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Half Awake


こんばんは!ぞうはなです。
さて、2年越しの2周年リクエスト、最後のひとつとなりました。

本日はひさびさの原作沿い短編。イチゴ様からのリクエストですー。
ではどうぞ。





「れ~ん~~」

付き合いが長いせいか、担当マネージャーに名前を呼ばれただけで大体の用件が蓮には分かるようになって来た。
いや、それとも特定の用件のときのみ態度が分かりやすいだけか。

「なんでしょう」
蓮はいつものように、社の意図に気がつきつつも冷静に答える。
「キョーコちゃん、今ラブミー部の部室にいるらしいぞ」
社はにこにこと蓮のすぐ側までやってくると、小さな声でこそりと告げた。

蓮は少し驚いた表情を作ると社の顔をまじまじと見る。
「最上さん、今忙しいんじゃないんですか?」
「ああ、ここ一週間くらいは寝る暇もないみたいだけど」
「なのに」
「ああいや、ラブミー部の仕事じゃなくて、合間に台本取りに来て、ついでにちょっと次の仕事までの間休んでるみたいだよ」
「そうですか。それならいいんですけど」

ほっと表情を和らげた蓮を見て、社はにやりと笑う。
「まあ心配なのは分かるけどさ。キョーコちゃんはそのあたりしっかりしてるから大丈夫だよ」
「ですが、のめりこむと突っ走って無理するところもあるじゃないですか」
「まあな。…だからお前、ちゃんと様子見て助言するならしてこいよ」
「は?」
「俺ちょっと、主任と話があるからさ。終わったら部室に声かけに行くから」
しっしと追い払われるようにされ、蓮は部室へと向かった。


そりゃあ俺だって最上さんに会いたくないわけじゃないけど…

キョーコが昼の連続ドラマに出演している今、連日の長丁場の撮影に駆り出されていることは社からの情報で把握済みだ。序盤に主演の俳優の緊急入院で相当にスケジュールが押してしまっていることも。
顔を見せて愚痴などを聞いて少しでもストレス解消の役に立てればと思うのだが、普段のキョーコの自分への態度からしてかえって気を遣わせる可能性のほうがはるかに高い。


コーンとして会えるのが一番だけど、そんなに気軽にあの姿にもなれないし。

考えても仕方の無いことを考えながら、蓮は部室のドアをノックした。
しばしドアの前で待つが、部屋はしんとして反応がない。

いない…のか?

再度ノックをして様子をうかがってから、蓮はゆっくりとドアを開ける。
ドアの向こうに見える机の周りに人の姿はない。不在かと少し落胆しかかったところで、机の一番端に置かれた椅子から見慣れたトートバッグが覗いているのが目に入った。

ゆっくりとドアを全開にして部屋に一歩踏み入れ、蓮は壁際のソファへと目をやる。するとそこには、制服の少女が膝の上に台本を伏せ、首を斜めにソファにもたれかけさせて目を閉じていた。

「最上さん?」
蓮は静かにキョーコの隣に腰を下ろすとそっと声をかけた。
むにゅ、と声にならない声を出してキョーコが身じろぎする。
疲れているから眠らせてあげたい気持ちはあるが、キョーコが何時にここを出なければいけないかが分からない。逡巡していると、キョーコの頭が転がるように動いて蓮の肩に着地した。

ふわりと鼻をくすぐるシャンプーの香り。
少しこのままでもいいか、と蓮が動かずにいると、感触が変わったためかもぞもぞとキョーコが身を起こした。
「……コーン?」
うっすらと開いた瞳が蓮を捉え、おそらくキョーコは金髪の妖精の名前を呼んだ。

「……」
肯定はできないが否定もしたくない。そんな気持ちで蓮は無言のままキョーコの髪を優しくなでる。
「…うにゃ、髪が黒い……敦賀さん…?…夢かな……」
ほにゃほにゃと呟かれるセリフに、思わず蓮の顔がほころんだ。
「夢かもしれないね」
「…そですよね……起きたらいるなんてそんな都合のいいこと……」
「疲れてるんだからしばらくお休み」
するすると髪を梳かれる感触が心地よいのか、キョーコはふにゃりと顔をゆるめてもう一度蓮の肩にもたれかかる。
「だいじょ…ぶです…敦賀セラピーで疲れなんてとんで…」

つるがせらぴー?

寝言のせいかキョーコの言葉はあいまいではっきりと聞き取れない。
ただこの態度から明らかなのは、キョーコは夢の中で自分に会ってマイナスの気分を抱くことはないということ。

蓮が少し気をよくしていると、キョーコがもぞもぞと両腕を動かした。
動きを妨げないように様子を見ると、キョーコは体に近い方の蓮の腕を両手で抱え込む。
「こーしてても…いいですか?」
「もちろん、いいよ」
きゅうと抱え込まれた腕は柔らかい圧迫感に包まれた。蓮はあまりにいつもと違うキョーコの行動に驚くが、髪をなでていた手をキョーコの肩に回し、軽く包み込むようにしてみる。
「ん…つるがさんのにおい……」
「ねむれるかな?」
「…温かくて……気持ちいいれす…」
くしくしと肩に頭が擦り付けられて蓮は身震いしそうになった。キョーコの頭が密着したところから、やや速くなった鼓動が伝わるのではないかと少し心配になる。

「やっぱり……安心しゆ…」
キョーコの呼吸が一段深くなった。
すうすうと安らかな寝息を立てているが、キョーコの腕はがっちりと蓮の片腕を抱え込み、頭はしっかりと蓮にもたれかけられている。


……寝てる時の言葉は…本心だよな?

顔が緩むのがどうにも抑えきれない。いや、抑える必要はないだろう。
部屋には自分とキョーコしかおらず、そのキョーコは自分にしがみつくようにして気持ちよさそうに眠っている。
その、安心しきった少し笑っているような寝顔を、蓮はいつまでも見ていたい気分だった。


「最上さん」
遠くから何回か名前を呼ばれているような気がする。

「最上さん」
気のせいか夢なのかと思っていたが、呼ぶ声は段々と大きくなる。

「最上さん、そろそろ起きたほうがいいんじゃないか?」
段々と意識が浮上していくと、自分を呼ぶ声と同時に電子音のアラームも聞こえていることが分かる。

あっ!アラームつけたんだ!!

キョーコはがばっと飛び起きた。

「大丈夫?疲れていそうだけど」
「へっ?」
机に置いた携帯電話のアラームを止めた直後、いきなり至近距離から話しかけられてキョーコは飛び上がった。

「…ええっ?つ、敦賀さん…?なんでここに」
「ついさっきここに来たんだけど、ちょうどアラームが鳴ったから起こしたんだ」
「さっき…?」
まだ頭がぼんやりとしてなかなか現状が把握できない。
夢で蓮に甘えた、その記憶が蘇ってきてキョーコはおそるおそる蓮を見る。
「敦賀さんいらしたばかり、ですか?」
「うん、ついさっき」
「私…寝てましたよね」
「寝てたよ。何か言っていたようだけど…夢でも見てた?」

涼しい顔の蓮はいつも通りの表情だ。寝顔を見られたのは恥ずかしいが、あの夢の内容が事実であればその方が一万倍恥ずかしい。が、どうやら蓮の反応を見るに、あれは夢だったようだ。
「はい、夢…見ました」
「いい夢?」
聞かれてキョーコは目を丸くして蓮を見る。

「いや、笑ってたから」
笑いながら理由を言われてキョーコは頬を赤くした。
「み、見ないでください…でも、すごくいい夢でした。現実だったらよかったのにって思うくらい」
「へえ、じゃあ起こしてしまって悪かったかな。どんな夢だったの?」
くすりと笑った蓮はなぜだか神々笑顔に見えてキョーコは思わず目をそらす。

「く、くだらないから内緒です!」
夢から覚めた瞬間、蓮がいるという現実は考えてみればさっきの夢と同じくらい、いやそれよりもずっと嬉しい。
けれど蓮本人にそんなことは言えない。

あの感触…リアルだったなあ。
敦賀さんのいい匂いと、がっちりした腕の感触。あんな風にくっつけたら、疲れなんて本当に吹き飛んじゃう。

リアルな夢だったためか、なぜかキョーコには気力がみなぎってきている。
「でもあの、ありがとうございます」
「ん?なにが?」
「いえ、ここに寄っていただいて。寝ちゃってて申し訳ありませんでした」
「いや、いいんだ。君が疲れてそうだからちょっと気になっていただけ。さて、次の仕事は何時にどこ?」
「え、いえ」
「近ければ送っていくから。さあ行こうか」


なんだか敦賀さん…機嫌がすごくよさそう?

キョーコは首をかしげながら蓮とともに部室を出た。
これから少し、自信をもって積極的に行ってみよう。
そんな風に先輩俳優が決意を固めてキョーコの後姿を見つめていることに気づきもせずに。



追記ー。
リクエスト内容の記載を忘れておりました。
イチゴ様からのリクエストは、「キョーコからの甘々発動(機会限定?)」でございましたー

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