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たのしいレシピ (14)


おこんばんはー。ぞうはなです。
さてさて、続きをどうぞー。




「お疲れ様でした」
「お疲れ様」

スタジオ内、ぬくもりが感じられる木のテーブルの上には黄色いチェックのランチョンマットが置かれ、さらにその上にいくつもの料理の皿が配置されている。
料理はどれもこれも彩りよく盛り付けられ、暖かい色の照明が当てられてとても美味しそうだ。
昼くらいから開始された料理本の撮影は外がどっぷりと暗くなったあたりで終了し、撮影に関わった人々はほっとした表情でねぎらいあっている。

キョーコも予定通り終わったことに肩の力を抜き、壁の時計を見上げた。

もう夜かあ。
でも無事に終わってよかった!

心なしか皆片付けに力が入っている。
クリスマスイブだった昨日は、かなり夜遅くまで作業が押してしまった。
飯塚のアシスタントたちは若い女性なので、もしかしたら今日は少しでも早く帰りたいと、そう思っている人が多いのかもしれない。

早く帰ってもね…

キョーコは内心でため息をついた。
職場で「私今日誕生日なんですー!」とはしゃぐほど子供ではないが、一人きりで過ごして何も感じないほど達観もしていない。
むしろ忙しく仕事で1日が終わる方が虚しさを感じずに済むと考えている。

けどなんだか、片付いちゃったな。

キョーコがあれこれ思っている間にテーブルはキレイに片付き、皆が帰り支度をするのに押されるようにキョーコもカバンとコートを持って外に出た。

帰るかあ…

今日はクリスマスだ。イブほどではないものの、まだ浮かれた雰囲気が街を支配している。日が暮れた今の時間帯はなおさらだ。
いつも通りに帰ろう、とキョーコは歩き出した。
通り沿いの店先には大きなツリーが飾られ、色んな色の明かりが明滅を繰り返す。

昔はいつも、女将さんたちにお祝いしてもらったな。

尚の両親はいつも、キョーコにプレゼントをくれた。仕事が忙しい時期だから、もちろん誕生日とクリスマスが兼ねられていたし日にちはずれることが多かったし仕事の合間にお祝いの言葉をかけてくれる位だったが、それでも十分嬉しかった。

とりとめもない思いを馳せるキョーコの目に、サンタとトナカイのオブジェが飛び込んでくる。

あ、あのトナカイ、ホテルで見たのに似てる。

先月蓮と食事のあとに散歩した、ホテルの庭で煌めいていた電飾。あの時間はすごく穏やかな気持ちで過ごせた。

なんで今あれを思い出すのよ?

ここのところ、飯塚のスタジオで仕事をしていると、ふと蓮のことを考えてしまう。
蓮との関わりが密接に料理と結び付いているから仕方ないのだが、思い出すときに伴う自分の感情がよろしくない。これまでは何かを見て連想するとしたら尚の事ばかりだったのに。自分の変わりように呆れるばかりだ。

まったく、変に考えすぎるのはほんと良くないわよ。

考えながら、キョーコはふと気になってカバンから携帯を取り出した。
一週間ほど前に食事をして以来、蓮とは会っていない。けれど蓮は数日前、仕事の合間に電話をくれていた。ほんの短い時間話しただけだが、キョーコは気持ちがほんわかしてすごく嬉しかったのだ。

もしかしたら誕生日を覚えていてくれるかも、そんな考えが頭をちらりとよぎり、違うわよ、一応誰からか連絡がないかを確認するだけ!と言い聞かせながら携帯を開く。
人に「今時」と珍しがられる二つ折の携帯電話。少しドキドキしながら開いた画面はいつも通りの待受画面だ。特に何かの知らせをキョーコにもたらすこともなく、キョーコは少し落胆してしまった自分の気持ちを「だからなんでよ!」と叱り飛ばして携帯を閉じた。

「帰ろう」と、0.1秒で気持ちを落ち着けたキョーコはしかし、携帯をカバンに入れようとしたところで飛び上がる。
携帯は着信で震えていた。はっと落とした視線に入るのは背面に通知される着信相手の名前だ。そこには確かに「敦賀さん」と表示されている。

携帯をお手玉しそうになって、キョーコはおたおたと手の中で半回転させようやく電話に出た。

「はい、最上です!」
なぜか心臓が口から出てきそうなほどバクバク音を立てている。なんとか普段通りに声を出したつもりだが、喉がぎゅうと閉まる。
『お疲れ様。敦賀だけど、今大丈夫?』
「あ、お疲れ様です、大丈夫です!」
『今日は仕事は?』
「今終わりました」
『じゃあ今はまだ飯塚さんのスタジオ?』
「もう外に出て駅に向かっているところです」
『そうなんだ、仕事お疲れ様。今日このあとは?』
キョーコは少し震える手を自覚しながら答える。
「もう家に帰るだけです」
一呼吸おいて声が聞こえた。
『…これから、会えないかな』
「だ、大丈夫ですけど」
足をピタリと止めたキョーコはようやくなんとか言葉を絞り出した。


「ごめんね、どうしても手が離せなくて」
玄関のドアを開けながら、蓮は申し訳なさそうに言った。
「いえそんな、全然構いませんよ!」
対するキョーコは慌てて首を左右に振る。
確かに蓮がキョーコを迎えに来ず、自分で来てくれと呼びつけたのは初めてのことだ。けれどいつも送迎をしてもらうのが申し訳ないくらいなので謝られると困ってしまう。

しかしキョーコはそれよりも、蓮の格好に驚いていた。
家にいるので長袖のTシャツにスウェットパンツ、は普通だ。だけどその上に蓮はキョーコが作ったエプロンをしている。
「敦賀さん、それ…」
好奇心に負けてキョーコは尋ねたが、蓮はニッコリと笑う。
「とりあえず入って。完璧に準備が出来てないのが残念だけどまあこれが俺の実力だね」
蓮に促されてキッチンに入ったキョーコは「わあっ」と声をあげた。
ダイニングテーブルにはサラダなどが並び、コンロではジリジリという音が上がって香ばしい香りが満ちている。
「さすがに全部オリジナルとはいかなかったけど、復習と応用問題、かな」
言われてみれば確かに、テーブルに並ぶ料理はドラマのために考えたものと、レッスンでは作ったことのないものがまざっている。

「すごいですね、でもなぜ復習を?あ、もしかして私が呼ばれたのはこのためですか」
ニコニコしながら振り向いたキョーコに、なぜか蓮は少し不満げな表情を浮かべた。
「確かに君を呼ぶために作ったけど、君が思っているような理由じゃないよ」
「??どういうことですか?」

やれやれ、と肩をすくめて蓮は冷蔵庫に歩み寄った。扉を開けると中から1本の瓶を取り出す。
「今日は君の20歳のバースデーだろう?お祝いしたいと思ってるって、考えなかった?」
よくよく見れば、蓮が持っているのはシャンパンだ。目をぱちくりさせたキョーコはやがて真っ赤な顔で頭を下げた。
「そんなっその、ありがとうございます!まさかそんな事とは…!」
「ふふ、けどダメ出しも歓迎だよ。さて座って。冷めないうちに食べよう」
「はいっ」

赤い顔のまま嬉しそうな声を出したキョーコの表情に、蓮はうっかり見惚れたのだった。


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