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BALANCE (19)


こんばんは。ぞうはなです。
うわぉ、ぽっかり空きましたーーーー。





「や、やっぱり生きて…!」
「まさか」
ふん、と鼻で笑った蓮は斜め後ろでゴルフクラブを振りかぶった男の顔面を振り向きざまに張り飛ばした。

隣の男もろとも倒れこむ男を冷たく見下ろすと、蓮は若頭に視線を戻す。
「ちゃんとお前たちの希望通り海の底に沈んだよ」
「じゃあなんでここにいるんだ!」
「車を沈めても信じきれず、手当たり次第に宝田組の者に因縁つけたな。一言言いたくて戻ってきた」

濡れた黒いスーツは激しい雨のせいのはずなのに、急にそれが冷たい海から這い出してきた証拠に思えてくる。
蓮を取り囲んだ男たちはじりっと後ずさりしたが、一人の男が懐から拳銃を取り出すなり蓮めがけて叫びながら引き金を引いた。
「お、往生しやがれよお!!」
しかし蓮が軽く身を引いたため弾は反対側に立つ男の腕に当たり、撃った男はうろたえる。

「馬鹿野郎っ!こんなせめえところで撃つな!」
若頭が声を張り上げる間にも、ピストルを撃った男とその周りの男達が次々と吹き飛ばされていく。
面白いくらいに蓮の脚や腕が周りをなぎ払い、逆に男たちの攻撃は一切蓮にダメージを与えないため、若頭は呆然と、蓮が本当に亡霊なのではないかと見守ってしまった。

「組員一人殺れない奴らが宝田組長に手を出そうとする事自体間違いなんじゃないのか」
「だ、だまれっ」
「しかも挙句の果てには組長ではなく俺に執着するとは本末転倒だ。随分と間抜けだな」
気がつけば部屋の中は蓮と若頭以外に立っているものはいない。多くのものはうめき声を上げ立ち上がる気力すらないか、気絶しているのかピクリとも動かない。
蓮は額にかかった前髪をぴんと指で跳ね上げた。水が一滴若頭の顔にかかり、「ひぃっ」と小さな悲鳴が上がる。相手はただ自分の目の前に立っているだけなのに、今にもひねり殺されそうな、そんなプレッシャーが若頭の全身を萎縮させる。

「折角のんびり寝てたんだ。起こさないで欲しいものだな」
「わ、分かった、分かったから…」
若頭は蓮をなだめようとしたが、そのタイミングでなんとか立ち上がった組員の一人が無言で後ろから蓮に殴りかかってきた。蓮は無造作に腕を伸ばして若頭の首を掴むとそのまま振り向いてその体を殴りかかってくる組員に叩きつける。
ぐえっといううめき声を上げながらソファに倒れこんだ若頭が起き上がったときには、蓮の姿はどこにもなくなっていた。


久遠さん、大丈夫かな…

2日後の朝、キョーコは人気のないリビングで一人、眉間に皺を寄せて考えながらテレビのリモコンに手を伸ばした。
チャンネルを変えて朝のニュース番組を選び、立ったまましばらく画面に見入っていたが、やがてひとつのニュースが始まると眉間の皺がぐぐっと濃くなる。

画面には繁華街の雑居ビルが映し出されている。
黄色いテープが張り巡らされ、警官が行き来する物々しい雰囲気の中、リポーターが何回も「暴力団事務所」と言う言葉を連呼する。

一昨日も暴力団事務所で傷害事件があって昨日も…
この暴力団って緒方組から分裂したところみたいだけど、緒方組って"敦賀さん"がいた宝田組の分家って言ってたわよね?
やっぱりこのニュースでやってる事件も久遠さんが関係してるの?
けどこれ…

事務所では多数の負傷者が出ていると言う。
通りの外から映された映像には何かがぶつかったように放射状にひびが入った窓ガラスが見え、発砲音が聞こえたと言う周囲の住人のインタビューも流されている。
他の組の襲撃か、仲間割れか、詳しい事情は分からないようだ。ただ、事務所内で暴力事件があった事だけは確からしい。

もしこんな中にいたとしたら、久遠さん、無事なの?

このまま久遠が帰って来なければ、どうなるのだろうか。
キョーコはそんなことを想像して、色々な意味で不安に囚われた。しかし突然玄関から物音がしてびくっと部屋の入口を見る。
どうやら玄関から誰かが入ってきたようだ。キョーコはパタパタと急ぎ足で玄関に向かった。
「久遠さん!ご無事でしたか?」
「ああ、ただいま。無事ってどうして?」
「だって今ニュースで…!」

キョーコは目の前の男をまじまじと見た。
この部屋を出て行った時、久遠は"敦賀蓮"の見た目だった。
しかし今は。
髪は完璧に金色、目も深い碧だ。スーツではなくジーンズとパーカーと言うラフな服装にスニーカーを履いている。
「ああ、金竜会がニュースになってるかな」
「はい。…あの場所に行かれてたんではないんですか?」
「そう、とも 違う、とも今は言えないかな」
言いながら久遠は靴を脱いで廊下に上がってきた。キョーコは身を引いて久遠を先に通し、なんとなくリビングまで後ろについていく。すると久遠はリビングまでの数メートルの廊下で急にバランスを崩したようによろけ、横の壁に肩をついた。

「大丈夫ですかっ??」
慌てて体を支えようと駆け寄ったキョーコを片手で制し、久遠は穏やかな笑みを見せる。
「大丈夫、ちょっと眩暈がしただけだ」
「ですけど」

久遠はすぐに体を起こしてリビングに入り、ゆったりとソファに座った。
「ここを出てから何も食べてないからかな」
「一昨日からっ!?」
驚愕にキョーコは目を見開くと、きっと久遠を見る。
「今日はここにいらっしゃいますか」
「昼くらいに出かけるよ」
「じゃあ今はまだ大丈夫ですよね。でしたらそのまま少しお待ちください」

キョーコはキッチンに飛び込み、15分ほど経ってトレイを持って戻ってきた。
ソファに座る久遠は目をつぶっていたが、「寝ちゃったかな?」とキョーコが考えた瞬間ぱちりと目を開く。
「寝なくて大丈夫ですか?」
「ああ、少し休んでただけ…それは?」
「断食状態でいきなり重いものを入れたらお腹がびっくりすると思って…雑炊ですけど、召し上がりませんか?」
キョーコがトレイをリビングテーブルに置くとスープボウルからいい香りと湯気が立ち上る。

「…ありがとう」
しばらくトレイの上を眺めた後、久遠はお礼を言う。スプーンを取り上げた久遠を見て、ずっとここにいるのも邪魔かと考え、キョーコは片付けも兼ねてキッチンへと移動しようとしたのだが、すぐに久遠に呼び止められた。
「最上さんは出かける用事があるの?そういえばバイトはどうなったかな」
「はい…バイトは無事に採用していただきました。昨日から早速働き始めたんです」
「それはおめでとう」
「ありがとうございます」

久遠はスプーンに息を吹きかけてから一口食べると笑顔を見せた。
「うん、美味しい」
「ありがとうございます」
足止めされたような形になり、キョーコは戸惑いつつ立ち止まっていた。すると久遠が顔を上げてキョーコを見る。
「もし今時間があるなら、ここにいてくれる?」
「は…はい!時間は大丈夫です…けど…?」

少し不思議そうに戻るキョーコに、久遠は笑いかけた。
「ごめんね。でも君がこの部屋にいてくれるとなんだか落ち着くんだ。1人で食べるより美味しいかなと思って」
「そうですか?そういうことでしたらいくらでも」
床に直接座りこんだ久遠から少し間を開け、キョーコも床に正座する。
「ありがとう」
「いえ、私の方がお世話になりっぱなしですから。…こんなことでしかお返しできなくて」
「そんな事は気にしないで」

にこりと久遠は笑ったが、その一瞬前、不思議に悲しそうな苦いような、そんな表情を浮かべたような。
キョーコはふとそんなことを思ったのだが、笑顔の久遠にしっかりと見つめられてどぎまぎと目をそらしてしまったため、気のせいかと考え直したのだった。


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