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Catch the Wave (34)


こんばんちは!ぞうはなです。
予想以上に長くなったこのお話、今回で終わりでございますー。
どうにか夏の名残があるうちにラストにたどり着いたー。

くーま様、リクエスト実現がものすごーく遅くなりましたが、素敵なリクエストありがとうございましたー!




9月に入ってしばらく経つと、日中はまだ夏のような日差しが照りつけるものの、日が暮れる頃には暑さも落ち着き、秋の虫が鳴き始める。
海水浴場は営業を終え、波に乗る人の数もピークを越えて、海はある程度の落ち着きを取り戻していた。キョーコの店も相変わらず盛況だが、夏休み中のような大混雑はおさまり、常連のサーファーの姿が多くなっている。

「ご馳走様でした」
1つのテーブルのグループががたがたと立ち上がり、メガネをかけた青年が伝票を手にレジに近づく。
「いつもありがとうございます」
笑顔で伝票を受け取ったのは、カウンター内から出てきたキョーコだ。慣れた手つきでレジを打つと合計金額を社に告げる。

「今日のパスタ、うまかったー。いやいつもうまいんだけど」
「ありがとうございます。タラコお好きですか?」
「タラコスパ自体は好きでも嫌いでもなかったんだけどさ。キョーコちゃんのは特別だな」
「そう仰っていただけると嬉しいです」
キョーコはそう言って本当に嬉しそうにはにかんだ。

「キョーコちゃんの作るものは何でも美味しいじゃないですか」
ずいと割って入ったのは光だ。この夏ですっかり日焼けして肌が光るほどになっている。
「ありがとうございます、光さん。光さんは好き嫌いって無いんですね。すごいです」
「いやぁ、嫌いな物だってキョーコちゃんが料理したらきっと俺食べられるよ」
「またまたそんな」
キョーコは恐縮しつつも社にお釣りを手渡した。

「ほんとに…」
身を乗り出したところで遮るように社が「ご馳走様」と声を上げ、キョーコも「ありがとうございました」と頭を下げて社たちを入り口まで見送る。
外に出てから何気なく振り返った光は、一番後ろを歩いていた蓮と見送ったキョーコが目を合わせてほほ笑みあった瞬間をばちりと目撃してしまった。

「……くぅ」
顔を背けて変な声を上げた光に驚き、慎一がその顔を覗きこんだ。
「なんやなんや、リーダーはらいたか」
「ちがうよっ!ほっといてくれ」
少し考えた慎一は蓮の顔を見てからニヤリと笑う。
「ああ、なんや、リーダーそういう事には敏感なんやな」
「…光」
「わかってますよ、別に何でもないですってば」
慎一に笑われ、社に気遣うような様子を見せられ、光は懸命に笑顔を作る。
「前にも言いましたけど、俺は二人を応援してますし、キョーコちゃんが幸せでいつも笑ってくれてればそれでいいんですよ」
「…けなげやな」
「うるさいっ」
はははと笑って逃げ出す慎一を、光は追って蹴り飛ばすしぐさを見せる。

「お前はそれでは済まなかったんだよな。キョーコちゃんが笑いかける相手になりたかったんだろう?」
二人の後姿を見ながら、社がぼそりと蓮に話しかけた。
「…またその話ですか」
「だぁってお前、しばらく内緒にしてたじゃないか。本人には積極的にアプローチしてたくせに俺達には黙ってただろうが。隠し事するから探られるんだよ」
「仕方がないでしょう、色々事情があったんですから。それでも俺は、社さんや石橋君にはすぐに話したんです」
「ふん、言われる前から雰囲気で分かったけどな」

雰囲気と言われてもね。

実際、キョーコがすっかり自分の気持ちを認めて蓮の告白を100%受け入れたのは夏も終わるというタイミングだったのだ。
それから光たちに事情を説明するまでのタイムラグはほとんどないはずなのに、どうやらその前から蓮の周辺では事実として受け取られていたようだ。
しかし蓮は、いまさら弁解しても仕方がないと、あえて周りの話に否定も肯定もせず流すようにしていた。

事実として今があるんだから、それでいい。
大切なのはここから先なんだ。


「まあまだ障害も多そうだよなあ」
頭の後ろで手を組み、のんびりと坂を下りながら社は言う。蓮は首をかしげて答えた。
「そうですか?」
「お前とキョーコちゃんのことが噂になってから、不破がやたらと顔出すようになったじゃないか」
「…ああ……そのことですか」

確かにここのところ、尚はよくキョーコの店にも朝の海岸沿いの駐車場にも顔を出す。
おそらくそれは、キョーコが蓮と付き合い始めたことが最大の要因だが、蓮に対してはサーフィンについても対抗心を燃やしているようだ。


「敦賀さん、この前お友達のお名前を"リック"と仰いましたよね」
「うん?…ああ、言ったかな」
少し前の日曜日の朝の駐車場。キョーコが思い切って、という感じで蓮に聞いてきた。
「それって…もしかして"リック&クオン"のリック…?」
おそるおそる尋ねられ、蓮はきょとんとキョーコを見返した。
「確かにそうだけど……なんでキョーコがその名前を…?」
予想もしなかった場所とタイミングで呼ばれなれた名前を言われ、さすがの蓮も少し思考が停止する。

「やっぱり…!でも、リックさんのことはともかくとして…クオンというのは一体?」
「……その話をする前に。君はどこでその名前を?」
「…バカがプロになるって夢を語りだしたころ、少しでもあいつの力になりたくて、サーフィンのこと片っ端から調べたんです」
「うん…」
「本場の状況も知りたくて、アメリカの雑誌を買い込んで…それに、載ってました。…びっくりしたんです、十代の二人がカリフォルニアの比較的大きな大会で何度も表彰台に上がってて。いずれトッププロになるって記事がいくつも載ってたのに…そういえばしばらくして、二人の話題を見ることはなくなって」
「そうだね…リックが死んだのは、大会で連続して勝つようになって間もなくだった」

キョーコは蓮の顔を見てしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「リックとクオンは親友でありライバルでありって、記事にありました…ちょうど敦賀さんが話していた通りの関係で……もしかしてもしかすると、敦賀さんがクオンなんですか?」
しばらく黙っていた蓮は、大きく息を吐きだすと首を縦に振った。
「……そう、だよ。敦賀蓮は日本人としての俺の名前だ」
「やっぱりそうなんですね。白黒だけど写真の顔に面影があって。でも髪が…」
「これ、染めてるんだ」
「…そうだったんですか!驚きましたけど、それでなんだか納得がいきました。前に見たクオンとリックのライディング…私の理想だったんです。だから敦賀さんのライディング見たとき、すごいって思ったんだ」

うっとりと空を見上げるキョーコに、蓮は少し申し訳なさそうに言う。
「まさか君がその名前を知ってるとは思わなかったな…けどこの事は、秘密にしてくれないかな」
「もちろん構いませんが、やはり知られたくないことですか?」
「まあいろいろと、説明も面倒だし。君の心にとどめてくれるとありがたい」

「なにをだよ」
突然割って入った声に、キョーコは飛び上がり蓮は後ろを振り返った。予想通り、そこにいるのは仏頂面のキョーコの幼馴染だ。尚は珍しくここのポイントに乗りに来たのか、水着にラッシュガードを着てサーフボードを持っている。

「不破君…おはよう。盗み聞きとはいい趣味だね」
「ばっ!してねえよ!お前らがだらだらしゃべってるから、嫌でも聞こえてくんだよ!」
「もう何なのよ、いちいち突っかかってこないで!」
驚きから回復したキョーコが尚にかみつく。
「べっつに。海に出るのに邪魔なだけだ」
「邪魔なところになんていないわよ」
へいへい、と尚は二人の横の階段を数段おりた。

「そんな素人のライディングをありがたがってるなんてお前も目が悪いよな」
「なによ」
むっとしてキョーコは言い返すが、尚はふん、と馬鹿にした笑みを浮かべる。
「俺みたいなプロのライディングこそ、参考にするべきだぜ」

「はあああ?」とキョーコは眉を吊り上げて立ち上がる。
「ようやくぎりぎりでプロになれたくせによく偉そうに言えるわね?あのねえ、敦賀さんはもっと若いころからもっとすごいんだからね!」
「キョーコ」と蓮に声をかけられ、キョーコははっと気づいたように口をつぐんだ。

「君のライディング、ぜひ参考にさせてもらうよ」
蓮は何事もなかったように穏やかな笑顔を尚に見せる。
「…ふん、調子いいなあんたも。まあ趣味にとどめてるやつはいいんじゃねえの、それで」
「そうだね」
ことさらにこやかな笑顔で送り出され、尚はぶつぶつ言いながら海に向かっていった。


「キョーコちゃんもなあ。なんだかんだ言いながら幼馴染は邪険にできないみたいだしさ」
蓮と社は慎一と光の後を追う形で海へと坂を下っていく。
「それは仕方ないです、付き合いが長いんですから」
「心配じゃないのか?」
にやり、と社に笑いかけられ、蓮は少し立ち止まって真剣な表情を作った。

「まあ嬉しくはないですけどね。けど、彼女の俺への気持ちがちゃんと見えてるので、下手に焦るより見守った方がいいと思いまして」
「お前……えらく余裕だよな」
「そういうわけではないですけど」

坂を下りれば、視界いっぱいに白い波を立てる海が広がる。

「波だって、いつも順調ではないですよね。御しきれない波を乗りこなす楽しみだってあるはずです」
海を見ながら発せられた蓮の言葉に、社は半分感心したような、そして半分呆れたような表情を作った。
「やっぱり余裕だよなあ……お前、自信満々だろ」
「そんなことないです。キョーコの気持ちは波より先が読めませんし」
「それはのろけか?のろけなんだろう!光が聞いたら泣くぞ」
「どうしてそういう解釈になるんですか」

男たちは軽口を叩き合いながらも海に出ていく。

「ありがとうございました!」
店ではキョーコが笑顔で客を送り出す。

「今日は、いい波だ」
店から客を見送りながら波を見たキョーコと、沖に向かおうとする蓮は同時にそんなことを考えたのだった。

(おしまい)

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コメントコメント


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完結おめでとうございます

終わってしまったのが残念なきもしますが、、、。
完結おめでとうございます。
サーフィンの細やかな表現や、キョーコと蓮が近づいていくドキドキかんが素敵でした。

早速ですが、次を楽しみにしてます!

harunatsu7711 | URL | 2016/09/17 (Sat) 02:29 [編集]


完結おめでとうございます

蓮とキョーコがお店以外でデートするのも見たかったですが…。完結おめでとうございます!

次のお話も待ってます!

harunatsu7711 | URL | 2016/09/20 (Tue) 14:29 [編集]


Re: 完結おめでとうございます

> harunatsu7711様

最後までのお付き合い、ありがとうございましたー!
蓮さんとキョコさん、なかなか休みが合わずキョコさんがお店に打ち込んでいることもあって他所でのデートシーンが書けませんでした…!
次のお話もお付き合いいただければ嬉しいですー。

ぞうはな | URL | 2016/09/22 (Thu) 21:19 [編集]