SkipSkip Box

たのしいレシピ (19)


おこんばんは、ぞうはなです!
我ながら不思議な時間帯での更新ですが、書けたので載せる!





キョーコのアパートの前から歩きながら、尚はどこかに電話をかけていた。
「うんそう。ああ頼むよ」
電話の相手に言いながら、尚は大きい表通りに足を向ける。
「…交差点のすぐそばに、コンビニがあるからその辺で。何分くらい?……わかった。コンビニにいるから着いたら鳴らしてくれ…ああ、じゃあ」

通話を切り、スマホをしまいながらふと目を上げた尚は、路肩に停められた車に気がついた。
最近あまり見かけないスポーツタイプの車だが、尚は割と最近その車を目にしていた。

まさか?…んな訳ねえよな。だけどこんな車そんなにたくさんは…

考えながら歩道を進み、車の正面近くに近づいてフロントガラスから暗い車内を覗くと、かろうじて運転席に座る男の顔が見える。
電話をしているその男の顔はこれまた見覚えのあるもので、車+男の組み合わせで、尚は相手が誰だかを確信した。


「本当に?ごめんね遅い時間に突然」
蓮は車を停めたまま、電話をしていた。しかし話している最中に『ゴン』という鈍い音がドアから伝わってきて、スマホを耳に当てたまま窓の外に視線を向ける。
窓の外には険しい顔の男が立っていて、蓮と目が合うと右手の人差し指をくいと上に曲げて『出てこい』という意思を伝えてきた。
蓮はそのジェスチャーを見ても慌てず、また視線を戻すと話を続ける。
「慌てなくていいよ、ちょっと俺も1本電話をかけるから、10分後くらいで大丈夫かな?…うん、じゃあ」

蓮は落ち着いて通話を切ると、助手席のシートにスマホを置いた。そして薄く色のついたサングラスをかけるとゆっくりとドアを開けて車の外に出る。
ドアのすぐ横に立っていた尚に立ち上がった蓮が並ぶと、尚は見下ろされる状態となった。蓮の顔は周りが暗い上にサングラスをかけてしまったため表情がよく読めないが、少なくとも口元はいつもテレビで見るのと同じ、やわらかい印象を受ける。
「なんでこんなところに邪魔な車を止めてんだよ」
「邪魔だったかな、すまないね。すぐにどかすよ」
「じゃあ今すぐどかしてどっかに行けよ」
「ちょっと用事があるからそれが済んでからだな」

蓮の口調はのんびりとして、どこか楽しげですらある。
尚は余裕のある蓮の様子になぜかイライラとして、口調が少し荒くなるのを自覚していた。
「こんなところに用事って何だよ?」
「…君には関係のないことだ」
「キョーコか?」

蓮は黙って尚を見ている。穏やかに自分を見るだけで返事をしない蓮に、さらに尚はイライラと口を開いた。
「やっぱそうなんだな?まあ大体そうだよな、こんなところにお前がいる理由なんて他にねえ」
「どっちだって、君には関係がないことだろう」
「あいつに付きまとってどうしようってんだよ」
「別にどうも?俺が付き合いたい人と付き合う、それが何か悪いことかな」
キョーコとの付き合いをさらりと肯定した蓮に、尚は大きく舌打ちをした。

「君には何を言う権利もないよ。そんなに目障りなら、最初から手放さなければ良かった。違うか?」
「な、手放すとかどういう意味…!」
「彼女に対して好き勝手しておいて今更うろちょろと、目障りなんだ。彼女に未練があるならば堂々と本人にそう言えばいい。俺に文句を言うのは単なる八つ当たりだ」

蓮の声は段々と冷たくなり、最後は投げ出すような言い方になっていた。それに気づいた尚が蓮の顔を見ると、サングラス越しに見える目は尚を嘲っているようにも見える。
「ふ…ふざけるなよっ俺は別にあいつのことなんて」
「ならば俺のことも口を出さないでもらおうか。俺にとっても、お前が彼女をどう思っているかなんてどうでもいい。ただあの子を大切にしたいだけだ」
「な……よくまあベラベラとそんなこと言えたもんだな」
「嘘をついてもしょうがないだろう。まあ、もういいよ。彼女の価値を分からない男に、これ以上語る言葉はない」

ふ、とため息をついた蓮の口調は元の穏やかなものに戻る。
しかしちらりと尚の顔を見た蓮が再度口を開いたとき、その調子はやはりどこか、尚を挑発するようなものだった。
「いや、君も分かってるんだろう。彼女が自分にとってどんな存在か。だから気になって仕方がなくてここにいるんだな」
「ちげーーよ!今日はあいつに連絡があってきただけだ!」
「どっちでも構わない、俺には関係がないことだ」

関係ない、関係ないと言う割には俺のことを決め付けやがって!

尚はムカムカしながらも話を切り上げることにした。こんなところでいつまでもこの腹の立つ男と話していたって仕方がない。
ムカムカするのは蓮が正面からキョーコに対する気持ちを告げてきたからなのか、それとも蓮の言葉に図星と思われる内容があったからなのか。
ごちゃごちゃして少し興奮した頭にはよく分からないが。

「ふん、まあ確かにあんたとあいつのことなんて俺にも関係ねえよ」
「ああそうだな」
軽く返され、尚はふん、と顔を背けて車から離れた。

今蓮が電話していた相手はキョーコだろうか。
蓮がここにいると言うことはこれから二人は会うのか。
まさかすでに…?

関係ねえっつってんだろ!

尚はどすどすと蹴散らすように歩み去った。


まったく…

尚の後姿を見送ってから、蓮はやれやれとため息をついた。

今更なんだっていうんだ?

それは蓮の素直な気持ちだ。
キョーコのことをなんとも思っていないなら関らなければいい。キョーコに目もくれずに部屋を出て行ったと聞き、キョーコの完全な片想いだと最初は思っていたのだが、これだけキョーコのアパートの近くに尚が来ているということは、そうではない。

俺の存在が目に入ったから慌てたのか?

もし尚がキョーコのことを実は唯一無二の存在だと思っているのだとしても、自分には譲る理由などどこにもない。むしろキョーコのことを振り回して傷つけておいて、のうのうと戻ってくることの方が理解に苦しい。

結局大事なのは最上さんの気持ちだ。けど、無理強いしたら逃げられそうだし…こんなにもどかしいのは初めてかもしれないな。

そろそろ時間だろうかとキョーコのアパートの方に視線をやれば、小走りで駆けてくる姿が目にはいる。
真っ直ぐに近づいてきたキョーコは蓮の前で立ち止まると、満面の笑みで蓮を見上げる。
「お仕事お疲れ様です!すみません、わざわざ来ていただいてありがとうございます!」

予想外に見せられたキョーコの笑みに思わずその体を抱きしめそうになり、蓮は咄嗟に腕を組んで腕をつかむ指に力を込めた。

あぶない……こんなところで不審者扱いされたら今までの苦労が水の泡だ…!

「ううん、ごめんね。遅くまで仕事して疲れてるのに」
「いいえ!お忙しいのは敦賀さんの方じゃないですか!」
「俺が君に会いたくて来てるんだから、いいんだよ」

いつもの蓮の返しだったが、この日キョーコは「またまた」などとはぐらかさずに目を丸くしてしばらく蓮の顔を見つめた。
「……あ…ありがとうございます。けどその…私もお会いしたかったので、すごく嬉しいです」
言いながら恥ずかしそうに目を伏せるキョーコに、蓮の指は強く腕に食い込むことになったのだった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する