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Catch the Wave (28)


こんにちは!ぞうはなです。
えらく更新頻度が落ちていますが、ぞうはな夏休みに入ります…
いやまあ明日は仕事なのですが、次の更新は再来週になるかと思われます。

ということで、続きでございます…





「あんた、どうしたのよ?」
「ふえ?」

忙しさのピークにある日曜昼時の店内。
天気もよいためテーブルは客で埋まり、いつものサーファー達だけではなく海に遊びに来たと思われる馴染みのない顔もちらほらと見える。
呆れたように問いかけたのは奏江で、間抜けな返事をしたのはキョーコだ。
もっともキョーコもすぐに何を言われているのかを理解した。はっと気がつけば、目の前のポットからはコーヒーがあふれて黒っぽいシミを作業台の上に作っている。
「きゃー!ご、ごめんボーっとしてて」
少し声を上げたため、近くの客がちらりとカウンター越しにキョーコの方を伺うが、幸い客席からはキョーコの手元は見えない。

奏江は客のほうに視線をやるとキョーコに近づいて小声で話しかけた。
「あんた今日は朝からおかしいわよ。調理はちゃんとしてるみたいだしオーダー間違えたりもないけど…なんか心ここにあらずで」
「そ、そんなことないわよだいじょうぶ」
「なに動揺してるのよ」
「別に動揺なんて」

店内から声がかかり、奏江は眉間に寄った皺を瞬間的に営業用スマイルで覆い隠して「はーい」と返事をしながら立ち去る。
キョーコはほうっと息を吐いて、あふれたコーヒーを手早く片付けるとアイスコーヒー用のポットを冷ますためにシンクのおけに浸けた。

動揺してるわけじゃないけど…

考えてから、「いや、こういうのを動揺というのかしら?」とキョーコは思い直し、それからまたはっと我に返ってカウンターに並べられた注文内容に目をやる。

仕事は仕事、きっちりやらないと。

ゆでているパスタの様子を見ながらサラダの小皿を冷蔵庫から取り出し、いつも通りにてきぱきとキョーコは動き回る。
それでもふと表に目をやるとなんとなく思い浮かぶのは今日は海に来ていないあの男のことだ。

今日の何時の飛行機なんだっけ?

昨日の夜言われた言葉はまだすべて消化できていないが、わんわんと反響するように頭の中を回っていることだけは確かだ。
今蓮の顔を見て落ち着いていつも通りに接する自信はなく、むしろしばらく不在だということがありがたい。

んー…もしかして敦賀さん、私がそう思うって分かってて、出張前にあんなこと…?
…でも……時間を置いたら答えって出るものなのかな。


蓮のことを気にしているのは、誤魔化しようのない自分の気持ち。
けれどそれを蓮への恋心だと認めてしまうには、どこか納得がいかないような変な違和感がある。ごちゃごちゃとあれこれ考えてみても、尚とのことで恋愛に対してどこか後ろ向きになってしまうキョーコにはすっきりとした答えを出せそうにないのだ。

なんか…2週間なんてあっという間に過ぎちゃいそうで怖いな…

考え込んで手が止まりかけたところに奏江からのオーダーが飛んできて、キョーコの意識はまたしばらくの間、調理に縛り付けられることになった。


キョーコが抱いた危惧の通り、大した考えもまとまらぬままあっという間に一週間が過ぎて行く。
毎日真面目に考え続け、一つの答えと一つの問いがキョーコの中に生まれていた。

わかったことは、蓮の顔を見て話をしてライディングを見ることはキョーコにとって楽しみな時間になっているし、キョーコ自身にとって蓮は他の店の客とは違う特別な存在だということだ。
まだ一週間しかたっていないのに、八百屋の帰りの駐車場に蓮の車がないのはどこか寂しい。もしかしたら、キョーコが蓮の告白にNOと答えたら、あの時間は永遠に失われるのかもしれない。

ではいい返事をするのか、と自分に問いかけてみたときに一番ひっかっかるのは、「なぜ蓮は自分みたいな人間に好意を表明してくれているのか」ということ。
口の悪い幼馴染に確認されなくても自覚している。自分は可愛くも美しくもないし、人目を引くようなオーラを持ってもいない。強いて長所を挙げるとすれば、どこまでも前向きで打たれ強い性格と尚の父親であるホテルの板長に鍛えられた料理の腕くらいだ。

けど、相手の男は誰もが振り返るようなスタイルと美貌の持ち主だ。


なんで?考えてもわからない…敦賀さんは私に救われたって何回も言ってたけど、ほんと私、なーんにもしてないわよね??
うーーん…あれほど目立って注目される人だと、もうこりごりだって正反対を求めるようになるのかしら。

一週間も悩み続けると考えながらも作業は正確にこなせるように順応してくるようだ。
キョーコはかすかに眉間にしわを刻みながらも、土曜日のランチタイムの大量の注文を手早くこなしていった。


ちょうど客が引く16時ごろ、キョーコの店の入り口のベルがけたたましい音を立てた。
「キョーコちゃん、大変だ」
息を切らせながら入ってきたのは尚のグループのサーファーで、キョーコとも高校の同級生だった男性だ。
「どうしました?」

大きな声に店にいた客が入ってきた男に注目するが、キョーコは落ち着いて事情を聴く。同級生ではあるものの、客としての相手に対してはキョーコの口調は丁寧だ。
「尚が…病院に運ばれた」
「…なんでまた?」
キョーコがさらに質問を重ねたところで、仕事を終え奥で着替えを済ませた奏江が店内へと戻ってきた。
「今日は午後から波が高くて…荒れたから、堤防のテトラポッドのあたりで釣りしてたんだ」
「まさかあいつ、流されました?」
「いや…高波で海に落ちたんだけど、流されはしなかったんだ。だけど上がろうとしてテトラポッドに打ち付けられて」
「……」
キョーコが渋い表情を作る。奏江は静かにキョーコに近づいた。

「すぐにみんなで引き揚げたんだけど、結構怪我してたからそのまま市立病院に」
はあ、と息を吐きだしたキョーコはちらりと奏江を振り返り、それから男に向き直った。
「教えてくださってありがとうございます。怪我のほうは?」
男はほっとしたように表情を崩す。
「あちこち打ち身と擦り傷はあるけどそんなに大けがじゃないんだ。けど頭を打ってたから一応MRIとか撮って、今日できなかった検査があるから一晩入院みたい」
「入院ですか…わかりました」

キョーコはぺこりと頭を下げる。男はそのキョーコの姿を黙って見ていたが、少しためらいつつも口を開いた。
「…あいつ別にって顔してたけど実はちょっとへこんでるみたいだったし。きっとキョーコちゃんが行ったら喜ぶと思うよ」
「それはないと思いますけど」
苦笑いしたキョーコに、男はそれ以上は言わず店から出て行った。

その後ろ姿を見送ってから、奏江はぽそりとキョーコに問いかける。
「…大丈夫?」
「え?ああうん。まったく人騒がせよね。あ、ごめんねモー子さん、遅くなって。今日もお疲れさま、ありがとうございました!」
キョーコはカウンター内に戻るといつも通り、何事もなかったかのように作業を再開する。
「じゃあ私、帰るわね。また明日」
「うん、また明日」

店の入り口で奏江は振り返った。
キョーコは席を立った客に笑顔で答えながら伝票をもってレジへ向かっている。
その顔にはいつもの営業スマイル以上の感情は見えず、奏江はちょっとだけ首をかしげてから店を後にした。


夜の8時少し前。
丘の上に立つ市立病院はかなり大きく立派な建物だ。その建物の前の車寄せに、一台の自転車がたどり着いた。
「面会…8時までだっけ」
腕時計をちらりと見たキョーコは駐輪場に自転車を停めると夜間窓口へと向かった。

夜の病院は思ったよりもにぎやかだった。
まだ面会時間中のせいかお見舞いと思われる人たちや職員、看護師たちが廊下を行きかっている。
キョーコは面会者の札をぶら下げたまま重い足取りで廊下をたどり、エレベーターに乗ってとある病棟の病室へとたどり着いた。

病室は4人部屋のようだが、ベッドは一つしか埋まっていないようだ。入口の札は一つを除いて空欄となってる。
キョーコは少し躊躇ってから開け放たれたドアから一歩中に入った。ベッドの周りのカーテンは中途半端に閉まっていて、ベッドに誰かいることだけが分かる。

「ショータロー…大丈夫なの?」
「……キョーコ?」

カーテンの隙間から顔を覗かせたキョーコを確認し、瞬間的に驚いた表情を作ってから仏頂面で尋ねた尚の顔を見て、キョーコは「やっぱり来るんじゃなかった」と早くも後悔していた。


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コメントコメント


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1週間経過

こんばんは。

蓮への返事まで残り1週間のキョーコですね。
その間の出来事、バカショーの事故で、蓮への思いに気付いてくれればいいのですが、バカショーと近づいてしまうなんて嫌です!

更新楽しみにしてます。

harunatsu7711 | URL | 2016/08/13 (Sat) 01:38 [編集]


Re: 1週間経過

> harunatsu7711様

コメントありがとうございます!お返事がえらく遅くなりまして申し訳ありませんー。

尚ったら、まるでキョコさんの気を引くみたいなタイミングでお怪我するなんて…。
けどやはり、これをきっかけに煙が出るほどキョコさん悩んだと思われます。さて、どんな結論が出るのか。

ぞうはな | URL | 2016/08/23 (Tue) 23:02 [編集]