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Catch the Wave (27)


こんばんはー。ぞうはなです。
作中もリアルも海の季節ですが、季節外れにならないうちに続きー。





「ちょっ…えと、あの?」

付き合ってくれというのはもしかしたらこの後どこかに一緒に行ってくれという意味かもしれない。
キョーコはそう思おうとしたのだが、蓮は余計なことは言わないし、パニックを起こしている自分をじっと待っているようにすら思える。

ようやくキョーコがなんとかかんとか気持ちを落ち着けたところで蓮が頭をかいた。
「君にとってはいきなりで驚くかもしれないんだけど…」
「…正直びっくりしてますけど」
「けどね、今朝のことで痛感したんだ」
「今朝?……あ、もしかしてバカショーのことですか?」

そんな、なんであのバカのために敦賀さんがそんな複雑な表情を?とキョーコはまたもや慌てるが、蓮はふう、と息を吐いた。
「君はあの男はただの幼馴染だと、なんでもないんだというけど…君にとっては彼は身内で俺は他人だろう?」
「え…?そんなこと……」
「たとえば彼が君の前で俺に失礼な物言いをする。君はどうするかな」

え…?そんなときは……

「『このバカが失礼なことを申し上げて申し訳ありません』、きっと君はそうやって俺に謝るよね」
考えたことをほぼそのまま蓮に口にされ、キョーコは目を丸くしてぴきんと背筋を伸ばす。
「…ほら、彼は君にとって身内だろう?彼がした不始末の尻拭いを君はするんだ」
「あ………」

キョーコはそう言われて初めて気がついた。
確かにそうなのだが、身内とか他人とか、そんなことを考えてする行動ではなかった。単純にもう、体にその反応が染み付いているのだ。

「君と不破君は幼馴染だ。多分物心ついてから今まで、一緒に過ごしてきた時間も長いんだろう、それはもう当たり前のことなんだろうね」
「…確かにそうかも……しれませんが」
見透かされているようでキョーコはドキドキする。
二重にも三重にも、目の前の男には心臓を鷲掴みにされているようだ。ありとあらゆる面で蓮は尚の一枚も二枚も上手を行っているように思えるのだが、なぜここまであのバカのことを気にするのだろうか。
「君が彼のことを好きだった事だって、過去かもしれないけど事実だよね」
「…はい……それはその、そうです」

今となっては認めなくはないが、確かにそれは事実だ。ほんの2年ほど前までは、自分の中には尚以外の異性の存在は完全になかった。
「その事実をいまさらどうこうしようとは思わない。過去はどうにもできないことだし。だけど俺は、ここから先のことを考えたいんだ」
「ここから先…?」
「そう」
蓮はにっこりとほほ笑んだ。その笑みはいつもの柔らかいもののように思えたが少し違う。どこかの営業マンかテレビショッピングの製品紹介のようなややわざとらしい笑顔に見える。

「君と彼の関係がこの20年程度で作られたものだったら、俺はこれからの10年でもっと君と仲良くなりたい」
「ええええ?」
「15年でも20年でもいい。君との新しい関係を築きたい」
「は……」

キョーコはまじまじと蓮の顔を見つめてしまった。
この人は本気でそんなことを言っているのだろうか。…なぜ?

「そんなの、君のことが好きだからに決まっている」
「!!!…な、なんですか人の考えてること聞こえてるみたいに!」
「君は俺がちゃんと言葉にしないと信じてくれないよね」
「…こ、言葉にされても不思議なんです…」
ふ、と蓮は肩の力を抜いてキョーコの顔を見つめた。キョーコの表情は戸惑いの色が強いが、首まで真っ赤でそれほど嫌がっているような様子は見えない。

「ゆっくり考えてほしいんだ。再来週、帰国したらまた来る。その時に君の正直な気持ちを聞かせてくれるかな」
「は、はい……わかりました」
「嫌なら嫌と言って欲しいし、その時にまだ答えが出ていなければ『わからない』って返事でもいいんだ。けど君に対する俺の気持ちは嘘偽りない、本音だ。だから、少しでいいから考えてみてくれる?」

キョーコは静かな蓮の言葉にゆっくりと顔を上げた。
先ほどまでは視線も落ち着きなくウロウロとさまよっていたが、今はしっかりと蓮を見ている。
「わかりました。……その、ありがとうございます。そう言っていただけるのはすごく嬉しくて…でもその、私あいつに裏切られてからそういう事考えもしなかったので……ちゃんと考えてみます」
「ありがとう」
蓮とキョーコは顔を見合わせてお互い恥ずかしそうに少し笑った。


少し…強引すぎたか?

帰り道、街灯の光が次々と通り過ぎながら蓮の顔を照らす。

けどやっぱり、遠回しに伝えても何も伝わらなさそうだし何よりこっちの本気度だって伝わらないし。

お店でさりげなくキョーコを誘う男たちは例外なくあっさりとしたキョーコの言葉に撃沈しているのだ。
におわせるような思わせぶりな言葉ではキョーコには響かない。直球勝負しかありえない。
それは告白する方にとっても逃げ場のない崖っぷちに自分を追い込むことになるのだし、手ごたえのない状態でそこまで踏み切るのは大人にとってはなかなか難しい。

けれど今日の感触はプラスかマイナスかで言えばプラスだと…いやいや、楽天的な観測はあとの落ち込みのもとだ。
大体、驚いてフリーズしていただけかもしれないじゃないか。

蓮は先ほどまでの店でのやり取りを思い出していた。


つい数十分前、蓮は話を終えるとアイスコーヒーを飲み干して立ち上がった。
「コーヒーご馳走様」
「いえ!あ、お代は結構ですからね」
「うん、わかってる。ありがとう」

入口まで蓮についてキョーコも見送りに出る。
「出張、お気をつけて行ってきてくださいね」
「ありがとう。最上さんも忙しいだろうけど無理しないで」
「大丈夫ですよ!ここから夏までが書き入れ時ですから!」
握りこぶしを作って笑うキョーコに、蓮はふっと笑みを消して手を伸ばす。
「…敦賀さん?」
つぶやくようなキョーコの問いかけには答えず、その頬にそっと指を添えると蓮はゆっくりと顔を近づけた。

ちゅっ

小さな音が頬から聞こえた。
音だけではない。温かい柔らかい感触が頬に触れ、そして去っていく。
キョーコはしばらく動けず固まったままだったが、やがてふるふると震えだし、頬に手を当てて一気に真っ赤になった。
「…な…なな……な?」
「挨拶。ちょっと留守にするけど元気でねって」
蓮の笑顔はどこにも後ろめたいことがないように、爽やかだ。
「…あ、挨拶にキスなんてしません!」
「ごめんね、明日からアメリカだから向こうの気分なのかな」
「んな…!」

「来週会えないのは寂しいけど…頑張ってくる」
笑顔でそう言い残して蓮は車に乗り込んだのだった。


今頃怒ってるかもしれないな。

自分が衝動的に動いたことに自分で少し驚く気持ちもある。
けれど後悔してももうここからは先に進むしかない。

蓮は横に見える暗い海に目をやった。

下手すれば嫌われるかもしれない。
それでもきっと、自分はキョーコとのことをお守り代わりに心に刻みたかったのだ。そうでなければ、あの強烈な太陽と深い海の色を見たら、また暗い思いに囚われるかもしれなかったから。


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