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ねじれの位置【リクエスト】(前編)


こんばんは!ぞうはなですーーー。
何の予告も無しにがっつり間が空いてしまってすみません…。

本日も3周年リクエスト!なお様にいただいたお題ですー。
内容は「蓮さんが坊の出ている番組にゲスト出演する」というものです。

前後編でお送りします!
先に断っておきますが、なにせ"坊"なので、ノンシュガーです。



「さあ、本日も始まりました、きまぐれブリッジロック!今日のゲストは大人気俳優、敦賀蓮さんですー!」

きゃーーー!という甲高い歓声がスタジオに響き渡り、それを一身に浴びた長身の俳優はいつもの微笑みをたたえたままゆっくりと司会であるブリッジロックに近づき中央に立つ。

「ようこそ、お越しくださいました!」
「さっすが、無茶苦茶な人気ですね」
「いえいえそんな」
頭を下げながらのオープニングトークをそつなくこなしつつ、蓮は首を動かさずにちらりと斜め後方を伺った。

なんか…今日は様子が変だな…?

蓮の視線の先にはずんぐりとしたフォルムの鶏の着ぐるみがいて、両方の翼をばふばふと合わせて拍手をしているように見える。そのくりくりとした眼差しは当然ながら、どこを見ているのか何を考えているのか分からなかった。


そのほんの10分前、最上キョーコは己の心臓がばくばくと高鳴るのを聞きながらテレビ局の廊下を歩いていた。
顔も見られない、声も出す必要がないのは本当にありがたいが、それを差し引いてもなお絶えず付きまとう不安感に潰されそうになる。

大丈夫、大丈夫よ。スタッフにもブリッジロックの三人にも強くお願いしてるんだし、ばれることはないはず。
もう今日は『坊』に徹して徹しまくれば何も問題はないはずなんだから!

前を歩くスタッフの合図にふと顔を上げれば、目指す扉はすぐ目の前だ。
キョーコはオーバーに頷くと胸に翼を当てて大きな動作で深呼吸をし、俳優 敦賀蓮の楽屋のドアにどすどすと鈍いノックの音を響かせた。

「はい」
ドアを開けて出てきたのは蓮のマネージャーである社で、一瞬驚いた顔になるがすぐに奥の蓮を呼ぶ。
「お迎えが来たぞ」
そして蓮は立ち上がり、社以上に驚いた表情で坊を見た。

『お迎えにあがりました』
坊の白い翼が器用に小さなホワイトボードを掲げて書かれた文字をカメラと蓮両方によく見えるようにする。
「ああ、ありがとう。なるほど、お迎えが来るというのは君のことか」
愛想よく笑った蓮に、坊はホワイトボードを下げるとまた何かを書き込んで見せた。
『スタジオまでご案内しますので、どうぞ』
「それではお願いするよ」
入口までやってきた蓮に、坊は膝をついて身をかがめると恭しく右の翼を差し出す。
「これって女性にするエスコートじゃないのかな」
坊はぷるぷると首を横に振ると差し出された蓮の手を貴重品を扱うように受け止め、そして完璧な動作でスタジオまでエスコートしたのだった。


カメラ回ってるから分からなくもないんだけど…なんかよそよそしいな。

蓮はちんまりと控えている坊を見ながらそんなことを思う。
自分のことを真正面から『嫌い』と言い放ち、ついうっかり漏らしてしまった本気の悩みにも真剣に答えてくれて、そしてそのおかげで自分は一歩を踏み出しここにいる。
彼には非常に世話になったと思ったが、"中身"がどこの誰なのか分からない上テレビ局で再会することもなかったので、この偶然に自分は感謝しているのだ。なのに坊は顔を合わせたその瞬間から自分のことは忘れたかのような素っ気なさで、丁重に扱われてはいるものの番組のゲストとしての扱いの域を出ない。蓮自身も無意識ではあるが、旧友に裏切られた、そんな気分にもなってしまう。

大体、あんなに普通にしゃべってたのに、この鶏がしゃべれない設定だなんてな。

トークスキルもありそうなのにもったいない、と蓮は思った。

こけこっこーーーー!

大きな鶏の鳴き声がスタジオに響き、司会の石橋光がにこやかにコーナーを進行する。
「さてここで、恒例のネタマゴ!坊~!」
音もなく光の横に立っていた坊がにゅうとカゴを差し出し、光は本気でびっくりした。
「わぁぁ!びっくりした、坊、いつの間に足音潜ませて…」
こくこくと頷く坊はカゴを光に渡すとえっへんと胸をそらす。

「坊、その足で音出さへんってどんな技やねん」
慎一に笑われ、坊はゆっくりと片足を踏み出してそっと体重移動した。

ぷ……きゅうううううう

大きな音を立て、会場はくすくす笑いに包まれる。
「できてへんやん」
慎一の冷たい突っ込みに あれ?としきりに首をかしげる坊を無視して光はカゴの中から卵を一つ取り出した。

「では、敦賀さんへの視聴者と会場からの質問に、どんどん答えていってもらいましょう!」
かまってかまって、と身振りでアピールする坊とそれをいなして番組を進行するブリッジロックのやり取りは呼吸もあっていて軽快だ。
蓮はブリッジロックから繰り出される質問に答えてトークを膨らませながら、坊の立ち振る舞いに感心していた。

なるほど、アシスタントのキャラが人気って話は聞いてたけど、これは確かに納得がいくな。
間の取り方も絶妙だし、控えるべきところは控えているし、演じる人間の頭の回転が速いってことか。

考えてみれば以前の自分とのやり取りでも会話は軽く進み、自分のことを嫌いだと言い放った相手にこれほど好印象を持つのが不思議なくらいだったが、改めてこうやって見てみれば頷ける。
蓮はにこにこと質問に答えながらもなぜかもこもこの鶏の着ぐるみのことばかりを深く考察していた。

「次の質問ー!これは会場からですね。『敦賀さんは今度のドラマで社交ダンスを踊るそうですね。予告を見ましたが、あれは本当に敦賀さんご本人ですか?ステップがすごくてプロとしか思えないのですが…もしできればここでちょっと踊っていただけませんか』」
質問が紹介されると会場内から拍手が起きる。
「敦賀さんと言えばドラマ内のアクションや楽器演奏を全部ご自分でやられると有名ですけど、今回のダンスも…?」
「そうですね、実際にやらせてもらっています」
「難しくなかったですか」
「もちろん猛特訓しましたよ、ドラマで踊る振りだけを集中的に」
「今できます?」
「ちょっとなら」
蓮が立ち上がり、スタジオ内から期待に満ちた歓声が上がる。

「えっと、じゃあ坊!お前パートナーな」
坊は飛び上がって驚いた。
「男同士で踊っても気持ち悪いから」
『え、ボク…』
すぐさま坊はホワイトボードで自分の性別をアピールするが、「鶏ならええやろ」と冷たくあしらわれ、躊躇しながら蓮の前に立った。

「大丈夫、俺がリードするから」
蓮の言葉にひゅうーーーという声が上がり、坊が照れてぶりっ子ポーズをとり、ついでにスタジオ内の笑いも取る。

坊の両手…いや両翼を取った蓮は向き合うとあることに気が付いた。

あれ…この鶏…実は結構背が低いのか?

トサカのせいか着ぐるみの身長自体は蓮に近いくらいだが、ダンスを踊る態勢になって組んでみるとわかる。坊の肩の位置は蓮よりかなり低いし、そう思って確認すれば坊の目--実際中の人はそこから外を見ているはず--も顔の下方にあって低めだ。

考えるうちにも音楽が流れ始め、蓮は坊に声をかけながらステップを踏み始めた。
はじめこそどたばたと足をもつれさせていた坊だったが、蓮の掛け声もありすぐに要領をつかむ。そのうち二人は空いたスペースを存分に使って流れるようなステップを踏み優雅に大きく動き始めた。

「おおー、さすが敦賀さん」
「つーか坊も頑張っとるな」
ブリッジロックの声に、坊は蓮のリードのもとくるくるとターンを決める。
蓮は「曲終わります」という、ADが持つ札に視線を走らせると坊を引き寄せてひょいと抱き上げた。

ジャ、ジャン。

曲のラストにきれいに合わせて坊が蓮の腕に横抱きに抱き上げられている。
坊は曲の最後に合わせて翼を広げ、二人(いや、一人と一羽か)のダンスはそこで終わった。

蓮がひょいと坊を下ろすと坊は恐縮したようにぺこぺこと蓮に頭を下げた。
「君もなかなかうまいね。ありがとう」
蓮はにこりと坊に笑いかけるとスタジオ中の拍手を受けながら自分の席へと戻る。

…軽かったな。
身長と言い重さと言い、あれは男じゃなくて女性…だよな…

もう一度ちらりと坊を見る。
この中身が男性だというならば、それはかなり小柄で細身ということになる。
以前話をしたときには最初から男だと思っていた。声は少し高かったが、口調も話の内容にも違和感を感じはしなかった。
だけど……


「すごいですね、やっぱり!華麗なステップでした」
「いや、パートナーがよかったからですね。驚いたな」
「坊はなんでもこなすんですよ」
「本当だね、ありがとう。楽しく踊れたよ」
光に笑顔で言われ、蓮は坊の方を振り返って改めてお礼の言葉を述べた。恭しく翼を広げ、片足を引いて上体を傾けて仰々しいお辞儀をした坊の表情は、当り前だがやっぱり全く読めなかった。


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