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Catch the Wave (8)


おこんにちは。ぞうはなです。
昨夜PCが占拠され、今日は夜時間が取れないため週末お昼の更新です。





聞いてないよ!!


最初に抱いた率直な気持ちはそんなところだった。

「タケノコご飯」の一件は、光に少なからず動揺を与えていた。
いつの間に蓮とキョーコが仲良くなったのかとショックを受けたのだが、恐る恐る蓮に事情を聞いてみれば偶然道で会っただけということで胸をなでおろした。
しかし考えてみれば、落ち着いていられる状況ではないのかもしれない。

キョーコと蓮が二言三言言葉を交わしただけで隣のテーブルの男もなにやら怪訝な顔をしていたし、キョーコに好意を持っている男は結構多いのだ。
ただ地元の男たちはキョーコと尚の事情を知っているだけにどこか遠慮や気後れがあり、それにキョーコ自身が一切異性に対しての好意を見せないために一歩を踏み出しにくい。いや、キョーコにモーションをかけている男はいるのだが、キョーコは天然なのかわざとなのか、そんな男心にはまったく気がついていないように見える。

それにしても早朝とは盲点だった…

平日は働いているため、光は海には出ない。
そして営業職の悲しいさだめか、週末は大抵先輩に引っ張られて飲みに行くため帰りが遅く、必然的に翌朝はそれほど早くは起きられない。しかも海辺に住むものの特権で、起きて顔を洗えばすぐにでも波に乗りに行かれるのでそこまで気合を入れてもいないのだ。
そして、キョーコと会えるオプションなど、考えたこともなかった。

まあ別に、敦賀君がわざわざキョーコちゃんに会うために来てるってことじゃないけど。
けど俺にとってはまさに「早起きは三文の徳」なんだよなあ。

蓮は少し離れた場所に住み、朝のコンディションのいい状態を望むため光より早く海に出る。
光がこのスポットを紹介して以来、蓮はなんだかここが気に入ったようで毎週のように来ている。
光とは部署が違うため、週末の飲み会もないのかもしれない。ずるい と言ってはいけないが、それに近い感情がもくもくとわいて来る。

光は薄暗い部屋の中でなんとかベッドの上で体を起こした。
少し酒が残っているのか頭が痛い。けれど今日こそ朝早いうちに海に行こうと決心したのだ。

光はしばらく布団の上で考え込み、ガンガンと脈打つように痛む頭に手を当て、サーフィンの予定を散歩に変えるともそもそと起きだした。


時刻は6時。4月も中旬となると既に日は昇り、あたりは明るい。
光はハーフパンツにパーカーを着て素足にスニーカーを履いている。もう少し厚着でもよさそうだったが、冷たい風が眠気と二日酔いを覚ましてくれるようで心地よい。

てくてくと歩いて光は海岸の駐車場に向かう。
駐車場に停まっているのはまだ2台ほどで、遠目でもその内の1台が蓮の車である事が分かる。そしてその横に、荷台に大量の荷物を積んだ自転車が停められているのが目に入った。

お、いたいた。

キョーコの姿は見えないが、そこにはいるようだ。光は喜んだものの何やらキョーコ目当てで来ています、と言っているようで、ボードも何もなく手ぶらで来ている自分が急に恥ずかしくなる。

駐車場に近づくと、キョーコは砂浜に下りる階段の上辺りでじっと海の方を見ているようだ。
「あれ、キョーコちゃん?」
光はどう声をかけるか少し悩んだあと、驚いたように呼び掛けた。キョーコはパッと振り向くと、笑顔で深々と頭を下げる。
「おはようございます、光さん!光さんも…あれ?」
光が手ぶらなのを見てキョーコが少し首をかしげる。光は内心少し慌てながら用意しておいた台詞を口にした。
「昨日飲んじゃって、まだ抜けてなくて。でも目が覚めちゃったから散歩に来てみたんだ」

「そうなんですか、お酒が残ってる状態で海に入るの危ないですもんね」
「うん。キョーコちゃんは買い物の帰り?」
「はい、それでちょっとだけ休憩中です」
キョーコが再び海のほうに視線を向け、光もそれを追うように海を見た。そこには2人ほどの人影が見え、波の様子を伺っているのが分かる。
「敦賀君かな」
「右側にいらっしゃるのが敦賀さんですね」
「…今日、敦賀君と話した?」
「ええ、ちょっとだけ。ちょうど私が通りかかったとき敦賀さんはここから下りようとしてるところだったんです」
「それで、キョーコちゃんは見てるんだ」
えへへ、とキョーコは頭をかいた。
「ちょっと前にたまたま、敦賀さんがサーフィンしてるのをちらっと見かけたんです。それでもう一度、見てみたくて」

なんで?と聞きたかったが光は口を閉じた。海の中では大き目に膨らんできた波に合わせて蓮が動き始めたところだ。
蓮は数回のパドリングでタイミングを取ると軽くボードの上に立ち上がり、軽やかに波が作る斜面を切って滑っていく。
「やっぱりテイクオフが速いよなぁ…」
ぽそりと光がつぶやいた。蓮のライディングは何回も見ているが、自分との力量の差を感じてしまって少し悔しいくらいだ。

「無理がないんですよね」
こちらも呟くようなキョーコの言葉に、「え?」と光はキョーコを見た。キョーコは蓮の姿から視線をはずさず、少し微笑んでいるように見える。
「私がずっと見てきたサーファー達って、無理やりボードを動かしているように見えるんです。でも敦賀さんはすごく自然で、波と一体化しているというか、波の気持ちが分かってるって言うか」
「……」
光は少し口を開けたまま呆然とキョーコを見てしまった。ふと我に返ったキョーコは、自分を見ている光に気がつくと恥ずかしそうに手を振る。
「ごめんなさい、へんなこと言っちゃって!はっ、私仕込みしないと」
逃げるようにキョーコは自転車で走り去る。光はキョーコを見送った後、深々とため息をついた。


「キョーコちゃんってどう思う?」
昼過ぎ、海から上がったタイミングで光は思い切って尋ねてみた。尋ねた相手である蓮は、タンクに入れた水を頭からかぶり、水滴を散らしながら顔を上げたところだ。
「どうって……?」
前髪から水を滴らせながら蓮が聞き返す。光は口から発してしまった質問を少し後悔しながら言葉を継いだ。

「いやその、若いのに店切り盛りしてすごいと思わないかな」
ああ、と蓮は答えると車のミラーに引っかけたタオルを手にする。
「それはそう思うよ。一人で仕入れも調理もメニュー決めもしてるみたいだし」
両手で頭をガシガシとこする蓮の体を光はまじまじと見た。

敦賀くんって鍛えてるよな…?

分厚く盛り上がる大胸筋に、くっきりと割れた腹筋。光が大学時代に憧れたプロサーファーもここまでの体はしていなかった。

「急にどうしたんだ?」
蓮に問われ、光は少しためらってからウエットスーツを脱ぎ始めた。サーフィンを始めてから体も引き締まり、色も黒くなって我ながら男らしくなったと思っているが、蓮を見ていると少し自信がなくなる。
「今朝さあ、キョーコちゃん、敦賀くんのライディングをじっと見てたんだ」
「そういえば律儀に少し見てていいかと聞かれたね」
「俺も一緒に見てて…やっぱうまいなって思ってさ。俺なんて大学からずっとやってるのに」
少し顔を下向きにした光をしばし見つめると、蓮は口を開いた。
「言ってなかったっけ?」
「え?何を?」
蓮は体をタオルで拭きつつ答える。
「俺、子供の頃からサーフィンやってるって」
「え?そうなの??」
「ああ。入社してすぐアメリカの支社に配属されたのも、俺が向こうの生活が長かったからだよ」
「え??じゃあ子供の頃からカリフォルニアに住んでたの?」
「うん。家から少し行けば海で、日によっては頭越えの波がガンガン来てた」
「えー?それすごい環境だね!」
「そう。だからもう、乗れて当たり前なんだよ」
光はなんだか嬉しそうに目を輝かせている。
「え、じゃあチューブもできる?」
「うん。さすがにそこまで波が高いエリアは上級者専用だけど…」
「そっか、すごいなそういうの憧れだー」

「おーい、ふたり」
近くの自販機に行っていた社が声をかけてくる。
「はい」と顔をそちらに向けると、社の後方に若い女性グループがこちらを見ているのが見える。
「いつまで裸をさらしてんだ。あそこでガン見されてるぞ」
「あ…でも見られてるの敦賀くんでしょ」
言いながら光は肩からバスタオルをかける。
「何言ってんだ、お前もだよ」
社が笑い、光は目を見開いた。
「顔がかわいい系なのに案外たくましくてそれもいい、と噂されてたぞ」
「ええ?」
光は慌てたように女性グループに背中を向けるとTシャツをひっつかむ。

このニブイところ、案外光もキョーコの事は言えないな、と社は思う。
苦笑しながらTシャツを着た蓮は、「そういえば結局何の話だったんだ?」と内心首をひねった。


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