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BALANCE (4)


こんばんは!ぞうはなです。
よし、ここんとこ順調。
ところで今さらですがこの話の蓮さん、見た目は蓮さんで行動的なところはカイン兄さんぽいですね。





キョーコは自分の部屋に蓮を無理やり入れると、タオルを蓮に渡した。
「上着とシャツ脱いで、傷口にこれ当てて強く押さえててください」
「…タオルが汚れる」
「そんなの当たり前ですから、気にしなくていいです!」

そして「配達の自転車戻してきますけどすぐ戻りますから!いてくださいよ、いいですね!」と言い残してキョーコは部屋を飛び出して行った。蓮は押し込まれた部屋の真ん中に所在なさげに胡坐をかいて座り、なにやら考えながら静かに周りを見回す。それからひとつため息をついて、ゆっくりと上着を脱ぎ始めた。


そして宣言どおり、10分もしない間にキョーコは戻ってきた。やや息は荒く顔は上気し、その手には小さいビニール袋が提げられていたが、ドアを開けて蓮がいるのを確認するとぱっと笑顔になった。
「お待たせしました!」
そう言うと奥の部屋に駆け込み、なにやらあれこれと持ち出すと蓮の前にどかっと正座する。ビニール袋からは今買ってきたのだろう、ガーゼが出てきた。
「血、止まりそうですか?」
「もう止まった」

キョーコは上半身裸の蓮の体を見て内心びっくりした。

なにこの、鋼みたいな体!!!

そりゃあ、やくざなんて稼業、喧嘩もするだろうしひ弱ではやっていけないとは思う。けれどここまで鍛える必要なんて、あるんだろうか。ボディビルのように見せる筋肉ではない、引き締まったボクサーのような体だ。

いやいやいやいや!今はそんな事考えてる暇ないでしょ!!

慌てて意識を戻して蓮の腕に当てられたタオルをそうっとはがす。
蓮の言う通り、血はもうほぼ止まっているようだ。腕には流れた血の跡が残っているが、タオルを外しても血が流れ落ちてきてしまうような事はない。
スーツに空いた穴から、弾丸が直撃したとキョーコは思っていたのだが、「かすり傷」と言った蓮の言葉はある意味正しく、軽傷ではないが機能的に問題が残るようなものでもなさそうでとりあえず安心できる。

「かすったというより、えぐったって感じですけど……消毒しますよ?」
「……」
返事をしないのを了承と考えて、キョーコは手早く患部を消毒するとガーゼを当てて包帯できつめに止めた。

「本当にお医者さんに行かなくていいんですか?」
残った包帯をくるくると丸めながら、おそるおそるキョーコは尋ねる。蓮は包帯が巻かれた腕をゆっくり上げたり回したりして、ちらりとキョーコを見た。
「止血が終わっているし、腕を動かすのに支障はない。それに医者なんて行ったら一目で射創だって分かる。行かれる訳がないだろう」

「やっぱりその怪我、ピストルなんですね」
念を押すように聞かれて、蓮は口を閉じて黙った。
「私、直前に車が慌てて走っていく音を聞きました。あれって敦賀さんを撃った相手だったってことですよね」

返事をしないまま、蓮はそばに脱ぎ捨てた血の染みがあるシャツに手を伸ばしたが、一瞬早くキョーコが奪い取る。
「替えがないから着て帰るのは仕方ありませんけど、洗わせてください」
「どうせ捨てるしそのままでいい」
「上着だって血の染み付いてますよ。周りの人が驚いちゃうからダメです」
「車だから大丈夫だ」
「その腕で運転するつもりですかっ!?」
「運転くらい片手でできる」

キョーコは何か言いたげに口を開けたが、言葉を発する事はなくそのまま閉じる。それからシャツの横に脱ぎ捨てられている上着も引っつかむと、「少し待っててくださいね」と小さく言って風呂場へと消えた。すぐにジャバジャバと水音が聞こえ、しばらくするとキョーコは蓮の上着とシャツを抱えて奥の部屋に向かう。
それからまた姿を現すと、キョーコは姿勢を変えずに胡坐をかいたままの蓮をちらりと見、キッチンの方に向かうとすぐ戻ってきた。
「これ、よければ召し上がってください」
キョーコがテーブルに置いたのは、ラップにくるまれたおにぎり2個とグラスに入れたお茶だ。
「いや、いい。大体それは君の分だろう」
素っ気無く蓮が断ると、キョーコはちょっと考えてからおにぎりを1個だけつかんだ。
「じゃあ1つだけ食べていただけますか?本当は朝ごはんとして食べるつもりだったんですけどちょっと食欲がなくて。捨てるのももったいないですから」
蓮が何かを言う前に、キョーコはさっさと立ち上がってまた部屋の奥へと消えていく。蓮は呆気に取られたように閉じられた襖をしばらく見つめたが、やがて諦めたようにおにぎりを掴むと無造作にラップを開けた。


「できました」
キョーコが戻ってきたのは10分ほど経ってからだ。
手渡された上着とシャツが温かいのは、乾かすためにアイロンをかけたからだろうか。ご丁寧に上着の穴には裏から当て布がされ、こちらも"応急処置"がキョーコの手によってなされていた。

蓮はシャツと上着を着るとキョーコにぼそりと声をかける。
「君は人がいいとかお節介とか、よく言われないか?」
う、と一瞬ひるんだキョーコだが、すぐにきりりと胸を張って答えた。
「今回のは敦賀さんのためにやった事じゃありません」
「ふうん?」
「あのまま怪我した人を放置したら、"私が"気分が悪いからやったまでです。特に敦賀さんは今後もお会いする方ですから。でも、逆にご迷惑だったら申し訳ありませんでした!」

深々と頭を下げられ、蓮は呆然とそのつむじを見つめた。それから軽く咳払いをし、「いや」と声を出す。
「怪我の処置までしてもらって謝られるのはおかしいだろう」
「いえ、私が強引にやりましたから」
キョーコはにこりと笑った。

「でも、やくざの抗争ってテレビだけの話じゃないんですね。気をつけてくださいね」
少し心配そうに自分を見るキョーコに、蓮はふいと目をそらした。
「いやこれはそういうのじゃない。どっちにしても君には関係ない事だからあまり首を突っ込むな」
「当たり前です、首突っ込むなんてしませんよ」

目をすいと細めて言いきってから、キョーコは時計を見上げた。
「あっと、そろそろバイトに行かないと!」
「ああ、俺も行く」
蓮はそのまま玄関に向かい、靴を履いた。

「おにぎり食べてくださったんですね、ありがとうございます」
蓮の背中にキョーコが声をかける。
「それも礼を言われるのはおかしいな」
「いえ、ごみを減らしてもらったので」
「そうか」
蓮がふっと息をもらす。少しだけ見えたその横顔が微笑んでいたようで、キョーコは思わずまじまじと蓮の背中を見つめてしまった。
「借りにしておく。じゃあ」
しかしドアを開けてちらりと振り返った蓮はいつも通りの無表情だった。


もう…24時間働いた気分……

いつもよりぐったりとした気分でキョーコはロッカーの扉をパタンと閉めた。しかし時刻はまだ夕方、ようやくファーストフードのバイトが終わったところで、これから次のバイトに向かわなければいけない。
思い返せば、今朝はやっぱりお節介が過ぎたと自分でも思う。これだけ疲れたということは、きっと蓮を自分の部屋に引っ張っていってあれこれやった事に対してものすごく緊張感があったということだろう。

けどけど…やっぱり目があっちゃったら見なかった振りはできないし…放っといたらひどい事になりそうだったし…
あの怪我、かなり深そうだったけど本当に大丈夫なのかしら。ピストルってことは命を狙われて…?

眉間にしわを寄せて考え込んでから、はっとキョーコは顔を上げた。

あああ、バカねキョーコ!
そうよ、お節介なんだってば。大体敦賀さんは取り立ての人よ?やくざよ?私迷惑してる方よ?
いや、諸悪の根源はそっちじゃないんだけど…
でも、それで学習したはずじゃない。人にいらないお節介したっていいことなんてないって…
そう、今日のは敦賀さんのためじゃないわよ、自分の気の済むようにしただけ!

もやもやと考え込んだところに黄色い声が飛び込んできてキョーコは思考を中断させた。
横目で伺うと、これからシフトに入るバイト仲間がきゃいきゃいと騒いでいるのが見える。

「ついに~~メジャーデビューしたんだよー!」
「ああ、インディーズからずっと目をつけてたってアーティスト?」
「そ!今日がデビューシングルの発売日でね、早速ゲットしてきちゃった!特典ポスター付きなんだよ!」
「でかいポスターだね」
「格好いいでしょーー」

自慢げに広げられたポスターに何気なく目をやって、キョーコは凍りついた。視線を固定して固まっているキョーコに、騒いでいたバイト仲間たちも気がついたようだ。
「もしかして最上さんも知ってる?もしかしてファンなの?不破尚の!」
「……あ…は、はあ、その、今日デビューって?」
「そうだよー!今までずっと自主制作でネット中心に活動してたんだけど、今日ついにメジャーデビューしてシングルが発売になったの!って、知らなかった?」
「あ、いえ…そう、そうなんですか…最近チェックしてなかったので」
「へーー。でも意外!最上さんがこういうビジュアル系好きなんて」
「はあまあ…」

語尾を濁してずるずると後ずさり「お疲れ様でした」と挨拶をしてそそくさと控え室を後にしたキョーコに、バイト仲間たちは首をひねった。
「最上さん真面目そうで不破尚なんかに興味ありそうに思えなかったね」
「うん、でもなんか…変じゃなかった?」
「メジャーデビュー知らなくてショックだったのかな」
「なんだろね?」
しかし彼女たちのシフト入りの時刻は迫っており、慌てて着替えて仕事に向かう頃には、キョーコの事などすっかり頭から抜けてしまったのだった。


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