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Catch the Wave (6)


こんばんはー。ぞうはなです。
また更新が遅くなったー。

ちょっと事情により推敲がおざなりですが、勢いで載せます。
(そういうときは後悔することが多々…)





波が崩れて白く泡立ったところから「ぶはっ」と男が顔を出した。
「光~、今のは結構危ないぞ」
「…分かってますよ」
やんわりと警告した社に、光は短く答えた。社は首をかしげると光に問う。
「お前どうした、昼からなんだか機嫌が悪いな」
「そうですか?」
「集中してなくてイライラしてる感じだ。なんか考え事か?」
「…確かに集中できてないかもしれないですね。一度上がりますね」

砂浜には既に海から上がった蓮がいる。光はボードを抱えて蓮の横まで歩くと投げ出すようにボードを砂浜の上に置いた。
「心ここにあらず、かな」
蓮にぽそりと言われて光は両手で髪を前から後ろにぐぐっとすいた。
「分かる?」
「ああ。全部のタイミングがずれてる」
はあ~~っと光は大きなため息をつくと、足を投げ出すように砂の上に座る。
風はまだ冷たいが、砂は暑く照る日の光も思いのほか強い。

「俺も修行が足りないよなー」
「…修行?」
「うん。余計なこと考えてうまく乗れないなんてさ」
「まあ、そんなものかもしれないよ」
並んで座る二人のもとに雄生と社もやってくる。少し落ち込んだように膝を抱える光を見ると、雄生はニヤリと笑った。

「リーダーはほんまに真剣なんやな」
「何の話?」
光が返事をする前に社が不思議そうに聞く。
「キョーコちゃんのことですよ」
「雄生!」
光が渋い顔で制するが、雄生は呆れ顔で冷静に返した。
「今更隠すようなことでもないやんか。あの二人の事かて同じや」
「だけどさ」
「あの男、何もなかったように店にいたやん。俺もちょっとムッとしたわ」
「あの男って、隣のテーブルの…不破くんだよな?この先のホテルの跡取りだって言う」
「はい」
社が口をはさんだ。雄生が頷き光がため息をつく。社は顎に手を当てて考えながら聞いた。
「もしかして、光の不調って昼店に不破君がいたからなのか?」
「……関係ないとは言いませんが…」

歯切れの悪い光の返答に、社はまたしばらく黙り込んでからやや遠慮がちに尋ねる。
「俺もさ、ちらほらと噂聞いてな。キョーコちゃんと不破くんって付き合ってたの?」
光と雄生は顔を見合わせた。
「…付き合ってた、というのとはちょっと違うみたいです」

俺も正確に知ってる訳ではないんですけど、と断って光は話し始めた。


光がこの海沿いの街に住み始めたのは大学入学がきっかけだった。
もともと海から離れたところに暮らしていた光は海への憧れが強く、大学に通えて海が近い場所、という条件で探してたどり着いたのだ。

大学に入ってからサーフィンをするようになった光だったが、2年ほど経って海に若いグループを見かけるようになった。中でも『不破尚』という存在は地元のサーファーの間でかなり有名になっていった。非常に目立つルックスと、自信に満ちたどことなく高飛車な言動。しかしでかい口を叩くだけではなくサーフィンもうまい。
尚はルックスがいいこともあり女の子たちにも異様にモテたし、尚が率いるグループは海の中でもいい場所を独占するような状態だった。

その尚に婚約者がいると聞いたのは、地元の居酒屋でサーフィン仲間である雄生や慎一と飲んでいたときの事だった。
酔っ払った地元の男性同士が「ホテル松月亭」の跡取り問題について語っていて、なんとなく聞いていた光たちはサーファーだというそれだけの理由で酔っぱらい話に引きずり込まれたのだ。

尚たちが海にいるとき、取り巻きの若い女性たちとはだいぶ離れたところでたまに海を見ている少女がいることに光は気がついていた。制服のことが多かったが、自転車のハンドルに手をかけたまましばらく尚たちのサーフィンを眺め、やがて満足したようにどこかに去っていく。それは早朝であったり午後であったり。短い時間であったが、間違いなく尚たちのグループを、いや尚を見ているようだった。

あれは誰なのか?なぜ他の女性と一緒にいないのか?誰にも話しかけないけれど友達ではないのか?
そう思っていたのだが、居酒屋の男性たちの話でその少女が尚の婚約者なのだと言うことを知った。少女は親の仕事の都合で尚の両親が経営するホテル松月亭にあずけられていること、小さなころからそこで手伝いをしていること、尚の両親が尚と少女にホテルの仕事を継がせることに積極的であることも。

そんな折、光はそれまで訪れたことがなかったホテル松月亭に足を踏み入れることになった。
たまには息子の住む街を見たいと望んだ両親と食事をすることになったのだ。そして入ったホテル内の料亭に、少女はいた。
着物を着て笑顔で接客をする姿を見て光は少女のことが気になった。気になったが、光と少女に接点はない。しかも相手は婚約者がいて将来が決まっている。

気にしても仕方ないよ…

ホテル訪問後、海岸にいる少女を見て光は気がついた。
自分が少女のことが妙に気になる理由。それは少女がたまに、辛そうな目で尚を見ているからだった。

やがて光は大学を卒業し、就職した。通える範囲の会社に勤めることができた光はこの街を離れるつもりはなかった。
そして約2年前にホテル松月亭でちょっとした騒動が起こった。らしい。
らしいと言うのは当然ながらそんな話に光が直接関わっているわけもなく、また居酒屋ですっかり馴染みになったオジサン連中から話を聞かされたからだ。

なんでも、尚と少女の婚約が破談になったというのだ。
その前には少女が救急に担ぎ込まれる騒ぎがあり、どうやらそれに尚が関わっていたらしい。
細かい事情はよく分からない状態で、オジサン達は少女に同情して尚に憤慨していたのだが、公になっている婚約者がいるのに違う女性を連れている尚をよく目撃していた光もオジサン達と同じ気持ちになった。

そして、しばらくして海岸のそばに新しい店ができた。
そこには以前土産物屋があったのだが、光がこの街に住み始める前に閉店し、そのまま放置されていた。それが急に取り壊され、海に面する側がガラス張りのウッドハウスが建ったのだ。
そしてこじんまりとその店は開店した。去年の年明け、よく晴れたが寒い日のことだ。入り口の周りに置かれた開店祝いの花の中で一番大きいものに「ホテル松月亭」の名前があったことを光はよく覚えている。

その土地は「ホテル松月亭」が所有しているのだと光は飲み屋で聞いた。
どんな店なのかと開店翌日に訪れると、「いらっしゃいませ!」と明るい笑顔で迎えてくれたのはあの少女だった。
前は黒い髪をいつもひとつに結んでいたが、今その髪は短く切られて栗色だ。最初は誰だか分からなかったが、その笑顔で光はすぐに気がついた。
「こんにちは。ひとり…なんですけど」
「カウンターとテーブル、どちらがよろしいですか?」
「あ、じゃあカウンターで」

お冷やを運んできてくれた少女に光は思わず言った。
「髪…切ったんだね。すごく似合ってる」

女の子に気の利いた言葉などかけられたことがない光だが、その言葉は口からこぼれ出ていた。
「ありがとうございます」
驚いた表情のあとに見せたはにかむような笑みに、光は見とれたのだった。


「それでリーダーはもう1年ちょっと店に通い続けて…全然キョーコちゃんとの距離を縮められへんのやな」
「余計なお世話だよ」
語り終わると同時に突っ込まれ、光はふてくされたように言った。
「別に縮めようとしてる訳でもないし。ただ、キョーコちゃんはあの店を開く夢がかなって嬉しいって言ってたんだ。だから応援したいだけだよ」

「慰謝料代わり、なのかな」
社が言った。いつの間にか男4人は砂浜に座りこんでいる。
「婚約破棄になってしまったお詫びに、キョーコちゃんに店を開かせてあげたとか、そういう感じ?やっぱり噂通り非は不破君の方にあるってことか」
「…それは分かんないですけど。なんでキョーコちゃんはこの街を離れないんだろうってちょっと思った事もありますけど、さすがに聞けなくて」
そりゃそうや、と雄生も同意する。
「まだ未練があるんかなって俺も思ったけど…どうもキョーコちゃん見てるとそないな感じでもないかなって」
「お店に打ち込んでる気がするよな」
「そう」

2人が頷き合う横で、社がまた考え込む。
「それにしちゃ、キョーコちゃんはよくあのグループにランチの出前を届けてるよなあ」
「そこなんですよ」
急に光が表情を固くした。
「こう言っちゃなんですけど、不破君はキョーコちゃんに罪悪感なんてないんですかね」
「そういうことか」
社が大きく頷いた。
「キョーコちゃん裏切るような事しておいて、店に顔出せるのが信じられないです。…さすがに俺も腹立ちました」

確かに光の怒った顔は会社でも見た事がない。
蓮は黙って光の話を聞き終えてそう思った。

それにしても。
あの無邪気に笑う少女に、そんな事情があったとは。

蓮は無意識のうちにキョーコの嬉しそうな笑みを思い出していた。





蓮さんの…影が薄い……!

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