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Catch the Wave (32)


こんばんはー!ぞうはなです。

ちょっとだけ短めですが、きりのいいところまでー。





「いいよ、無理に名前なんて付けなくても」
あっさりと返された蓮の言葉は、少し予想外のものだった。キョーコはてっきり、「だから、それは恋だ」と断定されると思ったのだ。

「え?でも…」
「他人に対する気持ちなんて、型にはめて考えられるものじゃないし。一口に『好き』って言ったって、その形は様々だ」
「それは確かにそうですけど…」

半分納得したような、それでもどこか不思議そうなキョーコに、蓮はくすりと笑う。
「俺にとっては、君が俺のことを気にかけてくれているだけで十分なんだ。それが何より嬉しい」
「へ…それで……いいんですか?」
10日以上もかけて真剣に悩んだのに、とキョーコが脱力しかけると、蓮の瞳がすうっと細められた。
「もちろん、大満足なわけじゃないよ。俺の告白に君がはっきりと"YES"って言ってくれるのが本当はいいんだけど」

「はう…」
キョーコは肩をすぼめて縮こまる。肘をついてこちらを見る蓮を覗き見ると、途端に蓮は小さく噴出した。
「なんでそんなに申し訳なさそうにするの」
「いやだって……敦賀さんにそう言っていただいてすごく嬉しいのに、それにこんなに時間いただいたのにちゃんとお答えできないなんて」
「いいよ、前向きな答えが聞けてるから。悩んだ挙句断られた方がよほどショックだ」
「はあ…」
本当にショックなんだろうか。だって目の前のこの男性は、キョーコからYESがもらえなくたっていくらでも女性が寄ってくるだろうに。

「ほんとに君は、俺の気持ちを分かってくれてるのかな」
え?とキョーコは蓮の顔を見た。じっとキョーコを見つめるその瞳はいつもの通り穏やかで優しいが、どこか寂しそうだ。
「君じゃなくちゃダメなんだよ。他の誰に好意をもたれても、君の代わりにはならない」
「な……」
目をまん丸に見開いて動きを止めたキョーコに、蓮は呆れたようにため息をついた。
「人を好きになるってそういうことだろう?それとも君はそうではない?」
「いや確かにそうですけど……」

それは確かにそうだ。
言われなくともわかる。知っている。けれどそんなこと、はっきりと口に出して言われたことなんてない。
「君が想う人が、俺一人であればいいと思うよ。お互いに一番の存在になれることが俺の望みだ」

この人は…なんて歯の浮くようなセリフをさらっというのよ!

キョーコは先ほどから顔に上がってしまった血液が下がりそうにないことを気にしていた。蓮の言葉は嬉しくて恥ずかしくて、まるでドラマか漫画の登場人物にしか口にできないような部類のものだが、怖いことにまったく違和感がない。
「君はそういうのは嫌かな」
「…え?」

少し傾けた蓮のおでこに髪の毛が一筋さらりと落ちる。
「私……私は…あ、でも」
キョーコが何かに気が付いたようについと顔を上げた。
「さっき敦賀さんが仰ったこと、私も同じだと思います」
「どのこと?」
「ほかの人では代わりにならないってことです。私にとって敦賀さんとお話しする時間はちょっと特別で、きっとそれは敦賀さんだからなんです」
「……君はその時間が、これからも続いた方がいいと思ってる?」
蓮はぱちくりと目をしばたかせてキョーコを見つめたのち、尋ねた。そしてそれに対してキョーコは即答する。
「もちろんです!」

笑顔のキョーコに、蓮はくすくすと笑いだした。
「な、なにがおかしいんですか」
「いや…おかしくはない。嬉しいだけだ」
「嬉しい?」
「うん。普通に告白にYESって言われるより、ずっと嬉しい。君の中でどんな形であれ、俺が特別であることがね」
「は……はあ…」
またもやかあっと顔が熱くなる。

そんなにじーっと見ないでくださいー!
は、恥ずかしいしなんか落ち着かないし…でもでも……

蓮が普段は見せない顔で自分を見つめてくれるのが、嬉しい。キョーコは素直にそう思っていた。

「今まで通り、週末の朝は時間を空けておいてくれる?それから閉店後のこの時間も、たまにはこうして二人でいたい」
「も、も、もちろんです」
「じゃあ火曜日の夜なんかはどうかな」
「火曜日…え、でも敦賀さんお仕事は」
火曜日はお店の定休日だ。もちろん仕入れの検討や翌日の仕込みやらで丸一日休めることはまれなのだが、確かにそのほかの日に比べれば時間は取れる。けれど蓮にとっては休みではないはず。

「もちろん毎週は無理だけど、定時で上がれれば少しドライブして一緒に食事するくらいの時間はあるし、たまには休みだってとれる」
「そ、それなら私は大丈夫ですけど」
「それと、会えない日は声が聞きたいな。寝る前の挨拶だけでもいい」
「はいそれももちろん…」

蓮はキョーコの頬に手を伸ばした。
「こうして触れることも、許してくれる?」
「……はい」
蓮の手は大きくてごつごつと男らしいが、優しく触れられるのは決して嫌いではない。ドキドキして顔が赤くなってしまうのは嫌だが。

するすると頬をなでる指がくすぐったくて少し目を細めたら、急に視界が暗くなって唇に温かく柔らかい感触が一瞬おりて消えた。
「…こういうのは、嫌?」
「ななななな………今……!」
「嫌?」
びっくりした顔でキョーコは蓮を見る。頬と耳どころか首まで真っ赤だ。いやきっと、頭皮も赤くなっているだろう。
「い、嫌じゃないですけどけどでも」
「でも?」

う、とキョーコは言葉に詰まり、視線を床に落とすとぼそぼそと何かを答えた。
「ん?ごめん聞こえなかった」
「……いやではないです」
「よかった。出張前ここに来た時も、その前の風呂場の時も、こうしたかったんだ。けど許可なく触れちゃいけないかと思って」
「許可って……今の事後承諾ですけど」
「ああ、そうだね…なんだ、思ったより冷静だな」

真っ赤なままの顔をきっと上げてキョーコは抗議したのだが、愛しげに蓮に微笑まれると体中がむずがゆくて、抱き寄せられるとその懐は気持ちよくて、結局キョーコは蓮にもう一度のキスを許してしまったのだった。



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