグと目玉焼きがどどんと乗って、いかにもがっつりな印象を受けるが口に運べば思ったよりもあっさりで食べやすい。それにハンバーグの中にも周りにも色々な野菜が使われていて、見た目も奇麗だし味も深みがあるし何より体によさそうだ。

一体、どんな素性の人間があの着ぐるみに入っているんだろう?

いつになく興味をそそられながら、それでも蓮は鶏の喜ぶリアクションが見たくて皿の中の料理を平らげた。


「はい、おっけーですー!」
「おつかれさまでしたー」
スタッフの大声でその日の撮影は終了した。

「敦賀さんありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
エンディングを取り終えたそのままの並びでブリッジロックの3人は蓮に頭を下げ、挨拶をかわした。
スタジオ内は一斉に片付けが始まり、観客たちも促されながら蓮を名残惜しそうに振り返りつつ帰り支度をする。
蓮はスタッフにマイクを外してもらいながらスタジオ内を見まわした。スタジオのドアから去っていく白い物体が目に入る。撮影が終わるなり逃げるように去るその姿を、蓮は思わず追っていた。


「あの」
廊下に出てほっと肩の力を抜いた鶏は、後ろからかけられた声にびくりと飛び上がった。
慌てて振り向けば、少し困ったような顔をした蓮がゆっくりと近づいてきていて、撤収中のスタッフがそれを不思議そうな顔で見ながら通り過ぎていく。
「君は、あの時の鶏君だよね」
少し躊躇ってからかけられた言葉に、鶏は数秒固まった後こくこくと頷いた。

坊のリアクションを見て、蓮は表情を緩める。
「よかった。もしかしたら違う人かもしれないと思って」
坊はぺこぺこと頭を下げた。そして小さな声でぽつりと言う。
「ごめんね、坊はしゃべらないマスコットだから」
「うん、それは撮影で分かってた。いいんだ、俺がお礼を言いたかっただけだから」
「お礼?」

何がお礼を言われるようなことをしただろうか。
したことと言えば、面と向かって「大嫌い」と言い放ったくらいだ。

「君に聞いてもらってヒントももらって、自分の気持ちに整理がついて…結果として、悩んでいた役作りもうまくいったんだ」
「あ……そ、それはよかった!…いやでもボクは何も」
ごにょごにょと言って下を向く坊に、蓮はゆっくりと首を横に振った。
「そんなことはないよ。本当に君には助けてもらった。…俺も実は、まさか鶏に助けられるとは思ってもみなかったけど」

がばっと坊が顔を上げると、くすりと笑う蓮と目が合った。
「鶏のほうが、『てんてこ舞い』の意味を知ってるくらいだよ」
「そうだな、鶏を馬鹿にしちゃいけないな」

蓮には鶏が笑ったように見えた。
「とにかく一言、お礼が言いたかったんだ。君に会えてよかった。それに、君が番組ですごく人気があるって理由もよく分かった。本当に鶏をばかにしちゃいけないな」
「…それを言いにわざわざ?」
「このチャンスを逃したら、次いつ会えるか分からなかったから」
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。じゃあ、お互い頑張ろう」
蓮の後ろから不思議そうな表情の社がやってきて、蓮はスタジオの方に戻っていった。
坊は軽く右の翼を上げて挨拶をすると、自分の控室へと足音を響かせながら歩く。


「蓮なんだか嬉しそうだな。あの鶏って前にお前が一緒にいた…?」
「ああ、そうです。覚えてましたか」
「だって楽屋にまで来たよな」
「そうですね。世話焼きの鶏みたいですよ」

なんだか蓮、嬉しそうだな。

社は横に並んで歩く蓮の顔をちらりと見ながら思った。


そうだな、中身が男とか女とか、詮索したってしょうがない。
"彼"は立派に番組でその役目を果たしているし、俺の恩人であることは確かだな。
この世界にいる限りどこかでまた会うだろうしそれに…

蓮はちらりと廊下を振り返った。そこにはもう、ずんぐりとしたシルエットはない。

あれほどの才覚を持ってるんだ。『中身』との共演だって、あるかもしれない。
もし隣に立てば、きっと"彼"だってわかるだろう。

蓮はスタッフに笑顔であいさつしながら、次の仕事へと頭を切り替えていた。


そしてそのころ。
スタジオにほど近い控室のカーテンの裏側では、鶏が行き倒れていた。

なん…なのぉーー!
正体がばれるかもってそんなことばっかり考えてヒヤヒヤしていたキョーコのバカ!
やっぱり敦賀さんってあんなにすごいのに謙虚で素直で…やっぱりすごいお人じゃないのよー!!

でも…
どきどきしたけど、やっぱり敦賀さんと共演できるのって楽しい…
今はまだこんなだけど…いつかは鶏としてじゃなくて、女優 京子として、同じ位置に立ちたいな…。


そんなことを考えながらも、キョーコは緊張状態から解放された虚脱感で立てず行き倒れの状態のままで、着替えを手伝ってくれるスタッフを大いに驚かせたのだった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

ねじれてるような…

こんばんは。

決して交わらない位置、ねじれ。交わってるんですけどね、実は、でも当人たちは気づいてない、って感じを受けとりました。
坊キョーコと敦賀さんの座談会とかあったら、びっくりしますね。妄想して、むふふふ、となってしまいました。


最近、テレビで東出さんを見ると、敦賀さんって、こんな身長なのかなーと思っています。

更新楽しみにしてます

harunatsu7711 | URL | 2016/11/16 (Wed) 20:16 [編集]


Re: ねじれてるような…

> harunatsu7711様

お返事が大変に遅くなりまして申し訳ございません!

ねじれのタイトルの意図をばっちりと酌んでくださってありがとうございます。
実は交わってるけど本人たちは交わらない方向を向いちゃってる、というニュアンスでございました。

本当に敦賀さん、実際に見たら「でかっ」と声を出してしまうほどの大きさですよね。
私も以前職場で190㎝の同僚を見上げて「このくらいか…」と内心でにやりとしてしまいました。

ぞうはな | URL | 2016/11/29 (Tue) 20:10 [編集]