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たのしいレシピ (23)


こんばんはーー!ぞうはなです。
どうしても甘い雰囲気は長続きせず…。





「やれやれ」
エレベーターの扉が地下階についた時に無意識に呟いてしまったことに気づき、「なんだ、独り言なんて俺も年取ったのか?」と苦笑いしながら社はエレベーターを降りた。
駐車場に見慣れたスポーツカーが止まっているのがすぐに目に入る。社は一直線に車に向かうと助手席側の窓を覗き込んでからドアを開けた。
「おまたせ」
助手席に乗り込んでからはたと後部座席を覗き込む。
「あ、キョーコちゃん先に降りるから前に乗ってた方がいいかな?」
後部座席に座っていたキョーコは両手を小さく振って答えた。
「あ、いえ。ここ社さんには少し狭いですよ」
確かに蓮の車は一応後ろにも座席があるがお世辞にも居心地がいいとは言えない。
「それはそうだけど。キョーコちゃんは大丈夫?」
「私はまったく問題ありません」
笑顔で応じるキョーコはまだ撮影のときの化粧のままのせいか、いつも以上に大人びていて社は改めて変わりっぷりに感心した。

すぐに車は動き出し、蓮は大通りの流れに車を乗せた。社は外を眺めながら信号で止まったタイミングで気がついたように言う。
「まあ、キョーコちゃんが助手席に座ってるところを目撃されて噂されても困るかな?」
社は軽く言ったのだが、ほんの一瞬、車内に変な空気が流れた気がした。「あれ?」と社は思うが、すぐに蓮がいつもの調子で返してくる。
「もう何回も座ってますから、今更じゃないですか?」
「それもそうだけど…そういえば、その割に今まで一度も騒がれてないよな」
「夜ですからね。さすがにまじまじと覗き込まなければ分かりませんよ」
「そっかそっか。今日ももう日が暮れてるから大丈夫だろ」
「まあ、すぐ着きますから」
二人のやり取りの間も後ろでキョーコはじっと黙り込んでる。

キョーコちゃん、そんなにベラベラ喋りたがるタイプじゃないけど…なんかこう、空気が変じゃないか?

気になるが、薮蛇は困ると思うと不用意な発言はできない。少しだけ考えて、社は首を後ろに向けて世間話を振ってみる事にした。
「映画の仕事の方は順調?」
「はい!おかげさまで。色々お仕事させていただいて、忙しいですけど充実してます」

あれ?気のせいか…?

話しかけてみればキョーコの表情や口調はいつもの通りだ。社はどこかほっとして話を続けた。
「飯塚さんはすっかりキョーコちゃんに任せてるんだね」
「…でも、怒られてばかりでまだまだですね……」
「キョーコちゃんまだ飯塚さんのところで働き始めてそれほど経ってないでしょ?俺も最初は叱られてばかりだったよ」
「そうなんですか?意外です…社さん、ものすごいテキパキお仕事されてて」
はは、と社は笑った。
「まあ俺は蓮のデビューから一緒に仕事してて、こいつが段々忙しくなったから俺も段々慣れることができたんだけどね」
「デビューからずっと一緒ですか!」
「うん。もう8年くらいになるか?」
「そうですね…それくらいになります」
社が顔を運転席に向け、蓮がぽつりと答える。キョーコは目を輝かせて後部座席からシートに手をかけて少し身を乗り出した。

「敦賀さんのデビュー当時ってどんな感じだったんですか?今はすごく大人って思いますけど、10代だったんですよね」
社も面白そうに笑うと顎に手を当てて思い出すように語りだす。
「そうだなー、確かに今より見た目は少し若かったけど、蓮はデビュー当時から十代の子供と思えないくらい大人びてたなあ」
「そうなんですか、なんだか納得です」
「雰囲気なんて今より尖っててちょっと怖いくらいだったしね」
「えええっ!ドラマの共演者の方皆さん、敦賀さんのこと穏やかだって仰ってました」
「昔のお前からは考えられないな」
「すみません社さんにもご迷惑をおかけして……さて着いたよ」

蓮の言葉にキョーコははっと外を見た。
そこは確かに見覚えのある景色だ。キョーコがシートベルトをはずす間に、蓮はドアを開けて外に出ると運転席のシートを倒す。
キョーコが礼を言いながら外に出ようと思う前に、その手は外から力強く引かれていた。
「あの、ありがとうございます」
「いや。今日はお疲れ様」
「お疲れ様でした!まだこの後お仕事でしょうけど頑張ってください」
「ありがとう。キョーコちゃんもね」
「はい!」

蓮は少しだけ顔をキョーコに近づけると小さい声で呟くように言う。
「今日の夜、電話しても大丈夫?」
「は、はい!」
蓮は笑顔でうなずくと運転席に滑り込んだ。ドアを閉めるとすぐに窓を開け、「じゃあ」と声をかける。

「次の撮影も楽しみです!」
運転席の横に少し腰を屈めたキョーコははにかみながら言い、蓮はその表情を見てシートベルトを引き出す手を一瞬止める。
「そうだね、俺も楽しみだ」
すぐに動き出した蓮が笑い返すと今度はキョーコがうっと目を反らす。

何なんだ…?

社が首をかしげる間に二人は挨拶を終え、蓮は車を発進させた。


「キョーコちゃん、綺麗だったな。お前うかうかしてられないんじゃないのか」
社が口を開いたのは、キョーコを下ろして数分経ってからだった。
「今日の撮影でもスタッフの中に見とれてる男がいたし」
「知ってます」
蓮はすぱりと答えた。
「いいのか?キョーコちゃんも自分の化粧した顔に驚いてたみたいだしさ。仕事も順調だし、羽ばたいちゃうかもしれないぞ」

俺は巣かなんかですか。


蓮はにやりと笑う社を冷たく横目で見ると、呆れたようにため息をつく。
「大丈夫ですよ」
「なんだ、自信ありそうだな」
「自信という訳ではありませんが」
「じゃあなんで言い切れるんだ」

蓮は社の方を見た。
何かを期待しているような、ちょっと好奇心でキラキラしているような瞳を見て少し気が重くなるが、再び視線をまっすぐ前に戻す。
「そうですね、仕事に影響があっては困りますから、マネージャーには伝えておかなければいけないですね」
「何をだよっ?」
「……きっと社さんが期待している通りの事です」
「え?え?もしかして…そういうことか?キョーコちゃんからOKもらったのか?」
「はい」

横目で見ていても社の表情がぱあっと明るくなるのが分かる。
なぜこの人はこんなに心底嬉しそうなんだろう、と蓮は不思議に思いながらも次の社の言葉に備えた。

「おお~~~!ホントか?い、いつの間に?いつからだ?」
「…そんな細かい事はいいでしょう」
まさかつい数十分前などと、さすがにバカ正直には答えられない。しかし社もそのあたりは特に拘らないようで、両手を握りこぶしにしてフルフルと震えている。
「よかったなあ、蓮!実は俺、もしかしてお前は恋愛なんか興味もないのかと、この1年くらいは諦めてたんだ」
「社さんが何を諦めるって言うんですか」
「すました顔して陰でこそこそ動いてたんだなあ、お前。キョーコちゃんに気持ちが伝わってよかったよ!」
「陰でこそこそ…社さん何気なく俺の事けなしてませんか」
「ああこれで俺も夜安眠できそうだ」
「だからなんで社さんが…」

不毛なドッジボールのような会話はしばし続いたのだが、蓮は次の現場で車を降りる前に「他の人に気取られないように」と社に釘をさすのを忘れなかった。
「俺を誰だと思ってるんだ、8年もお前のマネージャーやってるんだぞ」
「その8年になかった事態だから念のためです」
「お前こそ、思い出し微笑みで他の女性を勘違いさせないようにしろよ」
「なんですかその思い出し微笑みって…」

けどやはり相変わらず不毛な会話になってしまうのはどうしようもない事のようだった。


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