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たのしいレシピ (15)


こんばんはー!ぞうはなです。
なにやら間が空いて申し訳ありませんー。

粛々と続きでございます。





「誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」

小さな音を立ててグラスが合わせられる。

キョーコは細かい泡を立てるシャンパンをそっと口のなかに流し込んだ。
「美味しいです」
微笑んだキョーコに、蓮も笑みを浮かべる。
「よかった。まだ慣れないだろうから少し甘めのにしたんだ。飲みやすいから飲みすぎないように気をつけて」
「はい、気を付けます」
キョーコはそう言うと箸を取りながらテーブルの上を改めて見回した。
「でも本当にスゴいです。敦賀さんにこんな形でお祝いしていただけるなんて」
「お礼は食べてから言ってほしいな。実はそんなに自信がある訳じゃないんだ」
「大丈夫ですよ、敦賀さんがお料理のセンスがいいのはもう分かってますから」
「そうかな?」
蓮が首をかしげる間にもキョーコは料理に手を伸ばし、ほうばってから頷く。
「うん、やっぱり美味しいですよ」
「ほんと?よかった」

蓮は本当にホッとしているように見える。キョーコは色々と思うところがあるものの、折角の料理をまずは味わおうと集中した。
「さっきから思ってましたけど、全体的に和食系ですよね。ドラマのパーティー料理とはちょっと違いますね」
「それはそうだよ」
当然のように蓮は言い、一口シャンパンを飲んだ。
「今日はクリスマスじゃなくて最上さんの誕生日のお祝いだから。君が好きかな、と俺が思ったものを作ったんだ」

キョーコは箸を止めて蓮の顔を見る。その驚いた表情に、蓮は苦笑した。
「そんなにおかしいかな?」
「ご、ごめんなさい、おかしいとかじゃなくてその…」
うろうろと視線をさまよわせたキョーコはしぱしぱと目をしばたいた。
「そんな風に考えてもらうの…初めてかなって。私、こんな素敵な誕生日、ほんとに生まれて初めてです」

キョーコは誤魔化すようにまた料理を口に運ぶ。蓮はその様子を眺めるとまたゆっくりとグラスに口をつけた。
「最初はね、君が喜ぶような店を探したんだ」
ぽそりと言った蓮に、キョーコは顔を上げる。
「でももっと俺の気持ちを伝えられるものは無いかと考えはじめて…君のお陰でできるようになったこと、君のために使いたいと思った」

キョーコは黙ったまま蓮の話に耳を傾ける。蓮は自分でも考えながら話しているように見えた。
「考え始めたら楽しくなった。君は何が好きなのか、どんなものなら喜んでもらえるのか。それで実感したんだ。食べてくれる人の事を想いながらする料理は、すごく幸せだって。そんなセリフがドラマにもあって、理解したつもりだったけど今日本当にわかった」
「そうですね、美味しいと食べてもらえるのはとても嬉しいことです。それに、反対に自分のためにつくってもらったものは、最高に美味しいです」
「美味しいと思ってもらえる?」
「もちろんです。こんなに美味しいご飯、初めてです」

でも、とキョーコは戸惑いを表情に浮かべた。
「こんなにたくさん、お時間大丈夫だったんですか?今日もお仕事だったんじゃ…」
「大丈夫だよ、数日前から準備できるものは始めてたし、今日はたまたま仕事が少なかったんだ」
「そうなんですか?てっきり年末までお忙しいものと」
キョーコは少しホッとしたが、蓮が社に掛け合ってこの2日間のスケジュールを少しずらしたこと、話を聞いた社が大喜びで協力したなんてこと、分かりはしない。

「そんなこと気にしなくていいんだ。俺も時間を取りたくて取ってるんだから」
「ありがとうございます」
眩しすぎる蓮の笑みに、キョーコは一瞬金縛りにあってから頭を下げた。

「それにしても本当に、敦賀さんってスゴいです。レシピ全部頭に入ってたんですか?」
蓮が作った料理は、ベースこそドラマで一度は作った料理だが、食材や味付けが少しアレンジされている。このアレンジは、ベースの料理を熟知していなければ出来ないだろう。キョーコは心から感心して呟いたのだが、蓮の返事は想像していたものとは少し違った。
「君にもらったレシピは、特別なレシピだからね」
?と首をかしげるキョーコに、蓮はグラス片手に笑って続ける。
「飯塚さんのレシピに君が書き込んでくれたコメントを見てると、レッスンや撮影の時の楽しい気持ちが蘇るんだ。何回もさらってる内にだいぶ覚えたよ」
「そ…それはありがとうございます…」
「いや、こちらこそありがとう」

視線を上げたキョーコを、蓮は真っ直ぐに見つめた。
「こんなに楽しい、ワクワクする気持ちを教えてくれて」
なぜかどくんとキョーコの心臓が大きな音を立てた。

敦賀さんは…レッスンの事を言ってるのよね?

頭ではそう思うものの、なんだかそうではなくもっと別の意味があるのかと勘繰ってしまうような笑みを、さっきからずっと蓮は浮かべているように思える。
それはまるで慈しむようなそんな…

違うでしょ、と湧きあがるそんな期待にも似た気持ちを懸命に打ち消すキョーコに蓮が追い打ちをかける。
「もし今日この時間を最上さんが楽しいと、美味しいと思ってくれるなら」
「はい」
はっと思考の淵から戻ったキョーコが大きな声で返事をしながらきょとんと蓮を見ると、蓮は躊躇するように一度目線を外し、それからもう一度キョーコの顔をしっかりと見た。
「よければ…来年も……その次もずっと、君の誕生日のお祝いをさせてもらいたいんだけど」

へ?

キョーコはパチパチと何度か瞬きする。
「私の…?」
「うん、ダメかな」
「いえ……ダメとかじゃなくてですね」

呆けるキョーコのぼやけた視界の中で蓮はグラスの中身を空けた。
「…でも私だけお祝いしてもらうのもおかしいですよね。敦賀さんのお誕生日はいつなんですか?」
「俺?俺の誕生日は2月だよ」
「2月…ああ、近いんですね」
ぽむ、とキョーコは両手を合わせるが、どこか夢を見ているようなそんな表情だ。蓮はそれでもにっこりとほほ笑む。
「俺の誕生日、祝ってくれるかな。2人で過ごせたらそんなに嬉しい事はないんだけど」
「2人で?」
「うん」
しばらくフリーズしたキョーコの頬が、ぼぼぼぼぼと下から順番に真っ赤に染まっていく。

いやいやいや、違うでしょ、そういう意味じゃないわよ全く!
まさかそんな敦賀さんが私ごときにそんなこと、考える訳ないでしょ図々しい!

「いやきっと、俺が言っているのは君が考えるそういう意味だと思うんだけど」
「はーっ?なんで敦賀さん、私の考えてる事…」
「全部声に出てるよ」

むぐり、とキョーコは思いっきり両手で口をふさいだ。
「うん、もう遅いから」
「や…!遅いって一体!」
「図々しくないよ。君と友達になりたいって言ったけど、それは半分本心だけど半分建前だ」
蓮は傍らのワインクーラーからシャンパンの瓶をつかむと自分のグラスに継ぎ足す。
「は……?」
「友達にはなりたいけど、ただの友達でいいと思ってる訳じゃない」
「そ、それはどういう」
キョーコはすっかり押されてしどろもどろだ。
矢継ぎ早に繰り出される蓮の言葉にまったく思考が追い付かずにオウム返しのように聞き返すしかない。

だからキョーコには分からなかった。
蓮が先ほどから料理にまったく手をつけず、シャンパンばかり進めている事も、グラスを持たない方の手がせわしなく握りしめられたりウロウロとさまよっている事も。





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