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Catch the Wave (23)


こんばんはーーーーー!ぞうはなです。
大変遅くなりましたがようやく更新です!





「そろそろ今日もおしまい、かなあ」
キョーコはテーブルを拭く手を止めてガラス越しに外を見た。
時刻は19時を回っているが、まだ外は昼間に近い明るさだ。夏の間、週末の閉店時刻を少し繰り下げているのだが、今日は風も強くてお客はこれ以上来ないように思える。


とはいえ…ラストオーダーまでまだ時間あるもんね。


ついさっき会計を終えたカップルが店を出てからは、店内はがらんとして静かだ。
明日は天気も少し回復し、気温も上がりそうなので忙しいだろう。キョーコは片付けも兼ねて各テーブルをきれいに整えていった。

カウンターに戻るころ、駐車場にテールランプの赤い光が見えた気がした。
ふと振り向くと、1台の車が店の横のスペースに駐車しているのが見える。少しだけ見えたその車の色は蓮の車と一緒で、キョーコは一瞬蓮かと考えてから「いやいや」と頭を振った。

いやだなもう、来る訳ないじゃないこんな時間に。

しかしガラス戸の向こうに姿を見せたのは到底見間違えることのないシルエットで、キョーコの心臓は突然のことにバクバクと音を立て始めてしまったのだった。


「ごめん、まだ閉店ではない?」
「いらっしゃいませ!もちろんまだラストオーダーまでは時間ありますし大丈夫です」
そっとガラス戸から顔を覗かせた蓮を、笑顔のキョーコが出迎える。
「よかった。もう片付け始めてるかと思ったんだけど」
「もうどなたもいらっしゃらないかなと思ってはいましたけどね」

お好きなところへどうぞ、とキョーコに促され、蓮はカウンターの席に手をかけた。
「でも初めてですね、こんな時間にいらっしゃったの。それに今日は昼もお越しいただいて」
「うん」
席に着いた蓮がこちらを見ているような気がして、キョーコはやや緊張しながら水をグラスに注ぐ。

いやね、自意識過剰よ。


キョーコは一度目を閉じて気持ちを落ち着かせると蓮の前にグラスを置いた。
「ありがとう……今日はちょっと最上さんと話せてない気がして」
「……そう…でしたっけ?」

ざざあっと今日の出来事がキョーコの脳裏に蘇る。
そういえば朝はなんだかえらく誤解しそうなセリフを聞いて、動揺を誤魔化しきれなくて蓮のライディングを見もせずに逃げ帰ってしまった。
昼にお店に来てくれたときも女性が一緒だったから…いやいや、それを抜きにしても忙しくてカウンターからほとんど出なかったため、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」しか言えなかった。

「気になってるのは俺だけか」
蓮の言葉にキョーコはグラスを載せていたトレイをぎゅうっと両手で抱いて、恐る恐る蓮の顔を見る。
「いやそんなこと…」

気になっているか、と言われれば答えは出ている。確かに気になっていた。
多分話せなかったことだけではない。蓮が自分の視界に入っているときは、その言動が気になって気になって仕方がないのだ。
それは先週のあの一件があったからだろうか。
いやでも、そもそもそうなったのは自分が蓮の安否を心配して海で冷え切るまで突っ立っていたからで、なんでそうしたのかと言うと……


「困らせるような事言ってごめんね」
蓮は視線はこちらにありながらも心ここにあらずのように感じられるキョーコを見て、ふっと息を吐いた。
「あ、いえ!そんなことはないです」
にこりと笑えばキョーコは驚いたように目を逸らす。

蓮は目の前に置かれたグラスについた水滴を、指先でついとなぞった。
「先週ここを訪れてからずっと…今日ここに来るのが待ち遠しかったんだ」
「え」
「どうしても君に会いたくて。今日はどれだけ海が荒れても天気が悪くても来るつもりだった」

キョーコは目をまん丸に見開いて蓮を見てから、おろおろと視線をさまよわせ、それからポツリと尋ねた。
「その……朝もそんなこと言っていただいてその、あの、そう言っていただけるのは嬉しいんですけど…」

「けど」という言葉は、その後に来る続きを考えると少し緊張する。
否定の言葉が来るかもしれない、と蓮は内心で身構えた。
「その、恐縮するといいますか、私本当に敦賀さんに対して何もしてないと言いますか、お役に立ててることなんてここで料理を作ることくらいで」

もどもどと言葉を選びながらも話すキョーコに、蓮はフワッと笑う。
「なんだ、この間も言ったのに聞いてなかった?」
「き、聞いてました聞いてました!けどその、それでも私不思議で」
「君に会いたい人なんて、いっぱいいると思うけどな。お客さんによく言われるだろう」
「そんなのお客様のお世辞といいますか、そう!社交辞令ってものですよ」
うんうんと自分で言って納得するキョーコに、蓮はやれやれとため息をつく。

「俺のは社交辞令じゃない、という前置きを確認したうえで聞いて欲しいんだけど、いいかな?」
蓮に真面目な顔でじっと見られると、キョーコは頷くことしかできない。
「どれだけたくさん会って言葉を交わしても、"立場"が同じなら何の進展もないから」
「???」
キョーコはやや怪訝な顔で首をひねる。蓮はそれを確認しながらゆっくりと言い含めるように続けた。
「君が嫌じゃなければ、『この店の店主と客』という立場じゃなくて、最上さんと友達になりたいんだけど」
「友達…ですか?」
「そう。このお店という仲立ちがなくても縁の切れない関係がいいな。ダメかな?」
「だだだ、ダメじゃないです!私でよろしければ喜んで!!」

ぴしりと敬礼したキョーコに、蓮はにっこりとほほ笑んだ。
「よかった。じゃあお店じゃなくて君の個人の連絡先、聞いてもいいかな」


「遅くまでごめんね。コーヒー頼んだの、ラストオーダーの時間過ぎてなかったかな」
「いえ大丈夫です。逆に、敦賀さんがいらっしゃるのに片付け始めてしまってすみません」
「俺がいなかったら店閉められてたんだ。謝ることじゃないよ。ほら、半分お客としてだけど、半分は友達としていたんだし」
「はあ」
蓮は店のガラス戸を押さえたまま見送りに立ったキョーコを振り返った。
「今日はすごく楽しかった、ありがとう」
「そそそんな、こちらこそ!」
「やっぱり最上さんはサーフィンに詳しいよね。俺も勉強になる」
「とんでもない!敦賀さんは知識だけじゃなくてテクニックもおもちじゃないですか。私なんてお呼びじゃないです」
「そんなことないよ」

蓮はキョーコが少しもじもじと小さくなっていることに気が付いた。
「どうしたの?何か嫌だったかな、我慢しないで言ってほしいけど」
「ち、違います!嫌だったとかじゃなくて…そのあの、大変失礼いたしました!」
急に頭を深く下げられて、蓮は目を丸くする。

「な、なんで?俺何も謝られることないよ」
「いえ。私最初敦賀さんが連絡先を聞かれた時、一瞬ナンパされてるのかと身構えてしまいました。申し訳ありません」
「え」
「いえ、顔見知りなのにナンパというのも違いますね」
「口説いてるってこと?」
ああ!とキョーコは目を輝かせて手をパンと打つ。
「それです!」

それからすぐにキョーコの表情は申し訳なさそうなものに戻り、蓮はその変化に吹き出しそうになった。
「なるほど、でもやっぱり君が謝ることじゃない」
「けど、そんな捉え方、失礼じゃないですか」
「そんなことないって。…間違ってないからね」

「…へ?」
さらりと出た蓮の言葉に、たっぷり5秒ほど静止してからキョーコは間抜けな声を出す。
「だけどいきなり『付き合ってくれ』なんて言ったって、君が首を縦に振るわけがないから。俺はまず君とちゃんと友達として仲良くなれればいいんだ」
「え、ちょっ…」
「深く考えなくていいよ。今すぐ答えを出さなくていい。ただ週末、下の駐車場を通りかかったときはぜひ声をかけてもらいたいな。今までと変わらなくていいんだ」
「は……はあ」

「じゃあ、ご馳走様。また明日、くるよ」
「あっはい!お待ちしております」
とりあえず考えを中断して頭を下げたキョーコに、蓮は片手を軽く上げると大股で車のほうへと向かった。


やれやれ…一筋縄ではいかないと思ってはいたけど、これはかなり難攻不落だな……
思考がどっちを向いているのか、まったくわからないなんて。


ちらりと明かりの漏れる店のほうを見てから、蓮は運転席のドアを開けて車に乗り込む。

少しでも俺のことを意識してくれている間にと思ったけど、あの子は勢いだけで押してもだめそうだしな…
混乱するだろうけど一度ちゃんと考えてもらって…それからだな。


すっかり暗くなった空の下、蓮の車は国道へと滑り出し加速してトンネルの中に消えていった。


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コメントコメント


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口説いているのです。(笑)

こんばんは。

やっとこさ前進した二人ですね。蓮は口説いているのですよーーと、思わず唸ってしまいまた。
二人の距離が近づいてきていて、次回が楽しみです。せっかく友達になったのですから、店や駐車場以外でのデートもあればいいですね。

harunatsu7711 | URL | 2016/07/12 (Tue) 01:12 [編集]


Re: 口説いているのです。(笑)

> harunatsu7711 様

コメントありがとうございます!お返事遅くなりました。

キョコさん、「私はあなたを口説いているのです」とはっきり(真顔で)言わないと、果てしなく曲解しそうですよね。
なかなか一筋縄ではいかないキョコさんのこと、さて蓮さんはどう陥落するのでしょう…

ぞうはな | URL | 2016/07/14 (Thu) 23:53 [編集]