SkipSkip Box

Catch the Wave (11)


こんばんは!ぞうはなです。
GW中更新ができずすみませんー!
暦通りのお休みで、仕事休み仕事休みとなんだかバタバタしてしまいました。

拍手お礼はまたあらためて上げさせていただきます、とりあえずは続き!





その朝、キョーコは少し普段よりわくわくしていた。本人は無意識ではあったものの、野菜満載の重い自転車のペダルをこぐ足はいつもより軽かったはずだ。

その理由は海にあった。
風も気温も干満のタイミングもばっちり。サーフィンに最適な、普段よりかなり高い波が立っている。2ヶ月に1回も訪れないくらいの条件が、それも土曜日の朝に揃った。
もしかしたら、今朝なら見られるかもしれない。期待しすぎないようにと思いながらも、駐車場に見慣れた車が見えたとき、キョーコは少しだけ顔がほころぶのを自覚した。

5月に入り、いよいよ日の出は早い。
キョーコが八百屋に向かって自転車を走らせる時刻はほぼ同じなため、もう日の出からしばらく時間が経っている。

もう海の中かな?

そう思いながら到着した駐車場の車の向こう側に、キョーコは一人の男の姿を見つけた。
黒いウエットスーツに身を包み、裸足で立つその後姿は目にした誰もが感嘆のため息をこぼしてしまうほどのシルエットだ。小さい頭、広い肩幅、厚い胸板、引き締まり長く長く伸びる脚。

まだ海に入っていないことを少し疑問に思いながらキョーコは自転車から下り、男に「おはようございます」と声をかける。

「…おはよう、最上さん」
海を見ていた蓮が振り向き挨拶を返してくるまでに少し時間がかかった。
「これから行かれるんですか?今日は最高のコンディションですよ」
笑みを浮かべてキョーコは自転車を引いたまま近づき、蓮もいつもの笑みを浮かべて頷く。
「ああ、今日はこれから」

ふと、キョーコは不思議な気持ちになった。
なにやらいつもより、蓮の笑顔は不自然ではないだろうか。いや、こんな笑顔を見ることはある。それはそう、たとえばキョーコの店でたまたま隣り合った女性グループに話しかけられた時だとか。社交辞令の微笑みなのかとキョーコは認識していたのだが、今日の笑みはそれよりもおかしいように感じられる。まるで石膏で形どって貼り付けた様な…。

「どうかされました?」
ついうっかり、キョーコは少しだけ表情を曇らせて蓮に聞いてしまった。言葉が出てしまってからしまったと口をつぐむが、蓮は少し驚いたような顔をしてから真剣な目でキョーコを見つめてくる。
「…何か変かな」

「ご!ごめんなさい、全然そんな変だなんてことは…!」
思いっきり頭を下げたキョーコの耳に、蓮のため息が聞こえてきた。

ぎゃーーーーー!
あ、呆れられたわ!!もうキョーコ、もうちょっと考えてから口に…

「やっぱり分かっちゃうか」
懺悔の思考は蓮の呟くような言葉で遮られる。
「はい…?」
恐る恐る頭を上げると、蓮は苦い表情でまた波を見ているようだ。
「忙しいのは分かった上で君に頼みたい事があるんだけど」
「なんでしょうか?」
蓮が答えたのは、キョーコにとってはものすごく意外なことだった。


あっという間に波の向こう側に出た蓮が、うつぶせになったサーフボードの上から軽く手を振ってくる。
思わずキョーコも片手を上げて手を振り返し、その行動に軽く赤面して思わず周りを見回してしまう。幸い、海の中には数人のサーファーの姿が見えるものの、今のキョーコを見ている人はいなかったようだ。

見てて欲しいって…どういうことかしら?

「君の時間を少しだけ俺にくれないか」
えらく誤解を招く表現をされて驚いたのだが、キョーコは蓮にこの場所で何本か蓮が波に乗るのを見ていて欲しいと頼まれていた。
いつもこの時間、蓮が海にいるときはキョーコはこっそりとその姿を見ているのだ。今日などはいい波だったのでいつも以上にその姿が見られる事に期待をしてしまっていたほどだ。頼まれなくたって見ていたいくらいなのに、真剣な表情で「俺のライディングを見ててくれないか」と頼まれるとなぜだか緊張してしまう。

何でそんなことを言ったのだろうか、とキョーコが考え込んだところで大きな波がやってきた。
この1ヶ月ほどは見なかった頭くらいの高さの波。いつも通りにパドリングで波にあわせた蓮が立ち上がる瞬間、こちらを見た気がする。

疑問に思う間もなく、キョーコは目を見開いて一歩前に出た。
いつもとは違う軌跡を蓮のサーフボードはたどる。波に乗った瞬間下方向に板の先端が向き、十分に加速したと思うや弧を描いて今度は天に向かい、そして波の頂上で板は跳ねた。丸く広がるように水しぶきを飛ばし、一瞬空中に飛び出すほどの勢いで方向転換したサーフボードはまた波の下方へと向かい、そしてまた跳ねる。

イルカみたい…

波間を滑って跳ねるサーフボードは生き物のようだ。
これまでも蓮のボードは波の勢いを存分に生かして滑っていたのだが、今日は今までの何倍もダイナミックだ。今までが水面すれすれを飛ぶように泳ぐ魚だとしたら、本当に今日の蓮のボードはイルカのように波間に踊り跳ねている。

ものすごいものを目にしている、とキョーコは感動するが、見ていても蓮の本意は分からない。なぜ蓮は、自分に見ていて欲しいと言ったのだろうか。

単純に自分のテクニックを自慢するような人じゃないし、そんな感じでもなかったし…
そういえば…今朝の敦賀さんは、海に入らないでずっと駐車場にいたんじゃない?
もしかして私が通るのを待ってた?……まさか…でももしそうだとしたら、なんで?

再び蓮が波に向かって立ち上がるのを見ていたキョーコは、その表情が恐ろしく真剣であることに気がついた。


一人じゃ入れなかった?誰かに、見ててもらわなければ?

考えてしまってから慌ててそれを打ち消す。
まさか、そんなはずが無い。だって今までも蓮は一人でここに来て、一人でサーフィンをしているではないか。今日に限ってそれができないということなど、あるのだろうか。

考えている間に蓮はサーフィンをやめて上がってきた。
ぽたぽたと水を滴らせながら駐車場への階段を上がる蓮は、やはりどこか思いつめたような表情だ。

「すっごいですね!」
キョーコは蓮の表情を見て湧き上がる不安をかき消すように大きな声を出した。
「ちゃんと…乗れてたかな」
対する蓮はどこか躊躇ったような声を出す。
「ちゃんと、どころじゃないです!昔見た、プロサーファーの映像を思い出しました!いや、それ以上かもしれません。だって敦賀さん、波で遊ぶイルカみたいでした」
「…イルカか……」
「はい!今までもすごいと思ってましたけど、今日のはまたすごかった…!あんな垂直なリッピング、このあたりでやってる人なんて見たことないです」
「ありがとう。…俺は、海に嫌われてはいないかな」
「え?」

蓮の問いに、キョーコはポカンとその顔を見た。冗談を言っているわけではない、真剣な表情だ。
「嫌われてるどころか…波と仲良く遊んでるようにしか見えませんでした」
「そう…そう見えたなら……もういいのかな」
「敦賀さんは」
自分の発した言葉に蓮がこちらを向いたため、キョーコはごくりとつばを飲んだ。
「ご自分が海に嫌われてるとお思いなんですか?」

蓮はキョーコの顔を見つめたまま黙りこむ。しばらく考え込んでから沖に目をやった。
風が濡れたままの蓮の髪を揺らし、波を映す深い瞳の色にキョーコは吸い込まれそうになる。
「嫌われてると言うよりは…怒りを買ってると、そんな気がしてる」
「そんなことはありませんよ!」
即座にキッパリとキョーコは否定した。
「海がそんな風に感じてる人間は、こんなに軽やかに波には乗れません!敦賀さんが跳んだ瞬間、波が『よっ』て、跳ね上げてるみたいに感じましたよ?」
「そうかな」
「そうです。それに、海は懐が深いんです。気まぐれでよく怒り出しますけど、母なる海ですから!」
「…君もそう思うのか」
「ええ!」
にっこりと笑ったキョーコにつられるように蓮は笑う。その笑顔は先ほどとは違い、太陽が逃げ出すほどの眩しさだった。


リック…
リックは俺の事「シャチだ」って言ったけど…最上さんにはイルカに見えたみたいだ。
けどそれ以外、言ってる事が同じで驚いたな。

蓮はボンネットにもたれかかった姿勢で強くなってきた風に目を細め、沖の方に視線をやる。
朝ここに来た時はそれだけ自分を鼓舞しても、足が何かに囚われて動けない、そんな気がしていた。
それなのにキョーコのあの笑顔を見ただけで呪縛から解き放たれた。まだ吸い込まれそうな恐怖心が少し残ってはいるが、陸のキョーコの存在を感じるだけで心が強くなる、そんな気がした。何よりも、思い出すと後悔の念に飲み込まれそうになる、そんなかつての親友の事をこんなに普通に考えられることが不思議だ。

性別も年齢も見た目も性格も…何も同じところなんてないはずなのに。まるでリックに励まされてるみたいだ。

キョーコの笑顔を思い出すだけで凍りついていた自分の中のドロドロしたものが流れていく気がする。
蓮は無意識のうちに微笑んでいた。けれどそれに気付いたのは、自転車で駐車場に入ってきた光に気付き、顔を上げようとしたその時だった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

リック登場ですね。

蓮とキョーコの距離が近づいてきましたね。毎度、更新楽しみにしてます!
そして、リックの登場。。。蓮とリックには、果たしてどんな過去があるのでしょうか。リックはサーフィンで負傷とか……でしょうか?または死んでしまったとか……。気になります。

harunatsu7711 | URL | 2016/05/09 (Mon) 18:30 [編集]


Re: リック登場ですね。

> harunatsu7711様

コメントありがとうございます!お返事遅くなりました。
リックは少なからず蓮さんの心に影を落としております。過去については今後お話の中で明らかになりますが…嬉しい話ではなさそうです。
キョコさん、相変わらずの鈍さだし蓮さんも無意識下の進行で…まったくもう。

ぞうはな | URL | 2016/05/13 (Fri) 23:05 [編集]