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はじまりのおはなし (5)


こんばんはー。ぞうはなです。
今回の話を書きながら、そういえば高速道路のセットを作ったって話題、聞いたことあるなあ。なんて思い出していました。

ではつづきー。





「なんか…意外だったな」
映画のロケもだいぶ終わりに差し掛かった頃、たまたまスタジオを出るのが一緒になったアランにニヤニヤ笑いながら言われ、クーは首をかしげた。
「なにが?」
「お前の性格って、今回の役みたいにクールで冷静なのかと思ってたからさ」
「あー……どうなんだろう…?けどなんでまた急に」
クーはなぜいきなりそんなことを言われるのか疑問に思いながら曖昧に言葉を返した。確かに日本で俳優活動をしている頃から「冷静」だとか「理論的」と言われることはあったが、性格自体はそこまでクールではないと自分は思っている。

「こんなに情熱的だとは知らなかったから驚いてんだよ」
「情熱的…かな」
「何言ってる、あんなに熱心にジュリを口説いといて」
「???」
クーはびっくりした顔をして、それを見たアランも呆れ顔になる。

「お前自覚なくやってんのかよ?あんなにべったりジュリのこと褒め称えといて何もないなんて言わないよな」
「いや…確かに俺はジュリのこと褒めたかもしれないけど別に口説いては」
「ええ~~?マジか?惚れてる女相手くらいだろ、あんなにストレートに褒めるのは。お前、それが違うって言うなら誤解されても文句言えないぜ」
「……あーーーー…そうか」
「何赤くなってんだよ、今更!」
アランが回し蹴りのようにクーを攻撃し、クーは無意識のうちに片足でそれをブロックする。クーは困ったような渋い表情でため息をついた。

「お前の言ってることは間違ってはいないし、誤解とかそんなんじゃないけど」
「じゃあなんなんだ、お前ジュリのこと好きなんじゃないのかよ」
にやにやと自分を覗き込んでくるアランに、クーは真剣な表情で聞き返す。
「お前はどうなんだ…アラン?ジュリのこと」
アランは大きく手を広げると首を振った。
「確かにジュリは美人でいい子だと思うよ!付き合えるならお願いしたいくらいだ。けど俺はダメだな」
「なんで?」

クーの問いに、アランは広げた両手を頭に当てる。
「アンジェラにばれたら殴り殺される…」
「アンジェラ…ああ、そういうことか」
クーは少し考えて大きく頷いた。
アランに直接話を聞いたことはないが、数年前から付き合っていると噂の女優がアンジェラだ。結婚はしていないものの、事実婚のような状態であると言われている。
「ここだけの話さ、家族が増えそうなんだよ」
「え…?ああ、それはおめでとう!」
「だからお前も、頑張れよ」

アランはクーの脇腹にがつんと肘を当てる。クーは痛みに顔をしかめてぼそりと答えた。
「頑張る…のかな」
「うじうじしてんなよ、変な奴だな」
アランはマネージャーに呼ばれてひょいと片手を上げると去っていった。


そりゃ…わかってるさ、俺だって自分がどう思ってるかくらい…

クーは少し前のショーのシーンの撮影以来、ジュリエラを見る目がすっかり変わってしまったことを自覚していた。
それまでだって常人離れしたジュリエラのルックスに感心し、外見を裏切る天然の内面に驚き、彼女のの存在を好意的に思っていたのは間違いない。けれど自分はこれからこの国でのし上がっていくのだから余計なことに心を乱されている訳にはいかないし、何よりジュリエラの気持ちが分からない。
そんな風にどこか自制していたはずだった。
だが、あれ以来自分の気持ちや態度にブレーキをかけるのが難しくなってきている。

だけどな…相手はすでにトップまで登りつめているスーパースターだ。
いくらでも相応しい相手はいるだろうし、俺みたいな知名度の低い男なんて相手にする暇もないだろう。

もちろん自分はいつまでもこのポジションに甘んじているつもりはない。
撮影中のこの映画が公開されればまた先の道が開ける自信もあるし、次の狙いも決めて動き始めている。
ふ、とため息をつくと昨日の撮影でジュリエラが向けてくれた笑顔が脳裏に浮かんでくる。

だけど彼女は誰にだってフレンドリーなんだよな。

そう、ジュリエラはスタッフにも共演者にも平等に親しげだ。
べったりと寄りかかることはしないが周りも彼女に気を許したくなる、そんな雰囲気を常にまとっている。
自分だけではない、スタッフも共演者も皆が少なからず彼女に魅了されているのだ。

けれどすっかりジュリエラの魅力にやられてしまった自覚が出てきてから、その笑顔を見ると賛辞が口から勝手に滑り出てしまう。口説いていると思われても仕方がない。
ジュリエラ自身はそれでも普段と変わらず接してくれるのだが、自分のことをどう思っているのか、こんなにジュリエラのことで悩んでばかりいて大丈夫なのか、クーはごちゃごちゃになった頭をぶるぶると振るとため息を吐き出してから歩き出した。


風が吹くと砂が巻き上がる荒野の一角。
あたりは荒涼とした大地なのにその一角だけはまるで町に迷い込んでしまったようなそんな印象を受ける。
クーとアランはヘルメットをかぶり、やや険しい顔でスタッフの説明に耳を傾けていた。

この日、映画の売りにもなる派手なカースタントシーンの撮影が行われていた。
だだっぴろい荒れ地の一部に大掛かりなセットを組み、そこはすっかり都会の街中のようだ。トラックやら車が大量に持ち込まれている。街角で新聞を売るワゴンまでもが並べられ、多くのエキストラとともに出番の時を待っている。

「…さっきリハで走った通り、対向車をかわす以外はまっすぐだ」
「俺がトラックをかわすタイミングは?」
「アランが先に突っ込んで、トラックがこう避ける…」
アランもクーも軽口を封印して真剣な表情でルートとタイミングを話し合っている。
2人はバイクで犯人とチェイスし、車線を逆走してタンクローリーをひっくり返し、爆風をかいくぐって走り続ける。そんな危険なシーンの撮影がこれから行われるのだ。


「バイザー下ろしたら誰だか分かんねえのにな。俺がやる意味あるのか?」
「なら今からでも変わってもらうか?」
「いや、まあ仕方ないな。こんなに足の長いスタントマンもいないだろ」

自分のたどるルートを頭に叩き込み、ようやく余裕が出たのかアランがクーに笑いかけた。アランもクーもスタントマン顔負けのライディングテクニックを持っている。スタントマンの出番はなかった。

「クー、お前のほうが後ろから来るんだ、巻き込まれないようにな」
「大丈夫だ。5秒なんて余裕過ぎるくらいだよ」
こぶしをぶつけ合い、2人はバイクにまたがった。エンジンがうなりを上げ、スタッフがタイミングをとるためにインカムをつけて散らばる。
そして、トラックのホーンを合図として多くの車は動き出した。


1台、2台…次が材木積んだトラックだろ。

クーの操るバイクはアランの背中を見ながら器用に対向車をかわしていく。最後のタンクローリーをかわせば終わりだ。
横から飛び出してきたタンクローリーがアランのバイクを避けようと大きくハンドルを切り、歩道に乗り上げそうになってまた逆に頭を振る。

いや、その角度はやばいんじゃないか?

アランのバイクが抜けた後、タンクローリーがブレーキを踏みながら大きく尻を振った。
あまりの方向転換のきつさとスピードに、タンクローリーの向こう側のタイヤが浮く。

クーの頭上に倒れ掛かるタンクローリーの影が落ちる。
クーのバイクをすれすれでかわすはずのタンクローリーは、今や完全にクーめがけて倒れこんできていた。

こいつ、倒れたら爆発するんだったよな。

発火は技術スタッフが担当しているはずだが、タンクローリーの最後部には爆発用の火薬が仕掛けられている。この勢いで横倒しになったらその衝撃、あるいは地面との摩擦で飛ぶ火花で勝手に着火する可能性が高い。

てことは…俺は止まっちゃいけないわけだな。


判断に迷う余裕は0コンマ一秒もなかった。
クーは真正面に頭を向けると右手のスロットルを絞っていく。
すべてがスローモーションのようだった。全身に加速によるGを感じながら転倒しないことだけを考えて先を見る。体に落ちる影はますます濃くなるが、「抜けられる」とクーは冷静に考えていた。

クーがスピードを上げながらタンクローリーの横をすり抜けた直後、大きな音を立ててタンクローリーは横倒しになった。

まだゆるめるな…!

一瞬、いや二瞬の間をおいて後ろから強烈な爆風がクーの体を打つ。
耳をつんざく爆音を聞きながらもクーのバイクは速度を落とさず、セットの向こう端で構えられたカメラをめがけるように進んでいった。
2回目の爆発でクーのバイクはぐらりとよれたが、「Oh!」と思わず声を漏らしたスタッフの横を走り抜け、カメラまで10mの位置に来ると後輪を滑らせて止まった。

先にバイクを止めていたアランが後ろを振り返り、右腕を上げて親指を立てる。
クーは大きく頷いて静止したが、数秒後、糸が切れたようにぐらりとその体から力が抜け、バイクとともにその場に崩れ落ちた。

「クー!」
「誰か、バイク起こせ!下敷きになってる」
「揺らすなよ、待機してる医者を呼べー!」
あたりは騒然となり、ヘルメットを脱いだアランが心配そうに駆けよる。
クーの体はぐったりと地面に横たわり、すぐに到着した救急車に運び込まれていった。


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コメントコメント


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続きが気になります

わかっていても、続きが気になります😅。だって、二人ともに天然だから、やっぱり彼の両親だけ、ありますよね。

いわりん | URL | 2016/10/24 (Mon) 02:54 [編集]


Re: 続きが気になります

> いわりん様

コメントありがとうございます!
何なんだか、特に天然に仕立てようと思ってもいないのに、自然と二人とも天然さんになってしまう…
でも蓮さんのご両親ですから、やはりそんな感じでもいいのかなあと思っております。
ジュリエラさん、原作ではどんなキャラになるんだろう、これからもっと出てくるのかなあと楽しみです。

ぞうはな | URL | 2016/10/24 (Mon) 23:20 [編集]