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Catch the Wave (18)


おばんどす~~

…ぞうはなです。
やっと金曜日の夜ー、とほっとしながらの更新です。





蓮はキョーコの体を半ば抱えるようにして砂浜から駐車場に上がった。
背中に腕を回せば、キョーコの全身が震えているのがよく分かる。この雨と強風の中ずぶ濡れで海の中に突っ立っていれば体温は容赦なく奪われる。
蓮は舌打ちしたい気持ちでキョーコの自転車の脇に自分のサーフボードを放り出すと、まとわりつくリーシュコードをイライラとはずした。

「とにかく暖かくしないと。君の店に向かうけどいいかな」
こくりとキョーコは頷くが、蓮が車の助手席のドアを開けるとふるふると首を横に振った。
「駄目れふ…濡れちゃいまふ…」
ろれつが回らないキョーコはそれでもそんなことを気にしていて、蓮は心が痛くなる。

「そんな事言ってる場合じゃないよ」
蓮はキョーコの体を抱え上げると助手席のシートに下ろした。すぐに後ろからタオルを取り出してキョーコの上半身をくるむ。
「少し我慢して」
まだふるふると震えながら、それでも自分と目を合わせて頷いたキョーコに少し安堵し、蓮は運転席へと回りこんだ。

まったく……!
これほど心配されてるなんて…思わないじゃないか。


車のエンジンをスタートし、ワイパーを動かせば大きな水音がしてフロントガラスの視界が開ける。しかしすぐに無数の雨粒がまたガラスの表面を流れていった。

最後の1本なんて言わず、上がっておけばよかったんだ。
最上さんがこうなったのは…俺のせいだ。


裸足のまま踏むアクセルペダルの感覚は痛いくらいだが、車で走ればキョーコの店はすぐそこだ。細かいことはどうでもよく、とにかくキョーコの体を早く温めなければならない。
車はすぐにキョーコの店の駐車場にたどり着く。蓮はなるべく店の入り口近くに車を停めると助手席のドアを開けてキョーコを下ろした。
「鍵、持ってる?」
店の入り口がロックされているため蓮はキョーコに声をかけた。キョーコはショートパンツのポケットを探ろうとするが、手が震えているのか上手く鍵を取り出す事が出来ない。
「ここ?ごめん、ちょっと取るよ」
蓮は声をかけてキョーコのポケットを探ると、ドアを開けた。

キョーコはこの店の住居部分に住んでいると言っていた。
そう思いながら蓮はキョーコの体をひょいと抱き上げると歩きながら聞いた。
「風呂場はどこ?」
「扉の奥…すみません敦賀さん、もう大丈夫ですから」
「いや気にしなくていい」
キョーコの歯がかちかちと音を立てているのが聞こえるし、言葉を話すのにも力が入っていない。その状態で一人で放置するなど、考えられないだろう。蓮はカウンターの奥の扉を開けるとそのまま廊下を進み、すぐに見つけた浴室へとキョーコを運び込んだ。

足から力が抜けてしまいそうなキョーコを抱きかかえて洗い場に立ち、シャワーから湯が出ることを確認するとぬるめのお湯をキョーコの首元へとかける。前から蓮に包み込まれる体勢になったキョーコはぶるっと体を震わせると、力を抜くように蓮にもたれかかった。

小さく震え続けるキョーコに、蓮は少し考えるとシャワーをホルダーにかける。
「…ちょっと待ってね」
そう言うと蓮は自分の背中のファスナーを引き下げて着ているウエットスーツを脱ぎにかかる。体にぴたりとフィットしたスーツは人を片手で抱えたまま簡単に脱げる代物ではないが、蓮はとりあえず上半身をウエットスーツから引き抜くことに成功した。
キョーコは混乱してただ見守るだけだが、蓮がスーツを下まで引き下ろすので反射的に目をそらす。

キョーコの朦朧とした意識が温かいお湯で溶けるように少しずつはっきりしてくる。自宅の風呂場に蓮と2人、頭からシャワーを浴びているその状況が理解できず、半ばパニックだ。そしてまだ震えは止まらず体に力は入らず、キョーコにはどうすることもできない。

なんとか無理やり片手でスーツを脱いだ蓮は、有無を言わさずキョーコのシャツを上に引き抜いて脱がせた。
ぴしゃ、という音を立ててシャツは床に落とされ、キョーコはブラむき出しの姿に羞恥でどうにかなりそうだったが、固く縮こまった体はすぐに温かいものにすっぽりと包まれる。蓮の顔はキョーコの後ろ側に向けられていた。
「ごめん、シャツを着てると逆に体温が奪われるから。…こうしてれば見えないから少し我慢して」

蓮に抱きかかえられたままキョーコは蓮の胸におでこをつけて目を閉じた。
後ろからシャワーのお湯がかけられ、冷えた肌がジンジンする。

あったかい…それになんだろう、安心しちゃう……

震えはまだ止まらないが、このしっかりとした腕に身をゆだねていれば心配ないのだと、緊張していた気持ちが弛緩していく。
包み込んでくれる蓮の素肌が温かくて、「ああ、そっか。ウエットスーツだと冷たいから脱いでくれたんだ」と、蓮の行動に合点が行き、その優しさにキョーコは心までが温かくなった。

しばらく無言の時間が過ぎる。
蓮はキョーコを囲っていた腕をゆるめてキョーコの顔を見下ろした。
まだ寒そうではあるが、血色が戻りつつある。少しほっとして、キョーコに言葉をかける。
「湯船で温まった方がいいから、そっちに入るけどいい?」
「え…は、はい。けど入れます」
キョーコは慌てて蓮から離れようとしたが、自分の格好を思い出して思いとどまる。
「無理しなくていいよ」
ひょい、と持ち上げられて湯船に入れられ、キョーコはぺたりと湯船の床に座り込んだ。


どどどど、と音を立てて湯が注がれていく。
キョーコは湯船に座り、後ろから蓮に抱えられるような体勢になっていた。
まだ水位は低いが、蓮がこまめに湯をキョーコの肩からかけてくれるおかげで寒くはない。それでも体の痺れはまだおさまらず、キョーコは自分の体がどれだけ冷えていたのかを今更ながら実感していた。

湯の中で両手を握ったり開いたりしているキョーコの後ろで、ずっと黙っていた蓮がぽそりと口を開いた。
「本当にすまなかった。迷惑かけてごめん」
「え…そんな!違います、迷惑かけたのは私です!」
「いや。君はあの堤防の辺りに強いカレントがあると知ってたんだよね。荒れると激流になって危ないと。それで心配して見にきてくれたんだろう?」
「それは…それはそうですけどでも」
「俺もカレントがあることは分かってはいたんだ。なのに無様に巻き込まれて。君が来てくれたときに俺が流されてなければ、こんなことにはならなかったのに」

キョーコから見える、後ろから伸ばされている蓮の右手がぎゅっと握りこまれた。
「……ほんとは」
キョーコは俯いてしばらく考えてから顔を上げた。
「敦賀さんなら多少荒れても大丈夫だろうって、頭では分かってたんです。だけどごめんなさい、どうしても気になっちゃって」
「…気にしてくれたの?」
「……はい」
蓮は桶に湯を汲むとまたゆっくりとキョーコの肩にかけた。

「けど、君もいちいち客が遭難してないかどうか気にしてたら気が休まらないだろう」
蓮に言われてふとキョーコは考え込んだ。

今まで、どうだっただろうか。
店を訪れる客は常連さんが多いが、いちいち誰がいつどこでサーフィンをしているかなんてことは把握していないし、一人ひとりの動向をそこまで気にしたことはなかったはずだ。
急に天気が悪くなること、海が荒れることはそれほど珍しくもないが、溺れる人などが出ないことを祈ることはあれど、わざわざ海まで様子を見に行ったこともない。


いや。

キョーコはすぐに自分の考えを否定した。

こんな思いをした経験はある。忘れられない強烈な記憶。
それはまだ店を開く前のこと。
曇りがちの風の強い日だったが、キョーコが予想した以上に海が荒れてしまった日。
あの日、キョーコの頭を一杯にしていたのは幼馴染の、大好きな男の安否だけだった。
海にいるのかどうかすら知らなかったが、その日の朝、尚に波と風の様子を聞かれていたので、キョーコは暴風雨の中考えられるポイントをすべて探して回った。風邪を引いて体調が悪かったのだがそれを押して、自転車を走らせた。

けれど肝心の尚は結局海にはおらず、友人の部屋でだらだらと遊んでいたのだ。

その日の無茶がたたってキョーコが肺炎をこじらせて入院しても、かったるそうに見舞いに訪れた尚には「お前が勝手にやったんだろうが」と不満げに言われ、キョーコは尚が帰った後の病室のベッドで一人こっそりと泣いた。


思い出すだけでムカムカと不快な思いがこみ上げて、キョーコは眉間に皺を寄せて額に手を当てる。
「大丈夫?痛むところある?」
後ろからの蓮の声に、キョーコは我に返った。
「い、いえ!違います。大丈夫です」

やだ…私、あの時みたいに敦賀さんのことを心配してたの?

キョーコはようやっと自分の意識の偏りにはっきりと思い当たった。


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コメントコメント


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きゃー!

ここにきてまさかのお風呂展開にびっくりドキドキ!!
蓮様の今の気持ちがめちゃくちゃ気になりますー!!

心配かけたことを責めすぎてそれどころじゃないのかな?いや…でも…なんて考えちゃいます。

風月 | URL | 2016/06/11 (Sat) 19:40 [編集]


Re: きゃー!

> 風月様

コメントありがとうございます!
やっぱり冷えた体はお風呂で温めるでしょう!!なんて。
蓮さん、シチュエーションで暴走したりはしないだろうけど、やはりぐらぐら来ちゃいますよねー。

ぞうはな | URL | 2016/06/15 (Wed) 23:02 [編集]