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Catch the Wave (24)


こんばんはー。ぞうはなです。
なんとか今週2回目!





土曜日の夜に人知れず起こった変化はとても小さなもので、それは日常の風景の変化をもたらしはしなかった。

翌日曜日の朝、キョーコは色々と悩みながらも思い切ったように自転車にまたがりいつもの坂を海に向かって下っていた。

友達になったから行かない、てのも変よね。
ここのところ毎週この時間に海見に行ってるんだから、それをやめたらかえって不自然だもん。


あれこれ悩みはするものの、蓮に会う事が嫌な訳ではないのだ。
特に自宅の浴室での一件以降、顔を見るだけでどこかそれ以前とは違う感情がにじむような気がしてキョーコは自分の気持ちを警戒していたが、その違う感情自体も嫌なものではない。
それになにより、やはり蓮が波の上を跳ねる姿は美しく、ずっと眺めていたい気分になる。

えーーい、深く考えるのはもうやめ!

キョーコは心の中で叫ぶと、まっすぐ前を向いて自転車を走らせた。



さて、来てくれるかな…

控えめながらも自己主張はした。
昨日はあからさまに嫌がられはしなかったけど、一晩考えた結果で避けられたり嫌われたりしても仕方がないな…

蓮はいつもより早めに海岸沿いの駐車場に着いてすっかり準備も終えていたが、駐車場の端っこの低いブロック塀に座ってじっと海を見つめていた。
すでに数人が海に入って波を待っている。昨日に比べれば天気もいいし風も穏やかでコンディションはいい方だ。
これからどんどん暑くなるとこの時間ももっと人が増えるのだろう。

蓮は腕時計で時間を確かめるとちらりと国道の方に視線を向けた。
すると、見慣れた自転車が風を切ってこちらに向かってくるのが見える。蓮は無意識に微笑んで立ち上がった。

「おはよう、最上さん」
「おはようございます!」
キョーコは自転車から下りるとそれを引いて蓮の方にやってきた。
「よかった、来てくれなかったらどうしようかと思ってたんだ」
「そんな、そんなことしません」
語尾は小さくなり、キョーコは少し恥ずかしそうに顔を背けたが、蓮にはそれがかえって手ごたえに感じられる。

蓮は自分の車の後部ハッチを開けるとごそごそと中を探り、キョーコにペットボトルを渡した。
「今日は朝から結構暑いね」
「あ、ありがとうございます!そうですね、湿度が高いです」
蓮がブロック塀に腰かけて自分のペットボトルを開けたので、キョーコも少し間を空けて腰を下ろした。

蓮はペットボトルに口をつけるとちらりと横に座るキョーコを見下ろした。どうやら向こうも蓮を見ていたらしく、慌てて目をそらしてペットボトルの蓋を開け、一口飲むとまたそろりと見上げてくる。

蓮は無意識にペットボトルを握り締めていた。危うくつぶしそうになって我に返る。
改めて自分の気持ちを確認してからキョーコに会うと、なにやら言葉では言い表せない衝動のようなものが突発的に湧き上がってきて危険だ。
今ここで行動を誤れば、間違いなく相手は怯えて離れていく。
先日の浴室での一件も、なんとか誤魔化してその後も触れなかったからうやむやに出来たが、これ以上は許されないだろう。

蓮は静かに息を吸って吐いて、それからようやく今日の波についてキョーコに話しかけた。


やっぱり遅くなっちゃった!

後悔しながら自転車を漕いでいるのは光だ。
光はウエットスーツの上半身だけ脱いだ状態でTシャツを着て、ビーチサンダルで自転車のペダルを漕いでいる。
自転車横のキャリアにはサーフボードが括り付けられ、今日は散歩ではなくサーフィンのいでたちだ。

昨日は大学友人の麻雀に付き合って、危うく朝までコースになるところだった。
自分は人数合わせの代打だったため、本来のメンツが顔を出したところで開放されたのだが、それでもすでに日が変わっていた。


休みの日くらい朝早くから波に乗らないとな。

一応そんなことを呟いてみるけれど、光の頭は「もうキョーコは駐車場を通り越して店に帰ってしまっただろうか」というその事ばかりを考えている。
土曜日は買出しで毎週自転車を走らせていることはキョーコにも確認している。
けれど最近キョーコは日曜日も朝このあたりに散歩に来ているらしいのだ。蓮に聞いても頷いていたし、他の朝早いサーファーからも目撃情報が取れた。

チャンスだって分かってるのに、起きられないのが悔しいよ…

元々早起きは苦手だが、そんなことも言ってられない。
光が駐車場に近づくと、海側のブロックに座る2人の人の後姿が見えてきた。

「あれは…キョーコちゃんと敦賀君だ」
キョーコと蓮は何か話しているようだ。キョーコが身振り手振りを交えて何かを話し、隣の蓮は頷きながらその話を聞いている。
蓮が何かを言うと、キョーコが笑いながら蓮の顔を見る。そしてそれに答えるように笑う蓮の表情は、男の自分でも赤面してしまうほど柔らかく甘いものだった。

光はガンと何かで殴られたような衝撃を覚えた。

敦賀君……いつの間にそんなにキョーコちゃんと仲良しに…?


駐車場の入り口で自転車を降りると、光は意を決して2人に近づく。

じゃりじゃりと、ビーチサンダルと車輪が砂を踏む音が聞こえたのか、蓮が振り返った。
「おや、おはよう石橋君」
その声にキョーコがぴょんと飛び上がるように立ち上がり、くるりと振り返って光の姿を確認すると満面の笑みを見せる。
「おはようございます、光さん!」

声は明るく、お辞儀は深く丁寧。
そんないつものキョーコの姿に、なぜか光は少しだけ胸が痛いような気がした。けれど光も笑顔で明るい声を出す。
「おはよう!敦賀君はこれから?」
「うん」
「あ、ごめんなさい!」
光の質問に頷いた蓮に、キョーコがはっとして腕時計を見た。
「敦賀さんサーフィンに来てるのに私…!」
「いや、俺も最上さんと話してるの楽しかったからついつい、ね」
「ほんとですか、遠慮しないでくださいね」
「本当だよ」
蓮は笑うとゆっくり立ち上がった。

「けど、最上さんも大丈夫だったかな。お店の仕込みとか」
「はい!お気遣いありがとうございます。まだ余裕はありますよ」
「今日は混みそうだね」
「たくさんお越しいただくのはありがたいことです!」
光は二人の会話を聞きながら自転車を停め、サーフボードをキャリアから外す。

「お二人のライディング、少し見させていただいてよろしいですか?」
「もちろん」
「いくらでも!」
キョーコの質問に蓮と光が即座に答え、キョーコは一瞬きょとんとしてから顔をほころばせた。


「……」
駐車場からの階段を下り砂浜を波打ち際に向かって歩きながら、光は言葉を探していた。
聞きたいことはあるのだが、無遠慮にぶつけていいのかどうかが悩ましい。
「石橋君に最初に伝えておきたいことがあるんだけど」
考えているうちに蓮のほうから声をかけられ、光ははっと顔を上げた。
「え、あ、うん。な、なに?」
「……うん。この間、社さんに言われた確率の話」
「?」
首をかしげてから光は「ああ!」と顔を上げた。それから「え」と思わず駐車場を振り返りそうになり、すんでのところで思いとどまる。
「ゼロじゃないって言ってたけど、ゼロじゃなくて100だった。いや、100になった」
「それって」
「俺が、石橋君のライバルになるってこと」
「それってキョーコちゃんのこと?」
光はなんとなく首をすくめて声をひそめる。ここでの会話はキョーコに届くわけはないのだが。

蓮はざぶざぶと海に入りながら首を縦に振った。
「そう」
「えっ、もしかしてもう、付き合ってるとか……」
恐る恐る発せられたその問いには、蓮は笑いながら「違うよ」と否定の言葉を返して、光は安堵のため息をつく。
「けど、俺にはそうしたい気持ちがある。だから君にはちゃんと伝えておこうと思って」

フェアな立場でいたいという、蓮からの宣言だ。
だが光は、だとしてもなんだか自分は勝ち目がないんじゃないだろうかと、そう思ってしまう迫力を、蓮の笑顔から感じていた。

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