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たのしいレシピ (6)


こんばんは!ぞうはなです。
さて、年内あと1回更新できるか? という状態です。

お話の季節はだいぶリアル季節に近いようです。では続き。





キョーコの緊張と不安に反して、蓮との食事は楽しく進んだ。
店に入る前に蓮がサングラスを外したときは騒ぎになったらどうしようかと思ったがさすが高級店。対応してくれた仲居は顔色一つ変えず、にこやかに2人を個室へと案内してくれた。


そうよね…そんなの分かってたけど、忘れるくらい緊張してるのかしら。

自分で自分がおかしくなり、少し肩の力が抜けた気がする。
見回してみれば趣向の凝らされた個室は美しい。漆塗りの濡れたような艶のテーブルの上にはこれまた漆塗りのお盆が置かれ、その上に見事な彩りの皿が運ばれてくる。
目を上げれば蓮はひとつずつの料理をしっかり味わいながら食べているようだ。たまに食材や調理法についてキョーコに尋ね、頷きながら箸を進めている。

「たまに高級なお店に行っても何も考えずに食べてたけど…今までずいぶんと無神経だったと思う」
ぽつりとこぼした蓮に、キョーコは目を丸くした。
「…見方、変わりましたか?」
「うん。大いにね。今はなんとなくだけど分かるよ。この一皿、一品にどれだけの手間がかかっているか。作り方は想像もつかないけどね。それに器も料理に合わせて選ばれてるんだね。形も色も材質も」
キョーコは表情をゆるめる。
「そこに気がついてもらえると作った板前さんたちも喜ぶと思います。でもいいんですよ。お客さんは綺麗、美味しいって思うだけで」
「そう?でも君はきっと…作る人のこと、考えるよね」

尋ねられてキョーコは目線を上に上げて考えた。
「うーーん…私の場合は、わざわざそこまで考えるというより、頭が最初からそっちに行ってしまうだけですね」
「それもすごいことだな。けどそういう君が先生になってくれたおかげだね。本当にありがとう」
箸を置いて頭を下げた蓮にキョーコは慌てる。
「な、なんですか急に!やめてくださいそんな大げさですよ」
「大げさなんかじゃないよ。おかげで最初に思っていたより楽しい気持ちで仕事に取り組めてるんだ。役作りなんて必要ないくらい」
「それは…とても嬉しいですけど……」
「それにここまで叩き込まれれば、簡単なものだったら自炊だってできるかな、という気にもなる」
「それはぜひそうしてください!」
ぐぐっとキョーコは身を乗り出した。
これまで10回を超えるレッスンをしてきたが、この男は「これが今日始めての食事だ」なんてレッスンの後にぬかすのだから。もうすぐその日が終わろうとする時間帯に。かすみでも食って生きているのかと心配になるので、自分で作って食べてくれるならこれ以上望むことはない。

「でも君と2人でキッチンに立つのが楽しいって思ってるから、一人じゃ寂しいかも」
ふ、と息を吐くように蓮は目を伏せた。長いまつげが下がって本当に寂しそうに見えるから不思議だ。
キョーコは一瞬息を呑んだが、すぐにしらりと言い返す。
「また本当、敦賀さんってそういうところお上手すぎますよね」
「お上手ってなんで」
「無意識でやっているとすれば根っからの遊び人ってことでしょうか」
「ひどいなそれは」
小気味よいやり取りとともに会食は和やかに進んだ。

最後に炊き込みご飯と汁物が出た頃にはキョーコの胃袋も気持ちもまったりと癒され、余韻に浸りたくなる。
「さすが、美味しかったね」
「ええ…こうしてしっかり食べるのは初めてです」
つい気の緩みでぽろりとこぼれた言葉に、蓮が不思議そうに首を傾ける。
「京都にいる頃に行ったことあるの?」
「あ!いえ……食べに行ったことはないんですけど」
しどろもどろと弁解しようとしたところで「失礼します」と外から声がかかった。

「はい」
蓮が答え、キョーコはほうっと胸をなでおろす。しかし入ってきたその人物を見た瞬間、キョーコは再び身を固くした。

デザートとお茶の乗ったお盆を運んできたのは今まで担当してくれた仲居の女性ではなく、ネクタイを締めた中年男性だった。男性は蓮のほうに笑顔で会釈をすると机に近づき、少し俯きがちのキョーコの顔を確認すると驚いた表情になる。しかしすぐに表情を戻すと蓮の前にデザートの皿を置いた。

「敦賀様、本日はようこそお越しくださいました」
深々と頭を下げる年上の男に、蓮も姿勢を正して返事をする。
「大変おいしくいただきました。すごく勉強になりました」
「ありがとうございます。それにしてもキョーコちゃん……だよな?」
男性はそっとキョーコの方に顔を向けて尋ねた。

「は、はい。ご無沙汰しております!」
「驚いた、敦賀さんとご一緒してるとは」
「最上さんは俺の先生なんです」
穏やかな笑みを湛えた蓮が、ごく自然に口を挟んだ。
「今ドラマで主夫になる大学生の役を演じているのですが、そのドラマのために料理の基本から全て教えてもらってるんですよ」
「ほう、そうなんですか。いやドラマ、毎回拝見してますよ」
「ありがとうございます」
「うん、キョーコちゃんなら適任ですよ…ではごゆっくり」

男性は再び頭を下げると部屋から出て行った。
キョーコはやや気まずい思いで艶やかなテーブルの表面を見つめていたが、蓮はいつも通りの調子で話しかける。
「デザートいただこうか」
「は…はい」
不思議に思っただろうに自分にも先ほどの男性にも無遠慮に尋ねたりしない、その蓮の優しさと大人の対応にホッとしながらも、キョーコは少しだけ心に影が落ちるのを認識して暗い気持ちになったのだった。


「少し歩かない?」
店を出て、奢ってくれた蓮に丁寧にお礼を言ったキョーコはそう切り出されて目をぱちくりさせた。
「ここのホテル、今月から庭がキレイにライトアップされてるらしいんだ。折角だから覗いていきたいかなと思って」
おお、とキョーコは納得した。今は11月も下旬、あちこちでクリスマスのイルミネーションが輝いている。キョーコ自身は11月の初めからクリスマスイルミネーションなど気が早すぎると思うのだが、綺麗なものを回避する理由もない。

「わかりました、ご一緒させていただきます」
ぴしりと背筋を伸ばしたキョーコに蓮は苦笑いする。その表情を不思議に思って見ながらもキョーコは蓮の斜め後ろから歩き出したのだが、すぐに蓮が足を止め振り返ってキョーコが隣に並ぶのを待った。
「俺の横に並ぶのは嫌?」
そう言われてキョーコは自分が自然と蓮から数歩分遅れて歩いている事に気がついた。
「いえっそんなことはなくて…ただその、誰かに見られたら」
「大丈夫だよ。このホテルに来るようなお客さんはそんなこと気にしないし、俺だという確証もない」
蓮は店を出ると同時にサングラスをかけていて、確かにしっかりと顔は見えない。だけどこんなに背が高く、すらりと長い脚を持ち、目が隠れているにしてもほかの露出している鼻や口や輪郭や…とにかく全てが整っている人は、"敦賀蓮"以外に存在しないような気もする。
「気にしないで。俺が気にしてないんだから」
眉間に皺を寄せて考え込んでいたらくすりと笑われて、キョーコは少し顔を赤くしながら「わかりました」と頷いた。


平日の夜のせいかまだクリスマスまでは少し日があるせいか、思ったより人は少ないようだ。
ロビーのガラス戸から外に出て、2人は大きく取られたホテルの庭へと足を踏み入れた。庭は連が言う通りライトアップされ、落ち着いた色合いのたくさんの電球に照らされている。
「きれい…ですね」
「そうだね。予想以上だ」
2人はそう言葉を交わすと、しばらく黙って生垣の間の道をゆっくりと進んだ。やがて開けた広場に出るとサンタやトナカイの電飾が目に入る。
蓮は立ち止まって周りをくるりと見回し、すぐそばに人がいないことを確認すると口を開いた。
「最上さんは…もしかして今日のお店の関係者?」
「はっ!?」
キョーコは急に振られた質問に驚いて思わず大きな声を上げた。すぐに両手を口に当て、「すみません」と今度は小さな声で呟く。
「さっき支配人が君を見て驚いてたから」
「…まあその……関係がないといえば嘘になりますが」
「…そう。俺が店の名前を出した時何も言わなかったから分からなかったよ」
「すみません。関係があるのは京都の本店の方なのでこっちで知ってる人がいると思ってなかったんです」

しゅんと肩を落とすキョーコの頭にぽん、と軽く手を乗せて蓮は笑った。
「別に構わないよ。ただもしかしたらあの店には行きたくなかったのかなと思って」
「いえそれは全然!」
「けどありがとう」
「へ?」
「今日付き合ってくれて。嫌だったかもしれないけど…ありがとう」
「そんな、お礼を言われることじゃありません!」
「…美味しかった?」
「それはもう!堪能しました」
2人は笑顔で再び歩きだし、電飾の中をゆっくりと抜けて行った。



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コメントコメント


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クリスマスプレゼントありがとうございます😆💕✨ さりげない優しさが、身に染む京子ちゃん、相変わらずの天然が少しでも緩み、恋に気づいて欲しいなぁ。続き楽しみにしてます。

いわりん | URL | 2015/12/25 (Fri) 04:00 [編集]


Re: タイトルなし

> いわりん様

お返事遅れまして申し訳ありませんー。
キョコさん、蓮さんのやさしさやらすごさには触れてはいるものの、まったくそっちには疎く…全然気が付いていませんよね。
とはいえ、お相手もはんぶんくらい無自覚なのでどっこいどっこいでしょうか。
更新も遅れて申し訳ありませんが、今年も引き続きお付き合いいただければ嬉しいですー。

ぞうはな | URL | 2016/01/05 (Tue) 22:47 [編集]