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Catch the Wave (12)


こんばんは!ぞうはなです。
いやいや、間が空いてしまいました…。
ちょっとバタバタ迷走中ですが、とりあえず書けたので続き。






「今日は蓮、機嫌よさそうだな」
海から上がり歩いてくる蓮の姿を見ながら社がぽつりと言った。

「えっ?」
光はまじまじと蓮の姿を見るが、どの辺がそう思えるのかさっぱり分からない。
考えてみれば蓮は普段あまり感情の起伏を見せない。常に愛想よく微笑んでいるし、怒っていたりイライラしているのも見た事が無い気がする。逆にはしゃいでいたり大笑いしているのも記憶に無い。
もっとも会社の同期とはいえ蓮はアメリカに長期出張していたため、さほど自分も付き合いが長くは無いのだ。

「俺にはいつもと変わらないように見えますけど」
首をひねりながら言う光に、社はぽりぽりと鼻の頭をかく。
「なんとなくな。大体、今日のあいつのテクニックはプロ並みだ」
「機嫌がいいとライディングが変わるってことですか?それなら俺、いつも機嫌よくいたいけどなあ」
「あはは、俺もだな。まあそんな気がしただけだよ」

砂浜にサーフボードを下ろした蓮を、体育座りをしている光が見上げた。
「今日はなんだか……すごいね、敦賀君」
「今日は波がいいからよく走って乗りやすいんだ」
「それにしても先週と全然違わない?……そういえば俺この間、緒方さんに会ったんだよ」

蓮は光から少し間をあけて隣に腰を下ろした。
「緒方さん…ああ、今こっちに来てるのか」
「うん。それでちょっと話したんだけど、向こうでは敦賀君サーフィンしてなかったって聞いてさ」
蓮は濡れた髪をかきあげ、ちらりと光を見た。光は膝を抱えて海のほうに視線を送っている。
「…確かにしてなかった。石橋君がここに誘ってくれて、かなり久しぶりにサーフボードに乗ったよ」
「やっぱりそうなんだ。でもなんで?折角世界有数のサーフスポットにいたのに」
「…忙しかったからかな。時間的にも精神的にも、そんな余裕が無かった」
「そっか」

光は何か聞きたそうだったがそのまま話を打ち切った。しかし雄生達と話をしていた社は二人の会話を聞いておらず、蓮に話しかけてきた。
「蓮、なんか生まれ変わった感じだな。今まで遠慮してたのか?」
「遠慮してたわけでは」
「だってお前、今日は全開じゃないか。確かに今までも上手いのはわかってたけどさ。派手なパフォーマンスは全くしてなかったのに」
「…まあ、吹っ切れたのはあるかもしれませんね」
「吹っ切れたらここまでできるもんなのか、羨ましいなー」
あーあ、と光が両手を頭の後ろで組んでため息をつく。蓮は苦笑気味にそれを眺めて首を横に振った。
「ブランクがあったから恐怖心も少なからずあって。けどようやくそれも払拭しつつあるかなと思ってるところ」
「なんだ、何がきっかけだ?今日は見せたい相手がどこかにいるのか?」
にやにやと茶化す社に、蓮は一瞬真顔になって黙った。

「おいなんだよ、冗談のつもりだったのに」
きょろりと周りを見回す社に蓮はため息をつきながら冷たく即答する。
「いやいませんよ、そんなのは」
「そうだよな、この時間にはキョーコちゃんはお店だしな」
社が出した名前に敏感に反応したのは光のほうだ。
「なんでキョーコちゃん?キョーコちゃんと何か関係が?」
あまりの食いつきぶりに社は慌てて弁解した。
「いやそうじゃないけどさ。この前も朝会ったって聞いたから、それだけだよ。まったく光は…」
「相変わらずリーダーはキョーコちゃんに一途やな」
社に呆れられただけではなく雄生にまで口を挟まれて光は眉をひそめる。慎一までその後ろでうんうんと頷いているのは何なんだ。
「別に…!」
「キョーコちゃんもモテモテやな。先週は村雨に誘われてたし」
「えっ?何それ」
「まあまあ。キョーコちゃんは誰に対しても同じ態度や。店に来る男のことは客としか思ってへんし。心配せんと」
「でもそれって光も同じだよな」
社が言うと雄生も苦笑いした。
「そこはあれ、今後の努力次第で…」
「いいんだよ俺は、別にどうこうって訳じゃないもん。キョーコちゃんには色々あったみたいだから心配してるだけ」

やれやれとため息を吐き出す光に、社が聞く。
「じゃあ光、たとえばだけど蓮が実はキョーコちゃんの事好きで…アプローチが実って付き合うことになったとしても素直に喜べるか?」
「え」
光は蓮の顔をまじまじと見て考え込んだ。

「社さん、何で俺なんですか」
「だってほら、俺や雄生じゃ例えとしても現実味がない」
「いや、だからって」
「大丈夫ですよ!」
怪訝な顔で社に抗議する蓮を遮って光は明るい声を出した。
「もしキョーコちゃんがそれで幸せになれるなら、すごくいい事じゃないですか。だから俺、相手が誰でも祝福しますよ!あ……相手が不破君だったらその…ちょっと考えちゃいますけど」
「リーダー…健気やな」
慎一が涙を拭く真似をして光に背中をどつかれる。
「でも蓮。真面目な話、可能性ゼロじゃないだろ」
社に真面目な顔で話を振られて、蓮は咄嗟に返事が出来なかった。

「確率の問題で言えば、ゼロとは言えないでしょうけど」
「ほらな」
「まじで?」
ようやく絞り出した答えに対して社と雄生に口々に言われ、蓮は少し困った表情になった。
「かと言って、今そういう気持ちがあるかと言われれば違いますよ」
「そうかそうか。じゃあまあ、蓮と光はライバルということで」
「なんでそう…」
蓮は不満げに口を開いたが、社の満足げな顔を見て大きくため息をつくと諦めたように両手を広げた。


その日の昼過ぎ、キョーコの店に向かう坂道を上がっているのは蓮と社の2人だけだった。
石橋トリオは大学の友人たちと出かけるということで午前中の早い時間に海から上がっている。
「朝だけでも波に乗りたいなんて、あいつら本当にサーフィン好きだよな」
「今朝は特に波がよかったですからね。地元の利点ですね」
「そうだな、まあ少し遠くても通ってるお前も相当だと思うけど」
「朝の早い時間なら車で30分ちょっとですから、たいしたことはないです」

店の前に着くと店内はまだ賑わっているものの店の外には人の姿はなく、そこそこ落ち着いている事が分かる。
「あれ?そこにいるのは不破君だよな」
社が店の横の通用口側にいる人物に気がつき、ぽそりと言った。その言葉に蓮も体を傾けて覗き込むと、確かにそこに立っているのは尚で、通用口を開けてキョーコが何かを話しているのが見える。

「いいだろ、取りに来てやってんだから」
「はあ?そんなに恩着せがましく言うことかしら、忙しい時間なのに!大体分かってるわよ、あんたが進んで取りに来たのはこんなものを注文したって他の人に知られたくないからってだけでしょ」
「ったくうっせえな!ほら代金!忙しいならとっとと戻りやがれ」
仏頂面でキョーコが下げたビニール袋をふんだくり、尚はむき出しの札をぐいとキョーコの方に押し付けた。
「忙しいと分かってるなら注文自体をやめればいいのよ…ってバカショー、お釣りは?」
「そんなはした金、くれてやる」
尚はくるりと体の向きを変えると社と蓮の方へとやってきた。すれ違いざま視線だけをこちらに向けるが、何も言わずにそのまま海のほうへと立ち去っていく。

キョーコは尚が歩き始めて初めて蓮と社に気がついたようだ。慌てて表情をいつものにこやかなものに変えると「いらっしゃいませ」と頭を下げる。
社は「こんにちは」と挨拶だけして店の表に向かおうとしたが、なぜか蓮はキョーコの方に足を向けた。
「蓮?」
社が不思議そうに話しかけるが、蓮はそのままキョーコの前に立つ。
「こんなものってなに?」
「え?…ええと……」
「さっき不破君に言っていた、『こんなものを注文した』っていう、こんなものだ」
「あ!あの…プリン……ですけど」
「…この間も君と不破君はプリンの話をしていたね」

蓮は軽く笑った。蓮の笑顔はいつものものなのに、なぜだかキョーコは背中に冷や汗が流れるのを感じる。
「結局君は、お人好しすぎるってことだな」
「なっ…!そんなことは」
尚の言いなりになっている訳ではないのだと否定したいが、今日の蓮は妙な迫力があってなかなか言い返せない。

「おい蓮、キョーコちゃん忙しいんだから邪魔しちゃ悪いだろう」
「……はい。ごめんね最上さん」
蓮が離れ、キョーコは大きく息をつくと社に頭を下げて通用口に入りドアを閉めた。

びびび、びっくりしたーー!
敦賀さん、なんだろうなんか怒ってたよね。
そう、この間ショータローが駐車場に来た時もこんな感じだったような?

むむ、と考え込んだキョーコだったが、「キョーコ!注文入ってるわよ」と顔を出した奏江に気がつくと慌ててカウンターに戻る。


一方の蓮と社は。
「お前…やっぱり確率の問題どころじゃなくて光のライバルだな」
「なんで勝手に決めつけるんですか」
「決めつけてないぞ!今のお前はキョーコちゃんの行動に干渉してるぞ」
「そんな事はありません」
ぼそぼそと言い合いながら店に入って席につき、奏江に怪訝な顔をされながらもしばし意見を戦わせたのだった。


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コメントコメント


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社さん ナイスアシストですね。

社さんの誘導尋問に、真顔になってしまう蓮。恋愛音痴だから、キョーコに気持ちが傾いていることに、自分では気づかないのでしょうね。

それにしても、朝にサーフィンをしに行ける環境、素敵です。

harunatsu7711 | URL | 2016/05/14 (Sat) 06:01 [編集]


Re: 社さん ナイスアシストですね。

> harunatsu7711様

コメントありがとうございます!
そう、蓮さん段々傾いている自分の気持ちに気づかず、無意識下でいらっとしたり…
社さんの方がよほど的確にとらえてますよね。
川や海など水辺の近い環境、憧れます。いまだかつて海のそばに住んだことないですけど。住んだら住んだで潮風がーとか文句も言いそうですが、自分。

ぞうはな | URL | 2016/05/19 (Thu) 21:32 [編集]