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Catch the Wave (4)


こんばんは!ぞうはなです。
週の始めと終わりの更新となりましたが、とにもかくにも続きです。
お話の中の季節は今よりほんの少しだけさかのぼっております。





「光さんのお友達の…ええと…ごめんなさい、お名前はなんて仰るんでしたっけ」
申し訳なさそうに尋ねるキョーコに、男は少し驚いた顔をした。
「…敦賀です。よく俺のこと覚えてましたね」
「失礼しました、敦賀さんですね。忘れないですよ、お体大きいのに少ししか召し上がらなかったから驚いたんです」
笑顔でキョーコは答え、蓮を店内へと導きいれる。蓮は店内をきょろりと見渡しながら中に入った。

「お好きな席へどうぞ」
キョーコはカウンターに近づき、グラスに水を注ぐ。蓮は二人がけのテーブルを選ぶと腰を下ろした。
「まだランチもできますから」
そう言いながらキョーコはお冷やのグラスを置き、テーブルに備えられたメニューを机の上に広げ、店内のボードを指し示した。

ずっとカメラをいじっていた黒崎は顔を上げるとちらりと蓮の方を伺った。一度目を逸らし、それからもう一度蓮を見、またカメラに視線を落とす。
「敦賀さんは今日お休みですか」
「ええ、休みが溜まっちゃって」
「この間光さんもお休み取られて平日にいらっしゃったんです」
「月末で今年度の有休がなくなるんです。取得率が悪いって怒られて、皆慌ててます」
カウンター内のキョーコとテーブルの蓮の間に言葉が交わされる。

蓮の言葉に納得したようにキョーコが頷くと、蓮がメニューを閉じた。
「ランチのパスタを……大盛で」
キョーコは一瞬驚いた顔をしたが、ぱあっと笑顔になった。
「ランチパスタ大盛、承りました!少々お待ちください」


カウンターの内側からはキョーコが作業している音が聞こえる。
黒崎はしばらく黙ってカメラに視線を落としていたが、ふいと顔を上げると斜め後ろ辺りにいる蓮の方に視線を向けた。
「兄さんは光の友達?」
急に話しかけられた蓮は口にしていた水のグラスを置くと頷いた。
「はい」
「てことは今日は海にいたか?」
「はい」
蓮の返事に黒崎は納得したように2回頷いた。

「俺は黒崎だ。こいつで飯食ってる」
黒崎がカメラを軽く持ち上げて見せると、蓮は少し笑みを浮かべる。
「俺は敦賀といいます。石橋君の会社の同僚です」
「サーフィン仲間じゃねえのか?」
蓮は少し考えて口を開いた。
「それは間違ってませんが、元々会社が一緒で、偶然サーフィンの話になったんです。その流れでここに連れてきてもらいました」
「てことは、社とも知り合いなのか?」
「社さんは同じ部署の先輩ですね」
「ふうん…って!聞きたいことはそれじゃねえな」

自分に自分で突っ込みを入れた黒崎を蓮は不思議そうに見る。黒崎は再びカメラを操作しながらぽそりと言った。
「俺のクセみたいなもんでな。外に出るときはこいつを持ってないと落ちつかないんだ。作品にしなくても、このあたりの海の写真はよく撮ってる」
「はあ」
「けど俺はな、長い板持ってぷっかぷっか浮いてる波乗りどもは景色を損ねると思ってんだよ」
「それは……申し訳ありません」
確かに海に点在する波待ちの人間の姿は海の景色を愛する人にとっては邪魔でしかないかもしれない。なんとなく納得できて蓮は素直に頭を下げた。
「だから海に人がいるときはあんまりシャッターを押す気にはならねぇんだけど…今日は思わず撮っちまったな。これ、お前だよな」
レンズを持ってくるりと黒崎が向けた画面を蓮は少し覗き込むようにした。
「はっきりとは分かりませんが…」
「いやお前だ。こんだけでかくて存在感のある奴はこの辺にはいねえからな」
「…そう仰るならそうかもしれませんが」

戸惑い気味に蓮が返したところにキョーコがランチのスープとサラダを持ってやって来た。黒崎は構わず話を続ける。
「お前の乗り方は不思議だな。波の上に乗るというより、なんだ、波と遊んでる感じだ」
「そうですか?あまり考えたことありませんが…」
「なんだろうな、お前は波と同化してる感じなんだ。それで思わず撮っちまったんだろうな」

キョーコは黒崎の言葉にどきりとした。
波と一体化。それは先ほど自分が見たサーファーの姿と重なる。
考えてみればあの時見た男はかなり大きかったと思う。そう、あれは今目の前にいる、この男だったのでは?

しかしキョーコはその思いを表に出すことはなく、サラダとスープを蓮の前に並べると黒崎を振り返った。
「黒崎さん、初対面の相手に向かって『お前』はないでしょう」
キョーコがじとりと黒崎を睨む。
「あ?まあそうか…んー、お前名前なんだったっけ?」
「…敦賀……敦賀蓮です」
困ったように蓮は笑い、「そうか、蓮か。まあよろしくな」と黒崎は軽く手を振った。

「で、黒崎さんはコーヒーでいいんですか?」
腰に手を当てたままキョーコはため息をつく。
「ああ?俺そう言わなかったっけ」
「さっき声かけたのに無視したの黒崎さんですよ」
キョーコはカウンターに戻るとまた作業に取りかかった。
「そうか?悪いな、俺は集中すると周りの音が聞こえなくなるんだよ」
「注文してから集中してください」
「まあいいだろ、どうせ他に客もいないんだし」

「蓮はここ初めてだったよな?」
唐突にまた蓮の方を向いた黒崎に、蓮は頷く。
「今日で2回目です」
「今まではどこで?」
蓮は少し間を開けると、静かに答えた。
「仕事でしばらくカリフォルニアにいたんです」


サンディエゴの方かな、やっぱり?

夜、店の二階にある自分の部屋で、キョーコはベッドに潜り込みながらふと考えた。
光が、蓮は本場でサーフィンをしていたのだと言っていたような気がする。波の規模などもだいぶ違うだろうし、向こうで乗っていればテクニックも上達するのだろうか。

そんなこと考えても仕方ないわよね。

キョーコは両手で頭の下の枕をつかんで位置を直し、「さて」と声を出す。

明日のランチはどうしようかな?
土曜日だし、天気もよさそうだし、女性のお客さんもたくさんくるだろうから菜の花パスタなんていいわよね。春らしく。


メニューを考えようと頭を切り替えたのに、ふと昼間の会話がよみがえる。

「とても美味しかった。これならたくさん食べても平気です」
「ありがとうございます。もう今日はおしまいですか?」
会計の時、蓮に笑顔で言われて素直にキョーコは嬉しくなった。けれど確か蓮は海に入る前はあまり食べないと言っていた。だからそう尋ねたのだが。
「ええ、そろそろ風も変わりそうだし。強いオンショアになったら、ちょっともう今日は難しいかな」

あの敦賀さんって人…なんで2回目でここの風のことわかるんだろ…

考えてからキョーコは自分で自分がおかしくなる。

変なのキョーコ、なんで敦賀さんのこと気にしてんのよ。

キョーコは電気を消して目をつぶった。
波の上を滑るサーファーの姿がぼんやりと浮かんだ気がしたが、ほどなくキョーコは眠りの海へと潜っていった。





ふと読み返してみれば、蓮さんはサーフィン終わって速攻でキョコさんのお店に向かっているようなタイミング…。
いやそういう意図はなくて……



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