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Catch the Wave (1)


こんばんは!ぞうはなでございます。

さてさて、今日から始まりますのはまだ残っている!2周年のリクエストでいただきました、くーまさんからのお題。
「海を舞台にしたサーファーもてもて蓮様、もしくは海の近くでバー(いかがわしくない)をやってもてもてキョコさんのお店に足しげく通う蓮様などが見たい…」
てことで、ぞうはなの独断でこの中から改変しつつなんとなくなお話にしてみました!

本当にお話にするのに時間がかかり過ぎて、申し訳ありません。が、開き直って参ります。





低い山を貫く短いトンネルをいくつも越えると、視界に青い海が飛び込んでくる。
山にへばりつくようにゆるやかに曲がりながら下っていく国道と、そこから少し下がった海岸に広がる白い砂浜。坂の上から見渡せば、広大とは言いかねる海際の風景が一望できる。

海側に視線を落とせば、手前の砂浜は小さいながら地元の住民が集まる海水浴場だが、海水浴シーズンではない今は海の家も骨組みだけになって少し寂しい。
海水浴場を眼下に見ながら国道をもう少し先に進めば、こちらも地元民がメインだが一年中人の姿が見えるエリアとなる。
外海に面したこの海岸は広くはないが、知る人ぞ知るサーフスポットとなっているのだ。都心からも比較的アクセスがいいため休日にはサーファーたちが集まってくるし、砂浜が続くこのエリアは地元民の散歩コースとしても愛され、季節や時間を問わず人が絶えない。
そしてその砂浜から少し丘を上がった場所に、小さなログハウス風の建物がある。
丘の上を走る国道と海岸の間に位置するその建物の一階は海側に向いた面がガラス張りで、海岸から沖合いまでを見渡すことができた。

ある晴れた春の日の昼過ぎ、長いサーフボードを自転車の専用キャリアにくくりつけた青年の姿が海岸沿いを通る細い道に見えた。青年は自転車を引いて国道につながる細い坂道を上り、道の途中で折れてログハウス風の建物敷地内へと入っていく。
数台が停められる駐車場の端っこ、草が生い茂る横に自転車を停めると青年は建物のドアを引いた。

からんからん

ドアの上部に下げられたベルが音高く鳴り、レジ傍にいた店員らしき女性が顔を上げる。
「いらっしゃいませ…あら光さん」
青年はぺたぺたとビーチサンダルを鳴らしながら店内に入る。茶色く少し長い髪にパーカーとだぼっとしたパンツ姿で今時の若者に見えるが、人懐っこそうな笑顔はやや幼くもある。
対する女性の方は黒く長いストレートヘアを後ろでひとつに束ねた、きりっとした印象の美人だ。エプロンをつけてもなお、所帯じみた野暮ったさは感じられない。

「こんにちはー。あー、お腹空いた」
「珍しいですね、平日に」
「うん、有休溜まってたから思い切って休み取っちゃったんだ」
「そうなんですか、じゃあのんびりでいいですね」
「おかげでちょっと寝坊しすぎちゃったけどね……キョーコちゃんは?」
「ランチの配達中です」
決して広くはない店内をきょろりと見渡した光は女性の答えを聞いて、そっか と納得した声を上げるとカウンターの椅子に腰を下ろした。

店内は外からの光で明るく、カウンターと4つほどのテーブル席があり、テーブルや床や壁は綺麗に磨き上げられている。
カウンターの上のキッチンとの仕切り壁には大きな波をくぐるサーファーの写真が飾られ、壁にはメニューが丁寧な字で書かれた小さな黒板がかかっている。

「奏江ちゃんも珍しいんじゃない?平日にここにいるなんて。週末だけって聞いてたけど」
そう問われ、奏江は水の入ったグラスを光の前に置きながら答える。
「ついさっきまで、ママ会が開かれてたんですよ」
「ままかい?なにそれ」
「幼稚園のママたちのランチ会。10人で予約が入ってたから、キョーコ一人でさばくのも無理があって」
光は思わず振り返って店内を見た。この店に10人では、ほぼ貸しきり状態だったのだろう。
それに女性ばかりが大勢集まったら相当賑やかそうだ。早めに来なくて正解だったかも、と光はこっそり胸をなでおろす。

「ああ、それで奏江ちゃんが呼び出されたって事か。授業は大丈夫なの?」
「もう春休みなので」
「あぁ~~そっか!もうそんな時期だったね」
光はぐいと水を飲み干すと、店内の壁の小さな黒板を見た。そこには今日のランチメニューが書かれている。光は急に空腹を思い出した。
「キョーコちゃん、どれくらいで帰ってくるかな」
「そろそろ帰ってくると思いますよ」

奏江の返事を合図にしたように、店の奥の方から物音がする。すぐにパタパタと足音が聞こえ、カウンター奥の通路から一人の女性が顔を覗かせた。
「ただいまー。っと、光さん!いらっしゃいませ!!」
現れたのはかなり若い、活発な印象を与える女性だ。肩までの髪は栗色で、くりっと丸い目は表情豊かに光をたたえている。
途端に光の顔にぱあっと満面の笑みが浮かんだ。
「こ、こんにちは!キョーコちゃん忙しそうだけど今日も元気だね」
少し照れたようなその挨拶に奏江は「やれやれ」と呆れたような笑みを浮かべ、キョーコはにこにこと返事をする。
「ええ!光さん、今日はお仕事お休みなんですか?」
「そう、サボっちゃった。それで天気も良かったから、少し海に入ってたんだ」
「午前中は風もなくてちょうどよかったんじゃないですか?でも今日の波は少し穏やか過ぎるかな」
キョーコはちらりと窓から見える海に目をやりながら言った。

「うん、腰程度だったからね。午後はどうかな」
「今日は1日こんな感じですねえ。オフショアがちょっと吹きそうですけど」
「そっかぁ…じゃあ慌てるのはやめようかな」
「折角のお休みならゆっくりして行ってください。ご注文は?」
「日替わりランチ、まだ大丈夫?お腹ぺこぺこだ」
「大丈夫ですよ、少しお待ちくださいね」
笑いながらキョーコはエプロンをつけると手を洗い、てきぱきと作業に入る。
光はそんなキョーコを横目で見ながら少し微笑んだ、というよりにやけた。

「さて、私はもういいわね」
客の前だというのに奏江はエプロンを外しながらキョーコに声をかけた。
「あ、そうね、そろそろランチタイムも終わりだし。モー子さん本当にありがとう!」
「ううん、こっちだってバイト代もらってるもの。授業始まるまで融通効くからいつでも言って」
「分かった。とりあえずまた週末にお願いします」
包丁で刻む手を止めてキョーコは奏江に向かって丁寧に頭を下げる。
「うん、では光さん、失礼しますね」
奏江はどこか意味ありげな微笑みを光に向けるとカウンターの奥に消えて行った。

広くない店内にはキョーコと光だけが残される。
小さく聞こえるBGMは陽気な洋楽で、窓から見える晴天と青い海にぴったりだ。光は一度席を立って置かれたポットからグラスに水を継ぎ足すとまたカウンターの席に戻った。

あれ、奏江ちゃん、もしかして気を効かせてくれたのかな…?


そう考えると急にキョーコの存在が大きなものに感じられてきて光は勝手に緊張してしまう。
何か気の利いた事を、と思ってしまうと逆に言葉が出てこない。
「…お昼、ママさんがたくさん来て大変だったんだって?」

ああ、やっぱりだめだ。なんでそんな話なんだよ。

光は自分の不甲斐なさにがくりと落ち込むが、コンロに火を入れたキョーコは笑顔で顔を上げた。
「ああ、定期的にご利用いただいてるんです。最初にランチを出した後はドリンクだけでお話が盛り上がるので案外楽ですよ」
「でも配達もあったんだよね」
「そうですね、今日はちょっと時間が遅かったのでかえって助かりましたけど」
「平日の配達ってよくあるの?」
「ええ、ご贔屓にしてくださってる会社があって、たまにお届けしてますよ」
「いいな、俺もこの近所の会社に勤めればよかったな。そしたらキョーコちゃんのランチボックスが食べられるのに」
「ふふ、ありがとうございます。そう仰っていただけるとすごく嬉しいです」
にっこりと笑ったキョーコに、光はどきりと胸を高鳴らせる。

あーほんと、週末だけと言わず平日も通いたいよなあ。
それならこうやって2人っきりなんてことも出てきて、もっと仲良くなれるのに…

それならば数少ないこの時間を大切にしなければ、と光が背筋を正したところでドアのベルが高らかに鳴った。

「ちーっす。あれ光?珍しいなサボりか」
ドアの方を振り返れば、そこには無造作に髪を伸ばしてサングラスをかけた男がニヤニヤと笑みを浮かべて立っている。
「いらっしゃいませ!」
「たまには休んだっていいじゃないですか」
キョーコが明るく声をかけ、光が少し口を尖らせて反論する。男はカウンターまで来ると光の席から1つあけて座り、肩に掛けていた重そうな大きいカメラをカウンターにゴトリと置いた。
「サラリーマンは大変だな、この季節の移る時期に日々刻々と変わっていく海の風景を見られないんだからなあ」
「仕方ないですよ、仕事なんだから」

光の機嫌が悪いのは、サボりだと言われた事でも自分の仕事を貶されたためでもなく、単純にキョーコとの時間を邪魔されたからだ。もっともここは飲食店で営業時間中に誰が入ってこようと客である光に文句を言う権利などないのだが。

「ごめんなさい、お待たせしちゃって。盛りはちょっとサービスですよ」
「ありがとうキョーコちゃん。ほんと優しいなあ」
トレイを持ってカウンターから出てきたキョーコは光の前に温かい湯気を立てるお皿を並べていく。
「黒崎さんはコーヒーですか?」
「ああ。あと、今日はチーズケーキはあるか?」
「ありますよ、じゃあケーキセットでよろしいですね」

ああ、と短く答えた黒崎はキョーコがカウンターの中に戻るのを見届けると少しだけ光の方に顔を寄せて小さな声を出す。
「悪かったな、二人きりのところを邪魔して」
早速おかずとご飯をほうばっていた光は吹き出しそうになって「ぐふぐふ」とくぐもった声を立てた。
「光さん大丈夫ですか?」
キョーコが心配そうにカウンターから身を乗り出す。光はなんとか咀嚼をしながら"大丈夫"と示すように小さく手を上げてキョーコの方に向けた。

ようやく口の中のものを飲み込んだ光は恨めしそうに黒崎を睨む。あくまでも声量は控えめだ。
「なんてこと言うんですか」
「違ったか?」
「違いますよ、別に俺は…」
キョーコがケーキを持ってカウンターから出てきたため光は口を閉じた。

「あ、そうそう、キョーコちゃん!」
光が思い出したように声を上げた。黒崎に言われたことなど忘れたかのように笑顔だ。
「はい?」
「今週末、多分会社の同僚を連れてくるよ。社さんの後輩で俺の同期なんだ。すごくでかくて驚くと思うよ」
「サーフィンする方なんですか?」
「うん、そう!先月アメリカ支社から戻ってきたばかりで俺もまだそれほど親しくはないんだけどさ。波に乗る奴ならここを気に入らない訳ないし」
「波乗りばかりで海が騒がしくなるのは嬉しくないな」
ぼそりと黒崎が横槍を入れたため、光はまたじろりと黒崎を睨み、キョーコはそんな2人をとりなしたのだった。



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