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Catch the Wave (26)


おこんばんはー。ぞうはなです。
うーん、この話どこまで続くんだろう…?





「なんでだよ!お前が散々、サーフショップの横でカフェをやるって…」
「人の夢によっかかるような真似はやめろ、てあんたは言ったんじゃなかったっけ」
「お前が真面目にカフェをやるんなら場所を提供してやってもいいってだけだろ。今の店より設備もいいし広いし」

悪い話じゃないはずだぜ、と胸を張った尚に、キョーコは改めてため息をつく。
「今更あんた一人でそんなこと言い出さないわよね、誰の入れ知恵?」
「んだよ、馬鹿にすんな」
「そりゃ確かに今の私のお店にはサーファーの常連さんがいっぱい来てくれてるし。開店してすぐそのお客がついてくれるなら、サーフショップにだって流れるわよね」
「逆だってあるだろ!この辺じゃ取り扱いのないブランドとの契約がまとまりそうなんだ。それ目当ての客がカフェに流れることもある」
「…あんたに前に否定されたとおり、あんたと一緒にやる気はないわ」
「だからそうじゃなく…」
「それに、今の店は1年かけてようやっとあの場所とスタイルでお客様が来てくれるようになったの。岬の先に移転しちゃったら、海水浴客も、あのそばのスポットに来ているお客さんも、店の近所の会社の人も、幼稚園のママさんたちも通うのが大変になる。そんな期待と信用を裏切るような真似、できないわよ」
「大した距離じゃねえだろ。広くなる方が重要だ」
「全然違うわ。それにそもそも、距離や広さだけの問題でもないの」

キョーコは段々とイライラしてきたようだ。
腕をがっしりと組んでギロリと尚をにらみつける。
「やみくもに席を増やしたって待たせる時間が伸びるだけなのよ。大体ね、どんなにいい条件積まれたってごめんだわ」
「なんだって?」
「私がともに働きたいと思うのは、人間として尊敬できる人だけよ。あんたみたいな人間じゃない」


ぎぎぎ、とにらみ合うキョーコとの尚の間に、のんびりとした声が割って入った。
「取り込み中悪いけど、最上さんは時間大丈夫?」
はっとキョーコは腕時計を見る。
「…ありがとうございます、そろそろ行かないと」
「うん」
立ち上がって頭を下げたキョーコに、蓮はにこりと微笑んだ。

「また後でお店にお邪魔するね」
「はい、お待ちしてます!」
キョーコは笑顔で蓮に言葉を返し、尚の方を向いたときには器用に仏頂面を作る。
「今後その話を持ってきても一切お断りだから覚えておいて……ああそれから、もし女将さんたちを説得して今の店を引き上げさせるって言うなら、私は別の街に行くわ。あんたの言いなりにはならない」
「……」
返事をせず睨み返すだけの尚から目を逸らすと、キョーコは停めておいた野菜満載の自転車にまたがってあっという間に去っていった。


「不破君はサーフショップを開くのが夢なのか?」
のんびりと聞かれ、尚はじろりと蓮の方を見る。
「…いや。俺はプロになるんだよ。ショップは単なる副業だ」
「『なる』ってことは、まだプロじゃないのか」
「っせーな!今年のトライアルは勝ち抜けるからもうすぐなんだよ」
「トライアル?…ああそうか、日本でプロになるのはライセンスが要るんだっけ。面倒なんだね」

蓮の納得したような言葉に尚はいらっとするのを覚えた。
そういえばこの男はカリフォルニアにいたとかなんとか。

いけすかねえ…

「あんたはあっちでプロじゃなかったのかよ?」
尚の言葉に、蓮はゆっくりと立ち上がった。自分よりだいぶ背が高い蓮は立つと威圧感があるが、その張り付いたような笑顔からは内面の感情を読み取ることは難しそうだ。
「大会で賞金をもらっていたという意味ではプロだったのかな、まだ若かったからあまり意識してなかった」
「はん、それで今はサラリーマンか」
「そうだね」
一瞬細められた目に尚は少し気圧された気がしたが、蓮はふいと視線を沖に移した。
「サーフィンで人と競うのは辞めたんだ。永遠に勝てない相手がいるから競争は無意味な気がして」

「…?」
尚がその言葉を頭の中で理解する前に、蓮は尚に向き直った。
「君は今日は乗らないの?このスポットに来た訳ではないよね」
「…ああ」
「じゃあ、お先に」
蓮はサーフボードを抱えるとさっさと階段を下りていく。
尚は帰りの車を呼ぼうと、ポケットに入れていたスマホを取り出した。コール音が鳴る間にも蓮はあっという間に沖に出ている。

ほんとに、いけすかねえ…!


短い通話を終えて車を待つ間、尚はなんとなく蓮のライディングを見守っていた。
深いボトムターンで勢いをつけた軽やかなリップアクション。思わずじっとその軌跡を追っていることに気がつき、「はっ」と尚は我に返る。

いや、大したことねーし。
それにしてもやっぱり一番腹立つのはキョーコだ!

イライラの原因を思い浮かべて空中に蹴りを入れながら、尚は海に背中を向けた。


「こんばんは」
その日の閉店時間間近。長身の男はキョーコの店の入り口に姿を見せていた。
「いらっしゃいませ」
「ああ、今はちょっと話がしたいだけなんだけど…いいかな?友達として」
テーブルにまだ片付けられていない食器はあるが、店内に他の客の姿はない。
「もちろんです。今閉めようとしたところでした」
キョーコは笑顔で蓮を導き入れ、入り口に掛けられた札を『CLOSE』にひっくり返す。

蓮が手伝おうとするのを丁重に押し止め、キョーコは蓮に椅子を勧めた。
「片付けの邪魔になるし、すぐに帰るよ」
蓮はそう答えたが、キョーコは冷蔵庫に目をやってちらりと蓮を見上げる。
「…残ってしまったアイスコーヒーがあるんですけど、召し上がっていただけませんか?」
「…ありがとう、いただくよ」

参ったな。

蓮は内心苦笑しながらカウンターについた。
キョーコの邪魔をするのも嫌なのに、うっかりするとずっと話していたい気持ちをセーブするための予防線もキョーコは無意識にあっさり崩してくれる。

前向きに考えれば嫌われてないと言うことだろうけど…

無意識すぎて余計な好意を集めてるのではないかと心配にもなる。
いや、俺が心配するのは変か?と頭を振り、コーヒーのグラスを持ってきたキョーコを隣に落ち着かせると蓮は口を開いた。
「昼は話せなかったんだけど、明日から出張で少しアメリカに行くんだ」
「どれくらいですか?」
「それほど長くないよ。2週間くらい。だから来週はこっちに来られなくて」
「そうなんですね…また、カリフォルニアですか?」

蓮は静かにうなずいた。グラスのコーヒーをひと口飲み、キョーコの顔を見る。
「仕事だけど…間に週末を挟むから、育った町に行ってみようと思ってる。家を出てから一度も戻れてないけど、今なら行かれる気がしてる」
「……」
真剣な表情に、キョーコは言葉が出なかった。ただ、笑顔でうんうんとうなずく。

「君のおかげだ」
「そんな、私は」
「君がいてくれるだけで十分なんだ」
「いえ…」
蓮が微笑むとキョーコの顔は少し赤くなった気がする。視線がそれ、また戻り、目が合うとまたすぐそれる。

好意を持ってくれるように見えるのは、俺の願望が透けてるだけか…?

しかし蓮はぐっと腹に力を込めた。このタイミングを逃したら、きっとまたしばらくきっかけがないまま時間だけが過ぎるのだ。
あの幼馴染みの動きだって、油断できないではないか。

「帰ってきたら君の答えが聞きたい」
「……?答え、ですか?」
キョーコはきょとんと目を丸くして蓮を見た。こちらを見る蓮の瞳の色に急に心臓が高鳴りはじめて、心の動揺を必死に押さえつける。

「俺と付き合ってくれないかな」

無理やり押さえつけた心臓がどかんと爆発する。
キョーコの全身の血はまるで瞬間的に沸騰したようだった。



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コメントコメント


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かなり進歩

友達になって、いい雰囲気の蓮とキョーコ、どうなることやらと思っていました。こちらの蓮さんは積極的なようですね。進展、心待にしてます!
キョーコちゃん、せめて、考えさせて……の返事にとどめてほしいです。断らないで!!!

更新楽しみにします!

harunatsu7711 | URL | 2016/07/31 (Sun) 18:48 [編集]


Re: かなり進歩

> harunatsu7711様

このお話の蓮さんは早々に吹っ切ってあまりヘタレてないですよね。
やはりサーファーって波に乗るのがうまいから(なのか?)

キョコさん、すっかり気おされていますがどこかで反逆できるのか(いやしていいのか)?

ぞうはな | URL | 2016/08/03 (Wed) 22:44 [編集]