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BALANCE (21)


こんばんは!ぞうはなです。
お待たせしました(ん?待ってない?)、続きです。





「おっまえ、なんでこんなところにいんだよ!」

第一声がそれか。

キョーコは自分が仏頂面になっていることを自覚していた。眉間に青筋も浮いているかもしれない。
まあ確かに「この間は申し訳なかった」なんていう殊勝な言葉が聞けると思っていた訳ではないのだが、それにしてもひどいと思う。
「私がどこにいようと勝手でしょ。あんたには関係無いわ」
ぶすっと返した言葉も相手の耳には届いていないようだ。尚はきょろきょろと周りを見回しながらキョーコに近づいてきた。
「あいつと一緒じゃねーだろうな」
「あいつ?」
「あのヤクザだよっ」
尚は芸能人らしく帽子をかぶりサングラスをかけている。だがその色のついたレンズ越しにも尚の焦りというか恐怖というか、そんな感情が見えて、キョーコは内心「情けない」と軽蔑の念が沸き上がる。

「一人でこんなところでボーっとしないわよ」
そうだとも違うとも言わないが、キョーコは自分が一人ではないと尚に伝えた。
ちっと舌打ちすると、尚はまた周囲を確認しながらジーンズのポケットに差し込んだ財布を取り出す。乱暴に中を探ると小さなファスナーつきのビニール袋をつまみ出した。
「これ、持ってろ!」
「なにこれ?」

キョーコは手を出さずに怪訝な顔で目の前にぶら下げられたビニール袋を見た。中には白い粉末が入っている。
「お前も知ってるだろ!?うちの旅館でいつも玄関に盛り塩してるの」
尚はどうやら自分が嫌って飛び出した実家の話をしているらしい。
バカにしないで欲しい。尚よりもキョーコの方が長い間マメに尚の実家である旅館の手伝いをしていたのだ。知らない訳がないだろう。
「だから何よ」
「これはその塩なんだよ!祈祷受けてて魔除け厄除けの効果があるんだから大事に持ってろよ!」
「…厄そのものからもらう塩に何の効果があるって言うのよ」
「いいから持ってろって!」
無理やり押し付けられて、キョーコは嫌々袋を受け取った。

「あいつとの縁も切れるかもしれないからな…罰当たるから粗末にしたり捨てたりするんじゃねーぞ」
えらそうに、とキョーコは冷たい目でため息をつきながら尚を見る。
しかし、若い女性に騒がれているミュージシャンが真剣に清め塩を持ち歩いているとはなんともミスマッチだ。それだけ尚にとって蓮が疫病神だと言う事なのだろうが、そもそもが自業自得で同情する気にはならない。

「いつからそんなに信心深くなったのよ…あんたとの縁が切れるって言うなら喜んで持ち歩くけど」
ムッとした顔を幼馴染が見せるが、キョーコは尚の後ろ、遠くに視線をやって「あ」と声を上げた。途端に尚は帽子を深くかぶりなおすと「じゃな」とそのまま立ち去る。急ぎ足で去っていく後姿を見送ると、キョーコは「ふん」と冷めた声を出した。

「ビクビクしちゃってみっともない」

まだ久遠の姿は見えてないのに、確認すらせずにこそこそと姿を消すとは情けない。そんなことを考えながら椅子の背もたれに体をあずけると、改めて押し付けられたビニール袋をつまんで眺めてみる。
キョーコは小さい頃から母が仕事ばかりに打ち込んで家に帰ってこないため、尚の実家である老舗旅館にお世話になっていた。旅館の仕事を懸命に手伝っていたため、女将である尚の母、板長である尚の父の仕事ぶりを間近で見てきている。

「これすると鬼や悪いもんが入れないんよ」
玄関の盛り塩をキレイに直している女将に尋ねて、そんな答えを聞いた覚えもある。
しかし、尚はわざわざほとんど連絡を取らない両親に連絡して塩を送らせたのだろうか。それに、今日この場でキョーコに会うなんて思ってなかったはずなのに、毎日持ち歩いていたのだろうか。

「そうだとしても…気の遣い方が完全に間違ってるわよね」

それにしてもこれをどうしようかと考えあぐねたところでいきなり袋を持った手の手首が強い力でつかまれた。
びっくりして顔を上げると、斜め後ろに立ってキョーコの腕を掴んだのは久遠だった。なぜか普段見せる穏やかな表情ではなく、かなり厳しい怒ったような顔だ。

「…それは何」
久遠ではなく蓮の口調に近い、とキョーコはまずそう考えた。しかし手の中の袋の白い粉末を改めて見て、慌てて返事をする。
「し、塩です…お清めの」
「塩?なんでそんなものを今持っている?」
「ついさっき、ここをあのバカが通ったんです。それで厄除けだって押し付けられて…!」

キョーコの手にあった白いビニール袋は久遠にもぎ取られた。
「あのバカって、不破の事か」
「は、はい!なんでここにいるのか分かりませんけど偶然に」
首をひねったキョーコに、久遠はすうと腕を上げて遠くの方を指差した。キョーコがそちらに向くと、「インストアライブ」と書かれたポスターが目に入る。
「このモールにあるCDショップで今日あの男のライブがあるらしい」
「ああ、それで…!」

キョーコが納得している間に久遠は手の中のビニール袋を角度を変えつつ眺めている。
「確かに…結晶の形は塩のようだな」
大きくため息をつくと久遠はキョーコの向かいの椅子にどっかりと腰を下ろした。
険しい顔で何か考え込んでいるようだが、じいっと手の中だけを見ている久遠にキョーコは少し不安になる。これほど怒っているような顔は"敦賀蓮"として接しているときにも見たことがないような気がする。蓮である時は感情が分からないほど無表情だったからか。

居心地が悪くなってキョーコが椅子に座りなおすと、久遠がはっと気がついたように顔を上げた。
今度はしばらくキョーコの顔を見つめてくるため、更にキョーコの戸惑いは大きくなる。
「ごめん、なんでもないよ」
言いながら久遠は持っていた袋をキョーコに差し出した。今度はキョーコが差し出された大きな手をじっと見つめ、そろりと久遠の顔を見る。
「…もしかして、ですけど……クスリと思われましたか?」
ぴくり、と久遠の指先が動いたような気がする。キョーコは黙ったままの久遠から静かにビニール袋を受け取った。

「そう思ったように見えた?」
ようやっと戻った久遠の笑顔は、それでもどこかいつもと違うように見える。
「怒ってらっしゃるようでしたし…それに、すべてつながった気がするので」
「つながった?」
「はい…ここに引っ越して以来、ニュースをよく見るようになって気がついたんです。金竜会、でしたっけ、そこに絡んだニュースが結構増えていて、それも麻薬がらみのものが多いって」
「……」
久遠は黙ってキョーコを見ている。
表情はさっきよりだいぶ穏やかになったが、かなり真剣にキョーコの話に耳を傾けているようだ。

「久遠さんは違うって仰いましたけど、やっぱり警察の方ではないんですか?」
思い切ってキョーコは疑問をぶつけてみた。しかしすぐに慌てて付け足す。
「いえすみません、別に詮索したい訳ではないんです。けどさっきの表情見たら……いえ、ごめんなさい忘れてください」
「いや」
久遠はすぐに声を出した。口のあたりに片手を当て、少し思案していたが顔を上げてキョーコを見る。
「今日他に買いたいものはあるかな」
「いえ、もう十分過ぎるくらい買いました」
なぜ急に買い物の話?と思いつつもキョーコは素直に答えた。
「じゃあ、ここでちょっと休憩しようかと思ったけど予定変更。コーヒーをテイクアウトしてドライブしようか」

ドライブ?

キョーコの頭には?マークが飛び交ったが、すぐに気がついた。
久遠は場所を変えたいのだ。それは周りに人がいる状態では話せない事がある、ということだろうか。

キョーコはあれこれ考えつつも頷いて椅子から立ち上がった。


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