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BALANCE (20)


こんばんは!ぞうはなです。

更新の間が空きすぎましたーーー。
ちょっと突発的に仕事が立て込んだうえ、なんでだか連日夫の帰りが早く…(=PCに落ち着いて触れない)
とはいえ、元気なのは元気ですのでなんとか続けます。

いや、しのごの言わずに続きです。





「いい天気~~」

朝早く起きたキョーコはリビングのカーテンを開けて空を見上げた。
ようやくここから見る高い空も見慣れてきて、マンションの玄関を入るのも気後れしなくなってきている。
空は青いが、外はおそらく身が引き締まる寒さだろう。そんなことを考えながら振り向くと、リビングのドアがかちゃりと開いた。

「おはよう。毎日早いね」
「おはようございます。久遠さんもいつも早いじゃないですか」
「君よりは遅いよ」

久遠とキョーコのルームシェアは始まってから1ヶ月が経とうとしている。カレンダーは最後の1枚となり、年越しはどうするんだろうかとキョーコは思っているのだが、久遠のプライバシーに踏み込むような気がしてなんとなく話ができないままだ。

いつも通りの朝の挨拶があと、キョーコは朝食を作ろうとキッチンに入った。後ろから来た久遠が水を入れたヤカンをコンロにかけ、棚からコーヒーポットを取り出す。
「スクランブルエッグでいいですか?」
「うん。コーヒーの砂糖とミルクは?」
「ミルクだけお願いします」
久遠が朝いるときはこうして2人で朝食を用意し、一緒に食べる事が普通になっていた。

人と一緒にとる食事は独りきりでぽつんと食べるよりは美味しいと思う。自分が作ったものに対して「美味しい」と言ってもらえることも嬉しい。
けれど、どうにもキョーコは久遠の真意を掴みかねていた。

親切にしてくれてるのよね?
この部屋に住ませてもらうのも迷惑じゃないかなって思ってるけど…ホントのところはどうなんだろう?
けどなぁ…うぅん、やっぱり良く分からないわ…


事の発端は暮らし始めて数日後、久遠に部屋の住み心地を尋ねられた事だった。
「お蔭様ですごく快適です!」
「不自由してる事とか、足りないものとかはない?」
「ありませんよ!十分すぎるほどです。あ…けど…」
「けど?」
「静か過ぎるなって思っちゃうことはあります」

キョーコにとって広々とした高級なこの部屋は分不相応だと思えるが居心地はとてもいい。
けれど造りがしっかりして防音も完璧なために一人で部屋にいると耳鳴りがするほど静かで、ふと怖くなるのだ。つい先日まで住んでいたアパートはそれはもう賑やかで、ちょっとでも風が吹けば窓どころか建物全体がきしむし、隣の部屋のテレビの音や咳払いまで聞こえるほどだったからその違いは明らかだ。

「なるほど、それは気がつかなかったな」
「いえあの、だからと言って何がどうってことではなく…!」
「いや、それなら」
慌てて弁解したキョーコに久遠がした提案は、「君が嫌じゃなければ俺が家にいるときは一緒に過ごそうか」というものだったのだ。

仕事が忙しいらしく、久遠が平日に部屋にいる時間は短い。夜になってから急に出かけることも少なくない。
けれど休みの日など1日家にいるときは食事も一緒に取るしテレビを見ながらたわいもない話をしたりもする。キョーコにとってそれは落ち着く時間になってきているし、久遠の笑顔を見るとドキドキすらしてしまう。

ルームシェアって普通はこんな感じなのかな?
でも今の状態ってシェアって言うより…単なる居候よね。


考えてはみるものの経験がないからキョーコには分からない。
けれどテレビでやっているルームシェアを題材としたドラマを見てみたら、やたらと恋愛ネタが出て来て落ち着いて見ていられなかったりもした。

久遠さんにそういう気持ちがある訳ないわよ!


慌てて打ち消してみるが、そうするとやはり、久遠が自分にルームシェアを提案した真意はどこにあるのだろう、とそこに戻ってきてしまう。
一緒に暮らしているというのに結局相変わらず久遠は何をしている人なのか、分からないままだ。夜に飛び出して行くところなどを見ると普通の会社員ではないと思う。大体普通の会社員はやくざになり済ましたりしない。
けれど久遠は自分は警察ではないと言った。

うーーん…でもやっぱり、警察官っていうのが一番しっくりくるんだけどなーーー。


「どうしたの?」
ウインナーをフォークに刺したまま考え込んでしまっていたらしい。
コーヒーカップを置いた久遠から聞かれて、キョーコは慌てて返事をした。
「い、いえ別に!ただその、ちょっと卵に火が通り過ぎたかなって…!」
言い訳にした内容は嘘ではなかったが、相手の事で考え込んでいた後ろめたさでキョーコはドキドキしてしまう。

「キッチンは慣れた?」
久遠はキョーコの挙動不審を気にも留めずに尋ねた。
「はい、慣れると使いやすくていいですね。広くて作業もしやすいですし」
「足りないものはないかな」
「大体揃ってると思いますが…」
ふとコンロの方に視線を飛ばしたキョーコに、久遠は笑いかける。
「ないと困る、と言うほどでもないけどあったら便利ってものがある?」
「なんで分かるんですか??」

あからさまにビックリして問い返すキョーコに、久遠は笑みを深めた。質問には答えずに切り出す。
「今日は1日休みなんだよね」
「はい」
「じゃあ一緒に買いに行こうか。他にも君の部屋に必要なものは揃えてしまおう。まだこのマンションの近くしか把握してないだろうけど2駅行けば何でもそろうよ」
「え、そんなお手数を」
「散歩がてら、だよ。天気もいいしね」
「はあ…」

考えてみたらキョーコは久遠と一緒に外を歩いた事がない。外に出たら行動などで久遠の事が少しでも分かるかもしれない。
「…本当にいいんですか?」
「もちろん。あ、ごめん、もしかして俺と一緒に行くの嫌だった?」
「そ!!そんなことありません!」
顔を赤くしてキョーコは必死で否定をし、そして2人は初めて一緒に出かけることになったのだった。


そして数時間後。
キョーコは一人、大きなショッピングモールの吹き抜け部分に設けられたテーブルに一人ぽつりと座っている。

久遠はいつも仕事に行くのとは違うカジュアルな格好で、キャップをかぶりサングラスをかけ印象が全く違うが、無茶苦茶に格好いいことだけは間違いなかった。
そんな久遠と歩いてみれば痛いほどの視線を感じ、居心地の悪い事この上ない。
久遠はサングラスをかけているので顔は見えないはずなのに、飛びぬけた長身とキャップの端から覗く金髪、通った鼻筋、そして全身からにじみ出る「只者ではないオーラ」。
道行く人が半分くらいは久遠のことを目で追い、ひそひそと友達と言葉を交わす、そんな様子が気にしないようにしてもキョーコにはびしばしと感じられる。

おかげで久遠さんの行動を観察するなんて…できやしないわ。


周りに気を取られていたせいで、キョーコがあると便利だと言ったミキサーと、ついでに憧れているとこぼしてしまったホームベーカリーまで久遠はさっさと買ってしまった。
そして、一度荷物を車に置いてくるからちょっと待ってて、と言われてキョーコは久遠の帰りを待っているのだ。

なんか私…本当に迷惑じゃないかしら。


キョーコは情けなく思う。
「俺の部屋に置くものなんだから俺が払うのは当たり前だよ」とお金を出させてももらえなかったし、とにかく振る舞いがスマートでキョーコは流れに流されてしまう。
考えてみれば貴重な休みをミキサー売場の前でどれがいいのかと唸るキョーコに付き合わせて潰してしまっているし、自分は久遠の負担にしかなっていないのではないかと思ってしまうのだ。

荷物置きに行くのだって任せちゃったしな…でももう車には着いた頃かな?


考えながら久遠が去って行った方向に視線をやると、そちらから歩いてくる1人の男が目に入る。
キョーコはその男のことを見ていた訳ではなかったのだが、男がこちらを見て固まったように止まったため、「??」と視線を男に固定させてしまった。

「…キョーコ?」
驚いたように声を上げたのはにっくきかつての同居相手で、キョーコはそっちを見なければよかったと後悔したのだった。



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