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はじまりのおはなし (3)

こんばんは!ぞうはなです。

ふむ、なんとなくぞうはなの中のクーはこんな感じになってきました。




重厚な時の重みを感じる艶をまとうマホガニーの柱と梁。
豪華ながら存在を主張しすぎないシャンデリア。
クーはゆったりと周囲を見渡すとこれまた重厚な造りの椅子に腰を下ろした。

今日のロケは本当の老舗ホテルで行われている。今から撮影が始まるのはジュリエラを警護するホテルのビュッフェで朝食をとる、ジュリエラとクーのシーンだ。

ジュリエラはビュッフェのワゴンのところに佇み、ヘアメイクのチェックを受けていた。白いTシャツとロングスカート。無地のシンプルな組み合わせだが、やはり今日もその存在感は際立っている。決して華美な服装ではないが、この重苦しささえ感じるようなインテリアにまったく負けていないのだ。
それに引き換えカジュアルな装いの自分はややちぐはぐだと思えるが、このシーンでは自分が場にそぐわないのが正解だ。クーはあえて崩した姿勢でテーブルに肘をついた。

監督の合図とともに撮影はスタートした。ジュリエラの会話シーンは動線以外はリハーサルがなく、ぶっつけ本番なので緊張感が違う。
気軽な雑談のシーンのため、クーは極力肩の力を抜いてスタンバイをした。

皿を山盛りにしたジュリエラがクーの向かいの席に着く。
「今日はジェットはどうしたの?」
「あいつ寝起きが悪くてね」
「昨日は起きてきたのに?」
「無理したんだろう、反動が今日来た」

言葉は軽く、だが朝の少し眠気が残るような温度の会話は心地よく進んでいく。しかしある程度進んだところで、ずっとジュリエラの手元を凝視していたクーが不思議そうな声を上げた。
「それは何をしてるんだ?」
「え?」
ジュリエラは一度クーの顔を見てから、自分の手元に改めて視線を落とす。
「何って…オープンサンドにしてるの」
「オープンサンド…ねえ」
「あら、なによ。もしかして嫌いなの?」
「俺は好き嫌いはない」
ジュリエラは少し気分を悪くしたようにクーをにらむが、皿の上のものを一つずつ指さしながら丁寧に解説をしていく。
「朝は炭水化物が重要なのよ。でもビタミンや繊維も取りたいから、全粒粉のパン。悪い?」
「いや、いいチョイスだ」
「たんぱく質も必要よ。スクランブルエッグだと油の取りすぎになるからポーチドエッグ、フレッシュな野菜はもちろん必須でしょう」

次々に説明される一つずつの食材にクーはいちいち頷いてジュリエラの選択を肯定していった。
「ほら、あなただって私のチョイスは正しいって言ってるじゃないの、何が問題なの?」
心底呆れた表情でジュリエラが肩をすくめて両腕を広げると、クーは考えるように瞬きを数回し、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
答えを待つジュリエラも無言でクーを見て、少しだけ身を乗り出す。

「ジュリ、確かに君のチョイスはパーフェクトだ。モデルとしての体のことを考えてると思う。いや、感心した」
「でしょう?」
「ただ、俺にはどうしても受け入れがたいことが1つだけある」
「…何?」
んん、と一つ咳払いをするとクーは言葉を継いだ。
「なんで全部乗せるんだ?…味が壊滅的になるだろうが」
「え?だって……」
クーの指摘に、ジュリエラは困惑顔になる。
「せめてフルーツとヨーグルトはそのパンの上からおろしてくれ。それなら味もパーフェクトで俺に文句はない」
にやりとクーは笑い、ジュリエラははっと何かに気づき、そしてそのシーンはカットがかかった。


「何を怒ってるの?」
OKを受けて椅子から立ち上がったジュリエラを、困り顔のクーが引き止める。
「だって、恥ずかしいじゃない。私これまでずっと気が付かないでこうやって食べてたのよ」
「やっぱりそれは君が本当に食べてるものか」
「私の味覚がおかしいって、大声で言いふらしてるみたいで何か嫌」

ふん、とそっぽを向いたジュリエラに、クーは少し声をひそめて話しかける。
「違う、どっちかといえばこれはチャンスなんだ」
「チャンス?なんの?」
「君はなぜこの映画の話を受けた?モデルとしての君は完璧だ。でも人間味がないとか、そんな風に言われることもあるんだろう。身に覚えのない中傷を受けることも」
「…無くはないわ」
「だけどモデルとして受けるインタビューでは、上辺のことしか言えない。ブランドの顔としての君はね。それで少しは君のプライベートも感じさせるようなそんな仕事を請けようと、そう考えたわけじゃないのか」
「……考えたのは私じゃなくてマネージャーよ。でもなんでそれを?」
「それ以外に映画の撮影なんかに時間を割く理由はないだろう。君も納得してのことだよね」
ジュリエラは少し訝しげな顔をしつつも首を縦に振った。

「それならこのままでいいんだ」
「でも…」
「見てる人も君に親近感を抱くだろう。俺も、そのままの君の方が可愛くていいと思うよ」
クーはウインクして見せ、ジュリエラは赤く頬を染める。
「か、可愛いってこんなの……!」
「分かってないな、君は。すましてる顔だけ見せててもそれは可愛いとは言わないよ。まあでもこのシーンがなくても君の魅力はだいぶ伝わっていそうだな」
「それってどういう意味??」
「違う意味なんてない、そのままだよ」
誤魔化さないでよ!とジュリエラはふくれ、クーは笑いながら逃げる。
ジュリエラが恥ずかしそうに怒った顔を見るのはスタッフも初めてで、皆驚いて2人が話すのを見つめてしまっていた。


ホテルのシーン撮影がきっかけになったのか、ジュリエラはよく撮影の合間にクーに話しかけるようになった。それは映画でのセリフの言い回しや間の取り方の相談といった演技に関することだったり、食に関することだったり。
クーが参加しているこの映画撮影では、専属シェフが撮影中の食事を作ってふるまっている。昼時の休憩所のテーブルに広げられる料理の量はジュリエラにとって驚くべきものだった。
「そんなにたくさんスタッフいたかしら?」
山盛りの料理を目にしてこぼしたジュリエラの言葉に反応したのは料理の並んだテーブルの向こうにいるシェフだ。
「ジュリ、君は知らないのかい?この大量の食物の1/3は、クーの胃袋に収まるんだ」
「えええっ!そんなに?」
「昨日は残った分を全部平らげて『腹七分目でやめとく』って言われたからね。今日こそ満足させてみせるよ」
懸命に思い出してみるがクーは大男でもないし太っている訳でもない。あの体のどこにそれほど大量の食べ物が収まるのか、ジュリエラには想像もつかなかった。

「クーって不思議な人よね」
とある日、いつものように大量の昼食を平らげたクーに、頬杖をついたジュリエラが話しかけた。
面白いように消えていく大量の料理を見ていると楽しいと、ジュリエラはクーと同じテーブルに着くようになっている。
「何が?」
「なんていうのか……たくさん食べてたくさん動いて……?」
「腕白な子供みたいってこと……?」
なんかちょっと違うわ、とジュリエラは考え込む。
「よく分からないけど、人よりたくさん吸収して、人よりたくさん出力してるように見えるわ」
「そうかな、それって普通じゃない?」
「少なくとも私の周りにはいないわ…そんな人」
クーは大きなグラスに注がれた牛乳を一気に飲み干すと笑った。
「違う違う、それは俺が変わってるんじゃなくて君が…」
「んもう、そう言うの無しよ!」

ジュリエラが赤くなって少し声を大きくしたところに、別の声が割って入った。
「おうおう、昼間っから仲いいな、君たちは」
「アラン、もう飯食ったのか?」
クーはからりと笑ってアランに話しかけるが、ジュリエラは恥ずかしそうにそっぽを向く。
「食ったよ。お前が食ってるの見てると腹に入らなくなるから嫌なんだよ」
「悪かったな」
アランとクーはコンビのテンポでぽんぽんと言葉を交わす。

「そうかしら」
ジュリエラがぽつりと口をはさみ、クーとアランはジュリエラを振り返る。
「クーの食べ方って気持ちいいのよ。食べ物が消えてく感じ。自分もたくさん食べた気になって、すっきりするわ」

ひゅう、とアランは口をすぼめた。
「ほんとにすっかり仲良しだな、二人は」
「あ…ああ…?」
クーはぽかんとアランを見つめ返し、ジュリエラは何か言いたげな眼差しで頬を染める。

ありゃりゃ…ジュリの一方通行か?
いや、クーも嫌がってるわけじゃないしな…こりゃ見ものだ。

アランはひっそり心の中で思いながらも「さて撮影再開だな」と何事もなかったように声をかけた。


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コメントコメント


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いつも素敵な話しをありがとうございます。😃ジュリママの方が天然だと思ってたけどクーパパも天然だったですね。先に惚れたのは、どっちなんだろう?間近でみてたアロン氏は、楽しいだろうなぁ。しかし、クーパパの胃袋はどうなっているのかな?確かなブラックホールですね。

いわりん | URL | 2016/10/08 (Sat) 10:40 [編集]


Re: タイトルなし

> いわりん様

コメントありがとうございますー!
お返事遅くなりました。

ジュリママ、確実に天然だと思うのですが、案外クーパパもしっかりしてると思いきや天然さん部分がありそうで(蓮さんのパパだし)
何十人分も食べてもケロッとしているクーパパのお腹は、本当に謎です。覗いてみたい。
そして太らないのが羨ましいです。

ぞうはな | URL | 2016/10/15 (Sat) 13:53 [編集]