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たのしいレシピ (25)


こんばんはー。ぞうはなです。
思った以上に長くなってしまったこのお話も今回で終わりとなりますー。

りょうこ様、なんだかきっとリクエストとはずれたお話となってしまいましたが、失礼いたしましたー。

ではでは最終回、いってみましょー。





RRRRRRRRR……

呼び出しのコール音は10回を超え、尚は閉店後の店の中で椅子にどっかりと座ってイライラと片足のヒザを揺らしている。

あいつはまた……出ねえし留守電にもならねえし…使えねえ奴!

かけなおそうか、と思った瞬間呼び出し音が途切れ、『もしもし?』と少し機嫌の悪そうな声が電話越しに聞こえてきた。
「とっとと出ろよ、ったく!」
『何よ、出るなり怒鳴らないで!』
「留守電にもしとかねえお前が悪いんだろーが」

『あれ?』というとぼけた声が聞こえたので、尚はため息をついて少しだけ声のトーンを落とした。
「そんなこたあどーでもいいんだけどさぁ…お前なんなんだ、なんであいつと本になんて載ってんだよ」
『あら、あれ見たの?珍しいわね、料理になんて興味ないでしょ』
「ふん、たまたま本屋で平積みされてたんだよ」
『…ふうん、表紙にはほとんど私の写真は載ってなかったはずだけど、よく敦賀さんの本を手に取ったわね』
「うるせえよ」

そう、役者「敦賀蓮」といえば目の上のたんこぶ的な存在として、尚の中では常に忌むべき存在だ。古着屋のカリスマ店員の尚にとって、役者のくせにモデルとしてどんな奇抜な衣装でもさらりと着こなす蓮は目障りでイラつかせられている。
そしてただでさえもそんな気に食わない相手だと言うのに、何の偶然なのかキョーコの周りをまとわりついているのが更に尚の怒りに拍車をかける。もうドラマの仕事は終わったはずではなかったのか。

『それで何なの、私の仕事に文句をつけてどうしようって言うのよ』
「仕事?どうせあの男がねじ込んだんだろうが」
『違うわよ失礼ね。あの企画を持ってきてくれたのはドラマのプロデューサーさんなの!敦賀さんがそんな公私混同するわけないじゃないの』
「公私混同だあ?」
キョーコの言葉が尚の神経を逆なでする。
それはつまり、キョーコ自身が蓮とプライベートな付き合いがあると言う事を意味するではないか。尚はてっきり、何の間違いかキョーコに一方的に執着している蓮がキョーコとの関わりを作りたくて仕事に巻き込んだと思っていたのだ。

「何だお前、もしかしてあの男と…!」
スマホに向かって噛み付かんばかりに唸ったところで電話の向こうから「あっ」という小さい声が聞こえる。それからがさがさという物音と小さな声がすると思ったら、急に男の声が聞こえてきた。
『もしもし?不破君か』
「なっ!なっ……!」
『まったく、折角作った時間を無駄にしたくないんだ。用件が終わったなら切るよ』
「ちょっ…待て!なんでお前が今キョーコと一緒にいんだよ!」
『なんで?今ちょうど2人で食事をしていたところだからだ』
「はあ?」
『じゃあ切るよ』
「あ、ちょっ!」

通話は無情にも切断され、ツーツーという音だけが聞こえてくる。
「あんの野郎、何勝手に切ってんだよ!キョーコもキョーコだ…ったく!」
スマホの画面に向かって悪態をついたところで後ろから声がかかった。
「どうしたの尚、一人で叫んで」
商品であるTシャツを抱え驚いたように自分を見ているのはこの店の店長の祥子だ。
「なんでもねぇよ…」
ぶつぶつとトーンダウンして尚は立ち上がり、ジーンズの尻ポケットにスマホを突っ込む。
「レジ閉めてくれたの?」
「今やる」
レジに向かいつつもまだ険しい顔の尚に、祥子はTシャツをカウンターにどさりと下ろすと腰に手を当ててため息をついた。
「そんなにイライラするなら、彼女のところに戻ればいいんじゃないの?」
「…彼女なんかじゃねえって」
「じゃあなんでそんなにイラついてるのよ」
「イラついてるんじゃなくて呆れてるんだよ!あいつの節操のなさに!!」
ばしーっと尚がレジのキーを叩くとトレイがガシャンと出る。

素直じゃないのよねえ…

祥子はやれやれと尚を見守る。
部屋の掃除中、尚には似合わないレシピブックを尚のベッドの上に見つけた時は少し驚いた。しかしその中に写っている女性が元々尚と一緒に住んでいた子だと聞いて、あれこれと合点がいったのだ。

こういう不器用で直情的で自分の感情に素直になれない尚を、この女店長は可愛く愛しいと思っている。
けれど尚の気持ちがまだ揺れている限り、自分はお姉さん的な立場でいる他ない。

まあ成長を見守るのも悪くはないけどね。
接客中にイライラされても困るから、早いところすっぱり結論が出ちゃえば良いんだけど。
けど…

祥子はちらりとレシピブックの主役の俳優を思い起こした。

あれだけの超人気俳優さんだものねえ。
交際が公になるってことは当分なさそうね。

そうすると目の前の素直じゃない男はキョーコと人気俳優の交際など事実として認めないだろう。

ほんと、素直じゃないんだから。そこが可愛いんだけどね…

祥子はイライラとレジ操作をする尚の頭を、「なんだよ祥子さん」と言われつつもよしよしとなで続けたのだった。


「あー…本当に切っちゃったんですね」
キョーコと蓮は蓮の部屋のソファに座っている。
「ダメだった?」
「いえ、問題ないですけど」
キョーコは蓮から返された携帯を閉じながらちらりと蓮の顔を見た。
「びっくりしました。まさか敦賀さんが電話に出ると思わなくて」
「埒が明かないし、本当に君との時間を邪魔されたくなかったからね」
そう言って笑うと、蓮は隣に座るキョーコの髪に手を伸ばして指でするすると梳く。

「折角一緒に料理して君の感想もらってるところだったんだから」
「それなら、電話取らなくても良かったのに」
「彼には知っておいてもらいたいから……いろいろと」

もしかして、尚にアピールしたというのだろうか。
キョーコは蓮のその行動に少し驚くと同時にくすぐったい気分になる。
「それでも彼はへこたれなさそうだね」
やれやれとため息をつく蓮に、キョーコは少し考えながら口を開いた。
「何なんでしょうねあいつは。本当になに考えてるか分かりません」

蓮はまじまじと近距離からキョーコを見た。その顔には少しばかり呆れの色が混じっているように見える。
「本当に分かってないの?」
「…はい?」
ぽかんと蓮を見返したキョーコに、しばらくの間を空けて蓮はふっと笑った。
「それならそれでいいか」
「え?え?どういうことですか?」
「ううん、なんでもないよ」
「そう言われるとかえって気になります」
「いやだな」
少し不満げに口を尖らせたキョーコに、蓮は悲しげにため息をつく。
「俺といるときくらい、俺のことだけ見て俺のことだけ考えてくれないの?」

キョーコの頬が真っ赤に染まる。
「か、考えてます、考えてますよ!」
「ほんとに?」
「ほんとです」
「じゃあ、今日は俺の誕生日のレシピを一緒に考えてくれる?」
キョーコは甘えたような蓮の提案に、目を丸くした。
「構いませんけど…私が考えて御馳走しようと思ってたのに」
「俺への一番の御馳走は、君との楽しい時間だよ。一緒に作ろう」
「時間大丈夫なんですか?」
「空けてもらうよ。敏腕マネージャーがついてるから大丈夫」

まったく、と言って笑うキョーコを蓮は抱き寄せてぎゅうと抱きしめた。
「一緒に作った料理のレシピがどんどん増えるといいな」
「敦賀さんもすっかりお料理好きになりましたね」
「先生のおかげだよ」

ちゅ、と音を立てて唇が合わさる。
「そういえば社さんが言ってましたよ。お昼の番組のお料理コーナーのお話が来てるって」
「……それはちょっと…」
「だってお料理好きになったんですよね?」
「じゃあキョーコと一緒なら出てもいい」
「それはありませんよ」
「えーー」
「えーー じゃありませんって!」

そして次クールのドラマで蓮が演じたのは料亭の板前の役で、役作りと称して恋人との時間を堪能したなんて公私混同ぶりは、本人とマネージャーの胸の内だけにとどめられた事実となったのだった。


(おしまい)

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