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たのしいレシピ (7)


今頃ですが明けましておめでとうございますー!
ぞうはなです。

正月休みを思いのほか長くいただいてしまいまして申し訳ありません。
(え、待ってなかった?)
新年、あんまり気持ちも新たになっていないような気がしますが、さっそく続きです。





蓮とキョーコの会食から何事もなく数日が過ぎた。

「やっぱり男がご飯やお菓子を作るのって嫌かな」
思い出したように蓮が尋ねたのは、蓮の部屋でのキョーコによるレッスンの最中だった。
「えっ?そんなことありませんよ」
キョーコは驚いて顔を蓮の方に向ける。蓮は作業のために視線を落としていたが、ちらりとキョーコの方を見た。
「ほんとに?」
「はい。だって最近では男性も家事や料理ができる方がいいって言われるじゃないですか」
「いや」

キョーコの返事に、すぐに蓮は否定の言葉を返す。
「世間一般じゃなくて」
「?」
「ほら、今日の撮影シーンにもあったよね」
「ああ」
キョーコは声を上げ、同時に思い出した。


この日、2人はドラマロケの後に蓮の部屋に移動してレッスンをしていた。
通常ドラマのロケでは蓮の料理のシーンはないためキョーコは同行しないのだが、この日は蓮が交際している彼女にクリスマスのクッキーを渡すシーンがあった。前日まで映画のロケで不在だった蓮にはクッキーを焼く暇もなかったため、ロケ前にキョーコがクッキーを焼いて撮影現場に届け、蓮と2人でアイシングでデコレーションをしたのだ。そしてキョーコはマネージャーの社に誘われてそのままロケを見学していた。

ドラマのシーンでは、クリスマスのイルミネーションに彩られた街で蓮は家族に焼いたのと同じクッキーを彼女に渡したのだが。

「最近なんだか主婦みたいで所帯じみててダサくて嫌」

彼女は眉間にしわを寄せてそう言い放つと蓮から渡されたクッキーをつき返してイルミネーションの中去っていく。蓮はがっくりと肩を落としクッキーを捨てようとゴミ箱まで近づくが、結局捨てられずにそのまま持って帰るのだ。


「ドラマの彼女さんは見た目しか重視してなかったってことですよねえ」
「まあ、そうなるね。日常を感じさせない彼氏をステータスとして感じていた」
「そんな人はあんまりいないような気もしますけど」
くすりと笑ったキョーコを、蓮は作業の手を止めて真剣な表情で見つめる。
「君は……どう思う?」
「私ですか?」
「そう。君個人の感想を聞きたいな」

何で私の?とキョーコは思ったが、蓮がレッスンの全てをドラマ撮影に生かしていることを考えると、きっとこうして常日頃身の回りの全てのことを吸収しているのだろうと納得した。
「私は…家事とか料理が上手でも下手でも気にしませんが」
「そう?」
「ええ。見た目は全然気になりませんけど中身が空は嫌ですね。性格が悪いとか態度が偉そうとかそういう人は軽蔑しますし、中身がしっかりしている人の方が素敵だと思います」
なにやら言葉の一部に怒りを感じたような気がするが、蓮はふっと表情を緩めた。
「そうか、よかった」
「何がいいんですか?」
「いや、こっちの話。さて、こんな感じ?」

蓮は手にしていたアイロンを脇のスタンドに下ろすと白いシャツを両手で持ち上げる。キョーコは半ば呆れたようにため息をついた。
「完璧です。私、一度しかやって見せてないのに本当すごいですよね…」
「いや、これは先生がいいからだよ。先生の手際が完璧で、それにすごく分かりやすく理論的に説明してくれるから頭にすっと入る」
「違いますよ、生徒がいいんです」
「またまたご謙遜を、先生」
もう、からかわないでください!と顔を赤くするキョーコに微笑みかけると、蓮はアイロンのスイッチを切った。
「さて今日も遅くまでつき合わせてごめん。あとは自分で復習できそうだから送っていくよ」
「いえあのまだ電車」
「電車が走っていたとしてもこんな時間に一人で帰せない。って、そろそろ諦めてくれないかな」
「ですが、敦賀さん今日1日お仕事でお忙しくて折角ご自宅にいらっしゃるのに」
「はい、準備して」
毎回定例のようになっているこの言い合いではキョーコの連戦連敗だ。
キョーコはため息をついてリビングに移動するとコートとバッグを手に取った。
「本当にすみません、毎回毎回」
「気にする事はないし、俺もこのレッスンが楽しいからね。できるだけ君と話していたい」

ま、またそういう事を…!
さらりと顔から火の出るようなセリフを言われてキョーコは内心で叫んだ。
本当によくもまあ照れもせずに女性が勘違いするような言葉をぬけぬけと口にできるものだと感心してしまう。だが聞いている方も違和感がないのはそのセリフを吐き出すのが蓮だからだろう。普通の、ごく普通の男が同じセリフを口にしたとしたら、きっと聞いている方がいたたまれない気分になる。

勘違いされてもそれはご自分のせいなんですからね。相手が私でよかったと思ってくださいよ。

口にはできないがそんな思いをこめて、キョーコは蓮の背中を思いっきり睨みつけた。


「実はね、醤油をもらったんだ」
「醤油ですか?」
キョーコは自分の家の近くまで送ってくれた蓮がサイドブレーキを引きながら言った言葉に首をかしげた。
「俺がドラマの役のためにレッスンで料理をするようになったと言ったらね。伯父役の渚さんの実家が醤油屋らしくて、昔ながらの仕込みの醤油を持って来てくれたんだ」
「それはまたおいしそうな…」
「うん。君の分もあるからおすそ分け」
言いながら蓮は運転席から外に出て助手席のドアを開けキョーコを下ろす。そのままドアに体を突っ込むと後部座席から白い紙袋を取り出した。
「3本もらったから君に2本託すよ」
「えっ?そんな、私のほうが多いなんて申し訳ないですよ」
「俺もいくら料理を習ったからと言ってそれほど作れるわけでもないし。よかったら飯塚先生に持って行ってもらってもいいし」

それならば確かに、とキョーコは頷いた。どうにも蓮はあれこれとキョーコにしてくれる事が多いのだが、恐縮してもなんだかんだとうまく理由をつけられて受け入れさせられてしまう事が多い。
「入口まで運ぶよ」
「そんな、それくらい大丈夫ですよ」
「まあいいから」
助手席のドアを閉めた蓮に促され、キョーコは紙袋を下げた蓮と並んで短い距離を歩きだした。

「もうすっかり、教えることなんて無くなっちゃいましたね」
「そうかな?ドラマの筋に関係ある事だけはそうなのかもしれないけど、君の知識や技術のほんの一部だけだよね」
「そうでもありませんよ。だって料理だけじゃなくて洗濯も掃除もアイロンも」
「嫌だな謙遜が多くて」
「してませんて」
「だって俺、桂剥き出来ないよ」
「あれは普通の主婦はできませんよ」
「ほら、俺なんてまだまだだ」

ぽんぽんと言い合いながら2人は歩いていたが、キョーコのアパートの下まで着いた時、その玄関のドアの横に座っていた人物が立ちあがった事に2人は気がついた。
キョーコは何気なくその人物に目をやったのだが、驚いたように立ち止まる。
「ショータロー…?」

「お前、なにやってんだよ?」
キョーコに声をかけられた男はわざとらしくため息をつくと、不機嫌な声を出した。



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