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Catch the Wave (16)


こんばんはー!ぞうはなです。
なんとか今週2本目の更新!!





「なんで私が逃げなくちゃいけないんでしょう」

ふん、とキョーコは厳しい顔で海を見つめる。
「人をいいように使って気持を踏みにじったのはあいつです。なのに気まずいからって私が逃げるなんて、自ら負けを認めてるようなものじゃないですか」

「それは…そうだね」
思いがけないキョーコの迫力に、蓮は事情を知らないが相槌を打つくらいしか出来ない。
「絶対に負けてなんてやりません。私はあいつを踏み越えていかなくちゃ気がすまない。人を踏み台にしたことを、後悔させてやるんです」
キョーコはきっぱりと言い切った。

「もしかして今は、そのためにここにいる?」
「それだけではないですけど、それも大きいです。お店をやることで、私は自分のやりたいことをあんな奴に惑わされずに成功させるんだって、実証してやろうと思って」
「なるほど…」
「…あいつのご両親に頭を下げられるのは辛かったですけど、格安の家賃でお店と住まいの両方を提供してくださって私の夢を後押ししてくれました。本当に感謝してます。けど、実のところ私もそのご厚意を利用してるって事ですよね」
ようやく落ち着いたようにキョーコは表情を戻して寂しげに息をついた。
「いいんじゃないかな」
しばしの間の後楽しそうに笑いながら蓮が言うと、キョーコはきょとんと蓮を見た。
「彼のご両親が君のために建てた店で君がこの町を盛り立てて、傍から見れば確執は解消されていい関係だ。彼と君とのことは置いておいてもね」
「はあ…そう言っていただけると……」
キョーコは蓮が楽しげなのを不思議そうに見守る。
「…君はすごいね」

なんか…笑いながら言われると誉められてる気がしないんだけど。

笑顔での台詞にキョーコは少し首をかしげたが、蓮はふいと真剣な表情を作った。
「思い切ってこの海に来て、君に会えてよかった。本当に」
まっすぐな目に見つめられてキョーコの心臓が跳ねる。
「な、なんですか急に」
「君はそうやって、もしかしたら自分の知らないところでたくさんの人の心を救ってるのかもしれないな」
「そんなオーバーな。大体救うだなんてなにも」
「少なくとも俺はそのうちの一人だ」
「は……?」
「俺を誘ってくれた石橋君には感謝しないといけないな。…今後争うことになるかもしれないことは置いておいても」
「は?」
ぽかんと口を開けたキョーコに笑いかけると、蓮は立ち上がって傍らに置いたサーフボードを抱え上げた。



サーフィンコンテストか…懐かしい。

つい昨日までは思い出すのも辛かったはずだ。しかし沖に向かってパドリングする蓮の脳裏には、もう何年も前の記憶が鮮やかに蘇っていた。

どうしてもリックには勝てなくて…いつも準優勝ばかりだったな。
たまにリックが出られない大会で優勝できたとしてもそれはそれで虚しくて。

『俺に遠慮をするな。お前はもっと実力があるんだろ?』

黒髪の精悍で朗らかな笑顔が思い出される。
自分はいつも本気で、100%の力で臨んでいるつもりだったのに、いつもそうやって怒られて。リックの方が年上なことや、経験の差を挙げてみても理由にならないと笑い飛ばされた。

『…だけど絶対今度は俺が優勝するよ』
『おお、望むところだ』

自分にとってリックは親友で、兄のような存在で、目標でもあった。大人になるまでずっと一緒に過ごせると思っていた。
その気持ちを思い出すだけで蓮の胸の奥に鋭い痛みが走る。
しかしすぐに、キョーコの笑顔が自分を励ましてくれるようなそんな気持ちになる。

『なんで私が逃げなくちゃいけないんでしょう』

そうだな。

困難であろうと逃げずに立ち向かう。
キョーコにとって、それは当たり前のことだ。だけど自分はそこに到達できずにずっと彷徨っていた。踏み出さなくてはいけないのにもう何年も、同じ場所に立ち止まっていた。
キョーコの笑顔を見ると、そのずっと踏み出せなかった一歩が実はすごく簡単なことのように思える。

『まーたうじうじ考えてんのか?』

リックの声が聞こえてくる。

『考えないでやってみろよ。チキンと言われたくなければな』

リック。俺を恨んでないのか?

聞きたくて聞けなかった問い。
蓮は心の中で尋ねてみた。

『そんな訳ないだろう!悩んでる暇があったら1本でも多く波に乗れよ。永久に俺に追いつけなくなるぞ』

そうだな。そろそろちゃんと、前を向こう。

蓮はちらりと駐車場の人影に目をやると、波に合わせて勢いよく立ち上がった。



小さな鼻歌が、人気のない店内に響く。
とんとんと響く包丁のリズムが止まると、キョーコはふと顔を上げて呟いた。
「そっか、今日は作りすぎると余っちゃうよね」

蓮が波の上を軽やかに滑るのを何本か見てから店に戻ってきたが、帰り道の店近くのポイントはがらんとしていた。きっと大会の会場はこちらと対照的に賑わっているのだろう。

でもおかげで敦賀さんのサーフィンをのんびり見られたし。
海から逃げたって言ってた気がするけど…今は向きあえてるみたいだよね。

今朝の蓮はいつも以上に固さが取れて、楽しそうに波と遊んでいるように見えた。
自分が何をした訳ではないと思うが、蓮が悩んでいたことを解決できたようで自分のことのように嬉しい。


下ごしらえ…こんなもんでいいかな。

普段週末は大量な仕込みになるのだが、今日はおそらく平日並だろう。
そう思ってキョーコはまな板をきれいに洗い壁の時計を見上げた。時刻はまだ10時前で、開店までしばらく時間がある。


「混みすぎると疲れて大変って思うけど、お客さんが来ないとそれはそれで寂しいなんて…わがままよね」

けれど今朝、海に入る前に蓮は笑顔で言った。
「昼前にお店に行くよ」

それだけでもなんとなくキョーコは心がはずむ。
いや、今朝の蓮の笑顔を思い出すと、単純に嬉しいと言うよりも何か胸の奥がむずがゆいような不思議な気持ちになってしまう。

変なの、なんだろう?

考えながらキョーコはカウンターからフロアに出た。
何気なく外に目をやると、ガラス越しに見える空は水平線から立ち上る黒い雲が空の大半を覆っている。

「うそ?」
今日は雲が出るものの荒れはしない、そんな予報だったはずだ。朝蓮の元を訪れたときものどかないい天気で、雲も積乱雲ぽくはあったがこんなにどす黒くはなかった。
それなのに気がつけばこの短時間の間に風も更に強くなっているようで、かすかに風の吹きぬける音がするし木立が大きく揺れている。

こんな急変……予想もしてなかった…
どうしよう。嵐になりそう…

キョーコはガラスに張り付いて不安げに外の景色を見つめた。


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コメントコメント


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蓮が自覚?

こんにちわ。harunatsu7711と申します。
石橋くんと争うことになるって…、蓮はキョーコへの想いを自覚したのでしょうか。ここでの蓮は、恋愛音痴ではないのですね!嬉しいです。

更新楽しみにしてます。

harunatsu7711 | URL | 2016/06/05 (Sun) 06:45 [編集]


Re: 蓮が自覚?

> harunatsu7711様

コメントありがとうございます!
そう、蓮さんはキョーコへの自分の感情を認めてしまったようです。
言われた方のキョコさんがまったく分かっていないんですけどね。

ぞうはな | URL | 2016/06/08 (Wed) 22:30 [編集]