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Catch the Wave (14)


こんばんは、ぞうはなです!
ここのところすっかり低迷ペースで申し訳ありませんー。
お話の進展の方もなかなか亀ですが、じわじわ参ります。





翌週の土曜日はやや曇りがちの朝からスタートした。
いつも通り野菜がいっぱい載った自転車を漕ぐキョーコは、八百屋に着く前からずっと自問自答を繰り返していた。

別に私、期待してるわけじゃないんだから。
ただいつも土日には朝早くからサーフィンしてるのが普通だからいないと調子が狂うってだけで。

ペダルを踏み込むたびにきしむような音が後輪の方から聞こえて、そろそろ油をささないと駄目かななどと、上の空ながらキョーコは思う。


敦賀さんのライディングは私の理想に近いのよ。あのプライドばっかり高い馬鹿よりよっぽど自然できれいだと思うから、見られたら嬉しいし見られなかったら残念だし。
それだけよ、それだけ。

海沿いの道を進むと目指す駐車場が段々と近づき、停まっている車がはっきりと認識できるようになってくる。
しかしこの日は車を探す必要もなかった。車のリアハッチを開け、そこに上半身を突っ込んでいる男性の姿が遠くからも見える。近づけばその長身は疑いようもなく、キョーコはやや緊張しながら近づいて声をかけた。
「敦賀さん、おはようございます」
「ああ最上さん。おはよう」

曇り空の下なのに太陽を直接見てしまったような眩しさを感じるのは気のせいだろうか。
蓮の笑顔を直視できず反射的に目を伏せてから、キョーコは蓮の車の後ろをちらりと覗き込んだ。
「なにかお探し物ですか?」

蓮は既にウエットスーツを着込み、サーフボードも地面に下ろされて準備万端に見える。それなのに未だ車のラゲッジルームで何かしているということは、とキョーコは推測したのだ。

「ああいや、ちょっと人を乗せる事になって」
軽く答えられて改めて見てみれば、普段は倒されている後ろの座席の背もたれが起きている。作業を終えてラゲッジルームから出た蓮が続けた。
「今日はなんだか会社の人が来るみたいなんだ」
「敦賀さんが迎えに行かれるんですか?」
「そう。俺しか車がないから、駅までね」
蓮は駅の方向を指差す。
この海岸から最寄の鉄道駅までは徒歩で10分程度だ。歩けない距離ではないが、初めて訪れる人にとっては分かり易くはないし、この場所をピンポイントで伝えるのも難しい。
確か慎一も車を持っていたはずだ、とキョーコは考えたが、慎一と雄生は光の大学の友達で蓮と同じ会社に勤めていはない。光も社も車がないので、蓮が迎えに行くしかないのだろう。

「サーフィンされる方が増えるってことですね」
「いや…彼女たちはやらないんじゃないかな。見に来るって言ってたし」

あ、そういうことね。

社や蓮たちはサーファー仲間といつも行動しているから、てっきり新しく来るのも男性なのかと思い込んでいた。けれどもそうではなく、今日ここを訪れるのは蓮たちを見に来る女性たちのようだ。
蓮は言わずもがな、光や社だって顔立ちは整っているしサーフィンをするだけあって体もスッキリ引き締まって格好がいい。蓮と一緒にいると蓮のルックスがあまりに飛びぬけているために周りが目立たなくなってしまうのだが、他のグループの女性達が社や光などのことを店で噂しているのだって何度も聞くくらいだ。


「楽しそうですね」
何気なく出た一言は深い考えがあっての事ではなかった。ごく単純に、今日ここを訪れる女性たちは少なからず蓮たちのサーフィンが見たいのだろうし、蓮は女性にもてるだろうし、と漠然と思っただけだ。
それなのに、何故かキョーコのその言葉を聞いた蓮の顔はわずかに曇ったように見えた。
「んーー。俺は集中してサーフィンがしたいだけなんだけど」
「あ、そうなんですか。誘われた訳では」
「ううん、俺もそれほど仕事でも関わらない人たちだし。石橋君が話に出したら、ぜひ見に行きたいって言われたみたいだよ」
「…あーー……けどあの」
キョーコは言いかけて少し躊躇って口を閉じた。
「うん?」と蓮に首をかしげられ、言いかけた事を途中でやめることもできず観念して口を開く。

「敦賀さん、先週は私に見ててほしいって仰ったじゃないですか。だからギャラリーが増えるのはいい事かなと、なんとなく思いまして」
「ああ…」
蓮は納得したように返事をするとふいと目をそらして口元に手を当てる。それからちらりとキョーコを見てぽそりと言った。
「だからと言って、見てくれるなら誰でもいいって事じゃないんだけど」
「え?」
キョーコは予想外な蓮の答えに思わず聞き返す。
「先週、俺は君に見てもらえるのを待ってたんだ。君じゃないと意味がなかった」
「………」
キョーコはぱくぱくと声にならず口を開閉させる。
「そんなに驚く事?」
「いやだって!…なんで私なんですか?」

キョーコの問いはごく当たり前のことだった。
自分は蓮の友達でも恋人でもなく、個人的な付き合いがある訳でもない。単に蓮がよく訪れる店で働いているというだけだ。蓮にそう言われて嫌な気持ちはないが、言われる理由が分からずに驚いてしまう。

「最上さんは海にもサーフィンにも詳しくて的確なコメントをくれるし、なにより…」
蓮の台詞の前半だけでキョーコには十分だ。なのに蓮はもうひとつ理由を告げた。
「君が見ててくれると気分が乗って、波にも上手く乗れる気がするんだ」


午後3時を過ぎ、海沿いの丘の中腹に建つ店では昼から入っていた千織が仕事終わりとなった。
昼はひたすらランチを作り続け運び続ける忙しさだが、サーファーの朝は早い分終わりも早い。この時間になると店の窓から見える海も少し寂しくなってくる。
キョーコの店の中も落ち着きを取り戻し、3組ほどの客がゆっくりとお茶をしているくらいになっていた。

これが夏になると…海水浴の人も流れてくるからなぁ。

いやいや、忙しいのはありがたいことだ、と思いながらキョーコは凝り固まった首と肩をカウンターの中でくるくると回し、昼に追いつかなかった厨房の片づけをのんびりとしていた。

そういえば今日は敦賀さんと光さんたち、来なかったな。

朝は蓮に会って話も出来て事情も聞いたが、その直後に言われた言葉に驚いてしまって詳細は聞きそびれていた。
けれどいつもの人数に更に女性陣がプラスされたら、何人来たのかは分からないがそこそこの人数になることは間違いなく、混雑ピークのこの店にまとめて入ることは難しい。だからきっと別の店に行くなりしたのだろう。


とは言ってもこの辺にはあまりお店もないか。

女性たちが来ると言っていたから、その人たちが弁当でも作ってきているのだろうか。
蓮たちのグループにお目当ての相手がいれば、女性にとってはアピールのしがいがある。なによりキョーコ自身、過去には幼馴染の弁当をこの上なく張り切って作ったのだ。そういう気持ちは痛いほど分かる。

『お弁当作ってきたんです!召し上がっていただけますか?』
『ああ、ありがとう。うん、美味しそうだね』

どこの誰だか分からないが髪の長い美人が顔を赤らめ、それに対して蓮があの眩しい笑顔を向けている。
そんな画が脳裏に浮かび、キョーコはなぜだかもやもやとする思いに囚われた。

しかしすぐにハッとキョーコは我にかえる。
別に構わないはずだ、蓮が誰とどうしようとも。

ふと顔を上げれば、入り口の外に立ち、店に入ろうとしている客がいるのが目に入る。その姿が蓮に見えてしまい、キョーコは思わずふるふると頭を振った。

やだな、ちょっと今週働きすぎ?

そう思ったところでドアを開けて入ってきたのは本当に蓮だったので、キョーコはしばし声も出なかった。


「この時間に来られるの珍しいですね」
「そうだけどねー。疲れたから甘いもの食べたくなったんだよ」
水のグラスを置くキョーコに笑顔で答えたのは蓮の向かいに座った社だった。
「光さん達はご一緒じゃないんですか」
キョーコの疑問に社と蓮が顔を見合わせる。
「ああ、今日は光と慎一と一緒だったけど、ちょっと用が出来て」

何やら含み笑いをしている社にキョーコは首をかしげたが、首を突っ込むのも失礼だろうと注文を聞いた。
「んじゃー、俺プリンとアイスコーヒー!」
社の発した"プリン"という言葉にメニューを持っている蓮の人差し指がぴくりと動く。
「…俺はコーヒーと…チーズケーキ」

「はい、かしこまりました」
キョーコはすぐにカウンターへと戻っていく。
「お前が甘いもの食べるの珍しいな」
「今日はなんだか疲れましたから…」
「ああ…まあなあ。そういえば甘いものと言えばキョーコちゃんのプリン、お勧めだぞ。うまいぞ」
「……また次の機会に」
「お前プリン嫌いだっけ」
「嫌いじゃないですけど今日はなんとなく気分じゃありません」

2人の間にぼそぼそと交わされる会話は全く聞こえないまま、キョーコは機嫌よくコーヒーの用意をしていたのだった。

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コメントコメント


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プリン!!!

harunatsu7711と申します。
ぞうはなさまn9更新があると、リアル世界でも元気になれまづす!
社さん、わざわざプリン頼むなんて、なにやら今後の展開に一役かってくれそうですね。

ゆっくりペースで進む本話は、もしかしたら、楽しいレシピよりも長編になるのでは?と思っています。
…あ、いえ、まどろみ…よりも長くてもよいのですが、待ち遠しいです。更新楽しみにしてます!

harunatsu7711 | URL | 2016/05/31 (Tue) 00:10 [編集]


プッっプリン

こんばんは。harunatsu7711です。
更新楽しみにしてました~‼そして、社さんの最後のプリン発言!蓮がショーに抱いているかも?なイメージが浮かんできます。
そのうち、チーズケーキとコーヒーでキョーコちゃんと蓮さんに♥なストーリーが待っていることを祈ります。
更新楽しみにしてます!

harunatsu7711 | URL | 2016/05/31 (Tue) 01:47 [編集]


Re: プッっプリン

> harunatsu7711様

コメントありがとうございます!
キョコさんの店のプリンと聞いて、蓮さんあの図々しい尚の物言いを思わず思い出してしまいました。
そりゃー、嬉しくはないですよね。食べたくもないかもしれません…
けどきっと、尚の言う通りにメニューからプリンを下げるようなことをしなかったキョコさんに、ホッとしているかもしれません。

ぞうはな | URL | 2016/06/01 (Wed) 23:08 [編集]