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Catch the Wave (2)


こんばんは。ぞうはなです。

先にお伝えしておきますが、ぞうはな、マリンスポーツの経験がなく…
おかしな記述があるかもしれませんが、見逃してください。

ということで、早速参りましょう。





波間に浮かぶサーファーの姿が増えるためか、週末の海は普段より落ち着きがないように見える。
季節の変わり目の時期、この海岸では波が高めになるが、日によっては方向が絶えず変わる風によってうねりが出ることもあり、サーファーたちの技術を試しているかのようだ。

「こんにちはーー」
数日振りの顔が海際の小さな店のドアを開ける。
「光さんいらっしゃいませ」
キョーコの朗らかな笑顔が光を出迎える。
「4人、入れるよね」
「大丈夫ですよ」
ちょうど前の組が出て空いた机をキョーコと奏江が手早く片付ける間に、光は外の連れを振り返った。

店に入ってきた面々はほとんどが顔見知りだったが、最後にドアをくぐった男を見て奏江は目を丸くした。それは、文字通りドアをくぐるほどの長身で、そして大理石の彫像のように整った顔をした男だったのだ。
「いらっしゃいませ、初めての方ですよね」
奏江が水のグラスを配りながら尋ねると、壁際の席に座った男はにっこりと笑って頷いた。
真顔でいると整いすぎて話しかけにくい雰囲気だが、実は割と社交的な人間なのかもしれない。
「はい、石橋君に誘ってもらって」
「サーフィンしに?」
「ええ、いい波に乗れるって聞いたので」
「で、どうだった?」
尋ねたのは男の隣に座っていた光だ。きらきらと期待に満ちた目で男を見る。

「うん、思ったより良かった。少しサイズは小さいけど、混みすぎてないのも練習にもってこいだね」
「おお、よかったーー。本場で乗ってた敦賀君にそう言ってもらえると嬉しいよ」
ガッツポーズを作る光に、男の正面に座ったメガネの青年が笑う。
「お前が嬉しいんだ」
「そりゃやっぱり地元の海ですから!社さんだって実家の方の海、誉められたら嬉しいですよね」
「んー、まあでもあそこはサーフスポットじゃないからなあ」
男4人はわいわいとあそこの波が良いなどとサーフィン談義に花を咲かせる。やや呆れ顔の奏江がその合間を縫って注文を取り、キョーコは黙々と作業に没頭した。

「お待たせしました」
明るい声とともにキョーコはカウンターから出て皿を運んだ。奏江はちょうど別グループの会計中だ。注文内容を確認しながら皿を配っていくが、一番大きい男の前に一番量の少ないサンドウィッチの皿を置くことになってキョーコは首をかしげた。
「…これで足ります?何か追加なさいますか?」
単純な疑問だったのだが、社が妙に受けて吹き出した。
「ほら、やっぱりキョーコちゃんから見たって不思議なんだよ」
「…分かってますよ」

苦笑した男を不思議そうに見るキョーコに、社が振り返って説明する。
「蓮はさ、ああ、こいつ敦賀蓮って言うんだけど。燃費がよすぎて、いつも小食なんだよ。俺もよく持つなってちょっと心配なんだけどさ」
「え……お昼だけじゃなくて毎食ですか?」
「そ!光の半分くらいだよな」
「まるで俺が大量に食べるみたいじゃないですか」
今度は光がぶつぶつと不満をこぼす。今日だって光はパスタを大盛にしているのだが、若い男性客は大体それ以上に食べるので、キョーコは光の方が一般的だと思う。

「もう少し食べることもありますけど…今日はこの後また海に入りますよね」
「ああ」
「満腹にしない方がコンディションいいんです」
「…お前、ストイックなんだな」
「普通ですよ」
すまし顔でサンドウィッチに手を伸ばす蓮と社のやり取りを呆気に取られて見守ったキョーコはくすりと笑った。
「どのメニューも少なめにも大盛にも出来ますから、仰ってくださいね!」
「うん!」
「お前じゃないよ」
返事をした光に即座に社が突っ込む。
キョーコは笑顔のままカウンターに戻り、また作業を始めた。

「ここはさ、休憩と昼飯にちょうどいい店なんだ。いつも大体ここだな」
食べながらなんとなく店内を見回した蓮に社が言った。
「海から近いし、飯はうまいし。だからいいシーズンのときは混んじゃって大変だよ」
「…すぐ一杯になりそうですよね、この店」
「実質キョーコちゃん一人で回してるからな。これ以上は無理だろ」
「ほんとすごいなキョーコちゃんは。あんなに若いのに」
光が感嘆のため息をついてちらりとカウンター内のキョーコに視線を送る。キョーコはカウンターに座った別の男性たちの話を聞き、笑顔で相槌を打ちながらも作業の手を止めることはない。
「またリーダー見とれてるで」
「なんだよ雄生、そんなことないって」
「ライバル多すぎるからなあ。リーダーも大変や」
光の前に座った雄生がうんうんと頷いてフォークにパスタを絡めながら同情するような声を出す。
「だっ…もう!違うんだよ、俺はここに来るだけで元気がもらえるの!ただそれだけだよ」
「へいへい、まあリーダーがいくら頑張ってもキョーコちゃんにはなあ…」
「……」

言葉につまり手を止めた光に、「すまへん、冗談やて!」と雄生が慌てて謝る。首をかしげた蓮に、社がフォローを入れた。
「キョーコちゃん狙いの男はかなりいるんだけどな。誰一人として成功してないんだよ。それでまあ男嫌いなのかとか、実は既婚者だとか、変な噂も多少あるってこと」
「はあ」
「考えてみりゃお前も似たようなもんか」
「はあ?」
怪訝な顔をした蓮に、社は目を細めて机に肘をつく。
「隠しても知ってるぞ。日本に戻ってからどれだけ社内の女の子たちを振ってるか」
「振ってませんよ」
「あー…違うか、もっと巧妙だよな」
ニヤリと社は笑い、蓮は無言でサンドウィッチを口に放り込む。

「巧妙って…?」
早くも落ち込みから立ち直って不思議そうに聞く光に社はさらりと答えた。
「こいつ愛想よくてフェミニストだから周りは皆うっとりしちゃうんだけどさ?相手がもっと近づこうとする前になんての、近づかせないオーラを放つんだよ」
「うちの部署の子達も言うてましたわ、隙がないて」
「そうそう」

フムフムと納得しながら自分を見る先輩と同僚に蓮は深いため息をつく。
「会社で誤解を生むような行動したら、仕事に差し障るんです」
「ええな、差し障るような事があって。俺なんもないで」
ぼそりと返した雄生に う、と蓮は口をつぐむが、すかさず光がぱかんと雄生の頭をはたく。
「入社早々の事を忘れてるのか?」
「あ、あれに触れたらあかんて、若気の至りやもう時効や」
「なら人の事言うなって」

話はまたサーフインに戻り、食事が終わる頃には奏江がテーブルにやってきた。
「皆さんアイスコーヒーですよね。お皿お下げします」
てきぱきと皿を下げてアイスコーヒーを置いた奏江の後ろ姿を見て、雄生が光に話しかける。
「奏江ちゃんもどうなっとん?」
「知らないけど…この間 あのチャラ男がまた振られたって大騒ぎしてたよ」
「あいつはだって、奏江ちゃんにつれなくされてよろこんでるやろ?」
「まあ、そう見えるよな」
二人の会話に社が加わった。
「この店の店員って3人揃ってもてるのに、全員つれないよな」
「確かに」
光と雄生がウンウンと頷き、社は黙っている蓮に説明した。
「午後にいることが多い千織ちゃんって子がいてさ。この子も可愛いんだけど結構きついんだ。けどファンも多くてな」
蓮は軽くうなずいた。
「お前にとっちゃいい店だよな。今日も奏江ちゃんもキョーコちゃんもお前見ても顔色ひとつ変えないし」
「そんな」
蓮は苦笑したが、確かに女性には熱のこもった目でまとわりつかれるか好奇の目でジロジロ見られることが多いので、そんな反応に慣れているとはいえ意識されない方が自分も楽だ。
そんな素直な感想をここで口にしても雄生達には自慢と受け止められかねないのでわざわざ言うことでもない。

「さーて、もう一本行くか」
社の声に蓮達は立ち上がった。
「ごちそうさま」
「ありがとうございました!」
笑顔のキョーコが社から伝票を受けとりレジに立つ。
「午後もこんな感じかな」
社の質問にキョーコは顔を上げて外を見る。
「今日はもう少し高くなりますよ。けど、夕方近くなるとうねっちゃいそうですね」
「そうか、じゃあ早いうちだな、ありがとう」
「いつもありがとうございます。またよろしくお願いします」

キョーコの笑顔に見送られて4人は店を出る。先頭を歩く社に蓮は少し不思議そうに尋ねた。
「なぜあの店員に波を聞いたんですか?」
ああ、と社が答えようとしたところで光が口を挟む。
「キョーコちゃんはここの天気と海のこと、よく知ってるんだ。まず外さないよ」
へえ、と蓮は意外そうな声を上げてちらりと店を振り返り、そして社たちと海辺へ戻っていった。


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