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君の魔法 (26)


こんばんは!
なんとかあと10回以内に収めたいところですが、さてどうなる。





「なるほどね。あなたの主張は分かったわ」
事務的な、よく通る声が食卓の向こうから響いてきた。
キョーコはまっすぐに声の主の顔を見つめていたが、とりあえず気持ちは伝えられた、とほうっと息を吐く。

キョーコはまとめて取った数日間の休みを使って久しぶりにモガミの家へと戻ってきていた。
王城から馬で数時間で着く距離なので、帰ろうと思えばもう少し頻繁に帰れはするのだが、やはりあれこれと問題が多くて足が遠のいていた。しかし、ここしばらく自分で考えて、逃げていてはどこにも進めないことを痛感して、意を決してやってきたのだった。

「あなたがそういう決断をするとは思わなかったけど…サワラに伝えたとおり、私は口を出さないわ。あなたに引き継いでからのモガミの事はあなたが決めて引っ張っていってちょうだい」
キョーコの話を聞いてそう結論付けたのは、キョーコの母であるサエナ・モガミだ。モガミ家の領主として、女性ながら領地管理をしっかりと行っている。長い髪をぴっしりと一つにまとめ、メガネをかけている姿はいかにもやり手な女性領主らしくあった。
「そ、そんなあっさりでいいの?」
キョーコは拍子抜けして思わず聞いてしまった。

「…そんなにあっさり出した答えなの?」
逆に聞き返されて、ううう、と言葉につまる。
「いえ…散々考え抜きました」
でしょう、と頷いてサエナは付け加えた。
「ああ、でも。フワ家のお坊ちゃまにはあなたからちゃんと婚約はしないと伝えなさい。今はまだ正式な婚約をしていないから破棄にはならないわ。御当主には私から言わなくちゃならないでしょうけど…まずはあなたが相手を説得してからよ」

キョーコの顔が思いっきり渋くなった。
「やっぱり…そうよね……ああでも、この間王城で会った時はほとんど話ができなくて」
「それもサワラから聞いたわ…キョーコ、あなたも自分の意志で立っていくつもりなら、もう少し大人になりなさい」
「大人に?」
「そうよ。感情を表に出してそれだけで動くんだったら子どもでもできるでしょう。あなたも、フワのお坊ちゃまもね」
「頑張ってみるけど…お母さんは、私が嫌がることでフワ家との合併がなくなるのは、反対じゃないの?」
「合併は最善の道と思っていたけど、今のお坊ちゃまには正直まだ任せられないわね。ここのところの言動でよく分かったわ。まあ、これからどうなるか分からないし、あなたが彼と結婚したいんだったらそのまま進めるつもりだったけど」

だってあなた、あのお坊ちゃまのことが好きだったでしょう?とサエナは言う。
キョーコはぽかんと口を開けて母親の顔を見つめた。
ここまで母が自分に対して本音を話したことがあっただろうか?ない気がする。
母はこんなに自分のことを知っていただろうか?そうは思っていなかった。

そこまで考えてはたと気がつく。そうか違う、自分が母親と本気で真正面から話をしようとしていなかったんだ。お母さんはもしかして、私が話をしに来るのを待っていてくれた?

「まあ大体、あなたの選択を私がどうこう言う権利はないのよ」
サエナの表情が少し和らいだ。
「え、どういうこと?」
キョーコは思わず聞き返してしまった。ずっとフワ家との縁談以外は相当のメリットがなければ認めない、と言われ続けていたのに。

「私の代にも、当然ながらフワ家との話があったわ。でも、私が蹴ったのよ」
えええええええ??とキョーコは思わず立ち上がってしまった。そんな話初耳だ。
「当たり前じゃない。もう何代も前から両家が一緒になった方が合理的なのは分かっていて、私とフワ家の御当主は年が近い。今のあなた達のように縁談が持ち上がらないほうが不思議じゃないの?」
言われてみればその通り。でもなぜ。

「私はね、あなたのお父さんに会ってしまって、その話を無しにしたの。そういうことよ」
そういえば、とキョーコはテンに言われたことを思い出した。
「お母さん!お父さんって、別の国の人なの?私、神官のような魔力があるって、言われたの」
サエナは少し目を見開いてキョーコの顔を見つめる。
「…そういえば、そうね。あなたにはあの人の話、あまりしてないわね。…そうよ。あなたの父親は遠い、海の向こうの大陸から渡ってここに辿り着いた人だった。国を追われた、神官だったわ」

そうなんだ…キョーコは、おぼろげにしか覚えていない父親と自分が親子なのだと言う実感を、噛み締めていた。
サエナもじっとキョーコを見つめてつぶやいた。
「そうね…キョーコの中に、あの人は生きているのね…」

それで、とサエナはあっさり話を変えた。
「その、あなたが将来を考えたいと言う人は、誰なの?レン・ツルガ?」
父親との思い出にまだ浸っていたキョーコは無理やりそこから引っ張り出されて熱湯をかけられた気分になった。ここまでは、母親にショー・フワより大切な、将来を共にしたい人がいる、という話しかしていないのに、なぜその名前が出てきたのだろうか。

「な、なんで?」
「サワラが城から帰ってきて、真っ先に私に嬉しそうに報告してくれたわよ。ツルガ氏のあなたを見る目が愛しげで、あなたもまんざらではなさそうだったって」

何を話してるんですか、サワラさん!
キョーコは内心で突っ込んだ。
そんなところを見ていたんですか!私を心配してくれてたんじゃなくて!!
ていうか、サワラさんはフワ家との合併がなくなってもいいんですか!!

「それに…あら、あなたサワラがあなたを見舞った後って、サワラには会ってないの?」
「え…はい。あれっきりだけど」
「そう…なるほどね。ツルガ氏も若い割に色々と一筋縄ではいかない人物なのかしら?」
「はい?」
「なんでもないわ。年明けの国王への謁見の時にでも、あなたの大事な人の顔を見せてもらおうかしらね」

お母さん、とキョーコはどうしても確かめておきたくてサエナに尋ねた。
「今まで、お母さんが私の将来を決めていたように思ってたんだけど……そうじゃなかったの?」
サエナは驚いたような顔を見せたが、表情を引き締めるとぴしりと言った。
「昔はあなたがフワフワしているように思えたからね。その方があなたのためだと思った。自分で何も決められないのならこちらが考えていけばいいとね。生半可な気持ちでただ嫌だと反抗するんであっても、許す気はなかった。…でも、あなたが家を出て、いろんなことを経験して、考え抜いて、それで出した答えならば……まあ、いいわ。その代わり、私が示した道を外れた方が苦労は多いわよ」

「それは、覚悟の上です」
キョーコもサエナから目をそらさずに答えた。そしてもう一つ、と切り出す。
「ツルガ様はその実力で軍では認められています。ですが、ツルガ家は地方の小さな家なんですけど…」
キョーコは、ここでレンの家の事情を話すつもりはなかった。名前もない地方貴族との結婚、ということをサエナがどう捉えるか知りたかったし、レンはいずれ家に戻るとは言っていたがいつになるかも分からない。

「そうね、以前、フワ家との合併以上にメリットがないと認めない、とは言ったわね」
「はい」
「…嫌いな相手と嫌々結婚するよりは、好きな相手と結ばれて、苦労する方がいい効果がもたらされる可能性もあるわね。あなた次第だけど」
「…お母さんが、お父さんと結婚したように?」
「そう。思いもよらないことだって分かってくる。あの人は、神官だったけど職人の才能もあった。あなたも知ってるでしょう、うちの金細工の新しい加工技術はかなりの数があの人が考え出した物だって」
「それは、結婚前には知らなかったことなの?」
「そうよ。あの人自身、知らなかった。職人の仕事を見ている内に勝手に考え付いたのよ」

キョーコはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げた。その顔にはもう迷いは見られなかった。
「お母さん。私、まだまだお母さんの手の中にいるのかもしれないけど…誰かのせいにするのはもう辞めて、自分の足で立ちたいと思ってます。だから、大変かもしれないけど頑張ってみる。認めてくれてありがとうございます」

サエナは内心で、娘の成長に驚いていた。数年前までは、母親である自分の意見に異議を唱えたり自分の意見を言うような事はなかった。

いや、私が言わせなかったのかもしれないわね…

でも、見事にキョーコは自分の懐から飛び出して、自分の道を自分で拓く力をつけつつある。
しかしキョーコの試練はこれから始まるのだ。おそらくフワ家の説得など序の口だろう。自分が若い頃に経験した苦い出来事が思い出される。最悪モガミ家の存続に関わることも出てくるかもしれない。それでも。同じ苦労をさせたくないと娘に強いた道が、逆に娘を苦しめているのだとしたら。

結局、親子の血ってことよね。

そして、サエナはふとキョーコの相手として名前を挙げた1人の青年について思いを馳せた。

レン・ツルガは良くも悪くも色々な評判を聞く男だけど……どうなることかしらね。

しばし、静観してみようと思うのであった。





この話ではキョコたんママはそれほど悪い人ではない様子。


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