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たのしいレシピ (16)


こんばんは、ぞうはなです。
うむ、週末にずれ込みましたが更新です。





「誰だって、一緒にいて楽しい相手とは、ずっと一緒にいたいって思うよね」
「は…はぁ…」
キョーコは顔を赤らめているものの、喜ぶと言うよりは驚き戸惑っているようだ。
今までのキョーコの反応から、自分のことを恋愛対象として見ていない事はなんとなくわかってはいたが、ここまで困惑されるのも少しくじけてしまう。

「でも私その…そう言っていただけるのは嬉しいのですがその…」
否定されるか、と蓮は少し手に力を入れた。
大丈夫、その可能性だって十分考えてはきた。何せ、相手は他の男と同棲しているのだから。

うう~ん、とキョーコは少し考えてから蓮を見た。顔の赤みはとれていないが、すこぶる真剣な表情だ。
「私、そんなことを言っていただけるような価値のある人間ではないんです」
価値、人間、ときたか。
「俺にとっては十分価値があるんだけど?」
「で、でも、私つまらない存在ですよ?」
「なんでつまらないなんて自分で言うの」

なんで?
キョーコはきょとんとして考えた。なんでって。だってそういうものだとずっと思っていた。
幼馴染はずっと口癖のように言っていたではないか。『俺は地味でつまらない女とくっつけられて家継ぐなんてまっぴらごめんだ』と。最初はそれが自分のこととは思っていなかったが、尚がべたべたしていたあの古着屋の店長を見れば、自分がいかに尚にとってつまらない地味な女だったかはよく分かる。
そう考えてみればずっと思っていたと言うよりも、幼馴染がずっとそう思っていたと、最近思い知らされたという方が正確だ。

「私、女っぽくもないですし地味ですし」
「…じゃあ、女っぽくて派手な女性はつまらなくないと思うの?」
「……」
困惑した表情でキョーコは蓮を見る。蓮はあくまで穏やかな表情で、ゆっくりとキョーコの思考がまとまるのを待っているようだ。
「…分かりませんけど……一般的に魅力があると思われるのは、そういう女性かなと」

はは、と蓮は声を立てて笑った。グラスに入ったシャンパンを半分くらい空け、ゆっくりと左右に首を振る。
「一般的な男性がどう思うのか知らないけど、少なくとも俺はそうは思わないな」
「え……」

何を言っているのだ。
蓮の周りにいる女性など、おそらく日本国内見回してもトップクラスに位置するような容姿の女性ばかりのはずだ。ああ、だから感覚がずれているのだろうか。
キョーコが勝手に納得していると、蓮は少し呆れたように目を細める。
「俺が派手な女性とばかり交流があると思ってるね」
「だ…だってそうじゃないですか!」
「教えてくれたのは君だと思ってたんだけど」
ぐぐっと身を乗り出して反論しかけたキョーコは、意外な蓮の言葉に目を丸くした。

「な……何をですか?」
蓮の話の筋が見えず、素直にキョーコは問う。
「料亭で出されるような料理は、味だけではなく見た目もこだわる。けれどどんなに見た目がきれいでも、食べてまずかったらそれは料理としては失格だと」
「あ」
確かにそんな話を自分はした。けれど自分がしたのは料理の話であって。
「俺が初めて弁当を作った時も、色合いの悪さを見て君は言ったよね。家庭料理はまず味だと。多少茶色い弁当でも、食べておいしければ、食べる人のことを思って作ったものであれば十分だって」
「い、言いましたけど」
「人間だって同じじゃないのかな」
キョーコは蓮の言葉をかみ締めるように無言でじっと蓮の顔を見返した。その表情は真剣で、唇はきゅっと引き結ばれている。そんなキョーコの態度に蓮はふっと表情を緩めて両手を軽く広げた。
「君がさっき思ったとおり、俺は芸能界で仕事してるから、女優やタレント、見た目はいい人たちに囲まれて仕事をしている。けど俺がそれをよしとする価値観なら、とっくに美しい女性を恋人にするなり、結婚するなりしてるよ」
「はい…」
まだどこか納得がいかないようなキョーコに、蓮は微笑みかける。
「君だって、男性を好きになるのに外見ばっかり気にする?」
「いえ!」
「だろう?君は人の中身をちゃんと見ている。もちろん、盲目状態ってのもあるんだけどね、人には」

それはキョーコが尚に惚れ込んで都合よく使われていたことを指しているのだろうか。
キョーコは蓮が向いている話の方向を理解できないまでも、言葉一つ一つはきっちりと確認し理解していた。
「それはっ、…それは確かに私も愚かだったと」
「愚かとは思わない。なんだって経験は大事だよね。誰しも最初からおいしいご飯を作れないように」
「それはそうですけど」

結局蓮は何が言いたいのだろうか。
困惑をこめて蓮を見ると、蓮は小さく吹き出すように下を向いた。
「ごめんごめん。こんな言い方じゃ混乱するよね」
そして顔を少し背けて咳払いをすると、まっすぐキョーコを見る。
「君がずっと想い続けている相手がいることは知っている。けれどそれを知った上で、俺は君の中で彼を越える存在になりたい」
「は……はい??」
「嘘でも誇張でもなく、俺の本心だ」
「ななな…なんでそんな」
「けど、いきなりそうしろとごり押しする気もないんだ。君の気持ちだって大切にしたい。だからまずは『友達』になってくれないかな?」


ぽかん、と口を開けたままキョーコはしばらく静止した。それからようやく蓮の意図が分かってきて頭を抱え、ぶつぶつと呟いてからそろりと頭を上げて蓮を見る。
「か、からかっては…いませんよね」
「もちろん。俺は真剣だよ」

嘘だ、と否定するのは簡単だ。冗談だと言われる方がよほど現実味がある。
けれどキョーコにも分からないなりに分かることはある。そう、目の前に並ぶこの料理たちだ。これはいくら蓮が撮影を通して慣れてきたと言ってもそう簡単に作れるものではない。
キョーコのために心をこめて手間をかけて作られていることは、疑いようのない事実だ。

「理解してくれるまで何回でも言うよ。俺は君といると楽しくて幸せな気持ちになる。君の笑顔をもっと見たいし、君と一緒の時間をもっとたくさん過ごしたい。そして、君に俺を見てほしい」
「あの…ありがとうございます。…正直まだ…なんでって思っちゃうんですけど、でもその、敦賀さんのお気持ちはこの料理を食べててもすごく伝わってきて…その……う、嬉しいです」
キョーコは顔を赤らめながらも懸命に言葉をひねり出した。蓮の気持ちに答えないことは失礼にもなるし、それを差し引いても蓮の言葉が嬉しくて、ドキドキしてしまうことは自覚している。

「これからも会ってくれる?」
「はい!も、もちろんです!」
「俺の誕生日も」
「つ、慎んでお祝いさせていただきます!!」
びしり、と背筋を伸ばしたキョーコに苦笑しながらも、蓮は柔らかく笑った。
「君のその硬さをほぐすのは徐々にだな。でも拒否されないだけで十分だ」
キョーコはすでにいっぱいいっぱいで、取り敢えずグラスを持ち上げてカラカラになった喉を潤すことしかできない。けれど、シャンパンの炭酸と甘いながらもあとに残るアルコールの匂いが、逆にキョーコの思考を奪うようでもあった。


「本当にいいのに」
「いえ、やらせてください」
食事が終わったあと、ごちゃごちゃと押し問答が繰り広げられているのはキッチンだ。
腕まくりするキョーコを蓮は押し止めたのだか、片付けは手伝うとキョーコは譲らない。

「わかったよ。じゃあ一緒にやろうか。その方が早いし楽しいしね」
にこりと笑うその笑みに少しだけ慣れたキョーコは、スポンジに泡を立てながらゴニョゴニョと呟く。
「さ、さっきからなんでそんなホイホイ恥ずかしいこと言えるんですか…」
「恥ずかしい?なんで?」
「だ、だって…」
「隠すことでもないし、素直に言った方が伝わるだろう?」
「ですけど」
キョーコが洗った皿を流しながら蓮は少しわざとらしくため息をつく。
「大体君は、俺の言うことなかなか信じてくれないからね。全部正直に伝えたって半分くらいしか受け取ってくれない」
「そ、そんなこと!!」
「あるよね」
むう、とキョーコは口をつぐんだ。どうも蓮の言う事はキョーコにとっては恥ずかしいというかこそばゆいというか、他人から言われた事がないほど甘くて心地よくてうっかりしてしまいそうで良くない。

「でも私、その…男の方とお付き合いなんて経験ありませんから…何が正しいのか分かりません」
ぼそぼそと語られるその言葉に、男と一緒に住んでいたくせに?と蓮は一瞬いらっとしたが、キョーコの表情を盗み見て納得した。

もしかして…本当に一緒に住んでただけ、なのか?
あの男…それにしては俺に対してえらく攻撃的な目をしてたけどな。

蓮は内心を覆い隠してにっこり笑う。
「じゃあ、料理や家事については最上さんが先生だけど、恋愛については俺の方が先輩、かな」
「…先生じゃないんですか」
「違うな。俺もそこまで全身全霊をかけた恋愛はした事がない。多少は君より経験があるかもしれないけど、一緒に学んでいこう?」
どかん、と真っ赤になったキョーコを見て、蓮はすこぶる嬉しそうに笑った。


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