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Catch the Wave (13)


こんばんはー!ぞうはなです。
急にバタバタしてすっかり更新間隔が空いている上文章の推敲もできていませんが、言い訳は置いておいて続きです。





「よーお、色男!」
車にもたれてぼんやりと海を見ていた蓮は、からかうようにかけられた声に振り返った。
「こんにちは、黒崎さん」
苦笑気味に挨拶を返すと肩からカメラを下げた黒崎がタバコをくわえたまま近づいてくる。
「今日はもう上がりか?」
「ええ。朝からずっと入ってましたから」
「今日はサーファーにとっちゃいいコンディションだったからなあ。まったくどこから情報入るんだか、うじゃうじゃ集まってきやがる」
午後になっても海にはたくさんのサーファー達が波を待って浮いている。その様子を見ながら忌々しげに呟く黒崎だが、ふとカメラを取り上げた。
「けどやっぱり、お前さんの姿はなんとなく撮りたくなるんだよなあ」
「え、また撮ったんですか?」

たまに砂浜で休んでいるときなどに知らない女性がこっそりスマホで自分の写真を撮っている事があって、それには気づくものの黙認している。しかし当然ながらサーフィンの最中に陸からカメラを向けられていたなんてこと、まったく知らなかった。
「ああ。まあ別に発表はしねえよ」

いや、されても困るんですけど。

思いながらも口には出さず、蓮はカメラを操作する黒崎を眺めた。
「だけどあれだな、お前今日は派手なアクションが多かったがえらく必死だったな」
「必死……」
「違ったか?遠目に見ててもピリピリしてるように感じたんだが」
「まあ、確かにそうだったかもしれませんね」
「いつも余裕でやってんのかと思ったんだだけどな」
「余裕なんてないですよ」

へえ、と黒崎はカメラのモニタから顔を上げた。
「らしくねえな。って、お前のことを知ってる訳じゃないけど。あっさりと無表情で波を乗りこなしてんのかと思った」
「いつでも葛藤ですよ。恐怖心と戦いながら、です」
「珍しいな。大体この辺にいるガキどもは海の怖さを分かってねえ奴らだが。しかしそれでも海に入るんだな?サーファーってのは厄介な人種だな」
「かもしれませんね。特に今日みたいに海の色が深いと…飲み込まれそうな気分になります」
「あー…」

黒崎は蓮の言葉に、蓮がアメリカにいたという話を改めて思い出していた。
「黒崎さんは、海の写真をよく撮るんですか?」
「ああ。カメラを持ち始めて最初に撮ったのが海だったからな。なんとなくレンズを向けちまう」
「海の怖さと仰いましたけど…やはり怖いものだと思いますか」

蓮の口調は何気なかった。しかしちらりとその顔を見れば、雰囲気は蓮が波に乗っているときと同様、どこか緊張感に包まれたものだ。黒崎は少し考えてから口を開く。
「まあ、人間には太刀打ちできねえな」
「"母なる海"なのに、なんででしょうね…」
ははは、と黒崎は声を出して笑うと首を横に振った。
「俺の意見は違う。海は確かに女だが、性質のわりい女だよ」
「女、ですか?」
「気分屋で、気まぐれで、怒ると手に負えない。普段は穏やかでも機嫌損ねると牙をむき出しにするんだぜ」
「そこまでひどい女性は心当たりがありませんが」
「そうか?俺は何人もそんな奴を知ってるぞ」

どんな女性と付き合ってきてるんだ…

蓮の疑問をよそに黒崎はタバコの灰を落とすと続ける。
「けど、そこまでされても俺らは海から離れられない。まあある意味すべての生命の母だからな」
「やっぱり母なんじゃないですか」
「"生命"全体のな。子供一人ひとりがどうなろうとあまり頓着しねえんだろ。だからゴミみたいに小さな人間は簡単に海で命を落とす」
「そんなものですか」
「そんなもんだ、と思ってた方が気が楽だ」

黒崎はタバコを口にくわえ、大きく息を吸うと煙を吐きながら苦い顔をした。
「海辺に住んでたら不幸な事故ってのは絶対に起きるんだ。なんで、どうして、なんていちいち考えてはいられねえ、違うか?」
「…そうかもしれませんね」

蓮が呟いたところで駐車場へ上る階段から声がかかった。
「悪い、お待たせ蓮~。俺も上がるよ」
サーフボードを抱えた社が階段を上がってくる。
「ああ、お疲れ様でした」
「すぐ着替えちゃうよ。あれ、黒崎さんだ」
「おう。社も楽しそうだな」
「いや今日は楽しかったです」
「光たちは?」
「用事があるって言って、昼前に上がりましたよ」
「あいつらもサーフィン馬鹿だな、まったく」

社と黒崎の軽いやり取りを聞きながら蓮は息を吐いて沖を見た。午後になって青さを増した空と海が目に入ると急に落ち着かなくなる。けれど逃げ出したい気持ちはいつかよりは薄く、早朝に見たキョーコの笑顔を思い出すとなんだか落ち着ける気がする。

不思議だな……

蓮はもうひとつ深呼吸をして、社の片づけを手伝うべく車のハッチを開けた。



翌日の日曜日。朝の海岸沿いの道には自転車にまたがったキョーコの姿があった。

今日は来てないのかぁ…

駐車場にはここのところ毎週末必ずと言っていいほど停まっている車の姿がない。
どんどん気温が高く日の出も早くなって車の数は増えているのに、とキョーコはもう一度車の列に視線を飛ばす。

なんだあ。

ため息をついてしまってから、「なんだって何よ?」とキョーコは自問する。
そりゃ確かにこの数週間、週末の早朝にここを通れば必ず柔らかい笑顔に会い、ちょっと言葉を交わし、美麗な波乗りのテクニックを堪能されてもらってきたのだが。
がっかりするようなことではないはずだ。

「そうよ、別に普通のことでしょ」
ぶつぶつと自分に言い聞かせるキョーコの横を、不思議そうに見ながらサーファーが通り過ぎていく。
「おはよう、キョーコちゃん。早いね」
「あっ。おはようございます!ええ、ちょっと仕込み前のサイクリングです」
「毎日忙しいのにえらいなあ」
「いえそんな」
急に恥ずかしくなってキョーコは首をすくめると海辺を後にした。

落ち着いて考えてみれば、早朝に男に会いたくて…いや、顔を見たくて……どちらにしても同じことか。
そこにいることを期待して仕出しもないのにいそいそと自転車にまたがり下りてきたのだ。そして何故か、その場にいないと分かったらガッカリしている。

昨日十分サーフィンのテクニックは堪能させてもらったし、私がガッカリするのもおかしいのよ。
さてさて、仕込みを始めなくちゃ!今日も天気がいいからきっとお客さんも多いはずだし。

無理やりに気持ちを切り替えたキョーコはふと店に戻る坂の手前で自転車を止めて海を振り返った。

気になってるのは昨日の事があったからかな。

キョーコが行くまで海に入らなかった蓮。
少し時間をくれと言ったその顔は、妙に真剣でどこか思いつめたもののようだった気がする。

そうよ、昨日のあれがあったからで、決して会えなくて残念とかそういうんじゃなくて。

ぶつぶつと呟きながら店に戻るキョーコだったが、自分に対して言い訳をしている時点で後ろめたい気持ちがあるのだと、そういうことはあえて考えないことにしたのだった。


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コメントコメント


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キョーコきゃんも傾きつつ

サーフィン経験ゼロ、海を見る機会ゼロなので、サーフィンや海の描写があると、新たな景色を想像できて嬉しいです。

キョーコも蓮の存在が気になり始めている様子。じわじわと、心が変化しているのが伝わってきます。。。
今後、蓮とキョーコの二人の会話が増えることを望んでいます。それか、いつしか蓮とキョーコが一緒に波乗りしたりするのでしょうか?
今後の展開を楽しみにしてます!

harunatsu7711 | URL | 2016/05/20 (Fri) 07:08 [編集]


Re: キョーコきゃんも傾きつつ

> harunatsu7711様

コメントありがとうございます!どえらく返信が遅くなりまして申し訳ありません…。
ぞうはなもサーフィン経験ゼロでございます。どうも海のスポーツは苦手で。
ボディボードはビート板のようにして使った事があるのですが(^^;

キョコさん、蓮さんの技術に惚れ込んでいるところにあんな神々笑顔を見せられたら、ちょっと気になっちゃいますよね。
けど蓮さんもにぶいので積極的には距離を縮められず。じわじわと距離が詰まっていくといいのですがー。

ぞうはな | URL | 2016/05/25 (Wed) 20:06 [編集]