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BALANCE (6)


こんばんは、ぞうはなです!

うぬーー、引っ張り過ぎて書きたいところがはいりませんでした!





繁華街の一角にあるクラブ。
深夜が一番にぎわうその店に、貴島は鼻歌交じりでやってきてドアを開けた。

「おお…ほんとだ、すごいなあ」
貴島は店に入り、店のママである愛理に声をかけたあと、店内を見回して感嘆の声を上げた。
「ね、メールしたとおりでしょ。だから最初は可愛い系でって言われたけど途中で方向転換しちゃった」
愛理は貴島のそばへとやってきた。この店を切り盛りいている愛理は髪をまとめ上げ華やかな着物を着ている。性格はしっかりとしているが男性に甘える仕草がなんとも色っぽい美人だ。
「ああ、いいいい。こっちのが多分似合ってる」
「『雅』ちゃんにしたから。本名は"きょうこ"だって言うし、雰囲気古風だしいいでしょ」
「なるほど、うまいね」

貴島の目の色を見て、愛理はすうと目を細めて顔を貴島に近づけた。
「急に辞めちゃった子がいて困ってたから助かったけど…昨日の今日で連れてきて、あなた、よからぬ事考えてるんじゃないでしょうね?」
「よからぬ事って何?大体彼女は客だよ。今までだってあったろう?逃げられるような事しないって」
「ほんとかしら。ううん、こういう時の貴島さんの言葉って本当信用できない」
愛理は悩ましげなため息をつく。貴島はちょっと笑うと愛理の腰に腕を回して軽く抱き寄せた。
「君が一番だっていつも言ってるだろう?」
「二番や三番がいるのが嫌なの」
「君にだっているのに、十番くらいまで」
「単なるお客さんに嫉妬しないで」
「大丈夫、俺は君を信じてるよ」

貴島は愛理の髪を撫でると体を離して店の奥に向かった。空いた席に腰を下ろすと店内を軽く見回す。
週半ばのため客の入りはまあまあと言ったところか。この店は愛理はもちろんの事、若く綺麗なホステスが多いため、客の評判もよく繁盛している。

店で働く女性の入れ代わりが常に発生するのはある程度仕方のないことだが、一時期に3人がそれぞれ別の事情でやめてしまい、さすがにやり繰りがきかずに愛理は困っていたのだ。働きたいと言ってくる女性も一定数いるのだが、店のレベルを落とす事は避けたいため誰でも採用できるわけでもない。
そういう意味で、貴島の選択眼をくぐって紹介される女性たちは愛理にとって納得がいくことが多い。ただ、その一方で貴島が関わるのが愛理にとっては嬉しくない事もあるのだ。

「店の基準に合うかちょっと心配だったけど、仕上がりは予想以上だったな。いいもん拾っちゃったな~」
愛理から声をかけられ別の客の席についていた女性が立ち上がるを見て、貴島は内心ほくそ笑んだ。


「雅ちゃん、ここはいいから奥にお願い」
客の向かいのソファに座って客の話に相槌を打ちながら水割りを作っていたキョーコは、愛理から声をかけられて顔を上げた。
愛理に示された方を見れば、奥まったソファに貴島が座り、笑みを浮かべてこちらを見ている。
「分かりました」
キョーコは答えて客に謝罪をして立ち上がった。


胸元と背中が大きく開いた赤いドレスは普段のキョーコからは想像できない服装だが、愛理と他のホステスによってばっちりメイクを施された今のキョーコにはぴったりだった。
すっぴんだと未成年に間違われるどちらかといえば幼い顔はきりっとした印象の美女へと劇的に変わっている。あわせてヘアスタイルも撫で付けたような大人びたものになり、涼しげな目元に目をひきつけられる。

「お待たせいたしました」
ゆっくりとしたお辞儀も、なにやらベテランのホステスの余裕を感じるほどで貴島は小さく口笛を吹く。しかしキョーコが自分の向かいに座ろうと動いたため、すぐに声をかけた。
「違う違う、こっちだよ雅ちゃん」
「え?」
「ヘルプに入るときはそっちだけど、今は君しかいないんだから。他のお姉さんたちは皆お客さんの隣にいるだろ?」
「そうですか…」
キョーコは首をひねりながらも貴島の隣にやってきた。至近距離でまじまじと見つめながら、貴島は笑顔を浮かべる。
「いやぁ、びっくりしたなあ。ここまで綺麗になるとはね」
「ありがとうございます」
「その割にホステス初心者だから、見た目と中身のギャップが受けそうだなぁ」

キョーコの浮かべる表情は微妙だ。
それもそうだろう、「仕事を紹介する」と貴島が言い出したのはつい昨日のことで、勢いでバイト先を聞き出され、今日はバイトが終わるなり強制的にここまで連行されたのだ。
着いたら着いたで他のきらびやかな女性達に遊ばれるように飾り立てられ、気がつけば訳も分からぬままテーブルについて水割りを作り、酔っ払った中年男に手の甲をさすられたりまでしている。

「俺が思った以上に君にはこの仕事向いてるなぁ」
「そう…ですか?」
「うん。俺結構この仕事してる女の子をいっぱい見てるからそう思うよ?ああこれ、君と俺の分、お願い」
「私も…ですか?」
ホステス分の飲み物は別に注文を出すと聞いていたキョーコは不思議そうに聞き返した。
「俺はこの店の関係者だから特別なの。君にも俺と同じモノ飲んで欲しいしね」
「わかりました」

キョーコは短く返事をするとテーブルの上にセットされているグラスを取り上げて水割りを作り出す。少し前かがみになったキョーコのうなじから背中にかけてのラインを眺めていた貴島は、グラスを差し出されて笑顔で受け取った。
「ほい、乾杯」
「はぁ…」
躊躇いながらもキョーコもグラスを上げてから口をつける。
「お店の女の子たちは結構忙しいからさ、俺が実地で教えてあげるよ、ここのルールとかね」
「はい、ですけど…」
「心配要らないって、今日の分もちゃんと給料出るように言ってあるからさ」
「あのそうじゃなくて」
「ほらほら、そんな顔しないでリラックスして話そうぜ。俺も1日働いてきて疲れてるんだよな~」
「あ、それはお疲れ様でした」
キョーコはうっかり反射的に頭を下げた。


そして1時間後。
貴島のテーブルに置かれたウイスキーのボトルはかなり中身が減っている。
「雅ちゃん、お代わりお願い。ほら、君も飲まないと」
「いえもう、飲めないですよ…」
かなりがっつりとメイクをしているキョーコだが、それでも頬が赤くなっているのが分かる。頬を片手で押さえてから、それでも貴島のグラスを受け取って水割りを作りはじめた。
「しっかし雅ちゃんって本当にホステス初めてやるの?」
「ええ、初めてです」
「いや~~。本当に向いてるぜ。美人だし、気が利くし、男の話にちゃんと合わせられる知識も持ってるし。客商売に関してはプロって感じするよ。天職じゃないの?」
貴島の言葉に、キョーコは水さしを傾けていた手を一瞬止めた。おや?と貴島は思ったが、すぐにキョーコは作業を再開し、軽くステアしたグラスを貴島の前に置く。
「そんな、とんでもない」
にこりと笑ったキョーコの表情には曇りがなく、貴島は少し首をかしげながらグラスを受け取るとキョーコにも飲むように勧めた。

グラスの中身をほんの少し口にして「ふぅ」と息をついたキョーコの様子を見ると、貴島は腕時計にちらりと視線を飛ばす。
「閉店にはまだちょっとあるけど、今日が初日だし雅ちゃんそろそろ上がりにしてもらおうか」
「え?そんな勝手に、いいんですか」
「構わないよ~~、その代わりさ、アフター付き合ってよ」
「アフター?」
「そ。こういう店ではさ、店で接客する前後にもお客様に付き合うもんなんだよ。仕事のあとだからアフター、ね」
「はあ」
キョーコはよく分からないまま曖昧に返事をしたが、貴島が自分の体に腕を回し、抱き寄せるように腰に手の平を置いたことで反射的に身を固くした。
「君のその、見た目がタイプな上にすれてない所が俺にとってはどストライクなんだよね」
「え?」
キョーコが戸惑いの声を上げたことに構わず、貴島は反対の手でキョーコの手を掴む。
「俺がここに来たときにはアフター付き合ってくれるって約束するなら、もっと快適な部屋を用意してあげるよ」
「え、それはどういう…」
「あんなアパートよりさ、この近くのマンションの方がいいでしょ」
貴島はキョーコの腰に当てた手を自分の方に引き寄せた。キョーコはそれに抵抗しようとしたのだが、なぜだか体に力が入らない。

「君が借りてるお金だってチャラにしてあげる。君にデメリットはない、悪くない話だと思うけど?」


愛理は店の入り口近くのカウンターで接客をしつつ、店の奥のキョーコと貴島の様子をちらりと伺った。


もう、やっぱり口説いてる…
まあ確かにね。分かってたのよ、メイクして出来あがったあの子を見たら。好みドンピシャだもんね。
けどもう、お店で私の目の前で口説くなんて、ほんといい神経してるわよね!

貴島は分かってやっているのだ。
この店のママは何だかんだ言っても自分のわがままを飲みこんでくれると。愛情もあるのだろうが、それ以上に店の資金源である事が大きい。

だからって何でもありって訳じゃないんだけどね!

あとでとっちめてやるんだから、と決心したところで店のドアが開いた。深夜も深夜、この時間にドアを開ける客はしこたま酔っている事が多いため、愛理はすぐに入口へと向かう。
しかし店に足を踏み入れたのは想像とは全く違う人物だった。

すらりと高い身長はドアをくぐるほどで、整った顔立ちはこの店を訪れるどの男よりも美しい。
しかし黒いスーツを着込んだその姿と全身から立ち上るオーラはその人物が普通の男でないことを告げていて、愛理は少し戸惑いながら男に声をかけた。
「いらっしゃい。お客様、初めて?」
「ああ、こんばんは。すみません、ちょっと今日は客じゃなくて」

予想外に柔らかい声と穏やかな笑顔。
美しい顔に目を見たままにこりと微笑まれて、愛理はどきりとした。
「あら、それじゃどういう?」
「ええ、今ここに貴島さんがいらっしゃると思うんですけど」

虚をつかれて「え」と声を出し、愛理は一瞬店の奥へと視線をやった。
「ああ、あそこですね。ちょっとだけ失礼します」

止める隙すらない。
気がつけば、長身の男はするりと愛理の脇を抜け、あっという間に店の奥のソファ席へと踏み出していた。

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