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Catch the Wave (31)


こんばんは!ぞうはなです。
いまさらですが、このお話書き始めた当初はもっと中編程度のはずだったんです。
…なんでこうなった。





「コーヒー、飲まれますか?」
「ありがとう。じゃあ、一緒に」
蓮とキョーコは短い会話を交わし、キョーコがアイスコーヒーのグラスを2つ持ってくると並んでカウンターに座った。

「…お仕事いかがでしたか?」
ストローに口をつけた蓮を横目で見て、沈黙の重さに耐えかねたキョーコが口を開く。
「うん、目的は達成したからすっきりと帰国できたよ。それから……プライベートな目的も果たせた」
「そうでしたか…」
ぽそりと吐かれたキョーコの返答に蓮は軽く笑う。

「今までどうしてこんなに重苦しさを感じてたんだろうって思うくらい、実際行ってみたらあっさりだった。…リックが死んだ海岸も、感慨はあったけど恐怖はもう無かった」
「リックさんって仰るんですね、お友達」

言いながら、キョーコはその名前をどこかで聞いたことがあるような気がしていた。
とはいえさほど珍しい名前ではない。同じ名前の人だっているだろう。

「うん。…勢いで彼の墓にまで足を向けてしまった。墓で話しかけてみたけど、何も声は聞こえなかったな」
「……」
少し心配するような表情のキョーコに、蓮は心配いらないと微笑んで見せる。
「海にいるときはたまに、話しかけられているような気持ちになるんだ。リックはきっと墓になんていられなくて、海で遊んでるんだろうな、今も」
「…そうかもしれませんね」
蓮の表情に辛さは見えなかった。もちろん、親友を失ったことは事実で、罪の意識がなくなる訳ではない。けれどもきっと今までの蓮は必要以上に自分を責めていたのだろう。少しでも荷を下ろせればいいと思う。

「なんで君の方がホッとした顔してるんだろうね」
笑いながら蓮に言われ、キョーコは我に返ると頬を染めた。
「いやその…!敦賀さんが楽になれたら嬉しいなって思ってたので…ごめんなさい」
「ああごめん、責めてるわけじゃない」
蓮は頬杖をついてキョーコをじっと見つめる。キョーコはその瞳から視線を外せないまま、うるさいくらいに鳴っている自分の心臓の音を聞いていた。

「…だからなんだろうな。君はいつでも全力投球で人のことにも本気になって悩んでくれて。だから自分のどろどろした気持ちが浄化されるような気分になるんだ」
さらり、と蓮の指がキョーコの前髪をなぞる。

最近、話しているときに蓮が自分の髪に触れる事がある。
何回されてもキョーコはその距離の近さに慣れる事が出来ず、ものすごくドキドキしてしまう。今も例外ではない。

「だけどその分、頑張りすぎてないかって心配になるんだ。気になって目が離せない」
蓮は静かにゆっくりと息を吐いた。キョーコの顔を見ると、真っ赤になって目がきょろきょろと動いて落ち着きが無い。

どっちとも…取れるな、これは。

キョーコが緊張しているのは確かだが、自分に好意を抱いているとも、どう拒否しようか迷っているとも、どちらとも考えられるような不安げな表情なのだ。
「俺がいない間、少しは俺のこと考えてみてくれた?」
蓮の言葉にキョーコが口を結んだままコクコクと何回も頷く。
「それでどうかな……答えは出た?」

せかすでもなく、乗り出すでもなく、ゆっくりとした口調。
きっと蓮は、自分にプレッシャーを与えないようにわざとそうしてくれているのだろう。
そこまで考えるほどの余裕があるのが非常に癪だが、そこは経験値の差なのだ、悔しがってもパニックになっている自分が悪い。普通の告白とは立場が逆転しているような気がするが。

キョーコは許容量を軽くオーバーする極度の緊張状態にいたが、なぜかその状態でも不思議なほど蓮の行動や表情を把握し、それに対しての感想を抱いていた。
むしろ自分の思いを考えることから離脱して、余計なことばかり考えるモードに入ってしまっているのかもしれないが。

「敦賀さんがいない間考えて…いっぱい考えました」
「うん」
「考えたんですけど、私その、敦賀さんに対する気持ちがなんなのか、自分でもちゃんとわからなくて」
「…どんな、感じ?こうして顔見るのがイヤとか、客としてだけ付き合いたいとか」
「違います、そんなんじゃなくて!」
ネガティブな例を挙げた蓮を、キョーコは慌てて遮った。
「そうじゃないんです…私、敦賀さんが日本にいなくてここに来られないって分かって、すごく寂しかったんです。そうやって改めて考えてみれば朝駐車場でお話しする時間はすごく楽しくて、敦賀さんのライディング見られるのは嬉しくて」
「…うん」

キョーコは短い返答に、じっと蓮の顔を見つめ、また少し考えてから言葉を継いだ。
「今朝、駐車場でお会いできなくて勝手にがっかりして、お昼にお店に来てくださって勝手にドキドキしました」

飛び上がりたくなるほど嬉しいことを言ってくれる割に、キョーコの表情はどこか困っているように感じられる。
蓮は強引に抱きしめたい気持ちをぐっと抑えながら、慎重に尋ねた。
「それが最上さんの気持ちで、でもそれが何と名のつく感情なのか、分からないのかな?」

「…はい。……こういうこと言うのもなんなのですが…」
キョーコは伺うように蓮の顔を見てから続けた。
「私今まで好きになった相手ってあのバカしかいなくて、だから昔あいつに抱いていた気持ちと比べてみたんです」
「…うん。どうだった?」
「不思議なんですけど…確かに似てるといえば似てるんです…顔見るだけで嬉しいとか、話できると楽しいとか。けどちょっと違うこともあるんです。だから分からなくて」
キョーコの表情は真剣だ。

「違うことってどういうことかな」
ちゃんと考えてくれた事だけでも嬉しいが、キョーコの違和感がなんなのかもはっきりしたい。蓮は静かに尋ねた。
「言葉で説明するのは難しいんですけど…あいつに対しての気持ちって自分でもよく分かるものだったんです。『私は彼の事が好きなんだ』っていつも思っていましたし、お嫁さんになりたいってずっと思ってました、それが夢だったんです」
キョーコは素直に考え考え説明し、慌てて「もちろん今はこれっぽっちもそんなことはなくて、もう忘れたいんですけど」と嫌な顔をする。
「じゃあ、俺に対しては?」
蓮はどこかしら興味深そうな楽しんでいるような表情だ。しかしキョーコはそれには気づかず再びうーん、と考えだす。
「会えると嬉しいんですけど…ウキウキドキドキするばかりじゃなくて……なんて言うんでしょう、じんわり?」
「……」

腕組みをしたキョーコを蓮は静かに見守る。
「リズムが穏やかと言いますか、会えてお話しできて嬉しい気持ちがじんわりなんです。それで、会えない間もこう、『かなしーー!』ていう激しいものじゃなくて、お元気かなあ、いつ帰ってきてくれるかなあってじんわりと寂しい気持ちで…」

「俺のこと、好き?」
ううん、と考え込んだところで唐突に聞かれてキョーコは飛び上がった。
「ななななな…そりゃその、嫌いじゃないですしすすすすす…好き…ですよ……ただそのそれが」
「その答えを聞けたら十分だ。君の素直な気持ちを聞けただけでも嬉しい」
「は……」
「なんとなく、君の感じ方の違いの理由が分かったような気がするんだけど」
「えっ!ほんとですか?」
キョーコは目を見開いて蓮の方に身を乗り出した。瞳が期待いっぱいの光で満ち、真正面からその視線を受け止めた蓮は思わず左手で右の腕をぎゅうとつかむ。
「あくまでも俺の目から見た推測だよ?」
「それでいいです、聞かせてください!」

蓮はこほんと一つ咳払いをした。
「君が不破君を好きだったのってちょっと前だって言ってたよね」
「はい。この店を始める前ですし…」
「じゃあ、君が大人になったということだな」
「大人?」
キョーコは驚き顔で蓮を見た。化粧っ気もなく美人でもなく、いつも元気なだけが取り柄なのだ。大人などと言われたことはない。

「うん。彼のこと、小さいころから好きだったんだよね?」
「はあ…」
そう、物心ついた時はすでに、尚のことが好きだった。それは確かだ。ムカムカするけど。
「子供の時の恋って、浮き沈み激しいよね」
「確かに…」
話しかけてくれれば浮上するし、無視されれば降下する。確かにそうだ。
「経験が増えてくると、恋愛以外の要素が人生の大部分を占めてくる。生活、仕事、人間関係…一人の人に恋をしたとしても、それらを忘れ去るわけにもいかない」
「はい」
ゆっくりと蓮がストローを回すと、グラスの中で氷が小さな音を立てる。
「それに、相手のバックグラウンドも考慮の中に入ってくる。どんな状況に置かれているのか、自分の立場との関係はどうなのか…いろいろと考えなければならないことが多くて、恋愛だけに激しく左右されるわけにもいかなくなる」
「それは確かにそうですね」
うんうんと、キョーコは納得したようにうなずく。
「だけど相手を思う気持ちが若いころに比べて薄れるわけじゃない。だから波は穏やかになるけど、表面だけじゃなくて芯から揺さぶられるんだ」
「なるほど」
言ってからふとキョーコは気が付く。

あれ?敦賀さんはつまり、私のこの気持ちが恋だと言っているの?

考えてみれば、自分は対象の張本人を前に何を馬鹿正直に語っているのだろうか。
キョーコは一気に顔を赤らめた。



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